仮面ライダーソング   作:天地優介

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地味に重要回。今回は乙音が酷い目に遭いまくりますが、この作品はみんなデフォでそんな感じです。


新たなる誕生

「あれが、上級……」

 

秘密基地の地下、厳重に警備されたそこには、ライダー達のいざという時の生命線となる医務室があった。

先の戦いで怪我を負った乙音だったが、幸いあまり酷くはなく、学校がある月曜日までには回復するとの事だった。

 

「そうだ、まったく、恐ろしい相手だな……ところで、怪我の具合はどうだ?」

 

「あ、刀奈さん。私は元気ですよ!先生も、歩き回っても大丈夫だって言ってましたし」

 

「そうか……。君は、私のファンと言っていたが」

 

「はい!いつも刀奈さんの曲は楽しみです!」

 

「そ、そうか……」

 

真っ直ぐに刀奈を見つめる乙音。しかし刀奈は乙音から目をそらし、眉根を寄せて、なにやら悩んでいるようだ。

 

「あ、あの〜。私、何か失礼を……」

 

「え!あ、いや、そ、そういうのじゃなくてだな、これは、私がこう喋り下手だからというか……その「……なにをやっている?」あ、し、真司!た、助けてくれ!」

 

しどろもどろに喋る刀奈だったが、乙音の様子を見に来た真司の姿を確認した瞬間、真司に駆け寄り、その背に隠れる。その行動に嫌われてしまったのかとショックを受ける乙音だったが、そこにすかさず真司のフォローが入る。

 

「……あー後輩、こいつはな、いわゆる人見知りだ。だから別にお前が嫌われたとかじゃない。むしろ初対面の相手にここまで歩み寄ろうとしているのは初めて見るな」

 

「そ、そんなことないぞ!アメリカで少しは良くなったし、局長と初めて会った時だって……!」

 

「……あの時は、まだこいつの身長が俺より低かった時だったか。こいつはそれを利用して初対面の挨拶を俺の背に隠れて乗り切ろうと…「わーーっ!そ、それを言うな!」……まあ、こういうやつだ。ステージで歌って踊れるくせに、なぜ人と話せないのか……」

 

「それは、アイドルとしての仮面というか、自覚がだな……!」

 

そこまで話して、乙音がついてこれてない事に気がついた真司は話を中断させる。

 

「ストップだ。後輩が話についてこれてない顔をしている……何か質問でもあるか?」

 

「えっ!あ、いえ。意外と親しみやすい人だなって、思いまして。あの戦いの時も、ステージに立ってる時も、まるで刃のような凛々しさでしたから、日常でもそんなイメージだったので」

 

「そ、そうか?まあ、そう言われては嬉しさを隠しきれないな!よし、今度の休みに服を買ってあげよう!」

 

「ほ、ほんとですか⁉︎」

 

「やめておけ、こいつの服装センスは壊滅的だ。何せアメリカ出発前に『アメリカらしい服を買っていく!』なんて言って買おうとした服が、星条旗カラーの全身タイツだぞ?」

 

「……それは、えっと」

 

「真司!そ、そんな事を〜!」

 

「だ、大丈夫ですよ!むしろ…………安心できますから!」

 

「何に⁉︎」

 

こうして喋るうちに打ち解けていった3人。服の代わりに、真司お墨付きの料理の腕を振る舞うと、刀奈が乙音と約束したところで、香織が3人を呼びに医務室に現れる。局長室へと赴いた3人は、猛からある質問を受ける。

 

「3人に聞きたいんだけど……上級ディソナンスと戦った時の感覚は、どんな感じだった?」

 

「……正直、恐ろしかったです。あんな敵と戦わなきゃいけないって思うと、今でも足が竦みます」

 

「……三年前よりも、遥かに強くなっています。今の俺たちではまともに戦えるかどうか、怪しいです」

 

「私も、真司と同じ意見です。私の能力なら足止めは可能でしょうが、決定打は与えられないかと……」

 

「ふむう、うーん。やっぱりそうかぁ……でも、そんな3人に朗報がある!」

 

「朗報…ですか?」

 

「!もしかして……」

 

「香織君!」

 

猛が呼ぶと同時に、局長室のドアから入ってくる香織。どうやら最初から入るタイミングを伺っていたようだ。

 

「……新型ライダーズディスク。完成しました。これで、上級や、ノイズにも対抗可能かと」

 

「ノイズ……?」

 

「あの黒いディソナンスの事よ、ハートウェーブを乱す事によって、即座の吸収を可能にしていると戦闘データを解析する事で判明したから、そこから名付けられたわ」

 

「……それさえあれば、ヤツに対抗できるんだな?」

 

「あなた達次第ではあるけど、理論上はこれを起動させる事ができれば、あのディソナンスに対抗できる力が手に入るはずよ。……もっとも、今の状態じゃ、起動できない可能性が高いけど」

 

「何故だ……⁉︎」

 

「私にもわからないわ、でも、ただハートウェーブが高いだけではこのディスクは起動できないみたい……そもそもディスク自体、製造と改造は可能だけど、謎の部分が多いのよ……音成も、厄介なものを残してくれたものね」

 

「何らかの条件を満たす必要があるのか……」

 

「そういう事よ。とりあえず、いつその条件を満たすかわからないから、このディスクは持っててね」

 

そうして香織から各人に手渡されたディスクには、各ライダーごとに違う絵柄のディスクとなっていた。

 

「起動前に……?」

 

「各人向けに調整したのよ。ただハートウェーブの許容量を増やすだけでは、あの黒いディソナンスの能力には対抗できないから、少し細工をね」

 

「なるほど……ところで、黒いディソナンスとは?」

 

「あ、刀奈ちゃんは知らなかったわね。あとで資料映像を見せるわ、だから……」

 

そう言って香織が席から立ち上がろうとした瞬間、局長室にディソナンス出現、それも黒いディソナンス……ノイズが現れたとの報告が入る。

 

「どうやら、その脅威は自身の目で確かめる事になりそうだ……!」

 

「3人とも、ディスクを忘れないでね!それと壊されないように!何が起きるかわからないから!」

 

「わかりました!」

 

「よし、行くぞ……!」

 

ノイズの発生地点は遠方という事もあり、車での移動となるかと思っていた乙音だったが、先輩2人に連れられてやってきたのは、車ではなくバイクのある車庫だった。バイクの数は3台。

 

「先輩、これは……?」

 

『G fang』

 

『blade』

 

「こちらの方が小回りが利く。お前も変身して乗れ!」

 

「え、でも私免許持ってませんよ⁉︎」

 

「緊急事態の特別措置だ!それに、運転は半自動だ、姿勢制御だけやってればいいし、変身状態なら余裕だ!いいから早く乗れ!」

 

「わ、わかりました!」

 

『my song my soul』

 

3人はバイクーー通称、『メロディライダー』に乗り、走り出す。目的地はあらかじめ設定されており、特務対策局からの支援を受けつつ、現場へと急行する。

そして現場に到着した3人を待っていたのは、ノイズと戦うボイスの姿だった。

 

『こいつ……!前より強くなってやがる!』

 

「ボイスさん!」

 

『っ!来たか……まあいい、せいぜい利用させてもらうぜ!』

 

そう言ってノイズに対して銃弾を撃ち込み続けるボイス。乙音もそれに続き、槍による近接戦闘を仕掛ける。

 

「はっ!せい、やぁ!」

 

『オラオラ!へへっどうした?あん時の威勢はよぉ!』

 

2人の連携攻撃に追い詰められて行くノイズ。しかし真司と刀奈は不穏な気配を感じ取っていた。

 

「真司、この気配は……」

 

「ああ、油断するな」

 

周囲を警戒する2人。いっぽう、乙音とボイスはノイズを追い詰め、必殺技を放とうとしていた。

 

『full chorus』

 

『full…chorus…』

 

「これで決める……!」

 

『へっ、あっけねぇ』

 

 

『おっと、待ってもらおうか』

 

 

しかし、2人が必殺技を放とうとしたその瞬間、バラクが出現し、乙音とボイスの注意を引く。

 

「やはり……!」

 

「上級⁉︎まさか、こんな時に……!」

 

『悪いが、そいつはやらせたら困るヤツがいてね。それに、そこのお前』

 

バラクが乙音を指差す。

 

「え、私⁉︎」

 

『お前には、カナサキからのプレゼントがある……!』

 

そう言うと、突如として拳を振り上げたかと思うと、自らの破壊のエネルギーをノイズに向かって照射するバラク。バラクに対して駆け出していた真司と刀奈、そしてボイスはその行動に呆気にとられている。

 

『グ、グムムムムムムムム!』

 

『ほら、お前が待ってたものだ……俺が来るのを待ってたんだろ?なら、たらふく食いな!』

 

ますます強くなる破壊のエネルギー。不穏な気配を感じ取った乙音は、必殺技をそのままバラクに対して放とうと駆ける。

 

『rider spear』

 

「うおおおおおおおっ!」

 

しかし

 

『ちょうどいい!お前にはこいつをやろう!』

 

バラクが乙音に向かって投げつけた薔薇が、乙音の心臓の位置に突き刺さり、そのまま乙音の体に沈んで行く。

 

「が、あっ……ぐ、あっ」

 

『ソング⁉︎……てめぇ!』

 

苦しみ悶える乙音を見て、真っ先に動いたのは怒りに燃えるボイスだった。しかし、ボイスをファングが制止する。

 

『っ……離せ!アイツが……!』

 

「待て!ノイズをよく見ろ……!」

 

ボイスがノイズに視線を移すと。そこにはその形を常に変化させる、黒い何かが浮かんでいた。

 

「バラク、貴様何を……⁉︎」

 

『さあな、俺もカナサキのヤロウにこうしろと言われただけでなぁ?よくわからんなぁ〜。それより、ほら、かかってこないのか?』

 

「今この状況でお前にかかるほど、私達は愚かではない……!」

 

『そう言って、後ろの3人を即座に庇える位置に立つか……いつでも前に出れるようにしてるファング含めて、やはりお前ら2人は高評価だなぁ。……そこで動かなくなってるソングは、どうなるかな?』

 

「何……⁉︎」

 

3人が後ろを見れば、そこには、ピクリとも動かなくなっている乙音の無残な姿があった。変身も解除されているが、顔は見えない。

 

『………死んだか?』

 

『っ……!てめぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』

 

ファングの拘束を振り切り、バラクに向かっていくボイス。しかし、ボイスの体を黒い鞭の様なものが吹き飛ばす。

 

『がぁっ!』

 

『……酷いじゃない、僕を置いてけぼりにして、楽しもうなんてさぁ』

 

その声のする方に真司と刀奈が顔を向けると、そこには黒い、刺々しさと、丸さを兼ね備えたフォルムのディソナンスが立っていた。ーーノイズだ。しかし、その姿はときおりノイズにでもかかったかの様に揺らぐ。どうやら、まだ不完全であるらしい。

 

『おお、そんな姿になるとは……興味深いなぁ?』

 

『ふふふ……』

 

背中から鞭の様な物体を生やすと、それをライダー達に振るうーー事なく、バラクに向けて振るうノイズ。

しかし、バラクはそれを予期していたのか、あっさりと回避する。

 

 

『凄い……凄いよ。もっと僕に感情を教えてよ!』

 

『あらら、こりゃ面倒な』

 

苛烈な攻撃を加えるノイズと、それを避け続けるバラク。ライダー達も介入できない戦いを繰り広げる2体だったが、そのうち、ノイズが攻撃をしてこないバラクに対して不満を覚えてきていた。

 

『……つまんないなぁ。攻撃してこないなら、僕を楽しませれないよ?』

 

『……あ?』

 

その発言をバラクが聞いた瞬間、バラクに向けて背中の鞭を一斉に振るうノイズ。さすがのバラクでも対応しきれないかと思われたがーー

 

『おいおいおい、勘違いするなよ?』

 

『ぐ、あ……な、なんで……』

 

ーーそこには、ノイズの腹部を貫くバラクの姿が、高速戦闘を得意とする刀奈でも、辛うじて視認できるほどのスピードでノイズに詰め寄り、その腹部に拳を振るったのだ。

 

『戦いってのはなぁ、同じレベルでしか起きないんだ……戦いで楽しもうなんざ、お前にはまだ早かったみたいだなぁ?』

 

『ぎゃっ……』

 

ノイズの腹部から拳を引き抜くと、ライダー達に視線を移すバラク。

 

『お前らもだ……お前らが俺を楽しませれるのは、俺がお前らを狩のターゲットとしてしかみなしていないからだ』

 

「何……⁉︎」

 

『だからお前らが、俺を戦いで楽しませれるようになるまで極力手出しは抑えるつもりでいたが、気が変わった。アイツは哀しむだろうが、ここで始末して……⁉︎』

 

しかし、バラクの視線の先には発光する乙音の姿があった。その異様な光景に、言葉を止めるバラク。

 

「後輩……⁉︎」

 

「乙音くん⁉︎」

 

(あいつ、乙音って名前なのか……⁉︎いや、それよりも!)

 

『おい、ありゃなんだよ⁉︎』

 

『わからねぇのか?』

 

『何が⁉︎』

 

『新たなディソナンスの誕生だ……』

 

そしてーー光の爆発。乙音を中心としたそれは、瞬く間にライダー達の視界を埋め尽くしていきーー

 

そこには、黒と白のカラーに包まれた、少女が立っていた。その足元には、乙音の姿が

 

『お、……ソング!大丈夫か!』

 

乙音からの返答は、無い。

 

『っ……てめぇ……』

 

新たに現れた、ディソナンス……少女を睨みつけるボイス。その剣幕にディソナンスはーー

 

 

『新たなディソナンスだかなんだか知らねぇが、テメェを…『ご、こめんなさぃぃぃぃぃっ!』……へ?』

 

『こ、これは僕自身の意思でなくて、その、不可抗力の結果というか……とにかく、ごめんなさいぃぃぃぃぃ!』

 

凄まじい勢いで謝り倒したかと思うと、即座に逃走する白と黒のディソナンス。その場にいた誰もが呆気にとられる中、乙音が目を覚ます。

 

「う、う〜ん」

 

「!後輩!」

 

「大丈夫か⁉︎」

 

乙音に駆け寄り、その安否を確認する真司と刀奈。どうやら、命に別状はないようだが……

 

「……新型が!」

 

「……仕方ない、後輩の命の方が大切だ……!」

 

乙音の無事を喜ぶ2人だったが、バラクの存在を忘れたわけではない。すぐさま戦闘態勢をとり、バラクを睨む。

 

『……興ざめだな』

 

しかし、バラクはそう言うとすぐさま去っていった。ノイズも、『あ、頭が……痛む、楽しいのに……ハハ、ハハハハハ!』と、高笑いをあげながら去って行く。

 

『……じゃあな!』

 

ボイスもそう言い残すと、バイクで走り去って行く。

 

「私達も、帰るか……」

 

「ああ……」

 

後に乙音が目を覚まし、自身より生まれたディソナンスの事を聞かされた時、彼女はこれまでを超える困難と決断を迫られる事になる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あわわ……凄いもの、見ちゃった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後のセリフは……まだ先ですかね?

次回は早ければ明日です。今免許取得中なので、かなり間が空いてしまうかもしれませんが、ご了承ください。

次回は作者にとってのうっぷんばらし回です。

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