ふー、なんとか挿入歌も加えて書き上げたぜ。
今回はあまり話が進みませんが、次回以降からだんだん加速させたいですね。
ボイスがディソナンス幹部、七大愛・フィンと戦っていた頃、それに前後して、乙音も七大愛であるゲイルと戦っていた。
両者とも列車での戦いだが、ボイスが車両内での戦いであるのに対し、ソングは屋根のない貨物車両での戦いとなる。しかし、ソングの装備やスペックでは、走る車両での戦いはかなりやりにくいものとなる。その上、ゲイルは水を操り、地下鉄に追いつけるほどのスピードで水に乗って宙を飛び回り、ソングを四方から攻撃してくるのだ。当然……
『やりにくいよなぁ!ハハハ…!どうした?他の車両に逃げ込んでもいいんだぜ?そっちの方がやりやすいだろ?』
「わかってて、言ってるでしょ…!?このっ…!」
ゲイルの言う通り、乙音…ソングとしては、ゲイルは車両内の方が戦いやすい相手である。液状化は厄介だが、その能力を除けば、接近戦ならば、乙音の方がほんの僅かに上。狭い車両内ならば、接近戦にも持ち込みやすい。格段に戦いやすくはなるのだが、乙音にはそうできない理由があった。
(ショット博士…ロイドさん…研究員さん達……ここで私が車両内に行けば、こいつは必ず彼等を狙う……やりにくい!)
今はゲイルと乙音の戦いに巻き込まれないよう、車両内にショット博士達が逃げ込んでいる。乙音が車両内に投げ込めば、ゲイルは彼等を積極的に狙うだろう。そうなれば乙音の動きも極端に制限されるうえ、万が一にでも博士達がやられれば、ディソナンスに対抗するための切り札ともいえるビートライダーシステム完成に、大きく遠ざかってしまう。ゲイルと乙音はパワー自体は互角だが、乙音自身、やろうと思えば、この地下鉄を吹っ飛ばす事も可能ではあるというのも、車両内に乙音が逃げ込めない理由の1つだ。もしも車両内に乙音が逃げ込めば、中の乙音や博士達ごと、車両をゲイルが吹っ飛ばすかもしれない。そうなると、博士達はもちろん、乙音も無事ではすまない。乙音に残された選択肢は、突破口が開く事を信じて、不利な戦況のまま、ゲイルと戦い続ける事だけだ。
(このままじゃ、ジリ貧……!かといって、退くも押すもできない…!)
実質的に嬲り殺されているような状況に焦り、乙音は水に乗って宙を飛び回るゲイルを叩き落とそうと、無茶な攻撃を繰り返す。
『おっと、懸命に槍を振るってはいるが、そんなノロマじゃあ、俺は捉えられない。逆に……』
しかし、ゲイル相手にそれは悪手にしかならない。逆に今まで防げていたはずの攻撃を喰らい、地面に叩き落される。
「!?くっ……」
『オラオラオラッ!』
地面に伏せた乙音を狙って、ゲイルは容赦なく水の弾を放つ。鉄板すら撃ち抜くそれを、乙音は床を転がりながら回避、すぐさま飛び起きて槍を回転させて小さい弾を弾くが、直後に飛んできた巨大な弾の直撃を喰らい、車両感の間にあるドアに叩きつけられる。槍は線路に落ち、鈍い音と共に、車輪に砕かれる。
「ぐっ…はっ……っ…」
背のドアを支えに立ち上がろうとする乙音だったが、足が震え、うまく立つ事ができない。そんな乙音を嘲笑うように、ゲイルは地に降り立ち、ゆっくりと乙音に近づいていく。
『ハハハハハハハハハハハハ……』
「ぐっ……」
正に絶体絶命の窮地に晒されている乙音の様子を、ショット博士達は、今乙音がもたれかかっているドアの反対側の車両から、ゲイルの背中越しに乙音の様子を見て、青ざめていた。
「ど、どどどどどどうします!?乙音さんがやられれば、次は…!」
「は、博士!ここはやはり、誰かが…」
焦りながらも、自分達のすべき事を話し合う博士達。しかし、結局は誰かが危険な目にあわなければいけないという結論に達し、さらに焦り始める。しかし、この状況でショット博士は霊性だった。
「うむ……ピンチはチャンス、今が好機かもしれんのう……」
「ならば、父さん。僕が行きます」
「ロイドさん!?」
ロイドの発言に騒めく研究員達を尻目に、ショット博士は、ロイドを静かに見つめる。
「……やれるんじゃな?」
「……はい、行けます」
「……そうか……頼んだぞ」
ロイドの手にディスクセッターを渡すショット博士。ロイドは静かに頷くと、飛び出すタイミングを計らうため、窓に張り付く。窓の向こうでは、乙音にゆっくりと近づいていくゲイルの姿があった。
『これで、終わりにしてやる……』
ゲイルが槍を振り上げる。そして、その瞬間ーー
「今だ……!乙音さん!跳んで!」
「!?ロイドさん!?」
『なんだ…!?』
ドアを開け、乙音に向かって叫ぶと共に、ディスクセッターを宙に放り投げるロイド。ロイドの声に反応した乙音は、同じくロイドに反応して隙をさらしたいゲイルを踏み台に宙に跳び、ディスクセッターをキャッチ、見事に着地する。
「乙音さん!ディスクセッターを装着して、あなたの持つ、もう一つのライダーズディスクを挿入してください!」
「もう一つの……!?アレか!」
ロイドのアドバイスに従い、自身が所有するもう一つのライダーズディスクーー初めてソングに変身した時に生まれたディスクを、ディスクセッターに挿入し、ディスクセッターを装着する。
『何をするつもりだ……!?』
「乙音さん、ディスクセッターのボタンを押して!それで準備は完了します!」
「……っ…わかり、ましたっ!」
乙音の行動を警戒したゲイルは、乙音に向かって槍を叩きつけるように攻撃する。それを間一髪で避けながら、ロイドの言葉に従い、ディスクセッターを操作する乙音。
「乙音さん、ビートに変身した時のように、レバーを引いて…!危険な賭けですが、それで!」
『くそっ、さっきから鬱陶しい!』
「……!?」
「ロイドさん!?」
ロイドの指示に従って、ディスクセッターのレバーを引いた乙音だったが、それとほぼ同時に、ロイドは向かって、ゲイルが特大の水弾を放った。スピードは遅いため避ける事はできるかもしれないが、それをやってしまえば、ロイドの背後ある車両に乗っているショット博士達は、全滅してしまうだろう。そして避けなければ、ロイド・バーンという一個人が、跡形もなく消滅してしまう。そして、そのどちらも許す乙音ではなかった。
「ロイドさん!」
「…乙音さん!?」
ディスクセッターから輝きを放ちながら、ロイドを庇おうとする乙音。そして、乙音がロイドの前にも躍り出た瞬間ーー
『……じゃあな』
チュドーーーン……
巨大な水弾が破裂し、爆発。乙音達の体が煙に完全に隠れる。炸裂時の衝撃波で車両が揺れ、ショット博士達も思わずこけてしまう。これだけの威力、乙音とロイドは、その肉片すらこの世には残っていないだろう。
『はっ…つまらねぇ。ここの奴らをいたぶって、憂さ晴らしでもするか……』
ゲイルが気だるげに、ショット博士達のいる車両に向けて歩き出す。未だに晴れない煙を、鬱陶しそうに槍で払いーー
『……なに?』
しかし、その槍は煙から出てきた手に、止められる。さっと飛びずさり、油断せずやりを構える。その目前で、煙が晴れていく。そこにあったのはーー無事な乙音と、ロイドの姿だった。
『ーー馬鹿な』
思わずそうもらしたゲイルだったが、驚くのはここからだった。乙音が掲げたディスクセッターから光の輪が飛び出し、それが乙音の体を通過していく。
『何だ……!?』
すぐさま乙音に向けて水弾を連射するゲイルだったが、乙音は避けようともせず、それを身に纏うオーラで全て弾き飛ばす。そして、光の輪が乙音の体を通過しきったその時ーー乙音の変身は、完了する。
「仮面ライダーソング、オーバービート……!!」
背のマントを翻し、変化した装甲を身に纏って、乙音は言う。ゲイル達に向けた、宣戦布告の一言を。レコードライバーから奏でられる歌と共に。
「心のビート……私の歌で、ぶっ倒す!!」
『やってみろっ!!』
《幾千の、試練を越えて》
まず仕掛けたのは、乙音だ。その身に纏うマントでゲイルの視界を遮り、的確にパンチとキックの連撃を放つ。さっきまでは乙音の攻撃をものともしなかったゲイルだったが、今は違う。乙音の拳を受け止めようと、ガードを固めたはずが、強い衝撃とともに、吹き飛ばされてしまう。
《心からの、この歌で、強くなる》
『ぐっ……この野郎!』
空中で態勢を整え、さっきまでと同じように、水に乗り、空中から乙音を攻めるゲイル。四方から水弾を放つが、乙音はマントを広げると、回転。明らかに巨大化したマントで水弾を受け止め、自らのハートウェーブを乗せて、弾き返す。
《幾億の、思いを乗せて》
『おおっ!?がっ……!』
乙音の反撃に驚いたゲイルは床に落下。すぐさま乙音はゲイルに近づき、ストンピングで追撃するが、ゲイルもそれを許すほど甘くはない。咄嗟に床を転がると槍を使って乙音に攻撃する。
『オラアッ!!』
《叩き込む、この歌を》
しかし、その槍を、乙音は素早く受け止め、ゲイルの腹をぶち抜く勢いで殴打する。吹き飛ばされ、別の車両の屋根に乗るゲイル。
《溢れる思いをーー!》
『グアアッ!?』
吹き飛ばされたゲイルを追って、乙音は跳ぶ。しかし、屋根に着地する瞬間を狙って、ゲイルが槍を突き出してくる。
『ハアッ!!』
《例え赤い血潮が、枯れ果ててもーー》
「……!ぐっ…」
咄嗟に左手を突き出して防御する乙音だったが、ゲイルの槍に装甲ごと貫かれ、左手の肉を抉られる。再び攻撃するため、槍を引き抜こうとするゲイルだったが、乙音は逃がさないとばかりに左手を握りしめると、槍がますます深く突き刺さるのも気にせず、右拳でありますゲイルの顔面を殴りつける。
《心のーー底からーー湧き出る思いが》
「うおおおおおおおおおおっ!!」
《熱く(熱く)》
『こいつ…バケモノかっ!?』
《身体(身体)》
《立ち上がらせるーー!》
咆哮と共にゲイルの槍を引き抜き、それを投擲、ゲイルの足に命中させ、逃げられないようにする乙音。そしてマントを変化させ、槍の様な形状にして、ゲイルを貫く。
『残念……だったな…!』
「……!」
しかし、ゲイルは液状化を発動し、乙音の攻撃を防ぐ。そして、液状化して体を動かし、四方から乙音に襲いかからんとするがーー
《歌え!(歌え!)》
「はあああああああああああああああああああああああああっ!!!」
《愛を!(愛を!)》
『な……なにっ!?』
《叫べ!(叫べ!)》
《全開でっ!》
槍状のドリルが猛烈に回転し、液状となったゲイルを巻き込んでゆく。このままではドリルに消し飛ばされてしまうとでも思ったのか、液状化を解き、空中へと逃げるゲイル。しかし、乙音はそれを待っていた。
《思い貫くこの力……》
『over the song!!!』
必殺技を発動し、空中へ飛び上がる乙音。ゲイルが防御する間も与えず、空中に逃げ、地下鉄から離れたゲイルを仕留めにかかる。
《集え!(集え!)》
《放て!(放て!)》
『rider kick!!!』
《歌え!(歌え!)》
『う、うおおおおおおああああああああっ!?』
ライダーキック。必殺の一撃がゲイルを捉え、地下の壁に、その体を擦り付け、削り取ってゆく。
《響く残響、それが残るなら……!》
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
《戦おうーー!》
『ぐあがあああああああああああああああああっ!!!』
ドゴン!と大きな爆発音と共に、地下の一部が崩壊する。地下鉄はその崩落による落石を危ういところで避け、目的地であるワシントンへ向けて進む。乙音はゲイルを落石で生き埋めにした後、爆発の衝撃に、半ば吹き飛ばされる形で、車両へと戻ってきた。落下地点は貨物車両。変身が解除され、仰向けに倒れる乙音に、ロイドとショット博士をはじめ、地下鉄に乗っていた研究員達が駆け寄る。
「大丈夫ですか!?乙音さん!」
「大丈夫、です……でも、レコード…ライバー…が…」
乙音の言葉に、ロイドがレコードライバーを見ると、落下の衝撃か、あるいはディスクセッターとの無茶な運用のためか、レコードライバーにはヒビが入っていた。変身を維持できなくなったのもそのためだ。
「ふうむ……ディスクセッターと組み合わせての運用は、やはりレコードライバーに多大な負荷がかかるようじゃのう…すまんかったの、乙音君……」
「いえ、大丈夫、です……それよりも、さっきの、力は…」
「……それは、ワシントンについてから説明します。とりあえず、今は休んでいてください」
「……わかり、まし、た…」
そう呟くと、糸が切れたように眠る乙音。どうやら、無茶な運用は、乙音自身にも相当な負荷をかけていたようだ。
「…とりあえず、乙音君を休ませるぞい。猛君にも連絡を」
「連絡は僕の方でやっておきます」
「よし。さあ、ワシントンまでもうすぐじゃ!それまで気を抜くでないぞ!」
「「「はい!」」」
「さて、どう説明したものですかね……」
「……というわけさ。今はもう大丈夫らしいが、まだレコードライバーの修復作業は終わってないらしい」
「そう、だったんですか………貴重な時間を割いていただき、ありがとうございました」
日本、特務対策局。3日前に起きたゲイルと乙音の戦いの顛末を、勝と猛の口から伝えられた刀奈は、話を聞き終わると、一礼して、局長室を去っていく。おそらく、トレーニングルームに向かうのだろう。
「……局長、やはりあの力は…」
「……まだ早いかもしれない。しかし七大愛は強い。まだ被害が大きくならないうちに彼等を倒すには、あの力が必要…それは刀奈君もわかっているだろうさ」
乙音が使った力は、正に禁断の力とも呼べるものだった。意図的にハートウェーブを限界まで高めるそれは、かつてバラクとキキカイを倒した時のように、2つのライダーズディスクを、ディスクセッターとレコードライバーを用いることで共鳴させ、デュエット状態を単体で擬似再現するシステムだった。その名もーー
「オーバーライドシステム…ビートライダーシステムと並行して開発と研究が進められていた、禁断の力…彼女達が、あの力を使いこなせるようになる事を、祈りましょう」
「そうだね……いつだって無力な大人には、それぐらいしかできないのだろうね……」
地球のどこかーー
「……くそっ、まだ傷が痛みやがる。まさか生き埋めにしてくるとは…お陰で任務は果たせないわ、深手は負うわ、散々だったぜ」
「私など左手をもっていかれたのだぞ。新しく調整してもらったが、まだ馴染まん」
「仮面ライダー……やはり、音成様の計画には、危険な存在だな」
「…今度はお前がいくか?」
「いや、俺の出番はまだ先だ。それよりも、今はチューナーの調整を優先したい。どうも一度実戦に出されるつもりのようだ」
「おおっ、マジか!じゃあ、旧ディソナンスの奴らもくっつけてやったらどうだ?抑え役程度には働くだろう」
「そうだな…音成様に反する思想を持った奴らには、狂犬の世話が似合いの仕事だろう」
「違いねぇな。で、チューナーの犠牲になるのは、どこだ?」
「……日本、東京都だ」
旧ディソナンス…一体どいつらなんでしょうかねぇ?(笑)余談ですが、七大愛はもともと影も形もなかった奴らでした。バラクやキキカイ、カナサキ、ドキの4人では最後まで話を持たせられないと思った故の判断です。
……オーバーライドシステム?…強化案はあったんですが、ここで出すつもりはなかったです。ゲイルが強すぎたんや……