仮面ライダーソング   作:天地優介

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いえね、これで後編にするつもりだったんです。
一万字近くなったんだから後編にできるわけないだろ!

今回はついにフューチャーソングの正体が暴かれます。割とオーソドックスにいかせてもらいました。


劇場版仮面ライダーソング ザ・フューチャーソング 中編

「…では、もう既に来ていたのですね」

 

フューチャーソングと名乗ったライダーとの邂逅から5日後、特務対策局に集められたライダー達は、対ディソナンス用の新兵器、グリモルドの製造者であるショット・バーン博士の護衛のため、とあるホテルに向かっていた。

当初はアメリカからショット博士を呼ぶ予定だったが、ショット博士本人が既にグリモルドと共に日本に来ていたため、彼が宿泊しているホテルに向かい、特務対策局まで護衛することとなったのだ。今は香織の運転する車に乗って、ライダー達はホテルへと向かっているが、ホテルに着く頃には、特務対策局の特殊車両も到着する手筈となっている。

 

「しかし、ショット博士って人も、フットワークが軽いですね〜まさか内密で日本に来てたなんて」

 

「まあ、ディソナンスに対抗できる戦力を持つのは、今のところ日本だけだからねぇ…ディソナンスに対抗するための兵器をより完璧なものにしたいって事らしいわ」

 

「…なんか変な人ですね」

 

「科学者なんてみんなそうよ。兄さんも…あっ、ホテルに着いたわよ」

 

ライダー達が着いたホテルは、かなり大きな、都内でも有数の知名度を誇るホテルだった。さっそくホテル内に入ろうとするライダー達だったが、その前に白髪の白衣を着た老人が飛び出してきた。背後にはボディーガードらしき、フードを目深に被った人物を従えている。

 

「オオ〜ドウモドウモ!ヨロシク、仮面ライダーの皆さん!」

 

「オオ、腰に巻いてあるそれは…それがレコードライバーデスカ!?イヤ〜こりゃエエモンですなぁ〜」

 

老人の言動と行動に、目を白黒させるライダー達、レコードライバーをまじまじと観察する老人と、手に持つショット博士の写真を見比べる香織。どうやらこの老人がショット博士のようだ。行動力のある人だとは聞いていたが、なるほど、これは単身日本まで来るような人だと香織は思った。

 

「か、香織さん〜もしかして、このおじいさんが……」

 

「ええ、初めまして、ショット博士。通訳は…必要なさそうですね」

 

「オー!これはシツレイ!イヤイヤ、科学者として、血がサワギましてな!ガッハッハ!」

 

「……それで、あなたのグリモルドはどこに…」

 

ショット博士のハイテンションに呆れつつも、話を進める香織。香織の質問に、ショット博士は、まるでいたずらに成功した子供のような笑みを浮かべて答える。

 

「フフフ…もうすでにイマスよ」

「へ?…まさか!」

 

「オー!そこなジョシコウセイさん、ナイスリアクション!そう!ワタシの背後に立つこのフードヤローこそが〜」

 

ショット博士の背後に立っていたフードの人間が、そのフードを脱ぐ、そこにあったのは、仮面ライダーのような顔をした、ロボットだった。

 

「グリモルドッ!ジコショーカイ、ジコショーカイ!」

 

「皆さん、初めまして。私は対ディソナンス用人型特別兵器。またの名をグリモルドと言います。よろしくお願いします」

 

「オー!ヨロシク!」

 

フードの中の素顔に一瞬驚くライダー達だったが、それ以上にグリモルドの礼儀正しい言動に驚いていた。

 

「……作った本人よりも、ロボットの方がちゃんとしてますね」

 

「まさかロボットだとは思わなかったが、それ以上にショット博士がこんなキャラだとは……思わなかったな」

 

「…まあ……変人というのは分かりきってた事だ。とにかく、特殊車両ももうじき到着する。来たらそちらに乗り込むぞ」

 

「博士、グリモルドは…」

 

ショット博士やグリモルドの言動に驚きつつも、切り替えるライダー達。もうすぐ到着する特殊車両に、グリモルドをどう乗せるかという疑問を刀奈が口にするが、ショット博士は「もちろんワタシとイッショの車両!」と譲らず、リスク分散のためにも別々の車両に乗り込んでもらうのがいいのだが、仕方なく同じ車両に乗り込む事となった。

それから数分待つと、特務対策局の特殊車両がホテル前に到着。博士とグリモルド、乙音とゼブラ、刀奈は一号車に。真司とボイスは二号車に、桜は香織と共に三号車に乗り込む事になった。特殊車両の大きさはそれなりのもので、一台が大型のトラックよりも少し大きめだ。

 

「このまま、何事もなければいいんですが…」

 

「いつでも変身できるように、心構えだけはしておこう。常在戦場、この考えで損は無いだろう」

 

「そうですね…頑張ろうね!お姉ちゃん!」

 

「いや私達が頑張る状況になったらダメなんじゃ…?あ、そろそろ出発するみたいですね」

 

全員が特殊車両に乗り込んだところで、車両が動き始める。フューチャーソングによる襲撃を警戒するライダー達だったが、高速道路までの一般道ではトラブルもなく、高速に入ってからも妨害はなく、順調に車両は進んでいた。

 

「このまま、何事もなければ良いんですけどね〜」

 

「そうデスネーグリモルドはとてもツヨーイ!ですが、そのフューチャーソングとかいうののスペックがワカリマセンカラネー。シンチョーシンチョー」

ショット博士の言葉に再び気を引き締めるライダー達、その時、沈黙を保っていたグリモルドが、不意に口を開く。

 

「…そうですね、慎重にいくべきです」

 

「…どうか、したのか?」

 

「近づいてきます、足音…追跡音です。車やバイクの音ではないので、『走って』この車両に追いついてきています今は1キロメートル後方」

 

「…走って!?」

 

グリモルドの言葉に驚愕する乙音達。特に刀奈の驚きは大きかった。なにせ、特務対策局の特殊車両の最高速度は時速500キロ。ライダー達の中で最も早い刀奈ですら、車両と競争など不可能である。ましてやここは高速、今も全力で車両を走らせているのだ。それに走って追いつくフューチャーソングのスペックに、乙音達は戦慄していた。

 

「乙音くん、ゼブラくん!変身だ!それと、真司達にもこの事を連絡するぞ!」

 

「運転手さんにも伝えますね!」

 

「ムームムムム……コリャまずいナ」

車両の中から外の様子は見えないが、運転手によると今走っている道路の下は海。しかしバックミラーにその姿が見えてこないことから、高速を走る他の車の影に隠れているのだろうと推測したライダー達は、車内で変身。フューチャーソングの襲来に備える。車両の運転手もバックミラーを注視し、後方に注意する。

 

「さあこい……!」

 

「標的は700メートル後方にいます」

 

「まだ、見えないのか…!?」

 

「500メートル」

 

「ムウ…これは……」

 

「300メートル」

 

「み、見えません!フューチャーソングの姿が、一向にバックミラーに!」

 

「100メートル」

 

「どこから、くる…!?上!?」

 

「1メートル」

 

「……やはり!ライダークン達!ヤツはーー」

 

「ゼロ、標的との距離はゼロです」

 

「ーー下ダ!」

 

ショット博士の叫びと同時、グリモルドがその場から急に飛び退いた瞬間、特殊車両が下から両断される。

 

「……御名答。だが、一手遅かったな」

 

「まさか、海を…!?」

 

「な、なんてパワー…!」

 

「まさか一発目で当たるとはな……おっと、車が転ぶ…」

 

両断された車両は横転。運転手はインパクトの瞬間に刀奈に助けられたため無事、ショット博士はグリモルドに抱えられ、乙音とゼブラはーー

 

「やらせるかぁぁぁぁっ!」

 

「………」

 

ーー横転の瞬間、グリモルドに攻撃しようとしたフューチャーソングを、咄嗟に2人が融合して必殺技、『rider maximum spear』を発動することでなんとか食い止めていた。

 

「……………………」

 

「ぐ……!」

 

(な、なんてパワー…!これは…!)

 

無事な他の車両が止まり、真司達も乙音を援護しようとする。しかし……

 

「博士とグリモルドを連れて、急いで!」

 

「むっ…しかし!」

 

 

「こいつ…強い!ここで私が食い止めますから!」

 

『お前……!』

 

「…真司……!」

 

「…わかった!必ず無事で!さあ博士、早く!」

 

「お、オウ!グリモルド!」

 

「了解しました」

 

博士を抱えて真司達の車両へと急ぐグリモルドを追撃しようとするフューチャーソング。しかし、その凄まじきパワーを乙音とゼブラが必死で食い止める。だが、フューチャーソングの勢いは止められず、その槍がグリモルドを貫かんとする。

 

「博士、手荒くなります!」

 

「オワ?…オワワワワッ!?」

 

その槍を受け止めるため、グリモルドは博士を真司に向かって放り投げる。綺麗な放物線を描いた博士を真司がキャッチすると同時、フューチャーソングの一撃を受け止めるグリモルド。

 

「…………!なにっ!?」

 

「フンンンンンンンン、フンっ!」

 

フューチャーソングの一撃を弾いたグリモルドは、その手に心を持った存在しか生み出せないはずのハートウェーブを纏い、フューチャーソングに一撃を放つ。フューチャーソングにダメージは入らないが、彼女が思わぬことで驚いた隙を突いて吹き飛ばすことに成功する。吹き飛ばした先は橋の下、つまりは海だ。

 

「皆さん、今のうちに!」

 

「グリモルドも早く乗って!」

 

『早くしねーとまたアイツが来るぞっ!』

 

一号車の乗員を全員二号車と三号車に移し、なりふり構わず高速を走らせる。フューチャーソングの襲撃に備えて変身を解かずに警戒するライダー達だったが、その後は何もなく、無事に特務対策局にたどり着くことができた。

 

『や、やっと着いたか……疲れた…』

 

「そ、そだね……ゼブラちゃんも、大丈夫?」

 

「うん…お姉ちゃんは…?」

 

「私は、大丈夫……気が張り詰めっぱなしだったから、精神的に疲れたけど」

 

「それはいかんな…少し休んでくるといい、後は私達でやっておこう」

 

「そーよ、ゼブラちゃんもあんまし疲れてないみたいだけど、乙音ちゃんとボイスちゃんについていてあげるといいわ」

 

「うう…そうします」

 

『すまねぇ…後は任せた』

 

「わ、わかりました。後はお願いしますね」

 

 

移動中ずっとフューチャーソングの襲撃を警戒していたためか、精神的な疲れを感じる乙音達に、刀奈が休むよう勧める。刀奈もそうだが、桜や真司も疲れを見せてはいなかった。なぜなのかと思った乙音だったが、とにかく疲労していたため、変身を解いてシャワー室へとボイスと共に直行する。ゼブラはそこまで疲れていないが、桜に勧められて乙音とボイスについていった。

三人の後ろ姿を見送った真司達は、ショット博士と話し合い、グリモルドをどこに置いておくかについて決める。最終的には地下の倉庫室の一角を改装し、そこにいてもらうことになった。

 

「すまないな…部屋を用意できればいいのだが」

 

「構いませんよ。目立つ場所にいるわけにはいきませんから」

 

「オーウ!グリモルド、いいコ!サスガワタシのサイコーケッサク!」

 

「……やっぱグリモルドのほうがれーぎ正しいわね」

 

「……………」

 

倉庫室の改装を手伝うためにグリモルドと桜、刀奈が地下へと降りるのを確認してから、真司はショット博士に、「夜に屋上で会えますか?」と尋ねる。その誘いに不思議な顔をしつつもショット博士が承諾したのを確認した真司は、自身も改装を手伝うため、ショット博士と共に地下へと降りていく。

 

 

 

 

 

 

 

その夜、屋上で真司とショット博士が話し込んでいた。内容はグリモルドがハートウェーブを扱ってみせたことだ。

 

「……では、あれはハートウェーブを生み出せるほどの高性能AIが生まれた結果などではなく…」

 

「……そうデス。もともとはアットーテキな力で、ディソナンスを抑え、ライダークン達を援護するためのロボットを作るハズでした……シカシ、自律行動のタメのAIを作り、搭載した次の日にハ、グリモルドに心が芽生えていたのデス」

 

「…なんですって?では……」

 

「そうデス。グリモルドに心が生まれたのは偶然…ワタシにもカレの心の内はワカリマセン」

 

「なぜそんなものを…!?」

 

「必要だと…思ったからデス。ディソナンス、いや、天城音成の脅威は大きい……だからコソ、グリモルドがハートウェーブを生み出せた時には、喜びマシタ。これで、君達にも楽をさせられるト……」

 

「博士……」

 

そう話すショット博士の顔には、深い後悔の跡が刻まれていた。それを見た真司は、何も言えなくなってしまう。

 

「……日本にやってきたのは、グリモルドが暴走した時、抑えるコトのできる戦力が、君達だけというのもあります」

 

「では………」

 

「そうデス、今はマダダイジョーブですが、もしもグリモルドが不穏な動きを見せたら…」

 

「わかっています。この手で、破壊します」

 

「アリガトウ……ワタシはもう寝ます。……開けたのがパンドラの箱でないコトを、祈りマス」

 

「パンドラの箱の底には、希望があります」

 

「もしもワタシが開けたのが本当にパンドラの箱ナラバ…その希望とは、きっと君達なのでしょうネ」

 

ショット博士の背を見送った真司は、次にその足で地下へと向かう。なにができるというわけでもないが、不穏な動きがないか、一応調べる必要があるからだ。懐に隠していたレコードライバーにライダーズディスクをセットしておき、いつでも変身できる状態で地下の倉庫室の扉を開く。

 

倉庫室は広いが、グリモルドのいる場所は真司にはわかっている。自身も改装を手伝った場所、倉庫室の端へと歩く真司。グリモルドのいるはずの場所に真司が近づくと、グリモルドらしき影が蹲っていた。

 

「……………!」

 

その影に駆け寄り、素早く表情を確認した真司の視界に映ったのは、のっぺりとした顔をしたマネキンだった。

 

「……っ!」

 

マネキンを見た瞬間、咄嗟に横へと飛ぶ真司。すると、真司がもといた場所に、機械の拳が突き刺さる。

 

「……避けられたか、フゥゥゥゥ〜」

 

「変身!」

 

下手人はもちろんグリモルドだ。しかし、昼間のように丁寧な口調ではなく、乱雑な口調となっている。変身して対応しようとする真司だったが、変身はできたもののグリモルドの苛烈な連続攻撃に防戦一方となってしまう。

 

「ぐ…!どうした、口調が随分とっ!乱暴に、なってるじゃないか!」

 

「ヒャハハハハハハハハハハハハ!そっちこそどうしたよぉ〜!?そのチンケな攻撃力だけがあんたの取り柄だろ〜!?そらっ!」

 

「ぐあっ!?」

 

グリモルドの拳をもろに顔面に受け、倉庫室の壁に叩きつけられる真司。すぐさま体制を整えようとするが、瞬時に距離を詰めてきたグリモルドに首を締め上げられる。

 

「ぐ…が……かはっ…」

 

「ヒヒヒヒヒヒヒ冥土の土産に良いこと教えてやるよ。俺はな、あのフューチャーソングと同じ時代から来たディソナンスなんだよ」

 

「…な、に……!?」

 

「未来世界でもこいつの体を乗っ取って好き放題やってやったが…まさかアイツ1人に全てひっくり返されるとは思わなかったぜぇ?おかげでこんな時代に来てまでお前らを殺すっつー面倒な仕事を、音成サマに押し付けられちまった…」

 

「きさ、ま……!」

 

 

真司の変身後の姿である仮面ライダーファングの全身には、鋭い牙が生えている。足の牙を伸ばすことで、グリモルドの体を貫こうとする真司だったが、間一髪避けられてしまう。

 

「おおっと!危ない危ない…」

 

「ぐっ…ゲホッ……くっ、貴様、なぜ俺達に近づいた!?」

 

「なぜって…そりゃあのフューチャーソングが怖かったからだよ。未来世界ではあいつにコテンパンにのされちまったからなぁ…だけど、このグリモルドのボディーは俺様が協力してやっただけあっても未来世界のものよりもはるかに強力!あの高速道路で確信したぜ…このボディーならばヤツをぶっ殺せるってなぁ!」

 

台詞とともに真司の牙を折り砕きにかかるグリモルドーーいや、謎のディソナンス。全身の牙を伸ばして身を守る真司だったが、ディソナンスの猛攻の前に、次々と牙が砕かれていく。

 

「ぐ…!」

 

「お前らを利用して、機を見てフューチャーソングを殺すつもりだったが…そこにお前だ!未来でも厄介だったが、まさか俺様に不信感をこんなに早く覚えるとはな!仕方ないからここでぶっ殺してやるぜ、仮面ライダーファング。このグリモルド…いや、クロニクル様がな!」

 

クロニクルと名乗ったディソナンスの手刀が、真司の心臓を貫かんと迫る。

 

「やらせるかぁぁぁぁっ!」

 

しかし、それを許さない者がいた。クロニクルの横っ腹に強烈な蹴りを入れ、吹き飛ばしたその人物は桜だった。夜中にトイレに行こうとした彼女は、倉庫室へと入っていく真司を目撃。自分も倉庫室に入ろうとしたが、いくら力を込めても扉が開かない事に異常を感じ、変身して無理矢理ドアをこじ開けたところで、間一髪真司を助けることができたのだ。

ライダー達は後に知ることだが、この時ドアはクロニクルの能力によって押さえつけられていた。

 

「大丈夫!?真司!」

 

「ああ……油断するなよ、桜。こいつ、かなりの強さだ」

 

「あんたがそこまでボロボロになってるんだもん、嫌でもこいつの強さはわかるわ……」

 

今の真司は仮面の一部が割れているうえ、全身の牙が余すことなくへし折られていた。彼がここまでダメージを負ったのは、かつてのバラクとの戦いの時以来だろう。

 

「1人増えたところで同じ!纏めて消し飛ばしてやるよ!」

 

吹き飛ばされたものの、倉庫内の荷物を蹴散らしながら2人に迫るクロニクル。桜は自身の武器であるダンシングポールを使って攻撃を防ぐが、クロニクルの蹴りを受け、ダンシングポールが真っ二つに折れてしまう。

 

「折れたぁ!?このっ!」

 

「ヒャハハハハハハ!そらそら、こっちだよーん」

 

「おちょくるな!こなくそぉっ!」

 

「冷静になれ、桜!」

 

「そうはいっても…きゃあっ!」

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

まるでサーカスのピエロのようなクロニクルの変則的な動きに、次第に追い詰められる2人。助けを呼ぼうにも、倉庫室内の騒音はクロニクルの能力で外へと漏れることはなく、倉庫室からの脱出はクロニクルが許さなかった。

 

「ヒヒヒヒヒヒヒやっぱ同じだったなぁ…1人増えても」

 

「さく、ら…お前だけでも……」

 

「なに、いってんのよ…あんたを置いて、逃げれないわよ…」

 

「んんーー美しきかな絆。しかし悲しいかな、その絆がお前達2人のーー死因となる!」

 

クロニクルの蹴りが2人の首をへし折ろうとする。避ける体力も気力も尽きた2人は、そのまま蹴りを受けーー

 

 

「1人増えても同じ…だが、私が増えてもそうと言えるかな?」

 

 

ーーることはなかった。2人は気がつくと、ある者の腕に抱えられていた。漆黒のマントを翻すその者の名は。

 

「フューチャー……ソング」

 

地下から直接倉庫室へと進入したフューチャーソングは、その腕に抱えていた2人を退がらせると、凄まじい速度でクロニクルに肉薄、クロニクルの首を掴むと、倉庫室の天井へ向けて投げ飛ばす。

 

「うおおおおおおお!?」

 

「逃さん…!」

 

天井へ投げつけられたクロニクルは、そのまま倉庫室の天井を破り、クロニクルが気づいた時には、特務対策局の上空にいた。空中で体制を整えようともがくクロニクルだったが、いつの間にか背後にいたフューチャーソングに地面へと叩きつけられる。

 

「な、なんだ!?なんの騒ぎだ!?」

 

「フューチャーソングの襲撃か!?」

 

「お姉ちゃん、あの人!」

 

「フューチャーソング…!?」

 

フューチャーソングの鳴らす破砕音に混乱する特務対策局の局員達。そんな中、真司と桜以外のライダー達は、フューチャーソングの姿を確認すると、変身して外へと飛び出していく。

 

『テメェ、どうやってここに…!』

 

「待って、ボイスちゃん!あれ……!」

 

「ウ…ウググ……」

 

事態を把握できていない乙音達が見たのは、その全身から禍々しいハートウェーブを撒き散らすクロニクルの姿だった。グリモルドの元の仮面ライダーのような容姿はそのままに、ただ純粋に禍々しさだけが増していた。

 

「あれは…グリモルド!?」

 

「いえ、あれは…ディソナンスです!僕と同じ!」

 

『なにぃ!?』

 

あまりの事態に混乱する乙音達をよそに、クロニクルに対してフューチャーソングが語りかける。

 

「…グリモルド……いや、クロニクル。やっとだ…やっと、貴様を追い詰めるコトができた……」

 

「へ、へ……俺様を、倒して、未来が変わるとでも?それとも復讐か?……ヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!俺様をこの時代で倒せば未来が変わるとでも思ってんなら、大間違いだぜ!確定してしまった未来はもう変えられない!お前の未来は…絶望に包まれたままだ」

 

「そうだな…私の未来は変えられないし、お前に復讐してもなににもならん。私の目的は、別にある」

 

「なに…っ!?」

 

クロニクルの言葉にも動揺せず、冷静にその発言に返答するフューチャーソング、彼女の発言に逆にクロニクルが取り乱す中、彼女は毅然と自らの目的を言い放つ。

 

「私の目的は、過去の、いや、この世界の私達の救済。そのために、貴様を滅する……!!」

 

「な……!」

 

「この世界…!?」

 

乙音達も混乱する中、ただ1人冷静に見えるフューチャーソングのレコードライバーから、歌が流れ出す。

 

「我が無双……受けてみろ!」

 

歌のイントロとともに槍を構え、クロニクルに向かって突撃するフューチャーソング。これにクロニクルは奥の手で対応する。

 

「ちっ…お前ら!」

 

「ディソナンス!?」

 

「あんなに多くの…!」

 

クロニクルの奥の手とは、彼の能力で複製したディソナンス達の召喚だった。自身の意思は持たないものの、一体一体が強力だ。しかし、フューチャーソングの前には、塵芥に等しかった。

 

《絶望に染まりし、我が未来の灯》

 

「失せろ」

 

《希望の光も届かない、底の底まで》

 

「す、すごい…入り込めない…!」

 

「下手に手を出せば、奴らとともに消滅させられるな…」

 

フューチャーソングがその槍を振るい、そのマントを翻すたびに、召喚されたディソナンス達が消滅していく。

 

《たとえ、悪にこの身が、落ちようとも》

 

「ヤベェ…!逃げなければ…!」

 

《信じる正義のためなら、邪道すら進む…!》

 

「逃すか…!」

 

クロニクルを追おうとするフューチャーソング、しかし、クロニクルが指を鳴らすと、特務対策局の内部から悲鳴が響く。

 

《空に煌めく星は…》

 

「なに!?」

 

「俺様がなにも考えてないと思ったかぁ!?仕込んでたんだよぉ!内部に!」

 

《その全てが敵……》

 

「まずい…!乙音くん、行くぞ!」

 

「おっと、やらせるかぁ!」

 

特務対策局内部のディソナンスを倒すために動こうとする乙音達だったが、クロニクルが生み出したディソナンスが乙音達を妨害しようと迫る。しかし、そのディソナンス達をフューチャーソングが、乙音達を庇うように貫く。

 

《激情の、そのビート》

 

「やっぱお前はそうするよなぁ!それじゃあな!」

 

《心の波紋……》

 

『お前……!』

 

「いいから、早く助けに行け!」

 

フューチャーソングの言葉に頷き、対策局内に駆けていく乙音達、いっぽうフューチャーソングは外に残る大量のディソナンス相手に、1人で立ち向かう。

 

《絶対に譲れない…望みがあるから…!》

 

「おおおおおおおおおおおおお!」

 

《奇跡を望む…!明日を願う…!》

 

フューチャーソングの手に持つ槍が回転し、竜巻を起こすと同時に四方に剣のような鋭さと切れ味の牙を飛ばす。そして、回転する槍の先端から、目の前を焼き尽くすレーザーを撃ち放つ。

 

《最強…究極…!その全てを超える…!》

 

「これで終わりだ」

 

『Override!!!』

 

《至高の力を持って》

 

『rider final spear!!!!』

 

「おおおおおおおおおおおっ!」

 

《無双を…振るえ!》

 

フューチャーソングが必殺技を発動した瞬間、その槍の穂先から閃光が走り、次の瞬間、ディソナンス達は全て消滅していた。

 

「…ふう……逃した、か…」

 

クロニクルが去った方向を見据え、呟くフューチャーソング。クロニクルを追おうとする彼女だったが、その背に「待って!」と声をかけるものがいた、乙音だ。その後ろには、ライダー達全員が揃っていた。

 

「フューチャーソング、あなたは、あなたは…!」

 

「…………!」

 

 

 

 

「あなたは、私なんでしょ…!?」

 

 

 

「なにっ!?」

 

「え、えっ?どゆこと?」

 

『オイオイオイオイ、なに言ってんだ…?』

 

「お姉ちゃん……」

 

「……やはり、か……」

 

乙音の思わぬ発言に驚くライダー達。いっぼうフューチャーソングは観念したかのように一瞬俯くと、その変身を解く。 それを見たライダー達は、再び驚愕する。それは乙音ですら例外ではなかった。

 

 

「……確かに、そうだ。私はお前で、お前は私……」

 

「後輩…!」

 

「いったい、未来で何があったってのよ…!」

 

フューチャーソングが変身を解いたそこには、髪と身長の伸びた乙音がいた。だが、その顔には斜めに切り裂かれたような傷跡があり、腕や首には、深い深い傷跡が残り、とても痛々しい。

 

「絶望に包まれた未来から来た…木村、乙音だよ」

 

彼女の口から、5年後の未来での戦い、それが語られる時が来た……。

 

 

 

 

 

 





5年後の未来についてはフューチャーソング…未来乙音ちゃんから語られますが、かなり厳しい状況です。

後編は初手回想からの戦闘シーン増し増しでいきます。本編で東京都を巨大ロボットにしましたが、あれを超えるスケールのバカをやります。二次創作は公式と違って予算気にしないでいいので楽ですね。

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