仮面ライダーソング   作:天地優介

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やっつけ仕事。第一部完にしてこの底クオリティ…底の底までお付き合いいたします。


誕生する音色

「……!広い空間が見える…もうすぐです!」

 

地下空間ーーそこを駆け抜ける乙音達突入班は、ついに保管装置の元へとたどり着こうとしていた。

ここまで誰一人欠ける事なく来れた事と、ここまで案内してくれたドキに感謝しつつ、逸る気持ちを抑え、踏み込む乙音。

そこにはかなり広大な空間が広がっており、その中央、乙音達から離れた所に保管装置と、それを操作するノイズ、そしてキキカイが製作した容器に入れられたカナサキの核があった。

 

「あれは……!」

 

『木村乙音……ここまで…!だが一歩遅かったなあ!私の能力でノイズを操り…保管装置の起動は済ませた!後は私が中のハートウェーブを吸収し、より完全な形で復活するまで!』

 

それを聞いた乙音とゼブラは他の突入班のメンバーを置いて、保管装置へと駆ける。

 

「ディソナンスを操るなんて、そんな事が……!?」

 

「あいつの能力は絶望させる能力!ハートウェーブに影響を与える事もできるなら、ハートウェーブで構成されてる、僕らディソナンスも操れるのかも…!」

 

『その通りだ裏切り者!絶望より生まれた貴様は操れぬだろうが……ノイズのように自我が未発達なディソナンスであるならば、十分操れる!』

 

そのカナサキの言葉に応えるように乙音とゼブラに飛びかかるノイズ。そして、それと同時に保管装置が怪しく光りだす。

 

『フハハハハ!保管装置は稼働を開始した!もはや私にも止められるものではない……!』

 

「カナサキィィィィッ!」

 

「お姉ちゃん!こいつは僕に任せて、カナサキを!」

 

「おおおおおおおっ!」

 

ゼブラがノイズを抑える間に、乙音がカナサキを消滅させるべく必殺技を発動、『rider double shoot』を放ち、その上で自身も駆ける。だが、乙音の放った必殺技は、保管装置より溢れるハートウェーブに弾き飛ばされてしまう。

 

「何っ!?」

 

『フハハハハ!素晴らしい!私の中に力が流れ込んでくるぞ!』

 

カナサキの核が保存されていた容器が割れ、カナサキの核が光り輝くと、乙音の体が弾き飛ばされる。

 

「ぐあっ!?」

 

『乙音くん!』

 

「乙音ちゃん!」

 

「お姉ちゃん!?…ぐっ!?」

 

香織や勝達の元まで弾き飛ばれた乙音を心配するゼブラだったが、振り向いた一瞬の隙をノイズにつかれ、自身も乙音達の元へ吹き飛ばされてしまう。そこに、地上から駆けつけてきた真司達が現れる。

 

「後輩!」

 

「先輩達!?」

 

「良かった、無事…って何よあれ!」

 

桜が指差した先にあったのは、かつての肉体を取り戻し、なお進化しようとするカナサキの姿だった。

 

『フハハハハハハハハ!今さら揃ったところで、こな俺のパワーには勝てんぞ!そらっ!』

 

カナサキが手を振ると、乙音達の周囲に爆発が巻き起こる。強大なハートウェーブによる波動が引き起こしたものだ。

 

「うわあっ!」

 

「なんだこのパワーは……」

 

『フハハハハ!待っておれぃ!すぐに殺して……ん!?』

 

乙音達にゆっくりと近づこうとしたカナサキだったが、その体に異変が起こる。彼の心臓部が暗く輝きだし、メキメキと音を立てて変質していく。

 

『馬鹿な!まさかハートウェーブを制御できていないのか!?』

 

自身の体に変化が起きていることを自覚した瞬間、カナサキは滅茶苦茶にエネルギーを放出しだす。勝や香織達を守るために放出されたエネルギーを防ぐ乙音達は、せっかくのチャンスにカナサキに近づくこともできない。

 

『ぐ……だ、だが、ノイズ!お前ならば、このハートウェーブも……!』

 

焦るカナサキは、自らが操るノイズに助けを求める。ノイズの能力ならば、カナサキのハートウェーブを抑える事も可能だろう、だが……

 

『なぜだ!なぜ従わん!ノイズ!』

 

ノイズは微動だにもしない。自身の能力の効力がまさか切れたのかと、再びノイズを操ろうとするカナサキだったが、全くノイズは反応しない。

 

『なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ!俺はこんな所で……!』

 

カナサキが必死に無駄足を踏む間にもその体の変質は進み、それと同時に暗い光もその輝きを増す。

 

『嫌だ!俺はドキやバラク、キキカイすらも従えるディソナンスになって…なって…俺は…誰だ…俺は…』

 

そして、暗い光はカナサキの体を完全に包み込み……

 

『あ…あ…あ…ああああああああああああああああ!』

 

カナサキの絶叫とともに放たれたエネルギーが、地下空間を崩落させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ……はっ!大丈夫か!?皆!」

 

地下空間が崩落していく中、咄嗟に勝と香織を庇った真司はダメージこそ受け、意識も朦朧としていたものの、勝や香織達も守りきり、自身も大きい負傷は無く、無事だった。香織達は気絶しているが、すぐに目を覚ますだろう。

意識がはっきりとした真司は、すぐさま周囲を見渡し、仲間達の安否を確かめる。その声にまず応えたのは、真司と同じく突入班を守っていた刀奈だった。

 

「私のほうは無事だ…真司、他の皆は…?」

 

「わから…「おーい!ここよー!」…刀奈!」

 

「桜の声だ…瓦礫の下か!」

 

真司と桜が声のした所の瓦礫を排除すると、その下には無事な桜の姿があった。どうやら咄嗟に必殺技を発動することで、降り注ぐ瓦礫の中に自身の体が入り込めそうな空間を作ったようだ。

 

「いちち…ありがと、乙音ちゃん達は?」

 

「俺達も探している。乙音とゼブラとボイスは、どこだ……?」

 

「……待て、空に何かいるぞ」

 

「何っ!」

 

刀奈の指摘を受け、真司達が見上げたそこには、カナサキの核らしきものを持つノイズの姿があった。地下空間が崩落した際のエネルギーの奔流で、真司達がいた空間の天井部分が綺麗さっぱり吹き飛んでしまっており、ノイズの背後には、夕焼けに沈む空があった。

 

「奴め、生きていたか…!」

 

「降りてくるぞ…やる気か」

 

ゆっくりと降下してくるノイズを警戒する真司達、しかしノイズは何もせず、不気味な光を讃える核を両手に、佇むだけだ。

 

「?何を…」

 

真司がその行動を疑問に思ったその時、背後で音がする。そこには、瓦礫の中から這い出てきた乙音とゼブラ、そしてボイスの姿があった。ボイスはグロッキーになっているが、変身は解除されていないため、すぐに回復するだろう。

 

「後輩、無事だったか…!」

 

「はい…なんとか…」

 

「あの、突入班の方達は……」

 

「全員無事だ、だが、今はノイズが……」

 

その言葉を受け、乙音とゼブラがノイズを見た瞬間、ノイズの持つ核が蠢きだし、ノイズを取り込んでいく。

 

「なんだ…!?」

 

『う…何が…起こって…』

 

「勝さん…!起きたんですか!」

 

「今は後だ、後輩!」

 

警戒する真司達の目の前で、一つの形をとっていく核。そして、その変化が終わった瞬間、真司達はあまりの事実に驚愕することになる。

 

「な、馬鹿な…!」

 

「あれは、資料で見た…!」

 

『……馬鹿な、あれは…あの男は…!』

 

乙音達の目の前に現れた人物、それは、ハートウェーブの発見者であり、ライダーシステムを作り出した存在であるーー

 

『音成……お前が、なぜ…!』

 

天城音成、その人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん〜〜久々に体を得たせいかな?妙に気怠いなぁ……」

 

極限状況下においても、のんきに背伸びをする音成に、勝が必死の形相で問いを投げかける。

 

『音成!なぜお前が生きて…!いや、まさか、貴様は!』

 

「おお、勝じゃないか〜あの爆発事故ぶりだなぁ、5年ぶりか?」

 

『答えろ!音成!』

 

「うるさいなぁ…あーそうだよ、お前が思ってる通り、あの保管装置内部にあった大量のハートウェーブは、僕のものさ」

 

その言葉にその場にいた誰もが驚愕する。音成は少しの間をおいて、自分の独壇場と言わんばかりに話し始める。

 

「あの爆発事故で死んだわけじゃないけど、もしもの時の保険にあの保管装置を作っておいてよかったよ。まあまさかディソナンスに吸収されるとは思わなかったけど、逆にこいつ…カナサキって言ったか、その体を僕が乗っ取ってやったのさ、だから復活できた。ハートウェーブはその人物の心…その人物そのものと言ってもいい。だからこいつの体を乗っ取って、僕が復活できたんだ。」

 

「しかし僕の作ったライダーシステムも随分役立っているようだね、僕としても嬉しいよ」

 

自身の復活理由を語った音成は、ライダー達に賞賛の言葉を送る。困惑するライダー達に近づこうとする音成だったが、勝にその行動を止められる。

 

『待て…ならばあのライダーはなんだ?』

 

「あのライダー…?ああ、あれか。あれは僕が変身したものだよ、いわばプロトタイプってやつだね」

 

「何…だと!?」

 

思わずボイスが叫ぶ。ボイスにとって、幼き頃見たライダーは、悪魔と同じだ、自分から全てを奪い去った存在である。

 

『まさか、お前…』

 

「ああ、あの爆発事故に巻き込まれた僕だけど、運良く生き残れてね。もちろん無事じゃ済まなかったから、あの保管装置も作って保険をかけたいとたけど、どうも正解だったみたいだね。まさかディソナンスにやられちまうとは思わなかった」

 

「ディソナンスに…?」

 

「そうさ、君たちよりも前に仮面ライダーとして戦ってたんだよ、僕は。君たちも仮面ライダーの都市伝説は知ってるだろう?あれに僕のも混じってるんだぜ」

 

「じゃあ……あなたは、私たちの先輩なんですか?」

 

「ま、そういうことになるかな」

 

音成の話を聞いた乙音は、思わず音成に駆け寄ると、右手を差し出す。同じライダーとして、まずは握手でも交わしておきたいという気持ちからの行動だ。

薄く笑いながらその手を取ろうとする音成だったが、それを止めるものがいた。ゼブラだ。音成の手首を掴み、その行動を止めている。

 

「おや?どうしたのかな?痛いじゃあないか…離してくれたまえ」

 

「ゼブラちゃん…どうしたの」

 

ゼブラを見下しながら冷静に話す音成と、明らかに狼狽える乙音。乙音の言葉を受けたゼブラは、自身の行動の理由を語り出す。

 

「お姉ちゃん、こいつ…危険だ。少なくとも、なにか悪い事をしようとしてる」

 

「えっ……」

 

「なにを言い出すかと思えば…やはりディソナンスか、君達、こいつがなんだか知らんが、ディソナンスに心はない。奴等を生み出してしまった僕がよ〜く知ってるさ。君達も知ってるだろう?ディソナンスなんて邪悪な奴等しかいないってさぁ……」

 

音成とゼブラの言葉に困惑する乙音達。音成の悪意を確かに感じっているゼブラは乙音達に更に警告しようとするが、その前に乙音が動く。

 

「音成さん…ディソナンスには、心がないん…ですか?」

 

「そうだ、だからさっさと…」

 

「私は、そうは思いません」

 

「………………………」

 

乙音の言葉に一瞬眉根を寄せるものの、すぐに平静になる音成。乙音は構わず喋り続ける。

 

「……ゼブラもそうですけど、ドキにバラク、キキカイ、カナサキ…あいつらはみんな、心を持っていました。その向く方向が私達とは違う方だっただけで……」

 

「後輩……」

 

「……………………」

 

「それに、私のハートウェーブって、ディソナンスのものに近くなっていってるんです。さっき言いましたよね?ハートウェーブはその人物の心…その人物そのものと言ってもいいって。なら、私もディソナンスみたいなもんかもしれませんね……それとも、私にも心がないって言いたいんですか?」

 

「……結局、なにが言いたいんだい?」

 

音成のその言葉に、乙音は強く返す。

 

「私は、ゼブラちゃんを信じるってことです」

 

乙音のその言葉を受け取ったライダー達が、一斉に音成に対して武器を構える。勝や香織達はライダー達に促され、すでに退避を始めている。

 

「全く、相変わらずディソナンスというのはつくづく僕の邪魔になる……」

 

「答えてください、一体、なにが目的ーー「うるさいよ」…っ!?」

 

音成の背から猛スピードで触手が伸び、ライダー達を捕まえようと蠢く。真司達はなんとか回避できたものの、乙音はその触手に捕らえられてしまう。

 

「後輩!今助けーー!」

 

「うるさいなぁ、僕がこれから喋るんだから、黙ってろよ」

 

乙音を助けようとする真司達だったが、音成の触手や、その手から放たれる波動に邪魔されて近づくことができない。

 

「天城音成、貴様はっ!」

 

「ライダーとして戦っていたというのも嘘か!?」

 

「いいや、それは本当さ、ライダーとして僕はディソナンスと戦っていたよ」

 

「なら、どうして!」

 

「決まってるさ、ディソナンスは僕の目的の邪魔になる存在だったけど、そうじゃあ無くなってたから、精々適当に君達に取り入って研究室でも手に入れて、利用してやろうと思ってたけど、そこのクソに僕の本性ってやつを見抜かれたみたいだからね。つくづく忌々しい存在だと確信したよ。おかげでさぁ!」

 

音成が触手を伸ばす。その行動に身構えるライダー達だったが、触手は上へと伸び、どんどんと外に伸びていく。

 

「なにを…!」

 

「ねえ君達、愛ってなんだと思う?」

 

「愛…!?この状況でなに言ってんのよあんた!」

 

「僕はね、それがわからなかったんだ。だから知ろうとした、その為の研究でハートウェーブも見つけたし、ディソナンスも生まれた。そして生命体を殺すディソナンスは僕の研究の邪魔になると思ったのさ、だけど、それが覆る出来事があった」

 

触手はその数を増やし、次々と外へと伸びてゆく。そうする音成の意図もわからず触手に向かって攻撃を続けるライダー達だったが、勝達からの通信で、自体の異常性を理解する。

 

『真司くん達、聞こえるか!?外に触手が伸びてきて、そこら中の人を襲ってる!避難所まで届きそうだ!これは音成がやってる事なのか!?』

 

「なっ……!」

 

「ある日の夜、僕はいつも通りディソナンスと戦っていたんだ。その時に、ディソナンスに人が2人襲われててね。これは助けなきゃいけないと思ったのさ」

 

「貴様ああああっ!」

 

ライダー達を無視して喋る音成に、激昂した真司が殴りかかるが、テレビのようなものにその一撃を防がれたうえ、触手に弾き飛ばされる。

 

「ぐうっ!」

 

「だけど、たぶん…親子だったのかな?大人の女性が小さい子供を守るためにさ、ディソナンスに向かう姿を見て、僕は思ったんだよ。『これは愛だ!』って」

 

音成の周囲にテレビのようなものが浮き上がる。その画面に映像が映るが、そこにあったのは触手が人々を無差別に襲う恐ろしい光景だった。

 

「うっ…非道い…!」

 

「こ、こんな事が…!」

 

「それからディソナンスがなるべく親子とか、恋人とか、そういうのを襲うように仕向けたんだ。そうやって研究を重ねるうち、あることに気づいた。人が愛を最大限に発揮する瞬間は、守ろうとしたときだとね。家を燃やすように誘導した時もあったなぁ……」

 

「……っ!てめぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

音成の言葉を聞いて激昂したボイスが思わず音成を殴り飛ばそうと、銃を撃ちながら接近するが、背後から迫ってきた触手に捕まり、銃を持っていた右腕を折られる。

 

「がっ……あ…」

 

「だけどある時ヘマをしてね。ディソナンスにやられちゃったんだ。しかも、保管装置も奴等に奪われるし。ま、だからこそディソナンスの肉体を得られたんだから、僥倖と見るべきか……」

 

あらかた語り終えた音成に、乙音が触手に締め付けられながらも、震える声で語りかける。

 

「なんで……なんで、そんな事を…愛の研究なんて…」

 

「決まってるさ、僕が誰かを愛せるかどうか…いや、僕の愛を証明するためさ!そのためにディソナンスには利用価値がある」

 

「人を襲わせるの…!?そんな事を続けたら、人は…いや、この地球の生命は…!」

 

「構わないさ。滅んでも。僕が愛を知り、愛を証明できれば、それでいいだろう?これはそういう問題だ。……しかしこの辺りの人間はただ逃げ惑うだけだな…無理もないが、避難所にでもいけば生きのいいのがいるかな?」

 

「……!やめろ!」

 

乙音の制止の言葉にも取り合わず、その触手を避難所にまで向ける音成。触手に襲われる避難所がテレビらしきものに映し出されるが、そこには乙音の、一番の親友である美希の姿があった。

 

「……っ、美希いっ!逃げて!」

 

しかし乙音の言葉は美希には届かない。他の避難民とともに逃げる美希だったが、美希のすぐ後ろを走っていた子供が倒れる。美希はその子供に気付くと、すぐに子供を抱えて走り出す。しかし、その足取りは重い。

 

「ほう…?見ものだなぁ」

 

「美希……っ!」

 

逃げ惑う美希だったが、子供を抱えたままでは満足に走ることもできず、触手が美希との距離をじりじりと縮め、ついに美希は子供と共に袋小路に追い込まれ、その周囲を触手が取り囲む。

 

「さあ…どうする?他の人間と同じ様に情けない姿でも見せるか?」

 

「美希ぃぃぃぃっ!」

 

触手の異様に、恐れをなすかと思われた美希だったが、自らの背後で怯える子供を守るため、震えながらも触手の前に立ちはだかる。

 

『この子は…やらせない!』

 

「……ほう、なかなか興味深い反応だが…」

 

「うおおおおおおおっ!オラァ!」

 

美希を興味深そうに見つめる音成だったが、触手による拘束を力任せに抜け出した乙音の拳に殴り飛ばされる。数メートルは吹っ飛ぶものの、空中で停止し、その余裕を見せつける。

 

「君達の力はこの程度かな?フフフ……」

 

「誰がそんな事を言ったってのよ……!」

 

「俺たちの力を、合わせるぞ!」

 

ライダー達が一斉に必殺技を発動する。ゼブラは乙音と合体し、真司、桜、刀奈、ボイスは、自分達のエネルギーを全て乙音一人に託す。

 

「後輩、お前が最も、力が残っている……!だから…!」

 

「私達の分のハートウェーブも込めて、奴に一撃を!」

 

「食らわしてやんなさい!」

 

「いけ!乙音!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

『voltage over!!!』

 

『rider over Heart kick!!!!』

 

全員分のエネルギー、ハートウェーブを託された乙音が空中へ飛び上がり、音成に向かって必殺の一撃を放つ。

虹の粒子を纏って放たれたその一撃は、音成の展開する触手を次々と食い破っていく。

 

「おおおおおおおりゃああああああああああっ!!」

 

「ぐうううううううっ!このパワーは!」

 

そして、音成の手が、波動を放とうとした瞬間ーー

 

「させるかああああああああっ!」

 

「何っ!?うおわあああああっ!」

 

最後の触手を打ち砕いた乙音達の一撃が、音成の体に直撃した。

虹色の光に包まれながら吹き飛ぶ音成の姿が、爆発の中に紛れて見えなくなる。

 

「やっ、たっ……!うあっ…」

 

「後輩!ぐっ…無事か!?」

 

「なん…とか……フラフラしますけど、大丈夫です…」

 

「ぼ、僕も…です……やったんですね…」

 

先ほどの一撃に全エネルギーを託した乙音は、着地と同時にゼブラとの融合も解け、変身も強制解除される。以前の様にハートウェーブを枯渇させてしまったのではないかと心配になり、駆け寄るライダー達だったが、乙音もゼブラも、意識は朦朧としているが、無事な様だ。

 

「良かった…一時はどうなることかと思ったわよ…」

 

「そうだな…だが、喜んでいる暇はない。先ほどの一撃でこの地下空間が崩落する危険性もある。すぐに退避をーー」

 

しかし、刀奈が次の言葉を紡ぐ前に、瓦礫の下から這い出てくるものがあった。

 

「フ、フフフ…見事だったよ…この僕が、一瞬本気で焦るほどにはね…」

 

「…………!」

 

乙音達が今放てる最高の一撃、その力を持ってしてもなお、その肉体を保つ音成の姿がそこにはあった。しかし、その肉体は彼の本性を現すかのような暗い靄で覆われており、彼自身、実体を保つのにエネルギーを割かねばならないほどのダメージを負っていた。

 

「まだ、生きていたのか…!」

 

「フフフ…この場は、痛み分けといったところかな…?」

 

思わず音成に向かって駆けようとする乙音だったが、あまりの疲労とダメージに、膝をついてしまう。真司達がそんな乙音を心配して駆け寄るのを見た音成は、その隙に音成が指を鳴らしたその瞬間、音成の体から、ノイズが飛び出してくる。そして、その異様な光景に乙音達が驚く間に、音成はノイズに連れられて、空へと逃亡していく。

 

「音成っ!待てえっ!」

 

乙音の叫ぶ声に応えるように、音成はライダー達に語りかける。それは世界への宣戦布告とも言うべきものだった。

 

「フフフ…!いいかい君達、三年だ。この傷を癒し、新たに僕のディソナンスを生み出すのに、三年はかかる。その間、君達もせいぜい強くなっておくといい!そうして強くなった君達が抗う姿を見て、僕の研究は完成するだろうさ!」

 

「音成ぃぃぃぃっ!」

 

「ハハハハハハハハハハハ!ハハハ!ハハハハハハハハハハハハ!」

 

激戦を乗り越え、疲弊しきった乙音達には、今、音成を止める術はなかった。

かくして、世界は混乱の渦中へと叩き落とされる事となる。仮面ライダーの生みの親にして、今や最悪の怪物と化した、天城音成の手によって……そして、乙音達は、さらなる絶望と相対する事になる…

 

 

 

 

 




劇場版頑張ります。

感想とかで意見があれば、よろしくお願いします…

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