仮面ライダーソング   作:天地優介

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超☆難☆産今回は過去最高に悩まみました。正直ラストの戦闘シーンに全力を注ぎ込みましたが、あとはもう適当というか、本当に黒歴史レベルです。やっぱり小説を書く前には奈須きのこの文体を見て投影するのが一番ですね。はい、今回の戦闘シーンはきのこ節に影響受けてます。Fateの二次創作でも書きたいっすね。ライダーヘクトールとか、ローランとか、アイデアは色々とあるので、短編でもいつかはカタチにしたいです。


phoenix song

「はっ、せい、せりゃあ!」

 

「甘い!足の動き!そこで止まっては、いいようにやられてしまうぞ!」

 

特務対策局、訓練室。以前のものと比べてだだっ広くなったそこで、刀奈とゼブラは特訓を重ねていた。

ボイスが重症で戦闘不能になり、真司が極秘任務で不在、乙音がアメリカにいて、しかもソングに変身できない今、まともに戦えるのは、刀奈とゼブラ、そして桜の3人だけだ。

今桜は別室で体力作りに励んでいる。アイドルとして活動してきただけはあり、相当なタフネスを持つ桜だが、激化するディソナンスとの戦いには、他のライダー達よりも、僅かだがスペックで劣る彼女は更に鍛える必要があった。

とはいえ、鍛える必要があるのは桜だけではない。刀奈とゼブラもまた、このままでは七大愛の脅威には対抗できない。だからこそ、こうして訓練を積んでいるのだが……

 

「はっ…はっ…もう、一回……」

 

「いや…私も……限界だ…そろそろ、休もう……くっ…」

 

ーーはっきりいって、全くと言っていいほど強くはなれていなかった。既に数多の激戦を乗り越えてきた彼女達だったが、今更激しい特訓を積み重ねても、伸び代は殆どない。その上、今の彼女達は乙音の事やボイスの事、七大愛に対しての恐れや警戒心もあり、訓練に集中できないでいた。これでは身につくものも身に付かないだろう。

 

「……2人とも、頑張りすぎよ。もう少し力を抜きなさいって、焦ってもしょうがないし」

 

2人がヘトヘトになって訓練室の床に寝転んでいるところに、トレーニングを終えた桜がやってきた。2人と異なりあまり無茶をしているわけではないので、かなり余裕がある。

 

「いや…桜…そうは…いっても、だな…」

 

「疲れてるんだから、無理に喋ろうとしないの。はいこれ、スポーツドリンク。置いとくから、一息ついたら飲みなさいよー」

 

「ありがとう…ございます……」

 

「それじゃね、私はこれからちょっと仕事行くから」

 

そう言うと、足早に訓練室を出て、更衣室で仕事用の服に着替える桜。最近はディソナンスの活動の活発化もあって、桜や刀奈などアイドルとして活動している者は、ディソナンス被害にあった各地への復興支援活動等で、ディソナンスの活発化以前よりも仕事が増えていた。

 

(アイドルとライダーの二足のわらじも、大変ね……)

 

桜も近年有名になったアイドルなので、復興支援ライブを開いたり、精力的に活動はしているのだが、ディソナンスの動きが活発化するということは、ライダーとしての仕事も増えるということ。アイドルとライダーの二足のわらじを3年以上履き続けてきた彼女だったが、そろそろ限界が近づいてきてはいた。同じアイドルでライダーである刀奈は、その辺りは割り切ってライダーの方を優先しているが、3年間戦いを続けてきたとはいえ、元々彼女は、ディソナンスの目を集めるためにアイドルとなった刀奈と違い、トップアイドルを目指してアイドルになった身である。ライダーとしての仕事に専念した方が良いとわかってはいたが、それでも自身の夢を諦めることもできなかった。

 

(…身勝手だな、私……どうせなら、ライダーってことを、公表できればいいのに…)

 

ライダー達は、その正体を世間に公表していない。公表してしまえば楽になることもあるのだが、それ以上に要らぬしがらみが増えてしまう。何より世間には仮面ライダーのことを快く思わない者も多い。頭の固い、一部の政治家もそうだが、人々の中には、仮面ライダーがディソナンスを呼び込んでいるのではないかと唱える者もいる。中には、ディソナンスは仮面ライダーが生み出した怪物だという者もいるのだ。ライダーシステムの生みの親が敵の首魁である事といい、ライダー達には面倒な事実があるのも、彼女達の正体を公表できない理由の一つだ。

 

(……いけない、今日はライブの打ち合わせがあるんだから、ちゃんとしないと)

 

沈む気持ちを抑えて、表面上は笑顔で仕事に挑む桜。しかしライダー達の中でもムードメーカーといえる明るさを持つ彼女も、その内心には不安と、微かな恐怖があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……やはり、チューナーを暴れさせるならば、ここだな』

 

『ここか……確かに、こいつの威力を計るにはちょうどいいかもな』

 

『……どこへ行く?』

 

『なに、少しアメリカに、観光にでも。じゃな』

 

『……分からん男だ。まあいい、日本へ向かう支度をしようかーーキキカイ殿?』

 

『……このクソ男』

 

『何か?』

 

『……いえ、何も(こんな時に、バラクはどこいったのよ……!)』

 

『まあいい、ではーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、今日はライブに来てくれて、あっりがとーー!!」

 

ウオオオオオオオオオオ!!!

 

「桜ちゃーん!」

 

「こっち向いて!こっち!」

 

「はあああ……お姉さまぁん……!」

 

2日後、ライブ当日。この日に向けて準備を重ねてきた甲斐もあり、客席は満員。ドームでのライブイベントという事もあり、桜の目の前には人の群が広がっているが、桜も伊達に3年以上アイドルを続けてきたわけではない。歓声の爆発にも負けず、声を張り上げ、歌を歌う。華麗なステップを踏み、観客を魅了する。

 

オオオオオオオオオオオオオオ!

 

歓声は更に大きいものとなっていき、ドーム内の熱気は最高潮を迎える。その盛り上がりはドーム外にまで伝播し、若干の人だかりが出来上がっていた。

 

「ふう……今日のライブは大成功ね!」

 

今現在、桜は休憩をとっている。桜のライブは激しいダンスによるパフォーマンスが特徴だが、歌いながらのダンスというのはかなり疲労する。正直、ライダーとしての戦いよりも体力面できつくなる事が多いほどだ。なので、彼女はこういう休める時は思い切り休む事にしている。

 

「あー……お水持ってきて、水。そう、ありがとー…」

 

「肩揉んでー…足揉んでー…腰揉んでー…あーそこ、そこそこ」

 

スタッフの世話を受けながら、全力で休む桜。こうしておかないと、ライブの後半でばててしまう。

 

「……よし、頑張りますか」

 

休憩時間も終わり、再びステージに上がる時がきた。このまま順調にいけば、3時間後にはライブも終了するだろう。

だが、ライダーの運命とは過酷なものなのである。

 

ドォォォォォン……

 

「なに!?」

 

桜が再びステージに上がろうとした瞬間、ライブ会場であるドームが、爆発音と共に激しく揺れる。困惑するスタッフを尻目に、悪い予感を抱いた桜は、急いでステージ上に上がりーーそこで、悪夢を見る。

 

「ディソナン…ス……」

 

ドームの天井に開いた穴から、一体のディソナンスが降下してきていた。そのディソナンスは、まるで複数のディソナンスを融合させたかのような奇妙かつ歪な体型であり、その容貌からは、正気を感じられない。

そして、桜はそのディソナンスの顔に見覚えがあった。

 

「……あれ、ノイズ!?」

 

桜自身が直接相対したのは、音成と初めて顔を合わせた時の一回だけだが、要注意すべき相手として、音成と共にマークされていたディソナンスであるノイズが、どうやら眼前のキメラの核となっているようだった。

 

『さて、チューナー……暴れなさい。…なんでわたしがこんな役回りなんだか……』

 

「あれ…キキカイ!?」

 

桜の目に、もう一体ディソナンスが映る。チューナーの影から現れたのは、かつて桜が刀奈と共に打ち倒したはずのディソナンス、キキカイだった。

 

「あいつ……復活したの!?それとも、やられてなかったとか…」

 

『チューナー、ここには大勢の人間がいるわ…暴れなさい』

 

『グオオオオオアオオオオオアガガガガガガガ』

 

桜がキキカイの復活に困惑する間にも、耳障りな、まるでノイズのような咆哮を上げながら、チューナーはライブの観客達に襲いかかろうとする。それを見逃す桜ではなかったがーー

 

(ここで変身すれば、私がライダーだって事がバレる…でも変身しても見つからない場所を探してたら、みんなが危ない…だったら!)

 

ステージに立つ桜は、どこからともなくレコードライバーを取り出すと、装着。そして、チューナーの注意を引くために、大きく声を張る。

 

「こっちよ!化け物!ーー私の変身、よーく見ておきなさい!」

 

『グ……?』

 

『ん?……げっ、ま、まさか…』

 

「桜ちゃん…?」

 

「なにを……」

 

「ーー変身!!」

 

ステージの上で、桜はいつものように観客の視線を浴びながら、いつものように変身を行う。

ーーレコードライバーから光の輪が飛び出し、桜の頭上に展開する。そして、光の輪が桜の身体を包みーー

 

「仮面ライダーダンス、参上……さて、私のライブをめちゃくちゃしてくれたお返し…たっぷりさせたらもらうわよっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行きなさい!ストームブレイカー!」

 

変身した桜は、まずストームブレイカーをチューナーとキキカイに向けて放ち、その周囲に嵐の結界を作り出すことだった。この2体相手では桜の起こす嵐もすぐに打ち破られたしまうだろうが、観客達が逃げ出すまでの時間は稼げるはずだ。

 

「みんな!早く逃げて!スタッフも、みんなを誘導して、早く!」

 

「さ、桜ちゃん……わかった!」

 

「おい!すぐに非常口に!一気に押しかけるなよ!」

 

「パニックを起こさないで!早く!」

 

ディソナンスの登場によって混乱の渦にあったドームだったが、桜が変身したことで、あまりの驚きに観客もスタッフも逆に落ち着き、桜の叱咤ですぐに出口に向かって移動し始める。それを見た桜は、観客達やスタッフを逃がすため、全力でディソナンスの足止めを行う。

 

(ストームブレイカーだけじゃ、足止めは難しいわね……なら!)

 

「いきなり全力でいくわよ!」

 

『voltage max!!!』

 

『rider super storm!!!』

 

ストームブレイカーだけでは威力が足りないと感じた桜は、さらに必殺技で嵐を発生させる。二重の嵐によってチューナーとキキカイを閉じ込めることに、成功したかに見えたが……

 

『グーー■■■■■■■■■■■■!!!!!!』

 

「何がっ……」

 

嵐の中から、世にもおぞましき咆哮と共に閃光が走り、桜の視界を覆い尽くす。完全に不意を突かれた桜に、それを防ぐ術はない。

 

「う……あ……」

 

光線に焼かれ、倒れ伏す桜だったが、未だ変身解除はしていない。しかし、チューナーはそんな事に関係なく追撃してくる。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!』

 

「あっ……」

 

桜の身体を無造作に掴むと、骨が砕けそうなほどの力で握りしめ、そのまま床に叩きつける。

 

「がっ…」

 

痛みと衝撃で意識が朦朧とする桜に対し、チューナーは一切の容赦なく攻撃を加える。それでも意地でも意識を保つ桜であったが、変身もギリギリ保っていられるような状態である。

 

『……ホント、悪趣味な兵器を作り出したものね、音成サマも。ま、私には関係ないけど…』

 

冷酷にチューナーと桜を見るキキカイを尻目に、チューナーは桜を無造作にステージ上へと投げ飛ばす。ろくに受け身も取れずにステージの床に叩きつけられた事で、遂に変身が解除されてしまう。

 

「あ……ぐっ…」

 

『オオ…オオ…■■■■■■■■■■!!』

 

チューナーの身体が変形し、巨大な砲台と化す。その砲口が向くのは桜だ。自身の眼前で、エネルギーのチャージをチューナーが始めるのを見る桜だったが、重傷を負った桜に、逃れる術などありはしなかった。

 

(……ここで死ぬんだ…私……ごめんね、刀奈、ゼブラちゃん。2人の到着まで、保たせられなくて…)

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■!!』

 

耳障りなノイズと共に、その時が迫ってくる。死を覚悟した桜は、ゆっくりと目を閉じーー

 

 

 

「待てええええええええええっ!!!」

 

 

ーーだが、それを許さぬ者がいた。その男はバイクを駆り、桜に迫っていたノイズを急襲。その背にバイクをぶつけ、自身は桜のいるステージ上へ飛び移る。

 

『■■■■■■■■■■■■■■ーー!?』

 

『え、なに!?なんなのよ!』

 

突然の衝撃に驚くノイズとキキカイを尻目に、突如乱入してきた男は、桜に前に降り立つ。桜を助けた男の正体はーー

 

「…真、司……?」

 

今は海外で極秘任務についている筈の、的場真司…仮面ライダーファングその人である。

 

「遅くなったがーー大丈夫じゃなさそうだな」

 

「……っ、遅すぎ…よ…」

 

ボロボロの体で立ち上がろうとする桜を、真司は制止する。彼の左腕には、ディスクセッターが装着されていた。

 

「…さあ、ここからは俺が相手だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『voltage Max!!!』

 

『rider genocide knuckle!!!』

 

真司はまず必殺技を発動し、強大な破壊のエネルギーをチューナーとキキカイにぶつける。チューナーを盾に回避するキキカイだったが、強大なエネルギーに、チューナーもろとも吹き飛ばされる。

 

『■■■■■■■■■■■■■■!?』

 

『な、なんで…このドームの外は、私の機械兵ちゃん達が封鎖している筈……』

 

キキカイの言う通り、ドームの外には大量の機械兵達が配備されていた。観客を逃さず、ライダー達がやってくるのを防ぐことが目的で配備していたのだが、まさかこの短時間で全滅させられてしまったのかーーキキカイの考えを見透かすように、真司が答える。

 

「確かに、俺1人だけでは突破はできない。刀奈とゼブラの協力があっても、時間がかかる。ーーだが、なにも戦う者は、俺達仮面ライダーだけではない」

 

『………!』

 

 

 

 

 

「そっちの戦況は!?」

 

「大丈夫です!あなた達は、我々が守ります!」

 

「ディソナンス相手にゃともかく、こいつらなら通常兵器も通じる!」

 

「こっちにはライダーもいるんだ!負けられるか!」

 

「特務対策局戦闘班の意地を見せろーー!」

 

「真司、頼んだぞ…!」

 

「桜さん……無事で…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……フフ、あなた達人間を、甘く見過ぎたってところね……』

 

自嘲するキキカイに、真司は警戒しながら近づいていく。

 

「お前の手駒は、その怪物だけーー勝てると思うか?」

 

真司の言葉に、キキカイは諦めたように笑う。ノイズは倒れたまま、自身は復活したはいいが、戦闘能力は落ちてしまっている。まさに絶望的な状況である。

 

『無理ね、大人しく撤退ーーしたいんだけど』

 

「……?」

 

『どうにも無理みたいねーーこれは』

 

ーー突然、真司の体に衝撃が走る。痛みに驚く間もなく、その体は吹き飛ばされる。

 

「…がっ……!?」

 

『確かに、あんだけ達は強くなった。今の私じゃ、勝てないでしょうね…でも』

 

 

『そいつをーー甘くみない方がいいわ』

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!■■!』

 

ーー空中に吹き飛んだ真司の足を、手が掴む。その手は、真司の必殺技によってできたチューナーの傷口から伸びており、自身の体の中に真司を取り込もうと、引き摺り込もうとする。

 

「うっ……うおおおおおおおおおおおお!?」

 

拳の巨大な牙でその手を引き千切る真司だが、チューナーの体はギチギチと音を立てながら変異を始めていた。今までは辛うじて人型と判別できたその体躯が、徐々におぞましき肉塊か、あるいは泥かーー明らかにこの世界に存在する、およそ生命体と呼べるものがとってはいけない形へと、チューナーの体は変容していた。

 

『■■■■■■■ーー■■ーー■■■■■■■■■!!!!!』

 

『……だから無理だって言ったのよ、こんな怪物を制御するなんてーーとにかく、私は逃げさせてもらうわ』

 

「…!待ちな、さいよ…!」

 

ドームの天井に空いた穴から逃げようとするキキカイを、桜は引き止めようとする。しかし、今の桜では、キキカイを食い止める事は出来ない。

 

『ーー自分の体を気にかけた方がいいわよ。あと、お仲間さんの方も。…そろそろ限界みたいね?』

 

「えっ……」

 

キキカイの言葉に桜が振り向くと、そこにはチューナー…であったものから伸びる触手に囚われた真司がいた。必死に抵抗しているが、触手はなおも真司の体に絡みついていく。

 

「真司……!」

 

『まあ頑張んなさい。上手くやれば、命だけは助かるかもね…』

 

ジェット噴射で飛び去っていくキキカイだったが、今の桜と真司には、それに反応する余裕もない。なんとかして真司に絡みつく触手を引き千切ろうとする桜だったが、今の桜に、そんな事が出来るはずもない。触手に軽く弾き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ…負担が…だが仕方ない……これを…!」

 

左腕のディスクセッターに手を伸ばす真司。右手には彼のライダーズディスクが握られている。しかし、チューナーにも知性は無くとも、野生の勘の様なものはある。無意識に警戒心を抱いたチューナーは、真司の左腕を、無数の触手で攻撃する。咄嗟に左腕のディスクセッターを守ろうとするさんだったが、触手に体を絡め取られている今、そんな事が出来るはずもなく、あっさりとディスクセッターは、真司が手に持っていたライダーズディスクと共に、弾き飛ばされてしまう。

 

「くそっ……これでは…!」

 

ディスクセッターを弾き飛ばされても諦めず、抵抗を続ける真司だったが、チューナーとの膂力の差は歴然であり、精々一気に引き込まれないようにするのが精一杯だった。

徐々にチューナーに取り込まれようとしている真司の後ろには、倒れる桜がいる。真司がこのまま引き摺り込まれれば、次は桜の番だろう。

 

「ーーっ、うっーー」

 

桜にとって何よりも恐ろしいのは、自分が仲間の足を引っ張る事だった。無理無茶をしてでも強くなろうとは思わない。そんな事をすれば、桜の体は壊れてしまうだろうーー刀奈やゼブラほど、彼女の体は頑丈ではない。だからこそ、彼女は無茶をしない。常に冷静に動き、考え、仲間を支える。ステージの上では主役でも、戦いの上では脇役であるのが、彼女の今までだった。

ーーしかし、状況は彼女にそれを許さない。目の前には飲み込まれようとしている仲間。ほかの仲間達は敵の足止めがあるのか、まだやってこない。そもそも今の状況で乱入してこようものなら、むざむざ無残な死体になりにくるのと同じ事だろう。

 

 

ーーつまり、今動けるのも、なんとかできるのも、私だけ

 

 

だから、彼女は手に取ったーー今の体では保たないかもしれない、それでも、「かもしれない」ならば、彼女にとっては最良の選択肢だった。

 

 

「真司、あんたのこれ、使わせてもらうわよ」

 

「桜ーー!?」

 

 

チューナーによって吹き飛ばされた真司のライダーズディスクを手に持ち、ディスクセッターを左腕に装着する。使用方法は、既に前知識として学んでいた。

「ーー悪いわね。私、このままじゃ終われないのよ」

 

チューナーの触手が伸びてくる。防衛意識から伸ばされたそれよりも早く、桜はディスクセッターを起動する。本来ならば真司のライダーズディスクを使っての二段変身など正気の沙汰ではないが、今の桜は頭に血が上りきった状態だ。

 

「教えてやるわ、バケモノーー」

 

ディスクセッターから飛び出した光の輪が、チューナーの触手を防ぐ。真司の抵抗もあり、触手では仕留めきれないと判断したチューナーは、その泥のような肉体の一部を変化させ、凶悪な顎門を形成。そこから大出力の熱線を放つ準備を行う。

 

「桜……!ぐっ…!逃げろ!桜!」

 

桜を助けたくても、むしろ今は真司が助けられる側である。ヒリヒリと感じる熱に危機感を覚えた真司は、桜に叫ぶ、お前だけでも助かってくれ、と。

その真司の言葉に対して、桜はーー

 

 

「ーー勝負ってのはね、諦めの悪い方が勝つのよ」

 

 

ーー熱線が放たれる。それは、床をドロドロに溶かし、空気を歪ませながら桜に迫る。桜は、動こうとしない。

 

「桜ーー!!」

 

真司が叫んだ瞬間、桜に熱線が着弾し、爆発が起きる。ドームを揺るがす轟音と振動、そして光のが、真司の視界を覆い尽くし、その身を震わせる。

 

「ぐっ……桜……」

 

爆炎に包まれた桜を見て、怒りに震える真司。せめて、この怪物には一矢報いる。そう、覚悟を決めた時ーー

 

 

 

「ーー知ってたかしら?」

 

 

ーー音が、響く。ドームの中に、小さく、しかし凛とした声とーー歌という音が。

 

 

『■■■■■■■■■■■!?』

 

「桜……?」

 

爆炎の中から、桜がその姿を現わす。その背には炎のように赤い翼があり、展開されたそれは、周囲の爆炎を吸収していた。その姿は、まるでーー不死鳥のようだ。

 

 

「不死鳥はねーー灰になっても、燃え尽きないのよ」

 

今、炎の歌が鳴り響くーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!』

 

まず仕掛けたのは、チューナーの方だった。桜に向けて無数の触手を伸ばし、熱線の発射準備を行う。今度は、触手も剣や槍のような形状をとってきたがーー

 

《心の情熱が、私の身を焦がす》

 

『ファイヤーストームブレイカー!』

 

電子音声と共に、桜の振るう武器、フェニクックスランスの先端から、ストームブレイカーの強化版、ファイヤーストームブレイカーが発射される。

 

《それがどうにも抑えられないーー》

 

(まずは、真司を助ける!)

 

ファイヤーストームブレイカーは触手を蹴散らし、真司の体を拘束から解放する。すぐさまチューナーから離れる真司に向け、チューナーが熱線を放つが、桜はそれを受け止める。

 

「桜!」

 

《ステージの上じゃ無敵、だ・け・れ・ど・もーー》

 

「心配ない!」

 

桜の身を案じる真司だったが、桜は熱線を吸収する。今の彼女には、炎による攻撃、熱による攻撃は逆効果だ。

それを察知したのか、チューナーは冷凍光線を今度は放ってくる。完全に理不尽なほどの攻撃に、しかし桜は対応する。

 

《ホン、トは、か弱い乙女なのーー》

 

「ファイヤーストームブレイカー!」

 

ファイヤーストームブレイカーを「もう一つ」呼び出し、冷凍光線を防御する。触れたものを一瞬にして凍りつかせる攻撃も、嵐のような炎の前にはなすすべもない。自身の攻撃が失敗に終わった事をチューナーが理解する前に、桜は動く。

 

《嵐の中ーー響いてくる声援(コール)がある》

 

「行くわよ!」

 

『■■■■■■■■■!?』

 

泥と化したチューナーの体を二機のファイヤーストームブレイカーで巻き上げ、自身も背の翼から炎を繰り出し、チューナーを焼き尽くさんとする。

 

《だからーー負けない》

 

『■■■■■■■■■■!!!』

 

「っ……!」

 

チューナーの体が、泥状から徐々に人型へと変化していく。自身を襲う炎の嵐を、全身からビームを放つ事で打ち消したチューナーは、人型を保ったまま、桜に飛びかかる。

 

《炎すらも輝きに変えてーー!》

 

「空中戦?いいわ!ついてきなさいっ!」

 

『■■■■■ッーーグゥルルルルルルルルルルルルル!!!』

 

炎の翼で宙に舞う桜を、チューナーは悍ましき叫び声をあげながら、背に生やした翼で捕まえんとする。しかし、まるで踊るように空を飛ぶ桜に、チューナーは追いつけない。

 

《今ーー歌おうこの歌を》

 

「焦ってきた?理性のないアンタでも、流石にケリをつけたくなってきたころかしらっ!?」

 

『■■■■ーー!』

 

チューナーの動きが段々と大雑把になっていく。その姿はより早くなるために形状を変え、装甲は薄くなり、薄くなった分は攻撃に回される。既にドームの天井には、無数の大穴が空いている。

 

《そして響かせよう》

 

「ーーそろそろ決めるわ」

 

《私のこの気持ちーー!》

 

『Over the song!!!』

 

空中で一旦静止した桜は、下から迫ってくるチューナーめがけて、必殺技を放つ準備をする。二機のファイヤーストームブレイカーのうち、一機を推進力に、もう一機を足裏に装着し、攻撃に回す。

 

《世界ーー中がライブ、ステージ!》

 

『rider phoenix strike!!!』

 

「はあああああああああああああああああっ!!!」

 

桜が狙うのは、チューナーの核となる部分だ。泥のようになっても、その体を構成する核はあるはず。ならば、相手が人型にならざるをえないようにすれば、核も貫きやすいだろう。そう考えての、ファイヤーストームブレイカー二機による同時攻撃だった。

 

《そうつまり》

 

「ど真ん中ーーもらった!!」

 

チューナーの核があると思われる場所、人間でいえば、心臓がある場所に桜のキックが命中する。足裏のファイヤーストームブレイカーが、チューナーの体を貫く。しかし、チューナーの動きは止まらないーーニヤリ、と口元を歪めたように見えた次の瞬間、チューナーの顔が裂ける。裂け目からは、チューナーの核とーー桜に向けて放たれようとしている光線が、はっきりと確認できた。

 

「ーーーー!」

 

目を見開いた桜に、チューナーは光線を放とうとしーー頭部を襲った衝撃に、その行為を中断した。

チューナーの頭部に突き刺さったモノーーそれは、桜がチューナーの体に打ち込んだ、ファイヤーストームブレイカーだった。もしもの保険に、足裏に装着していたファイヤーストームブレイカーに、頭を狙わせていたのだ。

 

《私は無敵ってコト》

 

「ーーバケモノを倒すのは、いつだって人の知恵ってコトーー」

 

理解した?(Do you understand?)

 

 

『オーーー■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!』

 

チューナーの体が、ゆっくりと溶け落ちていく。その一部は砕け散った核と共に何処かへと飛ばされていくが、今の桜にそんな事に気づく余裕はない。

 

 

「ぐっーーはっーー」

 

「桜!ーー無茶をするな、全く」

 

地面に降りた瞬間、変身が強制的による解除され、倒れた桜に真司が駆け寄る。桜は息も絶え絶えな状態だが、命に別状はないらしく、レコードライバーも無事だった。

 

「ーー真司」

 

「なんだ?」

 

「ーー最高の、ステージだった、でしょ?」

 

「ああーーだから、今はゆっくり休め」

 

「そう、させて、もらう、わ……」

 

ーー力尽き、深い眠りに落ちる桜を抱えて、真司は久々に特務対策局の面々に会うため、桜を病院に送るために歩き出す。

 

(俺もボロボロなんだがな……まあ、刀奈達への説明の方が面倒だな……)

 

ドームの外では、真司と桜を、特務対策の面々が待っていた。

 

「ーーおかえり、真司」

 

「ーーああ、それはそうと、桜を頼む…あと、俺もーー」

 

刀奈に会うと、緊張の糸が途切れたのか、変身を解除しながらふらっと倒れる真司。慌てて桜と一緒に真司を抱きとめ、微笑む刀奈。

 

「……無事で良かった、本当に」

 

真司が目覚めるのは、これからまた数日後の事ーーその時まで、視点をアメリカの乙音に移そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ナニモイウコトハナイ…一言、とりあえず2週間は超えなくてよかった。

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