皆さんは弁当でしたか?給食でしたか?
「あれ?アキ、今日は購買?」
「あぁ、作り忘れててさ」
昼休み。クラスメートたちはそれぞれに、思い思いの相手と昼食を摂り始めていた。
「やっぱりね。食材、出しっぱだったから、片付けといたよ。はい」
「「「「へ?」」」」
一夏から弁当を渡された。あれ?これ俺の弁当箱だ…
ちなみに、さっきまでは弾と購買に弁当を買いに行こうという話していた。あと、もう一人ハモってたのは、田端さんと木嶋さん。最近よく一夏と一緒にいる子たちだ。
「えっ!?じゃあこれ…美智華ちゃんの手作り!?」
「うん。食材はアキのだけどね」
周りがざわめき始める。弾は弾でブツブツ呟きだしてるし。しかもコイツ、今不用意な発言しなかったか?手作り弁当のインパクトがそれを超えてくれることを祈ろう。
「秋久…お前こんな美少女の手作り弁当とか…」
「いや、お前も鈴ちゃんの手作り弁当食べてたよな?」
「バッカ!お前アレはお裾分けだろうが!女の子が丸ごと作ってくれた弁当なんて食ったことねぇよ!あと鈴は美少女ってガラじゃねぇだろ!?」
「五反田クンひどーい」
田端さんが弾にツッコミを入れた。そんなんだからモテねぇんだよ。顔は悪くないのに。
周りから『愛妻弁当』だの『裏切り者』だの『バナナの皮で滑ってウ○コ踏め』などという不穏な言葉が聞こえてくる。怖い。明日から学校来れるよな?俺。
「もうお前を親友とは呼ばん。裏切り者め」
「じゃあ課題見せてやんねぇぞ」
「冗談だよ親友。HAHAHA!」
「立場弱いね」
「前からこんな感じなの?五反田くんって」
見事な手の平返しを見た。教科書に載せられるレベルで。一夏と弾は初対面ってことになってるから、五反田くん呼びだ。
「弾、でいいぜ。い美智華ちゃん。志帆ちゃんと梓ちゃんもさ」
弾がサムズアップとナイスガイスマイル(本人命名)で三人に告げた。お前一瞬一夏ちゃんって呼びそうになっただろ。頼むからお前がヘマすんなよ。それよりも、ほぼ初対面の女子相手に名前呼びとか…そのメンタルは凄いな。ある意味尊敬するわ。
「ありがとう。弾くん、でいい?」
「おう!んじゃ、お近付きのシルシに一緒に食おうぜ!俺、弁当買ってくるわ!」
「おい!弾!」
弾は言いたいことだけ言って、さっさと弁当を買いに購買へ走って行った。残された俺と一夏と田端さんと木嶋さん。なんだろう、気まずい相手でもないのに、とっても気まずい感じがする。ああ、そうか。女子三人の前に取り残されたからか。かといって、今から離れた場所に座るのも凄い気まずい。どうしよう。
「…立っててもしょうがないし、アキ。座ったら?」
「あ、ありがと。いっ、いいい良いかな?」
「うん、どうぞー」
女子三人に笑顔で促されて座った。ヤバい。一夏だけなら緊張しないのに、今は凄く緊張してる。なんだこのアウェー感。
「どっどうする?先食べる?」
「んー…弾くんは?いいの?」
「五反田クンならいいんじゃない?この時間、購買とか戦争だよ?待ってたら食べる時間なくなっちゃうって」
確かに、一部男子からの視線は引き続き感じてるものの、大体のクラスメートたちは各々に昼飯を食べ始めている。田端さんたちはどうかわからないけど、一夏はかなり食べるのが遅くなった。そろそろ、食べ始めないと時間的に余裕がなくなる。先に食べてて、俺は弾を待ってるから、と言おうとしたときだった。
「もう食べちゃお?ほら、斧崎クンも」
「そだよね。ね?アキも食べよ?」
「アッハイ」
許せ、弾。
◇◆◇◆◇
手を合わせ、食事の前の挨拶をする。
「いただきます」
「召し上がれ~」
向かいの席に一夏がいたせいで、なんか一夏に挨拶するような形になった。間違ってないけどさ。
弁当箱を開けると、ほぼ俺が作ろうと思っていた中身になっている。違いがあるとすれば、俺なら丸焼きにするウィンナーがタコの形になっていたり、プチトマトとほうれん草のお浸しが追加されてるぐらいか。あ、玉子焼きの形が俺より綺麗だ。やりおる。
「「おぉ…」」
女子二人が感動してる。まぁ、タコウィンナーとか面倒くさいだけだから、やらないもんな。
「あ、そうだ。お浸しは小分けにして冷凍庫に入ってるから、また使ってね」
「「「えぇ!?」」」
今度は三人でハモった。さっきの弁当の件でスルーされたと思ってた案件がほじくり返される。
「ま、まさか…美智華ちゃん…」
「斧崎クンと…」
「ん?アキがどうしたの?」
田端さんが一夏の耳元でボソボソと話した。吐息がくすぐったかったのか、ビクリと一夏が反応した。
「違うよ?わたし、今は一夏の部屋に住んでるし。アキんちも近くなんだよね~」
「そうなの?」
「うん。一夏のお姉さんから『家とアキのことはよろしく』って頼まれてるの」
「じゃ、通い妻か~」
「青春ですなぁ~」
「妻ってより、お母さんって感じかなぁ…アキって寝起き悪いしね~」
「おぉっと!?」
「何その話!聞かせて?!」
弾、早く帰ってきて。俺死んじゃう。
◇◆◇◆◇
弾が帰ってきたのは昼休みの半ば前だった。弁当はほとんど売り切れていたらしく、菓子パンを何個か買ってきたようだった。帰ってきた弾に恨み言を言われたが、大して気にはならなかった。それより、目の前で暴露され続けた、俺のプライバシーの方が痛い。明日は今日のお礼?として焼き菓子を持ってくるハメになった。作るの嫌いじゃないからいいけど。ちなみに、俺は八割方食べ終わっていた。恥ずかしかったから、なるべく食べることに集中していたからだ。女子三人は大体半分ぐらいだった。あと、弾は三人からおかずをお裾分けしてもらっていた。
いくら幼なじみだったとしても、美少女から弁当貰ったら騒ぎになりますよね。