・ちっふーとやままゆせんせーがお家にご飯食べに来たよ!一夏ちゃんとあっきーがイタリアンでおもてなししたよ!
以上!
本来は一話で終わる予定でした…長くなったので、分けました。
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※R-15注意。入浴シーンがあります。
「「わぁー…」」
一夏と真耶が歓喜の声を上げる。十五センチ四方の硝子容器を二つテーブルに置き、そのあと、白い小鉢と硝子の小鉢を四つずつ並べた。片方の容器はやや黄色がかった白い何かが入っており、もう片方はココアパウダーが振りかけられていた。
「ドルチェ…ティラミスとレモンピールのジェラートです。お好きなだけどうぞ。山田さんはカプチーノですか?エスプレッソ?」
「あ、カプチーノでお願いします」
「わたしも!」
「いや、コーヒーだから…まぁ、砂糖は好きなだけ入れてくれ…」
適量に取り分け、彼女たちの前に並べる。スプーンも二本ずつ渡した。
「私の分はないのか?」
「とりあえず、分けときますよ…お酒飲みながら食べるんですか?」
「全て食われては敵わんからなぁ」
苦笑いを浮かべながら、千冬が彼女たちに視線を向ける。二人とも目を輝かせながら、ティラミスとジェラートをつついている。これだけ喜んで貰えれば、作った甲斐があるというものだ。
「…カプチーノ、淹れてきます」
「ついでに、私のウイスキーも頼む」
真耶がティラミスを口に運ぶ。濃厚なマスカルポーネチーズと生クリームの甘さ、ラム酒とブランデーの香りにカカオパウダーとエスプレッソの苦味をメレンゲが優しく包み込み、口の中で蕩けていく。官能的なまでの大人の甘さ。
「「…はぁ…♡」」
一夏の口からも溜め息が漏れた。二人揃ってティラミスを堪能している。もう一本のスプーンを取り出し、ジェラートを食べる。スッキリと爽やかな風味にレモンピールの苦味と冷たい甘さ。まさに口直しのためのドルチェ。だが、女性の舌を満足させる甘酸っぱさ。一口食べればティラミスの濃厚さが懐かしくなり、ティラミスを食べればジェラートの爽やかな甘酸っぱさが恋しくなる。
―さっきのパスタといい、このスウィーツといい…彼は危険人物ですね…
もはやカロリーのことなど気に出来るレベルではない。計算するのも恐ろしい。だが、彼女の身体は、脳は、心は、目の前のドルチェを要求し続けている。
「お、お待たせしました、山田さん。カプチーノですけど…砂糖は、お一つですか?」
目の前に音もなくカプチーノがサーヴされた。持ってきたのは好青年
豊かな泡にブラウンシュガーが落とされる。台風の目のように、そこの部分だけがカプチーノの液面を覗かせていた。どうぞ、と差し出される。あえて混ぜず、泡立てられた生クリームの風味と甘さのグラデーションを楽しむスタイルらしい。
「アキ!わたしは三つね!」
「はいはい…って三つかよ!?砂糖水じゃねえか!」
難色を示しながらも、一夏の言うとおりにブラウンシュガーを三つ放り込む秋久。
「
「え?俺のことですか?」
「そうだ。で、私のウイスキーは?」
空になったワインボトルとグラスを横に避け、指先でテーブルをノックする千冬。秋久が琥珀色の液体が入ったロックグラスとチーズ、チョコレートの入った皿を置いた。満足そうに頷き、千冬がグラスを傾けた。
一夏や千冬と彼の微笑ましいやりとりを見届ける。カプチーノに口を付ける。絶妙な泡立て具合の優しいクリームにエスプレッソの香りと苦味。
「やや山田さん…どうでしょう?あんまりカプチーノって作ったことなくて…」
「…真耶です。真耶って呼んで下さい」
「あ、はい…」
「とっても美味しいです。お店でもなかなか飲めないですよ、こんなに美味しいの」
良かった、と秋久が胸を撫で下ろす。彼は彼なりに不安だったらしい。
真耶から見ると、彼は料理やサーヴを完璧にこなしていたように感じた。だが、あの可愛らしい反応である。なるほど。知人が執事喫茶なるものや、世の女性がホストクラブに熱を上げるのが理解できた。
「さすがだね…わたしはこういうの苦手だし…うん。おいしっ」
「ありがと…ただ、言わせてもらえば、お前が飲んでるのはクリーム入りの砂糖水だと思うぞ」
「本場のカプチーノはもっと入れるって聞いたよ?」
「…マジか。イタリア人舐めてたわ」
和やかな空気の中が流れる。美味しい物を食べながら、美味しい物を飲む。会話と笑顔が弾まない道理はない。まさに本来の団欒。テーブルの上にはグラス類と千冬用のおつまみだけが残っていた。
「一夏。そろそろ風呂の時間じゃないのか?大丈夫か?」
「んー…その…」
恥ずかしそうに指先を胸の前で突き合わせる。
「千冬姉ぇ……一緒に入らない?」
「どうした?別に構わんが…」
「…その、最近アキと一緒に入ってて…」
「えぇ!?」「ッ!?」
「ちょ!?一夏!?」
「何?どしたの?」
グラスに口を付けていた千冬が咽せ、真耶が声を上げて顔を赤らめる。年頃の男女が混浴しているというのだ。驚きもするだろう。混浴となれば、互いに裸である。そこから色々想像出来てしまう。最近の若い人たちは進んでいると聞く。まだ経験のない彼女だが、知識としては知っている。お互いに洗い合ったりしているのだろうか。
顔を赤らめる真耶を見て、秋久が大慌てで話し始めた。
「違います!違うんです!!その…とにかく違うんです!!顔赤くするようなことはしてません!」
「違う?何が違うんだ?」
ん?と千冬が聞き出そうとする。その表情は柔らかく、微笑ましいものを眺めているように見える。たが、秋久からすれば威圧感を感じてしまう。妹が恋人でもない男と混浴しているとなると、心中穏やかではいられないだろう、と秋久は考えてしまう。
「え?違わなくないよ?頭洗ったりしてあげてるでしょ?」
「あああ洗いっこ!?」
「誤解です!頭だけです!!」
「一緒に入ってるんだろう?その…一緒に温まってるんじゃないか?」
「してません!そもそも無理です!」
「なんだ…そうなのか…」
残念そうに溜め息を千冬が吐いた。
「孫の顔が見れるのはまだ先か」
「孫じゃないですよね!?」
◇◆◇◆◇
最後に一夏が爆弾を落とした以外は穏やかな食卓だった。良い時間になり、真耶はタクシーを呼んだ。千冬は泊まっていくように勧めたが、辞退した。
真耶を見送り、一夏と秋久が後片付けを終える。秋久はそのまま部屋に戻り、先程の話通りに一夏と千冬で入浴を始めた。
「懐かしいな…こうやって頭を洗ってやるのも」
「だね。その頃とは長さも違うけど」
「そうだな…やはり長いと大変だろう?」
「ううん。もう慣れたし」
「そうか。流すぞ」
シャワーで一夏のシャンプーを洗い流す。滑らかな指通りの髪。コンディショナーなしでも問題がなさそうだが、この髪を維持するためにコンディショナーを揉み込む。
「じゃ、次は千冬姉、洗ったげるね」
「そうか?では頼む」
風呂椅子に千冬が腰掛ける。シャワーを受け取り、声をかけてから頭にかけた。頭皮を揉むように水気を含ませ、手の平でシャンプーをよく泡立て、髪や頭皮に揉み込んでいく。
「…上手いじゃないか」
「アキにやったげてるからね」
「本当に一緒に入ってるのか?」
「うん。わたしが洗ってる間はバスタブに座って目閉じてるけどね」
「…なるほどな。まだまだ、ということか」
「…うん。吐いちゃうかも知れないから、怖いんだって」
また声をかけ、千冬のシャンプーを流した。コンディショナーを揉み込む。
「このまま背中流してあげるね」
「ああ、助かる」
コンディショナーのついた髪を前に回し、一夏がボディスポンジを泡立てる。泡立てたスポンジで優しく背中を撫でた。やや細い綺麗な背中。ほっそりとした括れに、豊かな臀部。まだ成長途中の一夏とは違い、成熟した大人の女性らしい美しい後ろ姿。秋久とも前の一夏とも異なる。艶やかで『女』を感じてしまう。ただ、この背中に一夏と秋久の生活がのしかかっていると思うと、逞しさも感じる。
「ん?どうした?まだ終わっていないだろう?」
「え?ううん…綺麗な背中だなって」
「ふふっ…ありがとう。前は自分で洗おう」
手早く他を洗い、シャワーで流した。泡が消え、白い肌が露わになった。続いてコンディショナーを流し、身体に付いてしまった分も改めて流した。
「次は私が洗ってやろう」
「うん。ありがと」
入れ替わり、一夏が椅子に座る。千冬と同じように後ろ髪を前に回した。
愛らしい、細く小さな背中。千冬と比べると括れは浅いが、そこがより可愛らしい。千冬は同性愛者ではないし、年下趣味ではないが、そんな者でも目覚めさせてしまいそうなほど。それと同時に、少し寂しくなった。
「千冬姉?」
なかなか洗い始めない千冬を不審に思い、一夏が振り返る。
「あ、ああ。すまない。すぐに始めよう」
ボディスポンジから泡を絞り出し、素手で背中を撫でる。
「ひあ!?ちょっと!千冬姉!?」
「なんだ?」
「くっ…くすぐったいっ…んだけど!?」
「我慢しろ」
ゆっくりと千冬の手が背中を這い回る。一夏をくすぐろうという意図はなく、珠のような肌を傷つけたくないという、千冬の気遣い故。ただ、敏感な一夏は背中をくねらせて悶えていた。
湯船に浸かり、まだ身体を洗っている一夏を見やった。千冬の指導通り、素手に泡を付けていた身体を撫で回している。腕の動きにあわせ、ふるふると小刻みに動く。
「大きくなったな」
「そう?そんなに身長変わってないよ?」
「そっちじゃない、胸だ。ブラのサイズ、ちゃんと合っているか?」
「あー…最近ちょっとキツい…かも」
「あとで見てやる」
改めてお互いに湯船に浸かる。少し膝を曲げ、向かい合っている。
「…どうだ?最近は」
「何が?」
「例えばそうだな…体調は?」
「元気だよ。アレ以外はね」
「まぁ…一年ほどの付き合いになるだろうしな。そのうち慣れるさ。秋久とはどうだ?」
「アキと?仲良いけど、それが?」
「そ、そうか…」
「あ。でも、結構女慣れはしてきたよ。この間抱きついても大丈夫だったし」
「ほう…!」
「うん。アキの部屋で勉強会やってさ。その後に映画見たりしてたんだけど…」
◇◆◇◆◇
浴室で先日の経緯を一夏が報告した。その時以来、秋久と混浴?し、同衾しているという話をした。その流れで、今日は千冬と共に眠るという話になった。
秋久が幽霊を見たかもしれないという部屋で眠るのには抵抗があったが、千冬の部屋という名の魔窟で眠るよりマシだった。何より、千冬という世界最強の保護者が隣にいる。彼女なら幽霊だろうが妖怪だろうが倒してしまいそうな頼もしさがある。
「これも久し振りだな」
「そだね。何か懐かしいね」
ベッドの上で抱き合う姉妹。身長差から千冬の胸元に一夏が顔を埋める形になっている。
胸元から甘く優しい千冬の香りが漂ってくる。暖かく、柔らかい。寝る前にコーヒーを飲んでしまったにもかかわらず、眠気が押し寄せてくる。恐ろしい筈の部屋だが、安心できる。
「これで眠れれば、もう大丈夫だろう?」
「……うん」
「あいつも慣れてきたとは言っても、まだまだなんだ。ゆっくり慣らしてやれ」
「うん…おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
しばらくして、規則正しい寝息が響き始めた。
あとがきになってしまいましたが、UA45,000超え、お気に入り登録750件超え、誠にありがとうございます。
これからも細々と更新して行きますので、よろしくお願い致します。
年内に終われればいいなぁ…
お読み頂きありがとうございました。