売れないロックシンガー in 戦姫絶唱シンフォギア 作:ルシエド
なんで弾いてるんだと言われたら、好きだからとしか言いようがねえ。
俺の感情は、ここしか吐き出す場所がなかった。そういう理由で弾いてるってのもあるな。
ロックンローラーである限り、俺は前を向いていられる。
幸い、今は高め合う仲間にも恵まれてるしな。
「私が思うに、ここのパートで結弦のカッティングがキレ過ぎてる。上手すぎる」
「あー、ギターが上手すぎてボーカル部分が目立たないんデスね。
確かにクライマックスではボーカルの歌声が一番目立つべきデス」
「言うてレベル下げるんか? ギターのレベル下げたらドラムベースも下げないかん。
一部分だけレベル下げてもそこが目立つ以上、全体のレベル下げかねないんやないか?
せやったら俺が頑張ってここ強調して歌ってみるってのはどうやろ。
マスター・マリアの修行でちょいちょいレベルも上がっとるし、狙って強調すれば……」
「いいと思う」
「デース。ならあたしもボーカル強調のためドラムに一工夫入れてみるデス」
音楽の世界に触れてた時間では俺の方が長い。
プロ級から準プロ級の音楽の世界に触れてた時間ならこの二人の方が長い。
なんで、この二人との打ち合わせはめっちゃためになった。楽しさすら感じる。
こいつが固定バンドの醍醐味ってやつなんだろうなあ。
指摘し合える。
協調し合える。
高め合える。
……やべえ、楽しい。嬉しい。いいな、これ。
今の大会日程なら、音合わせ、練習、マスター・マリアの修行もできないほどじゃねえ。
まだやれる。
他のバンドは本番に向けてコンディション整えてるんだろうが、俺達はギリギリまで修練続けてなきゃおっつかねえんだ。
数日の時間を最大限に使って、先を行ってる奴らとの差を詰めてやる。
「さて、『勝つための戦略』練ろか。なんか名案あるか?」
「デスデスデース!」
「どぞ、切歌さん」
「一回、発想を根本的に変えてみるのはどうでしょうか?」
発想を根本的に変える?
「音楽の世界なんては基本クソゲーみたいなもんデース」
「えっ」
「勝利条件不明。何やってもよし。何を武器に選んでもよし。
仲間は数十億の中から数人選ぶ。正解が無くて何を選ぶべきかも分からない。
攻略Wikiもなくて、そもそも一部の人しかクリアできるようになってない。
選べるのは『どうやっていくか』『どこを区切りかゴールにするか』くらいなもんデス」
「そう言われて見ると、そんな気もしてくるなぁ」
「プレイ方法と勝利条件くらいしか自分で選べないんなら、そこ一回見直すべきデス」
「……つまり、切歌さんはそこ見直して何か見つけたんやな?」
「デスデス。今回の大会、ルール整備がちょこちょこ甘いんデス」
ほう、ルール。
「今回の大会ルールだと大会中にメンバー追加は特に禁止されてないんデスよ!
禁止されてるのは一人の人間が複数チームに所属することだけなんデース!」
「!」
「有能な新規メンバーの勧誘! これで勝てるデス!」
「そう来たか!」
ああ、そうか。
この大会そもそも厳選されたバンドだけでやる予定だったから、そもそも『ベストメンバーを途中で入れ替える』ことがそもそも想定されてねえんだな。
普通は年単位で息を合わせてきたチームで勝負するもんだから、そりゃ当然だ。
俺らみたいな即興チームが来ることがそもそも想定されてねえのな。
「後はまあ……無茶デスけど、『新曲を作る』とかでしょうか」
「新曲……今ある曲だけじゃ駄目なんか?」
「今ある曲って結弦一人で作ったやつかカバー曲だけデスよね?
ぶっちゃけ、結弦の今のオリジナル曲って他のバンドと比べて弱いんデス」
「うぐっ」
とうとう俺の作曲能力が高くない所にも言及される時が来たか……
「カバーも今あるオリジナルも、結弦が歌う分には熱い曲デス。
でも他のバンドは『自分達が奏でるための曲』を作ってるわけデスから完成度段違いデス。
欲しいんデスよ、決めの一曲。"これぞ緒川結弦のバンド"って言える代表的な一曲が。
結弦が歌うための、結弦を活かすための曲。それを最高の質で形にした一曲が欲しいデスね」
「今あるオリジナルよか完成度の高い一曲、か。やっぱ要るんやなそういうの……」
「『
「もし作るなら、その作曲には私と切ちゃんも加われるけど」
「数日で一曲作るとはまた無茶やな……ま、やってみなけりゃ分からんもんな!」
キラーチューン。
"人の心に特別引っかかる魅力のある曲"を指す言葉だ。
キラーと名が付くくらい完成されたこのタイプの曲は、運が良ければ一日で作れる。天才が一生かけても作れないこともある。要は閃きだ。
練習の時間を減らしちゃ元も子もねえし、練習中に閃きが来たらそこをとっかかりにして、練習の合間に考えんのが一番か。
……ふと、彼女らに聞きたかったことがあったのを思い出した。
「なあ、なんで俺に力貸してくれてるんや?
仕事の合間とはいえ、君らに得なんて無いように思えるんやけど」
「繋ぎたくても、繋がれない人は居る。
心を繋げない人。
手を繋げない人。
約束で繋がれない人。
言葉で繋がれない人。
でも……音楽でなら、繋がることができるかもしれない。マリアが昔、そう言ってた」
音楽で繋がる、か。
「可能性はある。あなたの旋律に、私達はそれを感じた」
「デスデス」
……うーん、むず痒い。お前らそんなまっすぐに俺に期待すんなよ。
「練習しよう。音を合わせよう。それは決して無駄にはならないはず」
「デース!」
「せやな、練習、練習や。
何年も息合わせてたバンドとやり合うんや、俺らも少しでも相互理解進めんとな!」
夜のガチャガチャした街の喧騒に紛れて、俺達は防音の壁の内側で音を合わせる。
「お夜食のおにぎり作りました! 皆さん、頑張ってください!」
「お、ありがとなぁ」
キャロルが持って来てくれたおにぎりを食いながらも、手は休めなかった。
本日、大会二回戦。二回戦を勝利で終えて、その後マスター・マリアに修行をつけてもらい、精魂尽き果てた状態でベンチで休む。
皆には先に帰ってもらって、貴重な時間を練習につかってもらった。
疲れた体と頭をベンチで休ませながら、今日の反省点と改善点を頭ン中で探す。
やばかった。
今日の勝負はめっちゃ僅差だった。
つまり『ダークホースへの応援補正』が切れかけてるってことだ。
もうちょっと勝ち抜けば『謎の新星のジャイアントキリングへの期待』も票数に影響してくるだろうが、無名の俺達が一回戦二回戦と有名バンドを負かしてきたんだ。
俺達が負かしたバンドのファンが、『余計なことした新参に負けて欲しいから』ってだけで俺達の対戦相手に投票するパターンも出て来る頃だ。
ぼちぼち、厳しい戦いになってくる。
「……練習と、作曲すっかなぁ」
だけどやるこた変わらない。
修行で身に着けたテクを自主練で定着させて、練習を自分への刺激にして、閃きゲットで新しい曲を作る。さあ、やんぞ俺!
せっかくだ、今日は楽しく練習できる場所を探してみっか。
ニューヨークのビルを蹴って跳び、ビルからビルへと飛び移る。
ビルを飛び移りながらニューヨークの夜景を見下ろすと、なんかキラキラしてて、俺でもここならなんか出来そうな気になってくる。
輝ける摩天楼と、光が満ちる夜無き街並み。
ロマン。
そうだな、ロマンだ。
ニューヨークにはロマンがある。
このロマンが作曲の刺激になってくれりゃあな、とも思うんだが、そう上手くはいかないか。
一曲良いのが出来そうなんだが、完成までの次の一歩が遠い。
何か掴みかけてるんだが、イマイチ閃きが足りない。
曲の全体のふわっとしたイメージは出来てるんだが、曲全体を通して芯になるフレーズが浮かんで来ねえ。
この曲は、俺の中にある音だ。そのはずだ。
それが完成しねえってことは、俺が俺の中の音を出し切れてねえってこと。
……俺が、俺の中にある何かの音に気付けてねえってことだ。
聴く人の耳に残り、胸に響き、心揺らがせる一曲。
そいつが俺の内側から出たがってるのに、俺がそいつを見つけられてないせいで、俺の胸の奥から出て来てくれねえ。
俺の最高の自信作が出来ても、そいつがキラーチューンになるかどうかは別って問題もある。
難しいんだよな、作曲って。
「……あのビルの屋上、人が居るな。ん? いや、あの後ろ姿は……」
ビルからビルへと跳んでる内に、屋上に見知った背中を見つけた。
「何やってんやクリス」
「うおっ!? ってお前、緒川結弦か。
突然現れんなよビックリ……って、ん? お前こそなんでこんな所に居るんだよ」
「集中して練習できそうな場所探してうろついてたんや」
「それで高層ビルの屋上に来たのか? 変な奴だな、お前」
露骨に呆れた顔しやがって、てんめえ。
「あたしは街を見下ろしてるだけだ。下に居ると取材やらなんやらが面倒臭えんだよ」
ああ、そうか。
俺らは顔隠してコソコソ動いて、取材される時間も全部練習に当ててるからな。
他のバンドはこんだけデカい大会だと毎日のように取材されてんだろうし、目玉のクリス&マリアは特に取材陣が殺到してて当然か。
そりゃご愁傷様だ。
「あー、あー、あー……
なんかな。あたしも
「へ、なんでや? 今のクラシック風多人数バンドの仕上がり超ハイレベルやん」
「だってよ、お前らが一番楽しそうにやってるだろ? 今残ってるバンドの中だと」
楽しい。
楽しい、か。
そうだな、楽しい。
このバンドで舞台に上がってる時も、このバンドで練習してる時も、凄え楽しいわ。
「あたしは楽しけりゃいいんだよ。
負けると楽しくないから勝ちに行ってるだけだ。
だけど楽しめねえことを勝つためだけにうだうだやるってのもなんかな」
「この大会、楽しくないんか?」
「いや、別に。ただお前らが一番楽しそうに見えてるってだけだ。
楽しいに決まってんだろ?
どいつもこいつも一流で、マリアってのも想像以上だった。お前のバンドもな」
「おお、俺達褒められた」
「あのバンドは『お前の音を魅せる』ことに傾注してて、あたしも結構驚かされたよ」
ああ、そうだな。
個性は主張するものでもあれば、添えるものでもある。
調さんも切歌さんも強く自己主張してない。キャロルもそうだ。
あのバンドは、俺の強い自己主張を許してくれる仲間が、俺の音楽を魅せるために音を奏でてくれてるバンドだ。
「自分を見ろ、って叫びは、自分を見てもらえなかった過去が生む。
そうすっと、観客に自分を見させる音楽が生まれる。
俺の声を聞け、って叫びは、自分の言葉を聞いてもらえなかった過去が生む。
そうすっと、観客に自分の主張を聞かせる音楽が生まれる。
音楽にしか吐き出せない叫びが、音楽に色を着ける。
そうすっと、誰にも真似できないそいつだけの音楽が生まれるってわけだ」
……音楽的な感性が優れてる奴は、俺の音を何回か聞いただけでこれか。
俺の心の奥底まで、音楽を通して見抜かれてる気すらする。
「ただ、お前らはあたしと当たらねえだろうな。多分途中で負ける。何故かって言うと……」
「ボーカルが弱点、なんやろ?」
「なんだ分かってんのか。
自分で欠点見つけられてるんなら言わなくていいよな。
この大会、80点90点のボーカルが生き残れるほど甘くねーぞ」
わざわざ忠告しようとすんなよ、このお人好し。
俺達は敵だぞ? ライバルを強くするような真似してどうすんだよ。
「一曲、ここであたしに聞かせてみせろよ」
「へ? なんでや」
「いいからやれ、うだうだしてると男らしくねえぞ」
「へいへい」
とりあえず披露する。
だが5分曲の1分30秒を過ぎたあたりで止められちまった。
「はいはいやっさいもっさいやっさいもっさい」
なんだよその止め方。
「あのな、まず……」
そこから始まったのは、意外や意外。
俺の歌声への分かりやすく丁寧な指摘だった。
「だからそこのリズムをな、わっさわっさとするんだよ」
「成る程。こんな感じやろか?」
俺の歌声は自分一人での演奏、あるいは即席バンドの一回きりの仲間に適当に合わせることに慣れすぎてるんだとか。日本でのロック生活の弊害か?
固定バンドになったのだから、自分のギターと自分の歌声を合わせるレベルで、他のメンバーの旋律と歌声を合わせることも目指せと指摘された。
それでいて、今の俺の歌声は他メンバーを意識しすぎて抑え気味であるとも指摘された。
もっと情感豊かに歌えるはずだと、見透かしたように言ってきやがった。
テンポが速くなると重厚さが減るだとか、逆にテンポが遅くなるとのっぺりしてるだとか。
普通の耳じゃ気付けねえようなレベルの話をして、俺の全てを見透かしたような言い草で、数十箇所も俺の改善点を指摘して来やがる。
助かった、と思うと同時に、格の違いを思い知らされた。
「まず最初に歌い手か弾き手の熱さがある。
こいつをどんだけ目減りさせず聞き手に伝えるか、が技術だろ?
風呂桶をいくら加熱しようが、風呂の水が熱伝えなきゃ人体は暖まらねーだろ」
それな。
熱だけでも駄目。技術だけでも駄目。それが音楽の世界だってんだから厳しい。
伝説のバンドには大抵『人の心を揺らせる奴』と『技術が優れてる奴』がセットで所属してるもんだ。
「なあ、なんで俺にこんなよくしてくれるんや?」
「他人が自分に出せない音出してたら、ムカーッってなるだろ」
……ああ、分かるぜ。
俺がお前に抱いてる気持ちがそれだ。
「だけどさ、その音を出せるはずなのに出せてない、未完成の奴を見るとイラッとすんだよ」
「そこにもイラッとするんか」
「『そうじゃない、こうすればいいだろ』って思うんだよ。分かんねえかな」
分かんねえよ。
そいつはきっと、一流の奴が二流の奴を見た時に感じる気持ちだ。
俺はまだ一流でもなんでもねえんだ。自分から見ても、他人から見ても。
……だけど、なんだろうな。
なんでか、ちょっと前までのキャロルの姿が頭ン中に思い浮かんだ。
あの子が本音を出せず、うじうじしてる姿を思い出した。
『そうじゃない、こうすればいいだろ』って時々思ったことを思い出した。
今のキャロルにああしろこうしろって思うことは、ほとんどないけどな。
「まあ俺にも分かる」
「だろ?」
俺がキャロルの手を引こうとした時の気持ちと、今の雪音クリスの気持ちは同じなんだろうか。
「あたしは凄え音楽弾いてる奴を見ると嫉妬もするが、凄え音楽にはそれ以上に感動する」
ああ、分かるさ。
俺はその両方の気持ちを、お前に対して抱いてる。
「だからお前は見てられなかった。それだけだ」
ニューヨークの夜景に、雪音クリスのぶっきらぼうな声が溶けていく。
こいつがいい奴だってのもあるが、それだけじゃないな。
これは
こいつは自分の
要するに、こいつは……後輩の面倒見が良い奴なんだ。
音楽も良くて性格も良いとかふざけんな。
しゃあねえ、返礼は演奏にて仕る。
一回戦、二回戦で雪音クリスがギターで弾いてたクラシック混じりの曲を、俺が知ってるテクを混じえて弾く。ボーカルは邪魔だからカットだ。
お、クリスがこっちに興味持ったな。
んなら、また別の弾き方しながら一曲流す。
こっちの方が反応がいいな。こっちのテクの方が気に入ったか。
「へー、ほー、成程な。こういうテクもあんのか」
「流石にロックのギターじゃ負けられへんよ。
このテクも自由に使って構わんで、俺は今回使う予定あらへんし」
「いいのか?」
「そん代わり、貸し借りゼロのつもりで勝負に挑むんで、手加減は期待せんでな」
「……言うじゃねえか」
ニッと笑う雪音クリス。
ああ、そうだ。そういう顔で勝負挑んでこい。
俺達はたったひとつの優勝目指して、たったひとつのものを争ってやり合う仲だろうが。
遠慮なく勝負しようぜ? 俺が勝つけどな!
「マリアさんに自分らしく在れ、って言われたんや。
誰に何教わっても、誰に何教えても、最終的に俺らしく在ればええんやないかなって」
「ふーん……」
おい、なんだその顔は。
「それってさ、自分らしさってやつをきっちり認識してなきゃ駄目ってことじゃねえの?」
「え」
「お前らしさって何だ? どれのことだ?」
どれと言われても……
「俺の曲、俺らしさ出てないか?」
「自分らしさが自然と曲に出るのと、自分らしさを曲に出そうとすんのは別物だろ。
『俺のここが売りです!』って前面に出してる意識はあるのか? 無いならちょっとな」
「……あー」
「お前その辺自覚して、意識してそれ保とうとしながら演奏してんのか?
精細なイメージが伴ってない、ふわっとした"自分らしく"じゃ意味ねーぞ。
自分をよく知ってそれを意識して保とうとして初めて、安定した演奏ができるんだからな?」
……新しい問題が浮上してきた。
やっぱあれだな。マスター・マリアといい、プロは意識が違えわ……
雪音クリスと別れて帰宅。
バンドの練習もしないとな。
マスター・マリアの修行で消耗した分も、もう随分回復してきた。
しかし問題が次々と浮上して来て頭が痛え。全部一気に解決する方法はないもんかね?
……ねえよなあ。
地道にやってくしかねえか。
っと、キャロルから貰ってた端末に衛星電話が来た。
『はーいあなたのウェル博士ですよ』
通話切った。
……またかかって来た。
「なんやなんや、お帰りください」
『一応僕は忠告しに来たんだけれども、その塩対応はどうなんだろうか』
「塩対応が嫌なら好かれる努力せえや」
『そんな面倒臭いことする方が嫌だね』
「……」
この野郎。
『それより急報だ。エテメンアンキがそっちに疑いを向け始めてる』
「……なんやて?」
『君、少ないけどファンが居るようで驚きだよ。
日本で、イタリアのナポリで、イギリスのニューロンドンで……
君の演奏が録画されて、アップロードされていたんだ
仮面を付けた君は今世界中に注目されていて、特定班がネットで動いてる。
それで謎の仮面の男の正体として、素の君が候補筆頭に挙げられてるのさ』
「マジか。仮面だけじゃ足らんかったんか」
『君の演奏は特徴的だからねぇ』
ヤベえな。大会終了がエテメンアンキ到着前に間に合うか?
さっきまでは大会が数日分の練習時間を取れる日程だったことに感謝してたが、こうなると大会日程がゆったりしてるのが逆に危険になってきた。
『ともかく、僕もこれが伝えられて良かった。
とりつくしまもなく会話を打ち切られ続けることも覚悟だったからなぁ』
「なんでそんなに警戒しとるんやお前。ようやく嫌われてる自覚が出来たんか?」
『君は時々耳にチンコでも詰まってるんじゃないかと思うくらい集中する恋愛脳でロック脳だ』
「俺は謂れなき中傷には鉄拳で応える人間やぞ」
『おお怖い怖い。恋愛脳は余計な言及だったかな』
野郎ぶっ殺してやる。
『全部終わったら日本に来るんだろう? 早めにイチイバルを回収したまえ』
「言われんでも分かっとるよ」
『僕はもう規定業務が終わったら暇でねえ。
愉快なことになっている君の周りの情報を定時まで独自に分析する毎日さ』
「仕事中に分析ってお前……どうせ俺に聞いて欲しいんやろ。どんな分析したんや?」
『聞きたいのなら聞かせてあげよう、とくと感謝したまえ。
ネットでの評価と、評価された君の曲。
僕なりにそれらの感想評価を分析して考察してみた。
すると君の曲は大雑把に分けて、過去を前に出した曲と、劣等感を軸にした曲になる』
「二種類? それだけなんか……」
『いや、その二種類に多彩な曲が含まれるんだ。君はこの二つにこそ感情を吐き出している』
親との過去と、他人への劣等感。
分かってる、分かってるっての。それが俺の原動力だ。
『でも僕は、イギリスでこの二つのどちらでもない曲を聞いた覚えがある』
だが、他人の感想や評価という主観的なものを、ウェルが感情を排して理性的に再編成してまとめたものは。
『―――だ』
俺に、気付いていなかった俺のことを気付かせて。
「あ、おかえりなさい!」
通話を切って、帰宅した俺が見たキャロルの笑顔が、それを確信に至らせる。
一つ、気付いて。
一つ、納得して。
一つ、理解した。
「一時間、ちょいと俺に話しかけんでくれ」
「結弦くん?」
何故か隣の部屋から、キャロルの方の護衛に付いていたウイングの歌声が聞こえてくる。
それで、完成形が見えた。
テーブルの上には白紙の楽譜。
手にはペン。
胸に旋律。
さあ、生まれてこい。祝福してやる。
ペンが走る。あっという間に一曲仕上がった。
だけどこれじゃ足りない。俺の感情が十分に吹き込まれていない。ワンフレーズごとに俺の全力の想いを込めて書き直し、俺の気持ち全部を表現できるカタチに作り変えていく。
作曲の時点で俺の感情を受け止められないようじゃ問題外だ。
俺の全てを受け止めてもなお余裕があるくらいに、そんな強くて大きな表現の曲を。
もっと深く、もっと鋭く、もっと濃く、もっと激しく、もっと明るく、もっと強く。
もっと、もっとだ。
何よりも輝ける曲になれ。人の心も、この世界も、まとめて撃ち抜けるくらいに。
「―――♪」
自然と口に出る旋律。
仕上げに楽譜の中のリズム、頭の中のリズム、口に出したリズムを融合させる。
心響かせるロックになれ。
今完成したお前が……今の俺の、命の歌。ここに燃え滾る胸の歌だ。
「……出来、た」
何か変な顔してるキャロルちゃんが居たが今はそっち見てる時間が無い。
あと一時間もしない内に調さん切歌さんも来るだろう。その前に、やらなきゃなんねえことがある。隣の部屋に移動して、この前俺達が歌ってた曲をウキウキで歌ってたウイングを捕まえる。
「!? べ、別にこれは、お前達に影響を受けて歌いたくなったわけでは……」
どうでもいいんだよそんなことは。
「俺と一緒に舞台に上がってくれへんか。希望のボーカルさん」
「え?」
今日、初めて聞いたぜお前の歌声。練習すりゃ紅白にも出れそうじゃねえか。
その力、俺達に貸してくれ。
ボーカル二人用の曲なら、今書き上げたからさ。
曲は完成してからが本番だと、分かってたつもりだったが。割とキツかった。
調さんと切歌さんによる修正修正更に修正。
素人を加えてのバンド再構成に猛練習。
三回戦と並行してこんなことやってたもんだから、危うく三回戦落とすところだった。危ねえ。
その甲斐あって、俺達は準決勝たる四回戦に足を運ぶことができた。
誰もが俺達の敗北を確信している。
何故なら、俺達の対戦相手は、あのマリア・カデンツァヴナ・イヴだからだ。
俺達はとうとうここまで来てしまった。
アメリカで今一番人々を熱狂させるこの人の前に、敵として立つ権利を得てしまった。
勝てるわけがないと、誰もが言っている。
上等だ。
その下馬評、覆してやる。
「よく来たわね。世界最高のステージの幕を上げましょう」
「お手柔らかに頼んます、マスター・マリア」
一年前のステージより、先月のステージより、昨日のステージより、今日のステージを良くするという心意気。いつだって今日のステージが、世界最高のステージになるという確信。
まさしくプロだ。
俺はこの人に勝たなければならない。
いや、違う。
勝たなければならない、じゃねえ、勝つんだ。
俺は今日、この人に勝つ。
「お先に失礼します」
先攻は俺達だ。
漫画じゃ先に演奏した方が負けるってのがテンプレだが、そんなありきたりなお約束、俺達の熱量で吹っ飛ばしてやる。
なあ、皆。
皆もそう思うだろ?
心は音楽で繋がってるって信じてるぜ。
この会場の消化試合の空気、残らず消し飛ばしてやろうや。
「来たな、ファリドゥーン・フォーカード。……ん? 今日は
俺達五人の音楽、今見せてやる。
「仮面青髪のボーカルが一人増えてるな」
「あれ素人だ、立ち回りで分かる。あんなの加えるとか正気かよ」
「素人でもここに上がれるくらいの天才なんじゃね」
「バカ、才能のある素人と力不足のボーカルで勝てるわけあるかよ。
マリアとクリスは経験積んだ天才だぞ。ただの天才で勝てるわけがあるか。
せめてあともう一つ、何か勝てる要素積み上げなきゃ、どうにもならねえっての」
皆騒いでんな。
だけど心配ご無用。甘く見たその認識をすぐに後悔させてやる。
俺達は勝つためにここに立っていて、勝てるだけの策を持ってここに立ってるんだぜ?
「プログラムによると今日のファリドゥーン・フォーカードの曲名は……」
息を合わせて、心を重ねて、力を貸し合い、音を融かして。
「……『荒野の果てへ』? 新曲か」
―――五人で一つの音を、ここに産み落とす。
「はじまっ……ええっ!?」
客の心を、一気に引き込む。
任せられるところは全て仲間に任せ、俺は『俺』を出すことに全身全霊、集中する。
俺が仲間の頑張りに応える最高の方法は、ここで『俺』を出し切ることだ。
「これ……ラブソング!?」
「おいおい、社会への反抗とか歌ってた奴が……」
「口笛みたいなイントロから、ツインボーカルでラブソング……いや」
「ラブソングパートを歌ってるのは、男の方だけか」
俺の声と、ウイングの声。
交互に出して、時に重ねて、響き合わせて、高め合う。
俺のボーカルに足りなかった綺麗さ、美しさ、全体のまとまりを、彼女の声で補っていく。
仲間の音に支えて貰って、俺はただひたすらに熱く『俺』を出していく。
「口笛を吹くようなギターのイントロから、切り込むようなこの速弾き」
「男が歌うラブソングパートに、女が歌う優しい歌詞のパートが交互する」
「スラッシュメタル……だとは思うが……激しいのに、荒々しいのに、この音色は……」
「激しい。なんつー激しい愛だ。相手の心に、ただひたすら自分を刻み込む愛……」
「いや、これ……男が女を力いっぱい抱きしめる、そういうラブソングだ」
笑いたきゃ笑え。これが『俺らしさ』だ。
俺の過去も関係なく、俺の劣等感も関係なく、今の俺に"弾きたい"と思わせるもの。
俺の中で一番に大きくなった弾く動機。
そのために上手くなりたいと思って。
そのために俺は修行して。
その人のために頑張って。
その人を喜ばせたいと思った。
これが『俺』。音楽という形でそのまま外に出して表現した『俺』だ。
好きなだけ見て、好きなだけ聴いて、何か感じ入ったなら、その心の片隅に置いてくれ。
「綺麗な声色の女のボーカル。熱く激しい男のボーカル」
「二人で一人で完成するボーカルパート……」
「このラブソング……ああ、なんだこれ! 聞いててむず痒くなる! ストレート過ぎんだろ!」
「あーなんか……聞いてるだけで胸が熱くなって、走り出したくなる!」
「でも、私これ好きよ」
「ああ、わかる」
不適合者の俺にとって、この社会は荒野みたいなもんだった。
この世界は地獄と変わらねえ荒野だった。
でもな。
俺は膝を折りたくなかった。
生きて、生きて、生きて。
歩いて、歩いて、歩いて。
諦めないで前に進み続けて、ようやく見つけた。見つけたんだ。
皆、聴いてくれ。
皆、見てくれ。
皆、感じてくれ。
これが―――俺が、荒野の果てで見つけたもの。
俺が愛しく思う、小さな花だ。
「ああ、そっか……このバンドが奏でてるもの……
あのボーカルの歌は……あそこに居る、金髪の小さな子に……」
黙っててくれ、勘の良いお客さん。
そしてできれば、そいつを胸に秘めたまま、俺の恋路を応援してくれ。
俺は口には出さなかったその想いを、そのまんまこの音に込めたんだから。
「恥ずかしい奴だなこいつ……!
ここまで素っ裸の自分を躊躇いなく人前に出せるのか!
いいぞ、応援してやる! もっとやれ! もっと音出せるだろ!」
観客が湧く。
徐々に、俺の外側の音が消えて、俺の外側の景色が消えていく。
でも大丈夫だ。俺が俺自身の中に、どんどん深くまで潜っていっても、演奏が適当になるなんてことは絶対にありえない。
生身の左手。
この腕が、『演奏』を覚えている。
機械の右手。
この腕が、『想い』を憶えている。
高鳴る胸。
この心が、『歌』を奏でている。
―――母さん。天国に行った母さん。俺、好きな人が出来たよ。
腕が止まる。
体に覚えさせた動きが、自然と止まる。
俺の中の全てを出し切った。
曲の終わりを、俺は自分の中に埋没しながら認識した。
外の景色も、外の音も、自分の中に埋没した俺には聞こえない。
歓声が上がった、ような気がした。
「自分らしく在るって、なんだろうね。切ちゃん」
「デス?」
「"自分らしく在って勝つ"って、つまり相手に無くて自分にある物で勝負するってことだよね」
「そう言われてみるとそうデスね」
「マリアにも、雪音クリスにも無いもの。
あの二人が持っていない熱。
結弦だけが持っていて、大人ばっかりのこの大会で結弦だけが使える強み」
「恋心……つまり愛、デスね」
「何故そこで愛」
「いやここはそういう流れだったデスよね!?」
「そこはこう……淡い思いとか、甘酢っぱい気持ちとか、そういう表現を」
「調さん、切歌さん、もしかして結弦くん……好きな人が居るんですか!? ど、どうしよう!」
「……」
「……」
「え、ど、どうしたんですか?」
誰かが俺の手を引いてくれている。
俺は俺の中に潜行して、俺の中身を全部出しきった。
意識は徐々に、徐々に、現実に戻ってくる。
「マリアは至高に到達したエンターテイナー。
雪音クリスは音楽史伝統の技を全て自己流に扱える音楽芸術家。
結弦はその二つに対抗し、互角に戦える可能性を内包する……『自己表現者』だ」
調さんがなんか喋ってる感じがするが、聴こえない。
全力を出し切った俺の意識が完全復活し、そこで最初に目に入ったのは、"これでよかったのか"という不安と、"やりきった"という達成感の狭間でうろたえている、青髪の姿だった。
その背中を強く叩いて、感嘆の声を吐き出す。
「お疲れ。
よく頑張った。
それと、ありがとうな。最高のボーカルやったで」
「―――っ」
初めてのステージで気持ちがいっぱいいっぱいになっちまってる素人に、仲間としての賞賛をやって、観客席からの声を受け止める力をやる。
それが、今の俺のすべきことだと思った。
やらなくちゃならねえことだと思った。
このぶきっちょそうな青髪に、音楽を好きになって貰いたかった。そのために声をかけた。
ウイングは無言のままだったが、嬉しそうなそいつの背中が、何よりの答えだった。
「皆もありがとう。最高のライブやった。……世界最高のライブやった」
一人じゃ生み出せない音楽。
一人じゃ辿り着けない場所。
一人じゃ作れなかった時間。
感謝しかなかった。こいつらが女じゃなくて男だったなら、ここで全員まとめてがばっと抱きしめてたと思う。いや絶対抱きしめてた。そうしてたわ。
背伸びをして、大きく息を吐く。
自分の両手を見て、開いて、ぐっと握り締める。
そして顔を上げたところで、キャロルと目が合った。
ふと、最初にキャロルに俺のロックを聴かせた時のことを思い出す。
■■■■■
持つ、握る。擦るようにして弾く。弦を抑え、奏でる。
いい音が出れば気持ちがいい。
悪い音が出れば気持ちが悪い。
とことん突き詰めて、無心になって弾き鳴らす。
とにかくミスをしないように、とにかくインパクトが残るように、俺が好きなロックの良さを表に出すように、夢中になって弾きまくる。
一曲終了。
さあ、どうだ!
「なんか、こう……うるさいですね」
「―――」
俺は死んだ。期待した分死んだ。即死だ。
■■■■■
なんつー自己満足なロックだ。自慰と変わらん。クソの中のクソだ。
あの時はキャロルに聴かせるための曲じゃなかった。
独りよがりにもほどがある演奏で、今思い出すだけでも恥ずかしい。
俺は、あの時から成長できただろうか。
あの時よりマシになれただろうか。
うるささしか感じさせられなかった頃よりかは、この子にロックの良さを伝えられるように、なれただろうか。
なれてたら、いいな。
「俺、キャロルの中に、俺の音を残したいなって……
君の中で俺が永遠になったらいいなって思ってたら、この曲が出来たんや」
微笑むなよ、キャロル。
ちったあ恥ずかしがれよ。
ああ、多分こりゃ俺の言葉の意味の半分くらいは伝わってねえな。
これだから不適合者は駄目なんだ。
音楽使っても、想いの半分しか伝えられねえ。
「もうなってるよ。
ボクは死ぬまで、結弦くんのことを忘れたりしない。
ずっとずっと、ボクの中では大切な人のまま。この気持ちはきっと永遠なんだ!」
……でも、まあ、いいか。
俺は俺だ。俺は俺らしくこの音を奏でた。
不適合者じゃない俺は……こんな音を奏でることなんて、出来やしなかっただろうから。
この子の中に俺の音を残すことも、きっと出来なかっただろうから。
だから、これはこれでいいんだ。
俺は、不適合者に生まれてよかった。それでいいよな、うん。
バンドの仲間達と意味もなくハイタッチしてイェーイする。
心の底から信じられる仲間(付き合い一ヶ月未満)達とビシバシグッグッする。
やっべ今の俺のテンションたけー。
はたから見ればバカにしか見えねえな多分。
そんなこんなで廊下を駄弁りながら歩いていたら、マスター・マリアが悠然と現れた。
「やってくれたわね。昨日までの私なら、きっと負けてたわ」
「せなら、今日のマスター・マリアならどうなんです?」
「勝つわ、勿論。あなたの世界最高のステージを、私は更なる最高で乗り越えてみせましょう」
流石はマスター・マリアだ。
俺の過去最高の一発を見てもなお、自分の勝利を疑ってねえ。
マリアとマリアの今のバンド仲間の揺るぎない自信に、キャロル達が動揺するのが見える。
バーカ、ビビんなよ。俺達、さっき最高のライブをしたばっかだろ?
「うろたえるなや。俺達は必ず勝つ。俺はあれが最高だったと、信じてるんやで?」
信じようぜ。
うし、信じてくれたな。
あの最高の瞬間を疑ってくれるなよ、皆。
「ふふっ」
マスター・マリアが何故か微笑んだ。
何故微笑むんですマスター。
マスター・マリアが仲間を引き連れ、自信満々に壇上に上がっていく。
……やべえ。ああいう雰囲気でステージに上って、幾度となく勝ってきたのがマリア・カデンツァヴナ・イヴなんだ。
「マスター・マリアが突然腹痛でも起こして、不戦勝にならんかな……」
「ちょっと結弦くん!? さっきボクらに言ったとってもかっこいい台詞はどこに!?」
「俺は俺を信じとる! 俺の仲間も信じとる!
さっきの瞬間が最高だったことも信じとる! だがマスター・マリアも信じとるんや!」
「なんで!?」
「尊敬するロックンローラーで師匠だからに決まっとるやろ!」
「完全に自分を見失ってるデース……」
やべえ。
自分でも何言ってんのか分かんなくなってきた。
疲れてんのかな俺。
違え、負けたくないんだ。
あの最高の演奏で勝ちたいんだ!
でも不戦勝って普通に嬉しくねえな!
仲間信じてるから勝ちたいが、最強のマリアが負けるところを見るのが土壇場で怖くなってきた! というかマリアに負けるのも怖いんだよ、無理やり押さえ込んでるだけで!
俺にどうしろってんだ!
……信じて待つしかないか、やっぱり。クソッ、心臓に悪い。
俺の最高の演奏が、俺の最高の憧れを粉砕する未来を、信じる。
……仮に勝っても、嬉しいと同時に悲しみも感じちまいそうだ。
って、爆音!? なんだ!?
「まさか俺の祈りが通じてもうたせいで爆音級の排便が……なんとお詫びすれば……」
「バカなこと言ってないで! 行こう!」
キャロルに手を引かれて走る。
余計なこと考えたから変なこと言ったが、爆音級の排便ってなんだよ。ねーわ。
ステージに上った俺達が見たのは、空を見上げるマスター・マリア達と、空を見上げる観客と、空を見上げるクリスと、割れた空だった。
「さっきの爆音は空が割れた音……って、キャロル、空のあれはなんや?」
「……ノイズの大量移送の際に使われる、エテメンアンキの空間干渉だよ!」
「!?」
「この会場に向かって空いているってことは、狙いは明らか。どうしよう結弦くん!?」
狙いは俺達か。
いや、待てよ。
ここは全世界から人々が集まってる。
……エテメンアンキは、
「流石にエテメンアンキの一部の人間の独断だとは思うけど、これは……」
「キャロル、あの割れた空がそういうもんだと認識しとる人間は何人おると思う?」
「ほぼゼロと考えていいと思う。あれはエテメンアンキの機密の一つだから。
でも、あの割れた空からほどなくしてノイズが現れれば……パニックは避けられない」
『ライブ会場の惨劇』なんてタイトルで三文ニュースに報道されればいい方だろうな。
何万人死ぬかも分からねえ。
人気ミュージシャンが人を集めて、そこにノイズが現われりゃ、どんな世界だろうが大惨劇は確実だ。そんなん猿にだって分かる。
「いくらなんでも、この人数を巻き込むなんてことまで、エテメンアンキがやるんか?」
「世界を旅して来たボクが言うけど、巻き込むのが数十人程度ならきっとやると思う。
彼らの中には天秤があるんだ。
聖遺物を集めていた僕らは、数十人犠牲にしても殺すべき危険人物に認定されたんだと思う」
「……俺らのせいか」
「ごめんね……巻き込んでしまって」
「いいってことよ」
とんでもねえ奴らだ。
俺らを殺せようが殺せまいが、こんだけデカい音楽の祭典にノイズぶち込んだなら、世界的に非難されることは間違いない。
ノイズを精密に制御しようが、巻き込む人間をゼロにするなんざ無理だろう。
俺らが聖遺物集めれば世界さえ変えられるってことを認識して、数十人犠牲にしてでも今の世界を守ろうとして来たわけだ。
キャロルと俺が聖遺物を何に使うかも知らないもんな、お前ら。
不適合者が何考えてるか怖いんだろ?
不適合者が何するか怖いんだろ?
不適合者が適合者に仕返してくるんじゃないかって、怖いんだろ?
分かる、分かるさ。反吐が出る。
俺達はそれを無くしてえんだ。
合理的な選択なんだろうな、それは。
計算と打算から数十人の犠牲を選択したってのがよく分かる。
俺には到底できそうにねえよ、そんな選択。
でもな、それは駄目だろ。
『念の為』で殺すのは駄目だろ。
『必要な犠牲』で殺すのは駄目だろ。
『何考えてるか分からないから』ってだけで、こんなにも巻き込んで大勢殺すのは駄目だろ。
統一言語で、互いのことを相互理解して、その上で他人を殺すことに慣れるなよ。
頼むから。
統一言語や相互理解使えとまでは言わねえからさ。
殺される奴の痛みと苦しみを理解したら、手を止めてくれよ。
「結弦くん」
「……どした? キャロル」
「結弦くん今、奇跡を起こす前の顔してるよ」
どんな顔だよ。
「俺らのせいで世界最高の音楽対決を台無しにしたかないな。
それに何より、俺がこの小さな世界を壊させたくないんや。
最高のバンドが沢山おる。
最高の観客がズラッと並んどる。
たとえ俺達の音楽がマスター・マリアに負けたとしても、泣いて受け入れられる。
……けどなあ、ノイズに無茶苦茶にされて無効試合なんて、絶対に受け入れられへんわ」
「行くの?」
「デスデス」
「調さん、切歌さん、同行頼んます。
ウイングは初めてのライブでちょっと喉痛めとるやろ、キャロル頼むわ。守ったってくれ」
ステージに上った選手達の中から、飛び抜けて凄え奴二人に声をかける。
「クリス、マスター・マリア、力貸してくれへん?」
「結弦……私と雪音クリスに何か用?」
「歌って欲しいんや、二人に。これから会場に起こる惨劇を防ぐために」
「歌? あたしらの歌で何ができるってんだよ」
「世界を救える。んで、これからすることは世界を救うよりずっとしょぼくて簡単なことや」
普通なら信じられないことだ。
俺の言うことに従うわけもねえ。
だけど俺は、この二人と音楽で繋がっている。
俺の必死さは、"そうしないとヤバい"っていう俺の想いは、短時間で彼女らにも伝わった。
「いいぜ、何すりゃいいんだ?」
「あなたが歌に関して嘘や虚構を盛らないと信じましょう」
「あんがとさん」
そして、時間切れだ。
空の割れ目からノイズが現れ、この会場へとなだれ込もうと動き始める。
「の……ノイズだ!」
「なんで!? 私達何も悪いことなんて……!」
「あいつらがそんなこと考えるかよ! ノイズに命乞いしても意味ないぞ! 隠れろ!」
俺はステージ上のマイクを掴み、呼びかける。
「うろたえるなやッ!!」
観客の動きがピタリと止まった。
うし、これでパニックが起きてパニックのせいで人が死ぬってことはなくなった。
あとは、ロックの要領だ。
注目を集め―――音楽にて昇華する。動揺にはロックを馳走しよう。
俺は顕現した神剣ディバインウェポンを、ステージのど真ん中に突き刺す。
そして、白銀のライブ会場をそこに『創造』した。
「ライブ会場を……『創った』だとッ!?」
ライブ会場のステージは観客席に音を届かせるための構造で出来ている。
それじゃあダメだ。
俺達が奏でる音楽は、観客席じゃなくて空に届かせないといけねえ。
空へと音をぶっぱなすための構造に変化したステージに、クリスとマスター・マリアが跳び上がる。
「へっ、創ったステージには歌詞付き楽譜も完備とか、気が利くじゃねえか。
何が起こってんのか全く理解できねえが、勢いで流すのはあたし好みで悪くない!」
すかさず俺は分身する。
ドラム切歌、ベース調。
リードギター俺、サイドギター俺、サブベース俺、サブボーカル俺。
メインボーカルマリア、リードボーカルクリス。
究極の八人布陣。この陣容は、八卦を謳うッ!
俺はギターでのみ強く主張し、後はサポートに回ることで全体のバランスを保つのだ。
原初の太極より別れた両儀をツインボーカルが体現し、俺が四人に分身することで両義より生まれし四象を表現し、八人のバンドが四象より生まれし八卦を体現する。
そう。
大宇宙の真理は、全てロックンロールで表せる。
ロックは今、次のステージへと進化した。
「最高のボーカル二人で! この音を! 平和を乱す者への否定の火へと昇華するッ!!」
観客が、最高のメンツが集まったステージの上に注目する。
そうだ、ノイズなんて見なくていい。そんなもの見て怯えなくていい。
今から俺達が、ただのライブの演出以下の存在にまで、あのノイズ共を蹴落としてやる。
「世界最高のライブの後や。……どんな邪魔者も蹴散らす、世界最強のライブを見せたるで!」
即興で合わせられる。
何故ならクリスとマリアは、俺の音楽をよく知っていて、指導までした二人で。
調さんと切歌さんは、俺の音にずっと合わせてくれていた仲間だからだ。
「歌えッ!」
「「 応ッ! 」」
今日の主役は俺じゃねえ。
二人の歌姫。
この二人の歌声を、俺の旋律ベースに前面へと押し出していく。
……ああ、くそっ。
いい歌だ。最高潮の俺でやっと並べるかってくらいに、いい歌だ。
二人のデュエットが、二人を高め合ってる気すらする。
最高だ。だから好きなんだよ、この二人の歌。
そいつを自分の音が高めてるってことに、誇らしさを感じちまう。
演奏を続ける。
ありったけの想いを込めて弾きに弾く。
ああ、ずっと弾いていたい。
楽しい。この時間が終わって欲しくない。
贅沢すぎんな、俺は。
対戦形式って形で競い合うより、こうやって一緒に奏で合って、響き合って、互いの音楽を高め合って……そんな時間を、永遠に続けていたい。
音を束ねて、ノイズにぶつける。
彼女らと作り上げた音を、聖遺物の力で波動に変え、空のノイズにぶつけ続ける。
そんな物騒な時間だってのに、楽しくて楽しくて、嬉しくて嬉しくてしょうがない。
ノイズがあまりに多すぎて、俺達の音楽を束ねてぶつけても押されている。
まるで空の割れ目から噴き出す洪水だ。
このままじゃノイズに押し切られちまう。
なのに、心は高揚したままで、恐怖を欠片も抱けない。
しょうがねえだろ。
この二人は俺の音に惚れてないだろうけどよ、俺はこの二人の音には惚れてんだ。
……浮気性にもほどがあんなぁ、俺。
惚れてる人が居るってのに、歌にも惚れちまうんだから。
「―――♪!」
そんなことを考えていたら、俺達のバンドの音の厚みが一気に増した。
「……!」
気付けば、クリスとマスター・マリアのバンド仲間達までもが、ステージに上っていた。
「俺らも混ぜろよ」
クラシックの要領で、音の厚みを増すだけの地味な演奏を開始する彼ら。
楽器は増えれば増えるほど、他ジャンルが混じれば混じるほど、雑音になってしまう可能性が上がってしまうってのに。
彼らは仲間であるマリア&クリスに合わせ、プロからすれば屈辱だろう地味な音の背景に徹し、卓越した技術で音の波長を合わせることで、一切雑音を混ぜずに俺達の援護をすることに成功していた。
胸が熱くなる。
胸が騒ぐ。
胸の歌が熱々のまま吹き出してきて、俺の手の内のギターから飛び出していく。
最高だ。
ノイズにビビんねえ、楽器一つ手にしてノイズに立ち向かってくれてる、名前も知らねえロックンローラー達の熱さが肌に心地良い。
俺の音、仲間の音、ロックンローラー達の音。
全部束ねて、世界を救う神剣にぶち込み、ギターになった神剣に固着化させる。
そしてそのギターを、ステージに振り下ろして叩き折った。
「こいつが! 俺の! ……いや、『俺達』のッ!」
皆の最強の音楽に、最後にギターが折れた音が加わりハジけ、空のノイズ軍団へと命中。
「―――『ロックンロール』やッ!!」
割れた空ごと、跡形もなく吹っ飛ばしていった。
「お……音楽が……ただの音楽が……」
「ロックンローラーが……ロックンロールで……」
「ノイズを……倒したッ!?」
会場の皆がざわめいている。
やっぱりな。
近年はロックンロールが衰退気味で、甘く見られてると思ってたんだ。
とんでもねえ。
ロックはそんな甘く見ていいもんじゃねえんだよ。
「俺達はライブの邪魔をする
それが大統領だろうと、神様だろうと、ブッダだろうとなッ!
俺達の人種を忘れるな!
俺達は、想定外の邪魔な
ロックこそが、最強の音楽。
「―――『ロックンローラー』やッ!!」
感動したなら!
聴いて楽しむだけじゃなく、気が向いた時にでも、ギター買ってロック始めようぜ!
俺の知る限り、マリア・カデンツァヴナ・イヴと雪音クリスは世界トップクラスの歌姫だ。
それに匹敵できそうなのは、意外にもあのウイングくらいしか心当たりがない。
まあそんな凄え二人とのライブだ。
大満足だ。
もうこのまま日本帰っちゃっていいんじゃねえかってくらい満足。
……あ、イチイバルのこと忘れてた。やっべー。ごめんなキャロル。口に出すと俺の評価が下がりそうだから心の中だけで謝っとく。
「世界最高のライブ、んで世界最強のライブか」
クリスがそんなことを呟いている。
なんか、楽しそうだな。今まで見たコイツの姿の中で一番楽しそうだ。
「……あー、楽しかった。満足した」
「待ていクリス、まだ大会は終わっとらんのやぞ」
「これで大会続けられるか、アホ。脳味噌不足忍者。
あたしの対戦相手もノイズで動揺して逃げちまったよ。
こんだけ大騒ぎになって、大会続けられると思ってる方がアホだ」
「む……あ、いや、脳味噌不足忍者はやめてくれへんか」
流石にお前にアホと言われるのは納得いかねえぞ。
お前の方が俺よりバカっぽいと思うぞ。
そう思うが言わないのが大人の証。わざわざ問題を起こすことはない。
怒りっぽいクリスは言ったら蹴って来そうで、そうなったら対応に困っちまう。
「おい、係員! 優勝トロフィー持って来い!」
「え? いやしかし……」
「大会なんざもう終わってんだうだうだ言わず持って来いッ!」
「は、はいぃ!」
ほらこういう怒りっぽい子なんだから面倒臭えんだよ。
あーめんどくせ。身体能力が別に高くないくせに行儀が良くて、口が悪くて、なんかうっかり手や足が出そうになってるお嬢様とかどう扱えばいいんだ。
多分殴られても痛くないが、なんか対応に困るぞ。
クリスの手足ほっそ。細くて柔らかそうでめっちゃ女の子してる。
しかし髪の毛の色のせいもあってもやしにしか見えねえ。これから心の中で時々こっそり雪音クリスを雪国もやしと呼ぶことにしよう。
「はい持ってきましたぁ! 優勝トロフィーですぅ!」
「よしよしよくやった。おいマリア、結弦、こっち来い」
クリスに呼び寄せられたマスター・マリアと俺が、クリスと一緒にトロフィー持たされて、ステージから観客に向けて三人一緒にトロフィーを掲げる。
「『あたし達』がこの大会で最後までステージに立ってた、最強のロックンローラーだ!
異論がある奴は前に出ろ! ロックで勝負仕掛けてくるなら、いつでも受けて立ってやる!」
一瞬、静まり返る会場。
やがてまばらに拍手が現れ、次第に拍手の波が広がっていく。
最終的には拍手が聞こえなくなるくらいの大歓声と賞賛が、俺達を包み込んでいた。
……あー、さっきの対ノイズ演奏だな。
この『三人セット優勝』に文句が出て来ないくらいには、あれに感動してくれた人達が沢山居たのか。
ノイズを歌が消した奇跡への感動か。
それとも衝突すると思われた二人の歌姫のデュエットに対する感動か。
まあ、俺にとっちゃどうでもいい。
最高のライブ、最強のライブ、どっちもやれたんだ。それだけで大満足だぜ。
「最後に歌って、最後に勝った、そいつが勝者だ。あたしが誰にも文句は言わせねえ」
「ええ、そうね。これもそういえば、バンドで勝ち上がるものだったものね」
「……かっこええ決着の仕方しよってからに」
「嫌いか? あたしは好きだぞ」
「俺も好きや、気が合うなぁ」
あそこからアドリブでこんな決着の形見せてくるんだから、雪音クリスも侮れねえ。
一歩引いて見守ってるマスター・マリアも放っておいたら同じことしたかもしれん。
まだ修練が足りねえな。
俺がこの二人に敵わねえと思ってるのは多分、俺がまだ一流じゃねえからだ。
「クリス、結弦。また一緒に歌いましょう。今度は勝負じゃなく、世界ツアーででも」
「いいぜ、結構楽しそうだ」
「俺世界ツアーと聴いただけで気絶しそうなノットプロのパンピーなんやけど!?」
こいつらと肩を並べても平気な顔ができるような人間になりてえ。
ハッキリとした目標が、俺の中にまた一つ増えた。
旅は出会いと別れのデュエットのようなもの。
出会って嬉しい時もあり、別れて悲しい時もある。
トロフィーから俺がイチイバルを回収し、神剣の完成度は5/7。
残るは日本にあるという神獣鏡と、所在不明のガングニールだけだ。
日本に向けて旅立つ俺達を、色んな人が見送ってくれた。
「お前が会場で見せたラブソング、こっ恥ずかしかったがあたしは好きだぜ。また会おうな」
激闘の果てに分かりあったライバルみたいな雰囲気で一言だけ別れ告げて消えてくなよクリス。
「自分の弱さを乗り越えたいと思った時、また来なさい。
また稽古をつけてあげる。私を超えることが目標なんでしょう?
このグラサンをあげる。有名になって顔を隠したいと思った時、使いなさい」
初対面の時の台詞を引き合いに出されて、マスター・マリアに微笑まれてしまえば、俺のような未熟者は頭を下げるしかない。
……マリア超えは本気で言った台詞だっていうことを、師匠は気付いていただろうか。
このグラサン、一生大切にします。
ロックンローラーにとっちゃグラサンは、ある意味一人前と認められた証だ。他の誰でもないマスター・マリアからそれを貰えたことが、例えようもなく嬉しかった。
「またね。今度は私もバンドに混ぜてくれると嬉しいな」
「今度はアフリカの方に行くので縁があったら会いましょうデス」
「もう私に教えることはない……」
セレナさん相変わらず欠点見当たらない美人だな。
しかし切歌さんはいいとして、調さん何その免許皆伝に至った師匠風の言い回し。
真顔でボケる子だったか、この人。
大会でぶつかった他のバンドの人なんかにも見送られて、俺達はこっそりウイングがこの国に来るために使った隠密用ジェットの隠し場所に向かい、乗り込む。
アメリカの空港も海港も全部エテメンアンキに見張られている。
俺達は最先端の忍法を参考にして作られたこの隠密機で、こっそり日本へと帰るのだ。
「な、な、ウイング俺が前にした話覚えとるか?」
「結弦、お前のベタ褒めはお世辞ではないのか? 私が歌手になるなど……」
「絶対向いとるって! 紅白出れるて!
俺の音楽に感動したんやろ?
せやったらウイングには、俺よかもっと凄い音楽も生み出せるんやって、絶対!」
「そう言われても……」
「また同じ舞台に立とうや! 今回やったツインボーカルめっちゃ楽しかったやろ?」
「し、しかしだな……」
日本へ帰るまでにコイツを俺のバンドのメンバーに仕立て上げる。
それでベースでもウイングが覚えてくれりゃ、キャロルがドラムを覚えてくれるだけで俺の専用バンドが一個完成する。
いい。いいな。俺の専用バンドとかいう響き。
まずはこのバンドで日本の天下を取ってやるぜ。
俺とコイツのツインボーカルなら、多分あっという間に取れる!
「結弦くん、ボクよりその人のことの方が好きになったんですか? 歌の才能があったから……」
「いや、全くそないなことないけど。キャロルが一番やで」
「い、一番って……別にそこまで言わなくても……」
「キャロルは俺が近くに居りゃええんやろ? 大丈夫、裏切ったりせんよ」
やべー、始まる前からバンド解散の危機だった。
最低三人居ないと話になんねえからな。
あ、ウイングが深く深く溜め息吐いた。
「翼だ」
「ん?」
「え?」
「風鳴翼。私の名前だ。お前達の信頼に……
私も、本当の自分で向き合わなければ失礼であろうと、そう思ったのだ」
「お前偽名安直、つか偽名ダサって思っとった俺が思わず閉口するこの衝撃……」
「!?」
「次から偽名は俺らに相談するんやぞ。
俺とお前の仲や。お前の悩みは俺がなんでも聞くさかい、遠慮なく相談せえよ」
「お、お前は! 本名明かした途端一気に心の距離を詰めに来るな! どういう人種だ!」
はっはっは、アメリカ出てようやく素直になりやがって。
てめえにはなんとしてでもうちのボーカルになってもらうからな。
「結弦くん、寂しくない?」
「ん?」
「ボクには、結弦くんがアメリカで別れた人達が、皆結弦くんの大切な人に見えたから」
そりゃそうだ。
良い音楽を奏でる人は全員俺にとっちゃ大切な人だ。俺より上手い奴死ねとも思うが。
顔も性格も知ってるなら、なおさらにな。
「また会える。必ず」
だけど、寂しいわけがない。
「俺達はどこに居ても、音楽で繋がってるんやから」
俺達に音を奏でる手足と喉と、音を聴く耳がある限り。
音を奏でることを続けていれば、また必ず会えるさ。
少なくとも、俺はそう信じてる。
終盤戦が見えてきました