紫陽花   作:大野 陣

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お気に入り400件超え、ありがとうございます。拙作を今後ともよろしくお願い致します。


感想欄が…
大丈夫!大丈夫だから!

いっちゃんあっくんラブ勢のこの人が何もしないわけないよね☆ということで、Ep15中の一幕となります。ヤッちゃった♪

拷問シーンなど、少々残酷な表現が入りますので、苦手な方は飛ばしてください。
拙作は『いちかわいい』を追求する、インフィニット・ストラトスの二次創作です。


Intermedio~天災の汚仕事(オシゴト)~※グロ表現あり

 この日は偶然、本当に偶然。束が一夏の様子をリアルタイムで監視していた。やるべき仕事は全て片付き、箒の方でも特にトラブルは発生していなかった。秋久のGPSも中学の体育館内にある。あとは、最近お気に入りの一夏のリアルタイム中継である。彼女は交友が広く、聞いてるだけで楽しい気分にさせてくれる。

 束にとって、その音声は精神的清涼剤になっていた。可愛らしい女学生(一夏ちゃん)がキャッキャウフフと級友たちと会話を交わしている。楽しそうな様子が束の頬を綻ばせる。ついでに鼻の下も。

 

 ヘッドフォンから再び音声が流れ始めた。どうやら水泳の授業が終わり、更衣室まで戻ってきたらしい。先程まで一夏、秋久、千冬、束の四人で海へ遊びに行く妄想に浸っていた。

 よし、決めた。今度はいっちゃんと水着を買いに行こう。出来ればあっくんと一緒に。水着姿のいっちゃんを見てあっくんは顔を真っ赤にしたりしてそのあっくんを見ていっちゃんも顔を赤らめちゃったとか!?ナニコレ!?パラダイス!?あぁ、でも顔を赤くしたあっくんをからかういっちゃんも捨てがたい。『なぁに~?照れてんの~?』とか!?ほっぺ突っついたり!?

 

 めくるめく素敵な妄想の世界から束を現実に引き戻したのは、不安げな一夏の声だった。

 

『…アレ?ない?なんで…?』

 

 ノイズが聞こえる。合間に信じられないモノを見たような一夏の呟きも聞こえる。どうやら下着が見つからないらしい。まさか、張り切って水着を下に着てきてしまい、下着を忘れてしまったのだろうか。

 

『美智華ー。何してんの?遅れるよ?』

『…ブラとパンツ…ないの…』

 

 …なん…だと

 大急ぎでもう一つのヘッドフォンを取り出し、録音済みの音声を確認する。衣擦れ音の回数を何度も確認する。同じ箇所を執拗に再生し、束は確証を得た。

 間違いない。間違いなくいっちゃんは下着を脱いでいる…つまり、盗んだ屑がいる。

 

 数秒後に束はISを展開させ、東中へ向かっていた。天災がたどり着くまで、あと、数秒。

 

 

 

 

不可視制御(インビジブル)、オン」

 束がコードを唱えた。これで束の姿はあらゆるレーダー・光学装置・人の目に映らなくなった。最も、スモークなどを焚かれると見えてしまうが、焚かれた瞬間に離脱してしまえばどうということはない。

 姿を消したまま東中の屋上に、なるべく音も立てないよう静かに着地する。GPSで下着の位置を確認し、こっそりとコピーした学校の見取り図と照らし合わせる。どうやら、下着は体育館…それも教員準備室にあるようだ。ここの学校には体育科教諭が男女一人ずついるらしい。ならば屑の正体はほぼ掴めた。束は一夏のケータイから届く音声に注意しつつも、インターネットの中から犯人と思しき人物の情報を集めた。

 

 

 

 チャイムが鳴り響いた。集中しすぎていたらしく、いつの間にか昼休みが終わったようだ。先ほどからGPSが示す場所は全く動いていない。

 一夏は早退するらしい。彼女の級友たちの声も聞こえる。しばらくして、一夏たちが下足棟から出てきた。俯いてゆっくりと歩く一夏の姿が、束の胸を締め付ける。

 

 沸々と怒りが沸く。何故世界はこうも私たちに優しくないのか、こんなにも苦しめようとするのか。折角優しくしてやろう(・・・・・)としているのに、裏切ろうとするのか。こんなの全部キレイに………いけない。この感覚は良くない。あっくんの言葉を思い出せ。そうだ。あの時の…

 

 束の脳裏に8年前の秋久が映る。忌々しき白騎士事件と呼ばれるあの出来事が。必死になって全ての弾道ミサイルの処理を懇願する秋久と一夏が。事が終わり、理由を聞いたときの純粋で前向きな言葉が。

 事件が起こった当初、束は全弾迎撃など不可能だと判断し、静観を決めた。それに攻撃目標はここではない。多少は混乱するだろうが、束にとって関係のないことだった。ここまで余波が来るなら、来る寸前に自身を含む五人で海外にでも逃げればいい。束の技術を欲しがる国はいくらでもある。

 見たこともあったこともない人達を救って欲しい。束には信じられない言葉だった。彼らにとって二人は無敵のヒロインで救世主だった。最後まで二人を信じ、二人は期待に応えた。

 皮肉なことにそれがISを『夢のための翼』から『兵器』へと変えてしまう切っ掛けとなったのだが、それは束にとってどうでも良かった。

 ただ、秋久の言葉…だって、ぼくはみんなが大好きで、たばねえちゃんとちふゆねえちゃんが大好きだから…その言葉に救われ、変われた。

 両親から疎まれ、妹からもやや避けられ、周囲の人間からは変人扱い。そんな束に真っ直ぐな好意を叩き付けてくるのは一夏と秋久ぐらいで、特に秋久は束によく懐いていた。ラボで研究する束の後ろをついてきたり、まだ読めないはずの学術資料を読んでみたり、束の研究を手伝って?みたり。研究者に憧れていただけかもしれないし、ラボが秘密基地みたいで楽しかっただけかもしれない。

 ちょこちょこと後ろついて来て、たばねえちゃんと自身に懐き、壁にぶつかると応援してくれて、普段は邪魔にならないよう悪戯もしないお利口さんな可愛い男の子…嫌いになれるはずもなかった。

 秋久たちとの思い出を回想するうちに、束の黒い感情は霧散した。数分の回想だったが、束の束の精神をこちら側に引き戻すには十分だった。

 

 学校からも連絡が行っているだろうが、彼女にも一報入れておこう。

 

「もっしー?ちーちゃん?あ、急いでる?…ごめんごめん。いっちゃんのことなんだけど、すっごい酷い目に遭わされたみたいだよ~?なんかね~…あ、切れた」

 

 最後に妹の名を叫んでいた。まぁ、これで大丈夫だろう。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 最終下校時間間近の放送まで、束は屋上でひたすらに体育館とプール脇の女子更衣室を見つめていた。屑野郎の顔は押さえてある。出入りする人物の顔を一人ずつ確かめる。秋久と赤毛の少年の姿を認めたが、大したことはしないだろうと放置していた。

 

 赤毛の少年が走り去って行った頃、性犯罪者が女子更衣室へ入っていった。周囲を警戒しながら入っていくところを見るに、疚しいことがあるらしい。秋久が立ち上がり、ケータイを構えている。

 

 いいぞ!あっくん!出てきたとこを撮って逃げるんだ!

 

 しかし、束の想いは伝わらず、秋久は出てきた変態教師に声をかけた。二人は短い会話をしている。会話が終わったのか、教師がナイフを取り出した。反射的に束もライフルを実体化させ、照準を彼に合わせた。実弾が装填されていたので、慌てて鎮圧用改造麻酔弾に変更した。ついでに警察にも通報しておいた。状況が降着していれば、秋久は無傷で帰れる。

 しかし、状況が動いてしまった。形勢は秋久が有利であった。篠ノ之流古武術は伊達ではない。秋久の腕がヤツに絡みつく。完全に頸が極まっている。勝負が付いた。あの状況からは逃れられないだろう。もし、誤って呼吸が止まることがあれば、アレを単なる肉塊にしてしまえばいい。秋久の手が手を汚す必要などないし、汚す価値もない。

 秋久の勝ちがほぼ決まっているにもかかわらず、アレが抵抗を始めた。秋久の腕を掻き毟り始めたのである。

 

 私のあっくんになんて事を…

 

 束の怒りが溜まっていく。やがて秋久の皮膚が裂け、血が流れ始めた。紅い液体を目にした瞬間、束の頭に血が一気に上り、気が付けば引き金を引いていた。

 

「あ」

 

 放たれた麻酔針はアレの心臓に命中し、前のめりに倒れた。秋久もその上に覆い被さるように倒れた。

 

「……ヤっちゃった☆てへぺろ♡」

 

 束は千冬への報告を開始しつつ、秋久のアパートへ向かった。

 

「あ、ちーちゃん?うん。終わったよ。あっくんがね~…」

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 彼は最寄りの病院の個室で眠っていた。アフリカゾウをも数秒で昏倒させる麻酔弾である。その百分の一ほどしか体重のない彼が目を覚まさないのは当然である。

 彼は手錠とロープでベッドに拘束されていた。逃亡を警戒した当然の措置である。また、バイタル等を測定する機器にも繋がっていなかった。意識失っているだけ、命に別状はないと判断された結果である。

 

 そんな病室の窓から、入ってきた何かがいた。封筒が宙を舞いドアの前に落ちた。ひとりでに医療用ベッドが浮き上がり、眠っていた男を乗せたまま、窓の外へ音もなく出て行った。

 

 数分後、巡回に来た看護士と同行していた刑事が異変に気付く。発見された封筒の中には現金三十万円と『領収書 金三十万円也 ベッド代として(慰謝料含む)』と書かれた紙が入っていた。

 

 

 

 

 

「おっ。動いた」

 

 男が目を覚ました。彼は病院以上の拘束を受けており、動かせるのは眼球のみ、という状況で更に無影灯を間近で照射されていた。ちなみに、無影灯とは手術室などでベッドの上にあるアレである。彼のコメカミには電極のような物が刺さっており、それから発する電気ショックで目を覚ましたらしい。

 

「ね、下着盗んだ?」

 

 女の声がする。どこかで聞いた事のある声だが、思い出せない。

 

「誰…だ?」

「ねぇ、下着盗んだの?」

 

 それよりも明かりが強すぎる。目を開けようとしても、まともに開けられない。刑事ドラマでみたことがあるが、こんな取り調べは違法なはず。彼はこの取り調べが終わったら、この女を公安委員会に訴えることに決めた。

 

「黙秘する…」

「黙秘ぃ?」

「そうだ!俺には黙秘権がある!!こんな取り調べは違法だ!!」

「違法ぉ?」

「当たり前だ!そうだ!弁護士だ!弁護士を呼べっ!!」

「弁護士ぃ~?」

 

 女の溜め息が聞こえた。そのあと、何かを探すような物音も。

 

「じゃ~ん!これなーんだ?あ、眩しくて見えないか。ちょっと弱くしてあげるね」

 

 無影灯の光量が絞られる。女が覗き込んでいるようだが、上手く影になって顔の判別が出来ない。更に、無影灯下に突き出されたのは半田ごてである。ただし、通常の物とは異なり、先端部がやや赤くなっている。

 

「五秒あげるから、それまでに答えてね。あ、右からいくよ?…ご~」

 

 徐々に先端部が彼の目に近付く。近付くにつれて熱気が強くなる。色から判断するに六百度前後のようだ。

 

「よ~ん」

 

 彼は口を割らず、先端を睨みつけていた。本気でやるわけがない。彼はそう考えていた。発せられる熱気で眉や睫毛が焦げたのか、独特の臭いが漂い始めた。

 

「さ~…へくちっ。あ、入っちゃった」

 

 男の絶叫が響いた。高温の先端部を右の眼窩に突っ込まれたからだ。

 

「ねー。早く喋りなよー。臭いんだからさー」

 

 グリグリと突き刺した半田ごてを動かす。動かす度に肉の焼ける音が鳴る。男も叫び声を上げる。

 

「いう!いうう!やった!オレがやった!」

 

 男が叫びながら罪を認めた。眼窩から半田ごてが抜き取られる。男はひぃひぃと情けない声を上げていた。

 女が左目に半田ごてを突きつけながら問いかけた。先端には真っ黒に焼けた肉が付着している。

 

「なんで?」

「折浦が!折浦が悪いんだ!オレに惚れてるのに!他の男どもとも話しやがる!だから!だからオレのモノだってわからせ」

「五月蝿い」

 

 今度は頬に押し当てた。不快な肉の焼ける臭いが漂い、またもや咆哮が響き渡る。

 比較的男子は普通に接してくるが、全ての女生徒に避けられている彼にとって、一夏は唯一、人として接してくる女生徒だった。他の女子は彼に対する提出物があっても近寄らないし、彼の目を見て話すこともない。彼が授業後に片付けをしていても他の女子は手伝わないが、一夏は手が空いていれば手伝っていた。極稀に彼女の友人たちも一緒に手伝っていたのだが、それは体育倉庫などに備品を運搬するときぐらいだった。もっとも、それは彼と一夏が二人きりになるのを避けるためなのだが。

 一夏からすれば、大変そうだし手伝おう、ぐらいの感情であった。しかし、彼にとっては、嫌われているオレを手伝うイコール、オレに惚れている、となってしまったのであった。オレに惚れているのに、他の男子とも仲良く話している。それは彼にとって裏切りに等しい行為だった。

 

「なに?あの子の優しさを仇で返したの?お仕置きだね」

 

 ぐりぐりと頬を焼ききった女は彼に背を向け、ガスマスクを被り始めた。その手には金属製の瓶と綿棒が数本握られている。

 

「さ~て。取り出したるはフッ酸でーす。フッ酸が何かわからない?わからなかったら『フッ酸 八王子』でググると幸せなれるかもよ?って、そのカッコじゃ無理か。はい、あーん」

 

 女が彼の頭部を固定している器具を触った。顎を固定している部分が下がり、彼は強制的に口を開かされた。

 

「ちなみに、濃度はそれの五倍ぐらいかな?一本目ー」

 

 脱脂綿にフッ酸を含ませ、前歯に塗る。塗って一分も経たないうちに、激痛が走った。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「二本目いくよー。あ、全部塗っても起きてられたら、離してあげるから、頑張ってね。気絶しちゃダメだからね」

 

 二本目、三本目と塗り続けられる。増える度に痛みが強くなる。重度の虫歯に加熱したタバスコとデスソースのブレンドを流し込まれたような激痛。六本目には痛みの許容範囲を超え、彼は意識を手放した。

 

「はい、アウトー。じゃ、もっかい起こして…」

 

 再度電気ショックで強制的に覚醒させられる。そして、痛みでまた気を失う。ショックで心臓が止まれば、強制的に心臓を動かされ、電気ショックで覚醒させられる。どうやら脳波を測定し、意識がなくなれば電気ショックを与える仕組みのようだ。

 

「よーし。全部キレイに塗れたね!じゃ、最後のチャンス!十二時間後に見にくるから、その時に起きてたら離して上げるね~。ついでにもう一周塗っといてあげる。大サービス!あと、三回連続で電気ショックしても起きなかったら、止まっちゃうから気を付けてね?」

 

 本当にもう一周塗り、女が部屋を出る。ドアの後ろでは、断続的に叫び声が続いている。ケータイを取り出し、どこかへの通話を開始した。

 

「もしもーし。ディナーの予約をお願いしたいんだけどー…うん。十二時間後に。うん。場所はいつもの場所をお願いね?」

 

 

 

 彼が事切れるまで、二時間とかからなかった。




あっくん魔性のショタだった説。

※絶対に真似しないで下さい。フッ酸は取扱いを誤ると大変なことになります。まず、一般の方は手に入らないと思いますが。

あと、ラストを元ネタがわかった方。お友達になりましょう!ぜひ!

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