仮面ライダーソング   作:天地優介

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今回あんま話し進んでないかな?


決意と危機

「学校への連絡は⁉︎」

 

「今回は、さすがに誤魔化しきれませんよっ!」

 

「なんでもいい!幸い生徒達の記憶は残っていないんだ、そこらの動物園から逃げ出したライオンがいたとか、適当な理由でもいい!とにかく今はまだ隠すんだ!」

 

特務対策局本部ーー普段は数多の職員達が静かに仕事をこなすそこは、今は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。

新たな上級ディソナンス、カナサキの登場に加えてその上級に対抗可能な新型ディスクの、現時点での唯一の起動者である木村乙音が倒れ伏してしまった、しかも、彼女が戦闘を行なった場所は学校と街中である。

街中の方はまだ良い、ネットで情報を拡散されたとしても、ディソナンスとはまともに戦えない代わりに、そちらの方面でライダー達のサポートを行うべく集められた人材達である。ライダー達の情報を抹消する、その程度の情報操作などは決して容易ではないが、不可能ではない。目撃した人々に対しても、それなりの懐柔手段などは用意してある。

しかし、学校の方は別だ。人の記憶を都合よく一部分だけ消せる訳でもなく、情報操作で抑えようにも子供とは恐れを知らないものだ、少なくとも仮面ライダーやディソナンスの存在が都市伝説程度であっても広まってしまうだろう。学校側から抑えようにも、生徒達の中から反発する者が出てくるはずだ。

今回、不幸中の幸いと言えたのは、生徒達を初め、天台高校内にいた人々の記憶からディソナンスやライダーに関しての記憶が無くなっていた事だ。おそらく、あのカナサキと名乗ったディソナンスの仕業だろう。

様々な作業に追われる中、不意に若い職員の1人が疑問を零す。

「いったい、ヤツは何を考えていたんでしょう……」

 

「……さあな、そんな事考える暇があったら、とにかく作業に集中しろ」

 

「しかし……」

 

若い職員の疑問に、また別の壮年の職員が素っ気なく答える。それでも未だ疑問を隠せない若い職員を、しかし叱咤する声。先ほど疑問に答えた、壮年の職員のものだ。

 

「俺たちは!……俺たちは、あの女の子が戦って、戦い抜いて……それでも戦ってるって時に、こういう事しかできないんだ!ああそうさ、俺たちは無力だ。だが、無力なら無力なりにやれる事があるって、そう人類の歴史が証明しているだろう?だから、俺たちは彼女達を支えるんだ。それが俺たちの誰にも譲れない仕事だ……わかったら、さっさとコンピュータに向かえ!」

 

そう言い放つと、コンピュータの画面に向かって作業を続ける壮年の職員。若い職員は、その背中を見て一礼すると、すぐに作業に集中し始める。

ライダー達は、孤独に戦っている訳ではない。仮面の裏で流す涙が尽きようとも、歌を歌い流し、声を張りあげる事が出来るのは、こうして支えてくれる大多数の『誰か』がいるからなのだ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッー、ピッー、と断続的に電子音が鳴る部屋、特務対策局の地下にある医務室のベッドで、乙音は眠っていた。

その瞼は重く閉じられ、黒かった髪は一部分が白くなってしまっている。

頬は痩せこけ、息はあるが、しかし胸を微動させる程に微弱に、ゼブラを抱きしめたその両腕は、もはや赤子一人持ち上げることすらかなわないだろう。

新型ディスクの限界を超えた使用による、ハートウェーブの消費。それを無視して、文字通り限界を超えたその先の、哀れな姿であった。

そんな彼女が横たわるベッドの横にある椅子、そこに座る少女。乙音から生まれたディソナンス、ゼブラである。

乙音の持つ絶望から生まれた彼女は、上級に匹敵するほどのハートウェーブを持つが、その大部分を戦闘以外のものにあてているため、乙音の教育もあり、人間に近い思考を獲得できている。

そんな彼女の心に浮かんでいるのは、今ここで乙音がこうして横たわっていることに対しての罪悪感だった。

自分が生まれた事で、乙音の中にある絶望の感情は消滅し、哀しみや恐怖といった絶望の元となる感情も、薄くなってしまった。乙音自身は、『自分は元々臆病なぐらいだったんだから、むしろ今ぐらいがちょうどいい』と自分を慰めてくれてはいたが、その感情達が無くなってしまった事で乙音は無理をしてしまったのではないか、いや、無理をできてしまったのではないかと、そう思いつめていた。

そんなゼブラの背後に立つ影が一人。乙音の見舞いに来た真司のものだ。

 

「……先客か」

 

「……あ、真司……さん」

 

「隣、座ってもいいか?」

 

「あ、はい……」

 

「……発声、上手くなったものだ。俺たち人間と全く変わらん……」

 

「……お姉ちゃんの、お陰です」

 

「そうか……」

 

ゼブラに一言断りを入れると、ゼブラの隣の席に座る真司。怪人能時の、少しくぐもった声ではなく、人間らしい声で真司と話すゼブラ。真司もそれに気づき驚くが、すぐに冷静になる。

沈黙が続く病室内。ゼブラがその沈黙に耐え切れなくなってきたところで、真司が口を開く。

 

「……そう、気に病むな」

 

「え………」

 

「……後輩がこうなったのは、後輩の、覚悟の結果だ。俺たちがそれを自分達の所為だと悔やんでも、後輩は喜ばん……特にお前がそう自分を責めていてはな」

 

「……っ、責めてなんか……」

 

「……ならば、なぜ泣いている」

 

「え……?あ……?」

 

ゼブラの頬を伝う、熱い涙。それを拭おうとするゼブラだったが、拭っても拭っても、次々と涙が溢れでてくる。

 

「なん、で……?」

 

「やはり、似た者同士だな……お前達は」

 

その光景を見て、乙音と初めて会った時の事を思い出し、笑う真司。白いハンカチを取り出すと、ゼブラの頬を伝う涙を拭う。

 

「……このハンカチはお前が持っていろ、そう激しく泣いてしまうのでは、これが手離せなくなるだろうな」

 

「で、でも……」

 

俯くゼブラに、真司は優しく語りかける。

 

「……病は気から、というがな……お前はいわゆる精神生命体、それこそそんな状態では、病んでしまうだろう……そうなってしまっては、後輩も……乙音も悲しむからな」

 

「………!」

 

「だから、まずはこのハンカチが要らなくなるように、強くなれ。それが、お前が乙音のために今できる事だ」

 

ハンカチを手渡されるゼブラ。その頬には、目には、既に涙はなく、顔を上げて真司の瞳を真正面から見据えると、静かに頷き、そのまま医務室を飛び出していく。向かう先はトレーニングルームだろう。

 

「……真司、お前も丸くなったものだな」

 

ゼブラの背を見送る真司の背後から話しかける刀奈。真司は振り返り、刀奈に対して「少し後輩にあてられたのさ」と言い、自らもトレーニングルームへと向かう。おそらくゼブラのトレーニングのサポートをするのだろう。

 

「……君も変わるか……私も、変わらなくてはな……」

 

そう呟く刀奈の手には、新型ディスクが握り締められていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦力増強……ですか?」

 

特務対策局局長室。乙音のダウンから3日経つものの、状況は変わらず、上級ディソナンスもあれきり出現せず、中級は何体か出現したというのに、ボイスも出てこない。

そんな煮え切らない状況の中、朝の6時に局長室に集められた真司、刀奈、ゼブラの3人は、猛からダウンした乙音の穴を埋められる戦力が見つかったと話された。

 

「新進気鋭の若手アイドル、佐倉桜。真司君は何回か彼女と組んで仕事した事もあるはずだ。……残り一つのレコードライバー、その適合者が彼女という事が、3時間前に判明してね。こうして急いで集まってもらったという訳だ。理由はわかるね?」

 

「……確か、今日のスケジュールには、彼女と共演する歌番組の収録がありましたね。なるほど、そこで彼女を見極めてこいと」

 

真司の発言に頷く猛。その目元には遅くまで作業をしていた事を示すクマがある。

 

「そういう事……刀奈ちゃんも、よろしく頼むよ〜?」

 

「え…あ、はい」

 

相変わらず人見知りな刀奈に呆れる猛だったが、すぐに気を取り直す。

 

「……まあいいか!はい!それじゃあゼブラちゃんも、今回は真司君と刀奈ちゃんの2人に付き添っていってもらうよ!」

 

「はい!わかり……えええええええええ⁉︎」

 

しかし、次に猛の口から飛び出してきた発言は、ゼブラを狼狽させるに相応しいものだった。ゼブラだけでなく真司と刀奈も驚いてはいるが、すぐにいつもの事だと冷静になる。1人取り乱すゼブラは、真司に対して質問する。

 

「な、なんで僕が⁉︎なんで僕が2人と一緒に行くんですか!」

 

「まあまあ、落ち着いて。君の事は新しくミライプロに入ってきたアイドル候補生で、今回はその見学って事にしとくから」

 

「そういう問題じゃなくってぇ……!」

 

「まあ、上級が出てきた時に、その足の速さを生かして撹乱してほしいってのもあるんだけどね」

 

猛の言葉を聞いてピタッと落ち着くゼブラ。

 

「う……まあ、そういう事なら……」

 

「うん!よろしい!頼りにしてるよ〜」

 

「た頼りに……?えへへ……」

 

ゼブラの手を握り、激しく握手を交わす猛。初めて人から頼りにされて嬉しそうに惚けるゼブラ、そんなゼブラを見て真司と刀奈は、こう思っていた。

 

((チョロい………チョロ甘………!))

 

こうして、3人の作戦は始まった……の、だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた……仮面ライダーでしょ?」

 

「…何を言っている?」

 

……少し時間を戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猛から極秘任務の遂行を任された真司、刀奈、ゼブラの3人は、歌番組の収録現場に来ていた。

ゼブラに関しては、彼女の容姿がアイドル向けの、いわゆる可愛い系の外見だったこともあり、現場のスタッフにも違和感なく受け入れられたのだが、まだプロデューサーへの説明がある。とはいえ猛からも連絡はしているので、そちらは特に問題はない。しかし、肝心の佐倉桜の挙動が怪しかった。

やや吊り目であるが、バランスの整ったその顔はいつも微笑をたたえているが、今はなんだか不安そうな顔で、真司達をチラチラと見ている。

それに目ざとく気づく刀奈だったが、それを真司に伝える前に、真司はプロデューサーの元へ挨拶に行ってしまう。しかも、ゼブラを連れて。

1人残された刀奈は桜から送られてくる視線を感じて緊張に身を固める。そのまま真司の帰りを待つ刀奈だったが、ゼブラに関してのあれこれが難航しているのか、帰りが遅い。

そうこうするうち、桜が身構えたかと思うと、そのまま刀奈の方へと歩いて来た。

いきなりの事に狼狽する刀奈、刀奈の目の前まで歩いて来た桜が口を開く。

 

「少し聞きたい事があるんですけど、ちょっと時間、いい……ですか?」

 

何を聞かれるかと思った刀奈だったが、桜の口から出て来た言葉は割と普通のものだった。

桜は有名になってきているとはいえ、まだ売り出し中のアイドル。同じアイドルであり、世界的に有名な自分にアドバイスを求めてくる事もあるだろう。そう考えた刀奈はやや緊張しつつも、桜の頼み事を快く了承する。

その後、桜の控え室へと移動した2人。桜にお茶を出した桜の口から出た言葉は……

 

「あなた……仮面ライダーでしょ?」

 

「……何を言っている?」

 

果たして、人見知りの刀奈は、この危機を乗り越えられるのだろうか……

 




エグゼイドVシネ楽しみ……楽しみじゃない?

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