魚雷を捕獲してから二日後、零夜達はテレビにて所属不明の艦隊に国防軍の警備艦が次々と撃破されているニュースを見ていた。
「これはっ・・・戦争が、始まるのですか・・・?」
深雪が思わずといった様子で呟いた。それと同時に桜井は避難の準備を始めた。一方、達也は無線にて国防軍と連絡を取っていた。二言三言会話をした後、無線を切り達也は深夜に一礼しながら報告をした。
「奥様。風間大尉より、基地内のシェルターに避難してはどうかとの申し出もいただきました」
深雪がどうして急に風間大尉からそんな提案がなされたのか疑問に感じる中。
「お話し中失礼いたします。奥様、真夜様からお電話です」
「叔母様からっ!?」
その報告に驚いたのは深雪だ。何故なら、深夜と真夜の仲があまりよくないのを知っているのだ。
「もしもし、真夜?」
「久しぶりね、姉さん。単刀直入に言いましょう。国防軍に話を通しておきました。私から言えることはそれだけよ」
それだけ言うと真夜は電話を切ってしまった。
「では、先程達也君が受けた電話は・・」
「折角骨を折ってもらったのだから、ここは素直に甘えましょう」
その言葉を皮切りに各々が避難の準備を始める。零夜も自室に戻り荷物をまとめる。そして、いざ避難しようとしたところに国防軍から迎えがきた。
「皆様を基地へご案内いたします」
「状況を教えてください」
そう言ったのは桜井だ。彼女は深夜達を守るために、少しでも情報が欲しいのだろう。
「国防軍は現在、敵潜水艦隊と交戦中。敵軍の詳細は未だ判明折りませんが、水際で奇襲を食い止めることに成功しています」
「陸上では戦闘は起こっていないということですか?」
「恐らくは。しかし、ゲリラなどの可能性もあります」
「更に言えば、スパイが動き出すかもしれないな」
ここで声を上げたのは零夜だ。彼は原作知識により、この車の運転手が向こう側の人間だと知っている。そのため、あえてこう言うことで釘を刺したのだ。気づいているぞ?というわけである。
「否定できません。可能性がある以上、皆さまは基地につき次第速やかにシェルターに避難してください」
誤魔化すように言葉を急がせたのに気が付いたのは深夜と達也、そして零夜だけだった。
「クソッ!いつまで待たせる気だ!」
そう怒鳴り散らしているのは身なりの良さそうなポッチャリ体系の男だ。ここは、地下シェルターの連絡通路。此処まで連れてこられたはいいものの、一向に迎えが来ないのだ。
「迎えがこないわね」
不審そうに呟いたのは深夜だ。桜井もそれに同意するように頷いている。そして、彼らの中に密かに覚悟を決めている者がいた。深雪だ。彼女は自分の魔法に自身がある。これは自惚れでもなければ誇張でもない。客観的に見て、彼女の魔法は並の大人を凌駕する。が、そんな深雪を見越してか達也が口を開く。
「大丈夫だよ、深雪。俺が付いてる」
途端、顔真っ赤にさせて硬直する深雪。この光景を隣で見ていた零夜は「妹を口説き落としてどうする」と内心で突っ込みを入れていたりする。
「あのっ」
「しっ。静かに」
深雪が声を掛けようとした時、達也が鋭い声でそれを制した。一拍後、聞こえてくるのは銃声だ。
「達也君、状況はわかる?」
「いえ、ここからでは・・・。どうやらこの部屋の壁には特殊な効果があるようです」
「そうね、それにその仕掛けがされているのはこの部屋だけじゃないみたいね」
達也と桜井が互いに得た情報を共有しあっている中、零夜は荷物からホルスターとCADを取り出し装着していた。
「零夜くん?何してるの?」
それに真っ先に気が付いたのは桜井だ。物音がすると思って振り向いてみれば、零夜がCADを武装していたのだ。
「何って、戦闘準備ですよ。こんな状況じゃあどう考えても軍がきな臭い。スパイか何かがいるという線を警戒した方がいいんじゃないでしょうか」
対する零夜の答えは冷静なものだ。こんな事態になっているにも関わらず、12歳の子供が動揺すらしていないのだ。桜井は不審に思って零夜を見つけてみると、その目を見て全てを理解した。彼は全て覚悟しているのだ。自身の死、家族の死、もしくはそれ以上に惨たらしいことをされる覚悟があった。何より、人を殺す覚悟を秘めていた。だから、桜井はそんな零夜に止めろと言うこともできずに一言、こう口にした。
「気をつけてね」
「分かってますよ。これでも神童ですよ?」
零夜はいたって自然体だ。そのことに安心した桜井は周囲の警戒に意識を回した。と、ここで深夜から達也に指令がくだされる。
「達也、外の様子を見てきなさい」
「しかし・・・今の自分の技能では離れた場所から深雪を守ることは・・・」
達也は離れてしまっては深雪を守れないと、拒否しようとするが・・・。
「『深雪?』身分をわきまえなさい。達也」
「失礼しました」
しかし、達也が離れて深雪を守ることが出来ないのもまた事実。そこで。
「達也君、深雪さんのことは私に任せて」
「お願いします!」
桜井の提案に一言、そう言って達也は駆けだした。達也がこの場を離れて間もない頃。
「失礼します!空挺第二中隊の金城一等兵であります!」
そう言って入ってきたのは、”
「皆さんを地下シェルターに案内します。ついてきてください」
「すみません。連れが一人外にでているのですが・・・」
「ですが、ここに留まるのは危険です」
この発言に彼らを信用していない深夜は異を唱えた。
「でしたら、あちらの方々を先にお連れくださいな。大切な息子を見捨てて行くわけにはまいりませんので」
その発言を気にもう一組の避難者の内の男が声高々に叫びだした。
「その通りだ!君!我々だけでも先に案内したまえ!」
その隙に桜井が深夜に耳打ちをする。
「達也くんでしてら合流するのも難しくないと思いますが・・・」
「分かってるわ。あれは建前よ。私の直感があの人たちを信用するべきではないと言っているわ」
その言葉に桜井と深雪はハッと思い至った。そう、深夜の直感は普通ではないのだ。かつて”
「母上の言う通りだな。どう見ても挙動や現れるタイミングが不自然だ。信用するべきではない。だが、下手に手を出せば国際問題だ。どうしたものか・・・」
更に、いつの間にか隣まで来ていた零夜がそう言ったことによって、二人は警戒レベルを最大まで引き上げた。零夜は天才的な演算の能力を持つ。その零夜が不自然だと言っているのだ。確実に警戒に値する根拠になりうる。
「申し訳ありませんが、一緒に来ていただきます」
強引にでも連れて行きたいという感情が見え隠れする金城を見て、漸く深雪と桜井も不自然さに気が付いたのだった。その時。
「ディック!その人たちに何をするつもりだ!」
その言葉と共にこの部屋に飛び込んできたのは桧垣とその他数名の国防軍の人間だ。対する金城達の返事は銃撃。
「やはり裏切ったのかっっ!」
「早く隠れろ!」
桧垣の怒りと困惑が伺える声と、遮蔽物に隠れようとするもう一組の避難者達の声が響く。
「お三方とも、そこから動かないでください。お護りいたします!」
「じゃあ、俺は桜井さんを護ろうかな」
そう言って前に出たのは桜井と零夜だ。桜井が周囲にバリアを張り、更に桜井の前に零夜が陣取った。
「ちょ、零夜君!?後ろに下がって!」
「それは出来ない相談だ。俺じゃ二人同時に護るのは無理だ。なら全体を護れる桜井さんを護った方が合理的だ」
「それは・・・・」
あまりの正論に結局、桜井は言い返すことが出来ない。実際その通りなのだ。零夜は干渉力が優れている。そのため、並みの魔法では彼の干渉装甲を突破することができない。しかし、それは彼に限った話である。元々、彼が使える魔法は攻撃寄りなため、防御の手段が乏しいのだ。
「障壁魔法だと!?」
こちらが魔法を展開したのを見た”
「ぐッ、まさか・・・この壁にキャストジャミングを増幅する仕組みがあったのかよ・・・。まずい、これじゃ魔法が使えない」
まずは、どうにかしてキャストジャミングを止めないと、と顔を上げた零夜の前にはライフルをこちらに向ける軍人隊。彼に出来たのは咄嗟に3人に覆いかぶさることだけだった。何発もの銃弾が体を貫き、彼の下敷きになっている桜井にまで貫通していく。零夜は激痛に耐えながら、途切れそうになる意識を繋ぎ留め時間を稼ぐ。そう、達也が帰ってくるまでの時間だ。
果たして、何秒経っただろうか。激痛に耐える零夜にはこの数秒が数分、数時間にも思えていた。とうとう、彼らのライフルが弾切れを起こすのと、達也が戻ってくるのは同時だった。達也が深雪の名前を叫びのと同時に、零夜の意識は闇に沈んだ。
零夜が目を覚ましたのは、達也と深雪が無事を喜びあった後、達也の魔法で蘇生された時だった。
「達也君にこんな力があったなんて・・・」
「無事を喜ぶのは結構だが、もうちょい早く助けてくれても良かったんじゃないか?兄さん。俺、割と壁役として頑張ったと思うんだけど」
零夜がそういうと達也はサッと顔を逸らした。はぁ、とため息をついて立ち上がる零夜。深雪は零夜と達也が親しかったのを知らなかったため、目をパチクリとして驚いていた。その後、やってきた風間大尉から伝えられたことは今回の件の謝罪、そして出来るかぎり国防軍として便宜を図らせてもらうというものだった。
「では、まず正確な状況を教えてください。敵を水際で食い止めているというのは嘘ですね?」
達也の確信したような言い方に風間大尉は嘘をついても無駄だと悟ったのだろう。先程、便宜を図ると言ったこともあって、正確な状況を伝えることに。
「敵の潜水揚陸部隊が既に上陸を果たしている。慶良間諸島付近も敵に制海権を握られ、地上でもゲリラが多発している。」
「想像以上にひどい状況ですね」
「だが、ゲリラは既に八割方制圧している。軍内部の裏切り者ももうすぐ片付くだろう」
「では、次に母と妹と桜井さんをこの基地で最も安全な場所に保護してください」
「・・・わかった。基地内で最も装甲の厚い防空指令室へ案内しよう」
「最後に、アーマースーツと歩兵装備一式を貸してください。借りる・・・とは言っても消耗品はお返しできませんが」
「戦場に出る気かね?」
「『彼らは深雪に手をかけました。その報いを受けさせねばなりません』」
達也の何時になく感情のこもった声に皆が沈黙する中で異を唱えるものが一人。
「兄さん。当然、俺も連れて行ってもらえるんだよな?」
そう、零夜である。彼は元々、戦争に出るつもりで準備してきた。それを先程あんなミスで結局、深雪を死なせてしまったことを悔いていた。だからこそ、二度と手出し出来ないように叩き潰すのだ。
「言っても聞かないだろう。好きにしろ」
そこに口をはさんだのは風間大尉だ。当然だ。彼は軍の指揮官なのだ。戦場で勝手なことをされるわけにはいかない。それに、子供一人で戦場に送り出す気など彼にはなかったのだから。
「君たちだけで行くつもりか?」
「自分達がなそうとしていることはただの個人的な報復です」
「それでも別に構わないのだがな。非戦闘員や投降者の虐殺などを認めるわけにはいかないが、そんなつもりはないのだろう?」
「投降の暇など与えるつもりはありません」
「俺も、ですね。視界に入った瞬間に消えてもらいますので。投降するなど許すつもりはありません」
零夜達がそういうと、風間大尉は満足そうに頷いてこう言った。
「君たちを我々の戦列に加えよう」
「軍の指揮に従うつもりはありません。護りべきものが違いますから。ですが、目的が同じであるなら肩を並べて戦いましょう」
「俺からもお願いします。大義名分がなければただのテロリストになってしまうので」
「よろしい!本体は十分後に出撃する!!」
風間大尉はそう宣言した後、作戦開始のために移動を開始した。当然、彼らと共に戦う零夜と達也もその後を追う。そこへ。
「お兄様!零夜!あ、あの・・・行かないでください!いくら何でも危険すぎます!何もお兄様たちが行く必要なんて・・・」
「俺は必要だから行くんじゃない。自分のために行くんだ。深雪、俺が本当に大切だと思えるのはお前だけなんだから」
「え、それはどういう・・・」
「姉さん。聞きたいなら母上に聞くいい。きっと今の姉さんなら教えてもらえるだろう」
零夜はそう言い残し、達也の後を追うのだった。
戦闘用スーツを着た達也が戦場を闊歩する。彼のCADが光るたびに敵が分子レベルで分解され、死んでいたはずの味方が起きあがる。その少し離れたところには零夜がいた。彼はいつも通りの服装で、まるで街を歩くかのように軽やかに歩みを進める。敵が銃を、魔法を放てばそれが零夜の周囲で悉く反射され、もしくは地面に堕ちる。
彼のやっていることは説明だけならば簡単だ。彼が先天的に持っている知覚系魔法〔
攻撃が弾かれ、堕とされ。そして彼のCADが光るたびに敵が一人塵になる。やっていることは簡単だ。重力を敵の中心に発生させ、それが自身の体を吸い込み塵にするほどに重力を大きくしているだけだ。
どうしてこうも一方的になるのか。それについては彼が生まれ持った魔法が影響している。彼は達也同様に特異な魔法を持って生まれてきたのだ。達也と違い類い稀な才能を持って生まれた零夜だからこそ、生まれ持った特異な魔法と魔法演算領域の両方を超高水準で保持することが出来たのだ。要は、才能という所持ポイント1000から10振り割ろうが20振り割ろうが大した違いは無いのだ。
そして、彼が生まれ持った魔法。それは〔
達也と零夜の猛攻に恐れをなした敵軍が次々と白旗を上げる。仕方がなく零夜は追撃をやめ、達也は追撃をしようとして風間大尉に止められていた。後は、捕虜を連れて帰還といったところで風間大尉の元に海から敵の艦隊がこちらに向かってている。という報告が来た。零夜と達也はそれぞれがその艦隊に対処する術があると志願。結果、風間大尉の部下数名と零夜と達也による艦隊の迎撃作戦が開始された。
零夜の役割は至って簡単。達也のマテリアル・バーストの射程が敵艦隊より短いので、達也がマテリアル・バーストを放つまで彼を護るだけだ。零夜が達也の前に立ち、達也が敵の艦隊が魔法の射程距離に入るのを待つ。幾つもの砲弾が飛んでくるが、その悉くが撃墜される。まだまだ余裕がある零夜は時々ダブルハウンドを使い敵艦隊に嫌がらせもしている。
そして、とうとう敵が射程内に入った。次の瞬間
―――マテリアル・バースト発動
敵艦隊の中心で大爆発が起こり、全ての艦を飲み込んでいく。原作ならばこれで終了なのだ。終わった、と安堵していた零夜だが、風間大尉たちの切羽詰まった声に意識を引き戻される。津波が発生したのだ。
「あの爆発、奴ら何か積んでいたなっ!くそっ、避難が間に合わん!!」
原作とは違い、大亜連合は爆発物を所持していたのだ。それが、マテリアル・バーストによって連鎖的に爆発を引き起こし、結果津波が発生した。風間大尉達が迫りくる津波に対し、必死になって打開策を考えているのを見て零夜は前々から考えていた魔法が使えるのではないかと思いいたった。
「俺の魔法なら何とか出来るかもしれません。ただ、あれよりひどい二次災害になる可能性もゼロではないですが・・・」
「構わない。もし生き残る可能性があるのなら使ってほしい。どうか」
そう言って風間大尉は頭を下げた。責任は全て私が背負う、と。ここまでお膳立てされて怯む零夜ではない。彼は膨大なサイオンを解き放ち単純明快な魔法を行使する。〔加重系統〕で重力場を発生させ〔収束系統〕でそれを収束する魔法だ。だが、それを零夜ほどのサイオンと干渉力を持つ人間が行えばどうなるか。それに加えて、〔
―――ブラックホール
その答えがこれ。全てを飲み込む暗黒。津波どころか、海までくらおうとしたところで重力場が崩壊。津波が消失したことにより、荒れ狂っていた海が少しずつ静かになっていく。この魔法の行使が初めてだった零夜は内心ビクビクしていたりする。
(あぶなっ。上手い事威力の調整と重力場を消せて良かった。自分で作っといて何だが、この魔法ホントにあぶねー。下手すりゃ全て飲み込んで何も残らないとか怖すぎ。極力使うのは控えようかな・・・)
後に、本人の意思にかかわらず、この魔法は戦略級魔法に認定され、零夜に対し命令が下った場合以外での使用を禁止、という措置が取られた。これが後に【魔王】と恐れられるようになる戦略級魔法師の誕生の瞬間だ。
書いている途中で疲れてきて、後半少し雑になっています。
ギリギリ、戦略級魔法まで書けました・・・。
魔王の瞳についてこうしてみてはどうですか?と、感想をいただいたので、少し設定を追加してみました。
〔具現化する幻想〕の設定ですが、世界観や、魔王の瞳の能力の設定上、"TYPEMOON"の設定とは少し違うものになっています。