仮面ライダーソング   作:天地優介

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とりあえず時間を作れたので。今回あんまり話進んでないですね……設定資料は近々更新します。新フォームの名前とかもそこで。

タイトルミスってました


絶望の哀しみ

「……なんか、久々に学校に登校した気がする」

 

乙音は現在16歳の高校生である。当然、学校には行かなければならないのだが、乙音は仮面ライダーというもう1つの顔を持っている。幸いこれまでは無理なく学校に通えていたが、先日のバラクとの戦いを初め、激戦続きだったためか久々に学校に来たような気分になっているようだ。

ちなみに、乙音はこれまで一度も学校を休んではいない。ディソナンスに関しての情報は極秘であり、乙音1人のために民間の施設に事情を説明する事など出来ないため、乙音も必死に学業と仮面ライダーを両立させている。もっとも、真司と刀奈の2人の先輩ライダーがいるおかげでなんとかなっている部分もあるのだが。

ちなみに今日は月曜日。先日のバラクとの戦いが土曜の出来事である。乙音の通う天台高校は土曜日曜が休日となっている。

 

「はあ〜なかなか座り心地の良いような悪いようなこの感じが久しぶり……しかし、あそこまで疲れるなんて……」

 

自分の椅子に座り、机の上に上半身を預け、くつろぐ乙音。思い返すのは前回の戦闘の後の事。あの時、新たな力でバラクを撃退した乙音だったが、すぐに気分が悪くなってしまい、しばらく横になっていたのだ。というのも新型ディスクでの変身はハートウェーブの消費が大きいらしく、ましてや2人に分裂する乙音は消費も莫大なので、ハートウェーブの使いすぎで倒れてしまったのだろうという事だった。

そんな事を思い出しながらぼけっーとする、そんな乙音に友人である湊美希が話しかけてくる。

 

「やっほ、乙音。なんか疲れてるけど、大丈夫?」

 

「あー美希、やっほ。ちょっとバイト先で大きな仕事があって、それで……」

 

乙音は仮面ライダーとしての戦いを、美希を初め、友人には『バイト』と説明している。実際、乙音の銀行口座には高校生の一人暮らしには大きすぎるほどの大金が入っている。両親に『バイト』の事が万が一にでもバレないように特務対策局が用意してくれたものだが、口座にはすでにちょっとした豪華客船の旅ぐらいになら行けそうなほどの大金が入っている。

 

「そりゃ大変だったねぇ。私の方はといえば……なんもなかったかなぁ、この土日は」

 

「…ちょっと意外。美希って土日とか、いつも友達とどっか遊びに行ってそうだし」

 

「いやーははは、土曜は家でゴロゴロしてただけだったんだけど、日曜は家の手伝いしてたのよ」

 

「家って……ああ、花屋だっけ?」

 

「そそ、割と繁盛してんのよ?たまーに手伝いに駆り出されるし」

 

やれやれと言いたそうな顔をしてそう言う美希だったが、美希が働いている所を見た事のある乙音にとっては、単なる冗談にしか見えない光景であるし、美希もそこは解って言っていた。

信頼しあえる友人との日常。それのありがたみを噛み締め、学業に励む乙音。昼休みに入り、美希や他の友人と楽しく食卓を囲む乙音。この日常を精一杯楽しむ彼女の携帯に着信が入る。相手は香織だ。

美希たちにはお手洗いに行くと言い残して電話に出る乙音。『今、どこにいるの?』と聞かれたので「学校です」と答える。すると、少しの沈黙の後、強い口調で香織が語りかけてきた。

 

『乙音ちゃん。落ち着いて聞いて』

 

「……はい?」

 

『……あなたの学校、私立天台高校の近くにディソナンスの反応が出たわ。今、向かえる?』

 

「……!わかりました!」

 

電話を切ると、美希たちに「用事ができたから、ちょっとごめん」と、言い残してすぐさまバッグを持って飛び出す乙音。バッグの中にはレコードライバーとライダーズディスクが入っている。

 

(みんなを怖がらせるわけにはいかない!)

 

決意を秘めて駆ける乙音。誰も見ていない物陰に入ると、消費を抑えるためベーシックスタイルへと変身。香織と通信し、ディソナンスが現れた地点へと向かおうとーー「キャアアアアアアッーー!」

 

「っ!?」

 

駆け出そうとしたその時、穏やかな空気を引き裂くような悲鳴が、校舎に響く。

 

『乙音ちゃん!ディソナンスの反応が、校舎内に!』

 

「えっ…!そんな!」

 

香織からの通信と悲鳴を受けた乙音は、声がした方へと走り出す。場所は校門の近く。そこには、逃げ惑う生徒と、全身を水と黒のカラーで包んだ、魚を思わせる鋭利さを持ったディソナンスが立っていた。

 

「………っ!」

 

思わず誰だと叫びそうになる乙音だったが、変身後も声はそのままである事に気づいて、思いとどまる。すると、学校での戦闘という事もあってすぐさま事情を察した香織から、変声機能の起動手順が伝えられる。ライダーシステムの最大の武器である『歌』を封じる変声機能だが、群衆の前で戦う時など、正体を隠したい時には極めて便利である。

 

『……お前は、何者だ⁉︎』

 

相手がディソナンスである事には変わりはないが、悪い予感からそう尋ねる乙音。すると相手はその姿を消す。

 

『……!?』

 

乙音が戸惑うと、また別の所から悲鳴が響く。今度は生徒達が逃げた先、中庭の方だ。

 

『……くそっ!』

 

再びディソナンスと対峙する乙音だったが、周囲に生徒達がいる事に気づく。逃げろと叫ぼうとするが、様子がおかしい。誰も悲鳴を上げようとも、逃げようともしないのだ。

 

『香織さん!』

 

『どうしたの!?乙音ちゃん!』

 

『みんなが……学校のみんなが、まるで幽霊のように生気を無くしてます……!』

 

『何ですって!』

 

そう、周囲の生徒達が悲鳴もあげず、逃げ出そうともしないのは、生気を無くしているからだった。突風が吹けばそれだけで倒れてしまいそうな生徒達の姿を目にした乙音は、煮え滾る怒りと共にディソナンスに殴りかかる。

しかし、突き出した拳はあっさりと受け止められ、乙音は投げ飛ばされる。

 

『ぐぅっ……!』

 

『……バラクを倒した力』

 

『何……!?』

 

『バラクを倒した力はどうした?と、聞いたのだ。木村乙音』

 

乙音は驚愕した。バラクを撃退した力を敵が知っている事に対してではなく、自身の本名が知られていた事に。

 

『お前は、一体……!』

 

『いや、いい。そちらがそのつもりならば、こちらから条件を出そう』

 

思わずディソナンスに問いかける乙音。しかしディソナンスはそれを無視して話を続ける。再び殴りかかる乙音だったが、今度は手すら使われず体捌きだけで避けられてしまう。

『今、ここにはざっと数えて300ほど人間が、君の学友がいるわけだが……』

 

『お前!何をするつもりだ!』

 

乙音は攻撃を続けるが、相手は変わらぬペースで話し続ける。

 

『そうだな……君、真綿で首を絞められた事はあるかね?』

 

『っ……何を言って……!』

 

『無い、か。ならば、今からその気分だけでも味あわせてあげよう』

 

すると、中庭に集まっていた生徒達の中の1人、乙音に最も近かった男子生徒が倒れる。

 

『えっ……!』

 

急いで支える乙音。男子生徒の顔を見ると、まるでこの世の深淵を覗いてきたかのような暗い瞳をして、口からは泡を吐いている。全身は小刻みに痙攣し、瞳孔は死の瞬間のように開ききっている。顔は青く、まるで幽鬼のようだ。そんな普通の人間が見れば恐怖せざるをえないその表情は、バラクを生んだ事により絶望に起因する感情、恐怖や哀しみといったものまで薄くなってしまった乙音ですら、怖れを抱かざるをえないものだった。

 

『こ、これって……!』

 

『ああ、それだけでは足りなかったかな?ならば、これから私がいち、に……と数えていくたびに、より深く絶望へと、より多くの人間を誘ってみせよう』

 

『何が、望みだ……!』

 

乙音がディソナンスにそう尋ねる。するとディソナンスはそれを待ってたと言わんばかりの勢いで喋り出す。

 

『それはもちろん新たな力だよ。あれを見せて欲しいのだ。言ってなかったが、私は上級、名はカナサキ。君の中の絶望を消した細工、あれを生み出したディソナンスだ。これだけでは君がアレに変身する理由にはならぬか?』

 

『……っ!』

 

それを聞いてすぐさま新型ディスクを取り出す乙音。しかし、香織から使ってはいけないと通信が入る。

 

『なんでですか!使わなきゃ……!』

 

『あなたのハートウェーブはまだ回復していないのよ⁉︎そんな状況であの力を使えば、下手を打てば苦しみながら衰弱死する事になるわよ⁉︎それでも……』

 

『それでも!』

 

『⁉︎』

 

『それでも!私はみんなをこれ以上傷つけられない!』

 

そう言い切るとすぐさまドライバー内にディスクを入れて、『変身!』と叫ぶ乙音。『try&error!』という電子音声と共に乙音の上下、頭部と足元に光の輪が出現し、それが乙音の体を通過していくと、その姿が変化していく。

黒と白のカラーに、2つの角。乙音の新たな力である姿だ。

 

『ほう、それが……』

 

『そうだ!……これでいいんだろう⁉︎』

 

『ああ、構わない。』

 

そう言うと指を鳴らすカナサキと名乗ったディソナンス。すると、生徒達の顔に生気が取り戻されていくと共に、誰かが悲鳴をあげ、それを合図に全員が逃走する。

 

『……案外、素直だな』

 

『こういうのは、こうした方が後々まで拘束力を発揮するものだ。それに、今回の私の目的は君の力を計る事にある』

 

『……なら!』

 

先ほどまでよりも圧倒的なパワーとスピードでカナサキに殴りかかる乙音。カナサキはそのパンチに対処しようとするが、乙音の攻撃が激しすぎて対処しきれていない。

 

『むぅっ……!』

 

『今、ここで!倒しきってやる!』

 

そう言うと基本フォームから愛用している槍、『スタンドランサー』を手にして攻撃を仕掛ける乙音。ちなみにこの名称は昨日乙音が考えたものである。

 

『ふむ……ならばこの一手』

 

しかしカナサキはそれを見越していたかのように姿を消す。カナサキの姿を探す乙音は、校舎の屋上にカナサキの姿を確認する。

 

『……待てっ!』

 

カナサキを追って飛び上がる乙音。追い詰められた形のカナサキだが、いまだ余裕の態度は崩していない。

 

『……何を考えているんだ?』

 

乙音がそう呟いた瞬間、狙いすましたかのようなタイミングで香織から通信が入る。

 

『乙音ちゃん!あなたが今戦っている怪人と似た反応が、真司くんや刀奈ちゃんの所にも現れてるわ!それに、街中にも……!』

 

『……!』

 

通信を聞いて、驚愕を隠しきれない顔でカナサキを見る乙音。カナサキは素知らぬ態度で

 

『どうした?まるで、頼れる仲間が、それ以上に恐ろしい敵に襲われたような態度をして……それとも、図星かな?』

 

乙音を挑発するカナサキ。素早く倒そうと乙音は猛攻を仕掛けるが、先ほどとは違い、攻撃を全て捌かれてしまう。仲間達の事を気にかけているため、ハートウェーブが乱れてしまっているからだ。

 

『君のその力には、さらに興味深い機能があるはずだ。それを使えばいいじゃあないか』

 

『……っ!』

 

興味深い機能とは、乙音が2人になる能力の事だろう。ハートウェーブの消費が激しくなるものの、2人のソングによるコンビネーションは強力だ。

しかし、カナサキがここにいる以上。1人は残らなければならない。ベーシックスタイルよりも性能は上がっているとはいえ、片方だけで上級と対峙すれば、ハートウェーブの消費の激しさもあって命も危うくなるだろう。

しかし、乙音に迷っている時間は無い。レコードライバーを操作して2人に分裂した乙音は、カナサキの能力の事を考慮して精神攻撃に対して抵抗力のある白のソングを残し、黒のソングを最も一般人に危険が迫っているであろう街中へと向かわせる。

 

『そうだ。それでいい。……ふむ、どちらが本体というわけでも無い、か』

 

『………』

 

冷静に自身の力を観察される乙音。張り詰める緊張の中、乙音の精神はゆっくりと追い詰められていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いったい、どこに……!……あっ!』

 

街中へと飛び出していった黒のソングは、ディソナンスを探して走り回っていた。ディソナンスを見つけることができず焦る黒のソングだったが、戦闘音を耳にして駆ける。

たどり着いた場所では、カナサキとボイスが戦っていた。

 

『!ボイス!』

 

『ソング⁉︎手を貸せ!』

 

カナサキを蹴り飛ばした黒のソングは、違和感を感じる。しかし今はその違和感を気にしている場合ではないと戦う黒のソング。ボイスはそんなソングを見て、彼女の焦りに気づく。

 

『ソング!お前、何かあったのか⁉︎』

 

『先輩達の所にも、ディソナンスがいるって!』

 

『でも、あいつらの戦闘力なら!』

 

『こいつもそうだけど、上級のディソナンスに近い反応だったんだ!』

 

『何⁉︎』

 

より苛烈に攻撃を続ける黒のソングは、違和感の正体に気づく。それは相手が一切喋らないという所だ。

 

『あいつ、本物じゃない⁉︎』

 

そう直感した黒のソングは必殺技を発動。『rider double spear!』という電子音声と共に振りかぶったスタンドランサーがカナサキ?に直撃。すると、傷口から覗いたのは、機械で構成された体躯だった。

ギ…ギ…と不吉な音を鳴らしながら爆散するカナサキの偽物、それを確認した黒のソングは今いる地点から近い、真司のいる場所へと向かう。

立ち止まっている暇は無いと言わんばかりの勢いで走り出した黒のソングだったが、不意に立ち止まる。黒のソングを追いかけていたボイスが、どうかしたのかと訝しみ、声を掛けようとしたその時ーー

 

『グブッ……!』

 

『⁉︎おい!』

 

健常な人間が零してはいけない声を零してゆっくりと倒れる黒のソング。それを慌てて支えるボイスは、自身の手にに不自然な滑りを感じ、ある予感を感じながらもその正体を確認する。

 

『………!』

 

その正体は、どす黒い大量の血であった。マスクの隙間から次々と流れ出してくる血を、なんとかしようと思うボイス。しかし、ボイスの力ではどうすることもできず、ただ黒のソングに向かって叫び続けるしかない。

 

『おい!しっかりしろ!おい!』

 

『う……あ……』

 

ボイスの声に反応を返す黒のソング。その事実に安堵するボイスだったが、黒のソングは自身の体を伝う血など気にせず立ち上がり、また駆け出そうとするも、体に力が入らず、足を踏ん張ることもできない。立っているのがやっとの状態だ。

 

『……っ!乙音ちゃん!大丈夫⁉︎乙音ちゃん!』

 

香織からの通信も聞こえず、動かない体を引きずり動かす黒のソング。

 

『……っ乙音ちゃん、今確認が取れたわ。真司くんも刀奈ちゃんも、ディソナンスを倒したって。だからーー』

 

しかし、香織が話し終える前に、その連絡を聞いた黒のソングは、糸が切れたように倒れてしまう。

 

『っ!おい!おい!』

 

『乙音ちゃん!気をしっかり持って!今そっちに救護班を…』

 

周囲の雑音も聞こえなくなった黒のソングは、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、天台高校校舎屋上では、カナサキと白のソングが対峙していた。

何も喋らず、ただソングの周囲を歩き回るカナサキの行動に困惑する白のソング。するとカナサキが足を止め、『そろそろか』と呟く。その発言に不穏なものを抱く白のソングは、カナサキに対して問いかける。

 

『何をーー』

 

しかし、喉の奥から込み上げてきた熱によって、その発言は中断される。朦朧とした意識の中、白のソングが目にしたのは自らの血液であった。

 

『あ?え、なん、でーー』

 

四肢に力を入れられなくなり、倒れふす白のソング。そんな白のソングに近づいたカナサキは、白のソングのそばに立ち、種明かしと言わんばかりに喋り出す。

 

『もちろん、ハートウェーブの消費のしすぎだな。ああ、辛いだろう?喋らなくていい。どうせなんでこんなに早く……とか、くだらない事しか喋れぬ口だ。もちろん私は寛大だからその疑問に答えてあげよう。それはな、この私の能力の結果だ』

 

『能、力……?』

 

『そうだ、生命を絶望へと追い込む力……転じて、恐怖や哀しみといった感情を増幅させ、相対者の緊張を高めて、ハートウェーブの消費を早める事もできる。君は私にさっさと殴りかかるべきだったという事だ。もっとも、君程度では私には勝てんがね』

 

一通り喋り尽くしたカナサキは、用が済んだと言わんばかりにその場を立ち去る。その行動を理解しようとする暇もなく、苦しむ白のソング。そして黒のソングが気を失うのと同時に、白のソングも気を失い、変身が解除される。屋上には自ら吐き出した血の中に沈む乙音だけが残されていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜ーー都内某所

 

『やらなくて良かったの〜?せっかく楽しめそうな子なのに』

 

『私はああいうので楽しむ趣味はないよ、キキカイ。それに、君は喜びの感情の方が大切なはずだろう?』

 

『その通りだけど〜人間に近づいていくためには、もっと捻くれなきゃ!』

 

『……そうか』

 

『ああ!今度はどんな事をしようかしら!今から喜びで体が震え出すわ!』

 

『フフッ、フフフッ、フフフフフフフフフフ!』

 

夜の街に、悪の笑いが響き渡る。

 

果たして、ライダー達の運命はーー

 

 


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