「親睦会……ですか?」
「ああ、キキカイくんの協力を得られたいま、彼女といつまでも敵対していた時の気分で接するわけにもいかないからね。親睦会というか、アメリカに乗り込む前の勝利祈願パーティーでも開こうかと思ってね」
特務対策局、局長室。キキカイの協力を受けた乙音達。その後日、乙音猛に呼びだされていた。
要件は、キキカイとの親睦会を開こうというものだった。
「でも………」
「確かに、君たちが彼女に対して不信感を抱いているのは理解できる。だが敵は強大だ。そのような不信感を抱いたままでは、勝ち目はないだろう……というわけで、決戦前に一度ぱっーとやろっか!」
「……は?何をですか?」
「だからパーティーだよパーティー!ほらいったいった!」
結局いつもの猛の勢いに押され、パーティーを開く事になった乙音。名目上は決戦前の決起会ではあるが、実際にはキキカイを受け入れるための催しである。
そして、このパーティーの前準備、というかライダー達への事情説明や説得に、キキカイのことを正直どう思っているか聞く係は乙音となった。
その理由は、ゼブラの存在である。乙音の感情より生まれたディソナンスであるゼブラの存在があるからこそ、乙音はキキカイを受け入れるのに他メンバーよりも抵抗感はなかった。
そのため、他のライダー達の説得やキキカイの真意を知る役は乙音に任されたのだ。
「でも……うーん。ゼブラちゃんに相談しようかなあ」
「む、乙音くんではないか。どうした?」
ぶつぶつと呟きながら乙音が廊下を歩いていると、早速ばったりと刀奈に遭遇してしまった。
「あ、刀奈さん、実は……」
(……って、まてまて私。ここで刀奈さんに話していいのか?)
「いえ、なんでもないです。ただ少し局長に呼ばれて」
「そうか?それならいいが。無理はするなよ、キキカイも協力して……決戦の時が近づいてくるからな」
「は、はい」
「……?まあいいか」
刀奈に不審がられつつも、なんとかやり過ごすことに成功した乙音。しかし、このままではパーティーまでに猛からの指令をこなせなくなってしまう。ゼブラに相談しようかとも思ったが、よく考えるとゼブラも自分から生まれた存在なわけで、多分この問題を解決するのは難しいだろう。
「……やっぱり、あの人かなあ」
来た道を戻る乙音。こんか時に頼れそうな人を、乙音は一人だけ知っていた。
「というわけなんですが桜先輩、なんとかなりませんか!?」
「いやなんとかっていってもねえ」
頼れそうな相手というのは、桜のことだった。彼女がキキカイに対しても普段通りに接する姿を乙音は見たことがあるため、それなら相談相手として適切なのではないかと思ったからだ。
「というか、説得といっても私は別にキキカイに対して思うところが……ないわけでもないけど、あいつ倒したの私と刀奈のコンビだし。でも、説得するなら刀奈だけじゃないの?あの子がキキカイに対して話しかけようとするところなんて見たことないわよ」
「……確かにそうですね!」
「いや気づいてなかったんかい!」
ここで乙音は気づいてなかったのだが、乙音がキキカイのことを受け入れようとしている以上、ゼブラもまたそれは同じである。そして桜も初戦がキキカイ相手だったり、数年前の決戦ももキキカイ相手だったりと彼女と因縁があるようにしか見えないが、正直桜自体にキキカイへ思うところがあるわけではない。
……というわけで、乙音はひとつ妙案を思いついた。
「そうだ! それじゃあ私が刀奈さんを説得しますから、桜さんはキキカイ…さん?を説得してくださいよ!」
「え?」
「それじゃあ、よろしく頼みますね!」
「ちょ、ちょい待ち……あーもう。話聞かないんだから」
行ってしまった乙音を見て、ため息をこぼす桜。というのも、乙音は知らないことだったが、桜はキキカイについてある事情を知っていたからだ。
「……説得しなけりゃならないのは、キキカイの方なんだけどなあ」
「えっ?じゃあ……」
「ああ、私は別にキキカイに対して思うところは……無いといえば嘘にはなるが、まあコミュニケーション自体はとろうとしているつもりだぞ?」
刀奈のところへ行った乙音が聞いたのは、彼女の意外な言葉だった。なんと、刀奈はキキカイに対して複雑な感情がないわけでは無いが、それでも共に戦う者として認めようとはしているらしい。だが、乙音ば刀奈がキキカイと話しているところどころか、近くにいる場面すら見た事がない。
「あー…じゃあまさか」
「まあ、こだわっているのはキキカイのほうだよ。私としても、なんとかしたくはあるんだが……」
「あ、じゃあ桜さん……」
「なんだ、桜がどうかしたのか?」
刀奈の話を聞いて、乙音は桜に面倒なことを意図せずとはいえ押し付けてしまったことを悟った乙音は、少し思案する。このまま桜に任せてしまうのが話がこじれない気もするが、乙音の気質的にそういうのはできない。
ここで乙音はあることを思いつく。それは……
「そうだ! 刀奈さんもキキカイさんのところへ行きましょうよ! ゼブラちゃんも誘って!」
「え? いや私は」
「いいですから! ほら行きましょう!」
「ちょ、乙音くん……」
乙音に引っ張られ、キキカイのところへ向かう刀奈。いっぽう、桜とキキカイはというと……
「あんたね……またこんなところに引きこもってんの?」
「いいじゃない、好きなんだから」
「ふーん……」
特務対策局本部、地下の倉庫室。そこを改造したキキカイの研究室に、桜とキキカイはいた。桜は壁にもたれかかり、キキカイはキーボードを叩いている。
桜が部屋に入ってきても終始お互いに無言だったが、ふと、桜の方から口を開いた。
「……いったいどういう風の吹きまわしよ」
「……なにが?」
「あんたが私達に協力するなんて、絶対無いと思ってたわ」
桜の言葉に、キキカイの動きが一瞬止まる。しかし、またすぐにキーボードを叩く作業に戻る。
「なんとなくよ」
「なんとなく?」
「そうよ……」
「ふ〜ん」
その返答を聞くと、桜はキキカイの肩を叩く。その手をうっとおしそうに振り払うキキカイだったが、桜の手は力強く離れない。
「……なによ、ダンス」
「来なさい」
有無を言わさず、キキカイを連れ出す桜。許可を取ってメロディライダーを引っ張り出すとキキカイを後ろに乗せ、少しメロディライダーを走らせる。
数分後、桜はキキカイとともに広い空地にいた。まるで、ここなら全力で暴れても問題ないと言わんばかりに。
「……なんのつもりよ?」
「なに、女どうし……」
桜がその腰にレコードライバーを巻く。腕にはディスクセッターがあり、彼女が本気である事を示していた。
「腹を割って、話そうと思って」
桜を光の輪が包み、彼女を変身させる。仮面ライダーダンスへと変身した桜の表情を、キキカイは伺いしる事はできない。
「……ふん」
キキカイも桜に応えるように、怪人態へと変身する。あの人桜と刀奈の二人にやられた時のように、その周囲にはキキカイの能力によって機械兵が次々に生み出されていく。
「……いくわよ」
「あれ?桜さんとキキカイ…さんは?」
「二人ならメロディライダーで出かけましたが……どうしました?」
「乙音……」
「そうですね…私たちも行きましょうか」
「あの日の威勢はどうしたっ!?」
『うるさいわね! このっ……!』
桜とキキカイの戦いは熾烈を極めていた。
桜はまず、ファイヤーストームブレイカーによる機械兵達の掃討を狙うとともに、自らもその空戦能力を活かして、キキカイ本体を空中から狙う戦法をとった。
これに対してキキカイは機械兵達の数を単純に増やし、なおかつ機械兵による自爆戦法をとることで対応した。ファイヤーストームブレイカーは確かに強力だが、強力な武器相手にも戦いようというものはある。桜自身も、四方から襲ってくる機械兵達の弾幕に押され気味だ。
『こんなことじゃ、7大愛も倒せないわよ! あの日倒したやつだって……』
「わかってるわよ! 見てなさい!」
この時桜はキキカイの予想に反し、必殺技を使わなかった。代わりに彼女は機械兵も気にせず、キキカイに突撃していく。
キキカイはそれを待ってましたと言わんばかりに機械兵達の自爆で迎撃する。桜の四方を囲む機械兵の自爆は、桜の身体を瞬く間に包み込んだ。
『これで……っ!?』
「残念、あれじゃ無理だわ」
ーーしかし、桜の纏う仮面は桜が倒れる事を許さない。
仮面ライダーダンス・フェニックススタイル。その能力は、炎の力を吸収し、その痛みも何もかも、全てを自らの力と為すというもの。
「これで……終わりね」
『っ………!』
炎を纏う乙音が、キキカイへ向けて急降下する。その一撃はキキカイの身体を確かにとらえ、その頑健な身体を倒れさす。
怪人態から人間態へと姿を変え、草原に寝転ぶキキカイ。そのキキカイを見て、桜も変身を解除し、仰向けに倒れたままのキキカイの身体の上に覆い被さる。
「……どう? これが人間の力よ」
「……そんなのわかってるわよ、あの日だって……天城音成の所にいた時だって……「違うわ」……っ」
「あんたが今まで目にしてたのは、人間の力じゃない。天城音成っていう化け物の力で、私達があんた達と決着をつけた日もそう。あの日の私達は、なにも知らずにこの力をふるってたわ」
「………………」
「…怖いの?」
桜の問いに、キキカイの目が開く。
キキカイの人間態は、見た目だけでいうならば桜とそう年の変わらない女性ーーいや、それよりも年下の少女に見える外見である。
しかし、キキカイの実年齢は、その外見よりも更に下であるのだ。そもそも、ディソナンスがこの世界に生まれ落ちてから10年と時は経っていない。
「ーー10年で人間がどこまで育つ? まだ自意識の形成も済んでなくて、反抗期すら迎えてない、ただの子供よ。……あんたは、ううん、あんた達はただの子供と同じ」
「そんなっ……」
「……大丈夫よ」
反論しようとしたキキカイの身体を、桜が優しく抱きとめる。そのぬくもりは、キキカイがかつて味わったこともないものだった。
「あんた達のやった事はもう取り戻せないけど、これから償えるわ」
「………っ」
今のキキカイには、なぜあの時ドキが自分たちの元を去ったのか理解できるような気がした。そうか、この感情を知ってしまったからなのかと。
立ち上がった桜の差し伸べた手を握り、立ち上がるキキカイ。その頬にある涙の後は、彼女の今の心を如実に表していた。
『……ほだされたか、キキカイ』
「……! あんたは!」
ーーと、この場に闖入者が現れる。
それは、7大愛が一体であり、ディソナンスの中でも特に音成に対して強い忠誠を誓う怪物、
巨大な体躯をもつその存在の目的は、自分達を裏切ったキキカイの粛清だった。
『まさか旧ディソナンスである貴様が……我等を裏切って生き残る事ができるとは思っていないだろうな?』
「…ガイン、私は」
「だいじょーぶよ、キキカイ」
ガインに対して明らかに怯えた様子のキキカイを庇うように、桜が前に出る。その瞳に宿るのは、前に敗れた敵に対しての怯えでもなく、空元気でもなく、自らの背後にいる、ちっぽけな存在を守ろうとする意思だ。
「変身!」
桜が再度、この場で変身する。その身体には炎が宿り、それが羽となって彼女を支えている。
「悪いけど負けるわけにはいかないのよ!」
『かかってこい』
桜はファイヤーストームブレイカーによる速攻を仕掛ける。自分は空中を飛んでガインの動きを観察しつつ、ファイヤーストームブレイカーを生まれた隙に的確に叩き込むという戦法だ。
『ちょこまかと!』
「捕まるわけないでしょ!」
ガインの猛スピードでの突進をなんとかかわしつつ、着実に攻撃を加えていく桜だったが、ガインのびくともしない様子に焦りを見せ始める。
「こいつ……!」
『以前の戦いで無駄だとわかっただろうに!』
焦った桜は自分も攻撃を加えようとするが、ガインは溜め込んでいたエネルギーを一気に開放する。
衝撃の爆発、そうとでも形容すべき一撃が桜を襲い、その身体を転がす。
「ぐっ!」
「……あ、ダンス!」
『もう終わりか』
普通ならば瀕死の一撃、しかし桜の纏う仮面は、その傷を癒し、彼女を再び立ち上がらせる。
「もういいわよ! 逃げましょう!」
「そんな事できるかっ!」
「……っ!?」
「いいから、見ときなさい!」
キキカイの制止も振り切り、桜は再びガインに立ち向かっていく。何度となく倒れながらも、絶対に折れることはなく。ーー桜を見るキキカイの心が、折れないように。
「……くっ!
「わかった! わっ、危な……」
『何……?』
キキカイの叫びに桜が応え、ガインの攻撃が空を切る。完全に入っていたはずの一撃を外されたことに、流石のガインも驚きを隠せないでいた。
「桜……あんただけじゃダメね。全然ダメ。やっぱり…私の協力がなくちゃ』
「キキカイ……行くわよ!」
キキカイが再び怪人態となり、機械兵達を展開する。ガインでは機械兵達を一気に掃討できず、桜を攻撃圏内から逃がしてしまう。
「桜、あいつはソングにやられた傷跡が残ってる。そこを狙いなさい!』
「オッケー! ポイントの指定は任せた!」
機械兵達がペイント弾を吐き、そのペイント弾が付着した場所に桜がファイヤーストームブレイカーによる攻撃を次々に加えていく。すると、余裕を保っていたガインが、見るからに焦りだす。
『貴様ら! 音成様より賜りし装甲を……! ぐわっ!?』
「一気に決めるわよ!」
『今よ、桜!』
炎の翼を広げ、桜が天へと飛ぶ。最高高度に達した彼女は、必殺技をぶちかます!
『Over the song!!!』
『rider phoenix strike!!!』
「いっけえええええええっ!!」
不死鳥の爪がガインをとらえ、その装甲を打ち砕き、吹き飛ばす。
ガインは絶命こそしなかったものの、自身の砕かれた装甲を見て、ひどく取り乱していた。
『貴様ら……この借り、必ず返すぞ!』
衝撃波で一瞬桜たちの目をくらましたガインは、そのまま逃亡する。
しかし、桜もキキカイも疲労が激しく、ガインを追う気力はなかった。
「ーーっ、はあ! 疲れた〜」
「あー、桜?」
「うん? なに?」
桜達の姿を見つけた乙音達が走ってくる。その笑顔は、桜にとって守るべきものでありーーそれは、いま隣に立つものの笑顔も、きっとそうなのだろう。
「……ありがと」
「どういたしまして」
「そういや、ライダー名で呼んでたくせに急に本名で……」
「あー! 聞こえないわ! ほら事故りたくなかったら黙るのよ!」
「いや運転してんの私じゃないし……」
「ともかく恥ずかしい話は禁止よー!」
「はいはい……」
最近ロボットものの歌詞考えすぎてソングの歌詞忘れそう。