紫陽花   作:大野 陣

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 男子禁制なお店のお話です。R-15タグだからね。大丈夫だよね。
 女性物下着の描写とかが苦手な方はブラウザバック推奨です。
 申し訳ありません。次回更新までお待ち下さい。



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 細々と更新していきますので、お付き合いいただければ幸いです。













Ep4.5

「なぁ、千冬姉……入んなきゃだめ?」

「いっちゃん24ポインッツ!」

 

 一夏の隣で束が騒ぐ。三人はランジェリーコーナーの前で並んでいた。男性の立入を阻むように、ブラジャーとショーツを着けたマネキンが並んでいる。気恥ずかしくなってきたらしい、一夏が視線を千冬に移した。

 

「馬鹿者。お前の下着を買うのに、お前がいなくてどうする」

「はいっ!いっちゃんリテイク!!」

 

 束がやり直しを要求する。一夏は少し悩んだみせたあと、改めて千冬に向き直った。

 

「ねぇ…お姉ちゃん……どうしても、ダメ?わたし、恥ずかしいの…」

 

 胸の前で手を組み、上目遣いで千冬を見る一夏。恥ずかしいのか、頬が赤く色づいている。

 

「……しょ、しょうがないなぁ、一夏は。お姉ちゃんが適当に買ってき」

「ダメだからね。ちーちゃん」

「自分で言ってたじゃん。いっちゃんがいなきゃ意味ないって」

「す、すまない……一夏が余りにも可愛くてな」

「それに、いっちゃんもだよ。古くなったらどうすんの?毎回私たち呼び出すつもり?」

「そんなつもりはないけど…っていうか、そんなに長く女のままなの?」

「なるべく早く解決するつもりだけどね。ただ、普通に考えても二年はかかると思うよ?」

 

 束曰く、一夏が誘拐された時に、何かされたようだった。誘拐事件を起点に考えると、二年ぐらいで身体が変化したようである。ただし、この二年は比較的低リスクで元に戻る方法を実施してから二年である。方法がわからなければ、その先はもっと長い。

 

「一夏も成長期だからな。特に、女子は大きく体型が変わる可能性がある。私ぐらいの体型になってもおかしくはない」

「それに、女の子から男の子になるからね。もし、いっちゃんの胸がこの先二年で垂れちゃって…男の子に戻った時にだるんだるんの胸になったら…イヤでしょ?」

 

 胸部だけが垂れ下がった自らの体を想像し、顔を青ざめさせる一夏。もちろん、想像するのは男であった時の自分の体だ。

 

「大丈夫だ。今のお前は可愛らしい女の子だ。誰も変に思わんさ」

「ってことで、れっつらごー!」

 

 束に背中を押され、男子禁制、一夏からすれば禁断のエリアに入った。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 目の前に拡がる、色とりどりのブラジャー。一夏も千冬のものを洗濯したりするときに見慣れてはいるが、流石にこれだけの量を目にしたことはない。また、店内にいる人間が全員が女性、というのも恥ずかしさに拍車をかけていた。いや、一組だけ男女のカップルがいた。二人とも自然な感じで下着を吟味している。お互いに体を寄せ合い、小声で話をしていた。

 

「あぁいうのを、バカップル、という」

「で、あのバカップルみたいなことをカフェでしてたのが、いっちゃん」

 

 カフェでの一幕を掘り返され、顔を赤くする一夏。バカップルと連呼されると流石に恥ずかしい。

「照れるぐらいならするな。ほれ、行くぞ」

 千冬が一夏に声をかける。俯いたまま顔を赤く染め、千冬に続いた。

 違う、あれはアキが悪い。アキが照れて食べなかったからだ。いや、それよりも何も頼まないアキが悪い。変なところで遠慮しちゃって。あ、でも、アキが頼んでくれたから三種類もパフェを楽しめた。優しく気遣ってくれたのは嬉しい。でも、アレは…と考え事をしている間に、違うところに迷い込んだらしい。千冬が見当たらない。

 キョロキョロと辺りを見回す。目に留まったのは赤いレースのシースルータンガである。うわ…と口を半開きにしながら手に取って眺める。透明の樹脂ハンガーに掛けられていたそれの先には、向こう側の景色が見えていた。

 

「お前にはまだ早いぞ」

 

 いつの間にか近くにいた千冬に話しかけられた。驚いて振り返る一夏。

 

「お前のはあっちだ」

 

 千冬が指差す先には、可愛らしいパステルピンクやブルーのブラジャーが陳列されている。千冬姉もあんなの穿いてんのかな…と想像したが、頭を振り、妄想をかき消した。

「まぁ、私もそれぐらいなら穿くがな」

 思考を千冬に読まれ、顔をトマトのように染める一夏。そそくさとタンガを戻し、一夏は指差された売り場に向かった。

 

「で、サイズは?わかるのか?」

 

 束は既に陳列棚を物色しだしていた。先日の身体検査時にわかっていたらしい。

 

「さぁ…束さんに教えてもらえばいいんじゃないの?」

 

 束が探していると思しきエリアを探し始める一夏。慣れてきたのか、恥ずかしさはほとんどないように見える。

 

「はぁ…お前というヤツは…店員にキチンと測ってもらえ」

 

 すみません、と店員を呼び止める千冬。

 

「こいつのサイズ測ってもらえますか?初めてのブラなんで」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

 

 にっこりと一夏をアテンドする店員。

 

「しっかり測ってもらって、着け方も教えてもらえよ。一夏」

 

 

 

 試着室に店員と一夏が入った。一夏はワンピースを腰の位置まで下し、ブラトップだけの状態である。下着まで脱ごうと、手をかけたところだった。

 

「では、手を上げていただけますか?」

 

 よくわからない、という表情でとりあえず真っ直ぐ両手を上げる一夏。失礼します、と店員が手を回した。下着の中に手を入れられ、ビクッと反応するが、彼女は気にした様子もなく採寸を続ける。アンダーバスト、バストトップと手際よく採寸していく。

 

「お客様ですと、D65ぐらいがいい感じですね」

 

 D65…と呟く一夏。ワンピースを戻しながら、店員の説明を聞く。

 

「ただ、少し大きいかもしれませんね。その場合はセミオーダーもございますので、お気軽にお申し付け下さい」

 

 そう言い残し、失礼します、と試着室を出て行った。

 

 試着室のカーテンを開けると、千冬と束が待ち構えていた。両手に数着のブラジャーを持っている。

 

「とりあえず、色々試着してみろ」

「デザインとかで着け心地変わるから、いいのがあったら教えてね☆」

 

 さぁ!と突き出されるブラジャー。こんなに試着しなきゃいけないのか、少しげんなりしながら、一夏はブラジャーを受け取った。

 

 店員の指導通り、背中に手を回し、一番外側のフックを止める。適当に腋から背中に寄せて、ストラップを肩にかけた。少し余っていたので、調整した。

 

「千冬姉!すっげぇ軽い!!」

「そうかよかったな。とりあえず閉めろ馬鹿者」

 

 感動から試着室のカーテンを開け、声を上げる一夏。もちろん、上半身はブラジャーのみである。素が出てしまっているため、羞恥心がどこかに飛んでいってしまったのか、初めてのブラジャーに感動したのか。確かに、ブラジャーを着けることで肩への負担は軽減する。体にホールドされているため、動きやすくなる。ほぼノーブラ状態で過ごしていた一夏からすれば、大変な驚きであっただろう。

 偶然にも次の試着分を持ってきたため、千冬が素早く閉めた。パステルピンクの可愛らしいデザインのものを着けた一夏が、脳裏から離れない。こうして少女から女になっていくのだな、と自分が通り過ぎた道を思い返し懐かしむ。一方で、この大胆さというか、考えのなさを改めて躾けなければいけない、と思い直した。

 

 束は店員から色々と説明を聞いていた。素材的な部分でもかなり進歩しているらしい。自分が一夏ぐらいのころにはなかった新素材の話を興味深げに聞いていた。お連れ様のご年齢ですとこの辺りなんかが~と一帯を指す。ふむふむ、と束が眺める。

 

「束、これが気に入ったみたいだぞ」

「着け心地とかも?」

「あぁ、このシリーズがいいようだな。まぁ、アンダーが少し余るのか気になるみたいだが…」

「ん~…いっちゃんだったら、もう少し大きくなると思うしなぁ…」

「そうだな…あぁ、すみません。セミオーダーだといくらぐらいですか?」

 

 一夏本人がいないところで、着々と商談が進められていく。束が先ほど一夏を採寸した店員と話していたようだ。お連れ様の体型とご年齢ですと~…と、次々に提案が出てくる。一夏が試着した結果を全て千冬がヒアリングしているため、どんどんと話がまとまる。一夏抜きで七着の下着のセミオーダー注文が完了した。

 

 結果、数日用の下着として、三着。それと下着用のランドリーネット三つと、サニタリーショーツを二枚。春用のナイトウェアとナイトブラを三着。そして、一夏の知らないセミオーダー分。

 ここでも大人組の散財は続く。いくらスプリングセール期間中とはいえ、やりすぎている感は否めない。もっとも、束は年齢の割には収入を得ているし、千冬にも十二分に蓄えはある。

 

「…そういえば、千冬姉たちは買わないの?」

 

 キャッシャーで梱包されていく自分の下着を見て、ふと思い出したように一夏が問うた。今までのショッピングでは、ついでに、といった形でいくつか千冬も束も自分のものを購入していた。だが、今回は一夏のものしか購入していない。

 

「私たちのはあっちだからなぁ」

 

 クイ、と顎で方角を指す。その方向を見ると、今までとは別の雰囲気で近寄りがたいコーナーがあった。インポートブランドものである。雰囲気もアダルティックだ。

 

「まず、サイズがないもんね~」

 

 いつの間にか千冬の後ろに回り、ぽよぽよと千冬の胸を弾ませる束。素早く束の手を取り、自らの指で締め上げ、束の指を横に曲げていく千冬。

 

「お前のもないだろうが!」

「ちーちゃんギブ!ごめんなさい!」

 

 じゃれ合う?二人を見る一夏。確かに大きい。自分のものと比べると、かなり大きく見える。

 

「まぁ、何事もほどほどが一番いい、ということだな」

 

 うぅ~、と涙目になって手を握っては開きを繰り返し、手の動きを確認する束のことは無視していた。

 

 

 

 ランジェリーコーナーから少し離れたソファー。そこで秋久は本を読んでいた。秋久の周りにも男性がたくさん座っている。皆、同じような目的でいるのだろう。近づいていく一夏に視線が集まる。その容姿からか、一夏は注目を集めてしまっていた。パンプスで歩くことにも慣れたらしい。しっかりとした足取りで秋久に近づいていった。

 

「おまたせっ」

 

 空になったショッピングカートに一夏が紙袋を入れていく。また沢山買ってもらったらしい。既にポーターサービスは手配済みなので、あとは手で持って帰ろうと思っていたが、まだまだカートは必要なようだ。

 下着でこんなにも買うのか…と驚いてた秋久に、千冬が告げた。

 

「まぁ、今回は下着だけではなく、ナイトウェアも買ったからな」

「あとは…簡単なメイクセットとケア用品だね~☆」

 

 え?と驚く秋久。そういえばそうだ、と思い出す一夏と千冬。一夏は先ほどのランジェリーコーナーの衝撃で忘れていたようだ。

 

 時刻は18時45分。すっかり日も落ちている。まだ、ショッピングは終わりそうにない。




 ということで、下着編だけ分けました。

 次は化粧品編…はボチボチにして、話を進めたいと思っております。


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