紫陽花   作:大野 陣

13 / 43
今回は一夏ちゃんと秋久です。
皆さんは弁当でしたか?給食でしたか?


Intermedio~とあるお昼の一幕~

「あれ?アキ、今日は購買?」

「あぁ、作り忘れててさ」

 

 昼休み。クラスメートたちはそれぞれに、思い思いの相手と昼食を摂り始めていた。東中(ウチ)は弁当 or 購買を選べるスタイルだ。俺は基本的に弁当だけど、今朝は作り忘れていた。材料は台所に揃えたことまでは覚えている。ただ、当番だということを思い出して…多分、片付けた…と思う。

 

「やっぱりね。食材、出しっぱだったから、片付けといたよ。はい」

「「「「へ?」」」」

 

 一夏から弁当を渡された。あれ?これ俺の弁当箱だ…

 ちなみに、さっきまでは弾と購買に弁当を買いに行こうという話していた。あと、もう一人ハモってたのは、田端さんと木嶋さん。最近よく一夏と一緒にいる子たちだ。

 

「えっ!?じゃあこれ…美智華ちゃんの手作り!?」

「うん。食材はアキのだけどね」

 

 周りがざわめき始める。弾は弾でブツブツ呟きだしてるし。しかもコイツ、今不用意な発言しなかったか?手作り弁当のインパクトがそれを超えてくれることを祈ろう。

 

「秋久…お前こんな美少女の手作り弁当とか…」

「いや、お前も鈴ちゃんの手作り弁当食べてたよな?」

「バッカ!お前アレはお裾分けだろうが!女の子が丸ごと作ってくれた弁当なんて食ったことねぇよ!あと鈴は美少女ってガラじゃねぇだろ!?」

「五反田クンひどーい」

 

 田端さんが弾にツッコミを入れた。そんなんだからモテねぇんだよ。顔は悪くないのに。

 周りから『愛妻弁当』だの『裏切り者』だの『バナナの皮で滑ってウ○コ踏め』などという不穏な言葉が聞こえてくる。怖い。明日から学校来れるよな?俺。

 

「もうお前を親友とは呼ばん。裏切り者め」

「じゃあ課題見せてやんねぇぞ」

「冗談だよ親友。HAHAHA!」

「立場弱いね」

「前からこんな感じなの?五反田くんって」

 

 見事な手の平返しを見た。教科書に載せられるレベルで。一夏と弾は初対面ってことになってるから、五反田くん呼びだ。

 

「弾、でいいぜ。い美智華ちゃん。志帆ちゃんと梓ちゃんもさ」

 

 弾がサムズアップとナイスガイスマイル(本人命名)で三人に告げた。お前一瞬一夏ちゃんって呼びそうになっただろ。頼むからお前がヘマすんなよ。それよりも、ほぼ初対面の女子相手に名前呼びとか…そのメンタルは凄いな。ある意味尊敬するわ。

 

「ありがとう。弾くん、でいい?」

「おう!んじゃ、お近付きのシルシに一緒に食おうぜ!俺、弁当買ってくるわ!」

「おい!弾!」

 

 弾は言いたいことだけ言って、さっさと弁当を買いに購買へ走って行った。残された俺と一夏と田端さんと木嶋さん。なんだろう、気まずい相手でもないのに、とっても気まずい感じがする。ああ、そうか。女子三人の前に取り残されたからか。かといって、今から離れた場所に座るのも凄い気まずい。どうしよう。

 

「…立っててもしょうがないし、アキ。座ったら?」

「あ、ありがと。いっ、いいい良いかな?」

「うん、どうぞー」

 

 女子三人に笑顔で促されて座った。ヤバい。一夏だけなら緊張しないのに、今は凄く緊張してる。なんだこのアウェー感。

 

「どっどうする?先食べる?」

「んー…弾くんは?いいの?」

「五反田クンならいいんじゃない?この時間、購買とか戦争だよ?待ってたら食べる時間なくなっちゃうって」

 

 確かに、一部男子からの視線は引き続き感じてるものの、大体のクラスメートたちは各々に昼飯を食べ始めている。田端さんたちはどうかわからないけど、一夏はかなり食べるのが遅くなった。そろそろ、食べ始めないと時間的に余裕がなくなる。先に食べてて、俺は弾を待ってるから、と言おうとしたときだった。

 

「もう食べちゃお?ほら、斧崎クンも」

「そだよね。ね?アキも食べよ?」

「アッハイ」

 

 許せ、弾。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 手を合わせ、食事の前の挨拶をする。

 

「いただきます」

「召し上がれ~」

 

 向かいの席に一夏がいたせいで、なんか一夏に挨拶するような形になった。間違ってないけどさ。

 弁当箱を開けると、ほぼ俺が作ろうと思っていた中身になっている。違いがあるとすれば、俺なら丸焼きにするウィンナーがタコの形になっていたり、プチトマトとほうれん草のお浸しが追加されてるぐらいか。あ、玉子焼きの形が俺より綺麗だ。やりおる。

 

「「おぉ…」」

 

 女子二人が感動してる。まぁ、タコウィンナーとか面倒くさいだけだから、やらないもんな。

 

「あ、そうだ。お浸しは小分けにして冷凍庫に入ってるから、また使ってね」

「「「えぇ!?」」」

 

 今度は三人でハモった。さっきの弁当の件でスルーされたと思ってた案件がほじくり返される。

 

「ま、まさか…美智華ちゃん…」

「斧崎クンと…」

「ん?アキがどうしたの?」

 

 田端さんが一夏の耳元でボソボソと話した。吐息がくすぐったかったのか、ビクリと一夏が反応した。

 

「違うよ?わたし、今は一夏の部屋に住んでるし。アキんちも近くなんだよね~」

「そうなの?」

「うん。一夏のお姉さんから『家とアキのことはよろしく』って頼まれてるの」

「じゃ、通い妻か~」

「青春ですなぁ~」

「妻ってより、お母さんって感じかなぁ…アキって寝起き悪いしね~」

「おぉっと!?」

「何その話!聞かせて?!」

 

 弾、早く帰ってきて。俺死んじゃう。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 弾が帰ってきたのは昼休みの半ば前だった。弁当はほとんど売り切れていたらしく、菓子パンを何個か買ってきたようだった。帰ってきた弾に恨み言を言われたが、大して気にはならなかった。それより、目の前で暴露され続けた、俺のプライバシーの方が痛い。明日は今日のお礼?として焼き菓子を持ってくるハメになった。作るの嫌いじゃないからいいけど。ちなみに、俺は八割方食べ終わっていた。恥ずかしかったから、なるべく食べることに集中していたからだ。女子三人は大体半分ぐらいだった。あと、弾は三人からおかずをお裾分けしてもらっていた。




 いくら幼なじみだったとしても、美少女から弁当貰ったら騒ぎになりますよね。

 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。