[疑 念]
生徒会指導室に由比ヶ浜の怒号が鳴り響く。
「なんでいろはちゃんが!?」
「由比ヶ浜さん落ち着きなさい。まだ一色さんだけの仕業と決まったわけじゃないわ…ここには”生徒会執行部生徒会長 一色いろは”としか書いていない。代表として書いただけで、もしかしたら生徒会の総意かもしれないわ」
確かにその可能性もあり得る。だが裏を返せば生徒会長である一色の意見でもあるということになる。
「とにかく、ここで水掛け論をしていても意味がない。生徒会に直接聞きに行きましょう…先生今日は生徒会の活動は?」
「ちょっと待っていてくれ。確認してくる」
平塚先生はそう言って一度席を外した。
「………」
「由比ヶ浜さん…一度落ち着きましょう?気持ちは分かるけど落ちこんでいても何も始まらないわ…」
沈んだ様子の由比ヶ浜を雪ノ下は宥めるように手のひらを背中に置く。俺はその間状況を整理していた。
奉仕部(ここではこの際他の部の事は置いといて)は特にこれといった活動実績もなく、また、学校は進学校というのもありそのような部活に予算を振り分ける余裕はない。というのが廃部の理由だ。
まぁそりゃ進学校である総武校の生徒がただただ遊びのために勉強する時間を削り、部活動をしているなど認められるはずがないからな。当然何かしらの活動実績が必要だ。
その点奉仕部は生徒会に幾度となく、協力を求められそれに対応してきた。証拠は無いが生徒会がそれを認めてくれれば十分な実績になるはずだ。
(一色…どうしたってんだよ…)
状況を整理していると生徒会のスケジュールを確認しに行った平塚先生が戻ってきた。
「待たせてすまないな…生徒会の予定だが今日は生徒会室で作業を行っている。とのことだ」
「ありがとうございます。じゃあ由比ヶ浜さん行きましょう?」
「……」
「失礼しました」
俺たち三人は生徒指導室を後にし、生徒会室へと向かう。
「着いたわよ」
今まで俯き下を向いて歩いていた由比ヶ浜に雪ノ下は到着を知らせる。
―コンコン
「どうぞ」
中から女の子が返事をする。ドアを開け、中を確認する。その場には副会長、書記の二人しかいなかった。
「どうかしましたか?」
先ほど返事をしてくれた書記ちゃんが何事かと尋ねてきた。
「一色さん…生徒会長はいますか?」
「あ、今日彼女風邪ひいて休んでいるらしくて、今日は私たち二人だけなんですよ」
「そうか…じゃあちょっと聞いてもらいたい話があるんだが…入ってもいいか?」
残念ながら本人はいなかったが、とりあえずこの二人に何か事情でも知っていないか聞くことにした。
「あ、あぁどうぞ。そこに座って」
用意されたパイプ椅子に俺たちは座り、いよいよ本題に入る。
「まずこの書類なんだが、何か知っているか?」
俺は書類を二人の前に差し出し問う。
「……」
少しの間を置いて、副会長は話し始めた。
「これはつい先日、一色生徒会長が急にその日になってから問題があるって持ってきたやつだな」
(やはり一色が…)
「そうか…その日一色に何か変わった様子とかなかったか?」
「うーん…」
「………」
「どうかしたか?」
「あ、いえ…変ってほどではなかったんですけど…あの日の一色さん誰かを頼ろうとしなかったんですよ。その時は生徒会長として風格出たなー…って思ってたんですけど…」
「それ以外は?」
「その準備の良さにはびっくりしたかな。問題点もしっかりまとまっていたし、それに対する対応策もできていた」
「じゃあいろはちゃんがこの話を持ってきたってこと?」
今まで感情を押し殺して黙っていた由比ヶ浜が口を開く。
「まぁ…はい。奉仕部については生徒会の手伝いもしてもらっているから対象外では?って言ったんですけど、他の部活の事もあるし、一部活を優遇すれば後々問題になるからと言われて…」
「そう…なんだ…」
再び由比ヶ浜は黙りこくってしまう。
「とりあえずわかった。じゃあ二人は奉仕部を廃部にする事に反対じゃなかったのか?」
「そりゃそうだ。とてもお世話になってるし。だから不思議でしょうがなかったんだよ…あれだけ奉仕部を頼りにしていた会長が奉仕部を見限るようなことをしたのが…」
「…わかった。サンキュ。すまん、仕事の邪魔して。雪ノ下、由比ヶ浜行くぞ」
「えぇ…」
「………」
こうして俺たちは疑問を抱えたまま生徒会室を後にして、一旦俺たちは奉仕部の部室へと戻った。
「いろはちゃん…奉仕部が嫌いになったのかな…」
由比ヶ浜は今にも泣きだしそうな顔をしている。
「…由比ヶ浜さん。そんな事はないはずよ…あれから毎日のようにこの部室に来ていたのだもの…」
雪ノ下の言ったように一色はあのクリスマス以来この部室にほぼ毎日のように来るようになった。その理由はわからないが特に用事もないのにいたこともあった。
「じゃあ何でいろはちゃんはこんなことを?」
「………」
由比ヶ浜の疑問はもっともだ。なぜ一色は急にこんなことを?あいつの全てを俺は知っている訳ではないが、少なくとも理由もなくこんな事をする奴には見えなかった。
あいつは楽しそうな事は率先してやるが、面倒くさそうな事は頼まれない限りやらない。そんな女の子なはずだ。
しばしの沈黙の後由比ヶ浜は逃げるように鞄を持ちドアの方へと向かう。
「由比ヶ浜さん?」
「…ごめん…ゆきのん…あたし今日は先に帰るね…じゃあゆきのん、ヒッキー…バイバイ…」
この部活を一番に大切にしていたのは由比ヶ浜だ。落ち込むのも無理はないだろう…
その姿に雪ノ下も止める気にはなれなかったようだ。
「…えぇ…さようなら…気を付けて…」
「あぁじゃあな…」
俺も帰ろうとは思ったがすぐに帰るのは違う気がして帰れない。
どうしたものかと考えていると雪ノ下は口を開いた。
「…比企谷くん…あなたはいいの?」
「…何がだ?」
「あなたは元々この部活を辞めたがっていたじゃない。なら今の状況はあなたにとって望む展開じゃないのかしら…」
「…まぁ正直部活が無ければ自分の時間は増えるし、小町といる時間も増える。それにこの部活にいれば厄介事ばかりだしな…」
「だったら」
「だが、あの依頼は終わっていない」
遮るようにして俺は自分の言葉を否定する。
「俺から頼んでおいて俺が早々に諦められるかよ。それに来年には小町が入学してくる。あいつは奉仕部に行ってみたいって言ってたんだよ。この受験で大事な時期にその奉仕部はもう無くなりましたなんてモチベーションが下がるような事言えるかよ…」
「比企谷くん…」
「だから…まぁ…なんだ。奉仕部には残ってもらわなきゃ困る」
「…ふふ…そうね…」
雪ノ下は綺麗な笑顔を浮かべていた。
「それに…いや今はいい。雪ノ下。俺も今日は帰るわ」
「えぇ。わかったわ。鍵は私が返しておくからあなたは先に帰っていいわよ」
「ああ…すまん」
そうして俺は帰路に就くのだった。
”To 一色いろは”
”FROM ”比企谷八幡”
”聞きたいことがある。風邪が治って登校したら連絡くれ。”
帰る途中、前に一色に教えてもらったアドレスに一本メールを送った。
後は返事を待つだけだ。
[再 会]
その二日後の水曜日の朝。メールに1件の通知があった。いかがわしいサイトからのメールじゃないと信じつつメール受信ボックスを開く。
”一色いろは”
そこには一色の名前があった。ひとまず安堵を浮かべ内容を確認する。
”今日から登校します。話は昼休みに生徒会室でいいですか?”
”あぁ。頼む。”
と事務的なメールを返し俺は制服に着替え学校へと向かう。
一色に何かあったのはまず間違いない。それはメールを見れば一目瞭然だった。前にメールを送ってきていた時は顔文字、絵文字などとにかくあざとい感じが満載だったのに、今日来たメールは俺が返したような事務的メールだったのだから。
時変わって昼休み。場所は生徒会室前。いつもは特にそんな感じはしなかったが、今日はどことなくそのドアが開けづらく感じる。だからといって呼び出しといて帰る訳にはいかない。勇気を振り絞ってドアをノックする。
-コンコン
「どうぞー」
中から聞きなれた声が聞こえた。
「入るぞ」
「あ、先輩おっそーいー」
「いや授業終わって速攻来たわ」
「先輩ならこの三倍のスピードで来れますよー」
「いや俺いつシャ〇専用になったの?赤くないよ?ってかお前さすがにこのネタ知らんだろ…」
「はい?なんですかシャ〇専用って?」
「………。そんな事はどうでもいい。手短に済ますぞ」
「あ、はーい」
「これ。なんでこんな事した?」
そう言って俺は一色のそばに書類を差し出す。
「なんでってこれが生徒会の仕事だからに決まってるじゃないですかー」
「お前これやりたくてやってんのか?」
「やりたいも何もここに書いてある理由が全てですよ?先輩たちには悪いと思いましたけど、奉仕部だけを優遇するわけにもいかないって言うかー」
「じゃあこれは納得した上でお前がやってることなんだな?」
「もちろんです!」
「じゃあ…」
一拍置いて俺は一色に告げる。
「…何でお前の目元には泣き腫らしたような跡があるんだ?」
「…っ…!」
一色は慌てて自分の目元を隠す。ダウトだ一色。
「嘘だよ。ただ少し目元の化粧がいつもと違う感じがしたからふっかけてみたが、どうやら当たりのようだな」
「ち、違いますよせんぱい。これは昨日たまたま映画を見て感動して、もう泣くわ泣くわで大変だったんですよー。ていうかよくいつもと化粧が違うの気づきましたねー。ハッ!?まさか口説いてるんですか?お前の事はいつも見ているっていうアピールですかすいません一瞬トキメキかけましたが冷静になるとやっぱり無理です!ごめんなひゃい!」
「…なんだよいつものお得意の早口も嚙んでんじゃねぇか…それにな一色。さっきからお前葉山とか他の男子と話す時みたいに、俺と話すときに仮面かぶってんぞ」
こいつは俺にはどうでもいいと思っているからか、あざとさはあったが割と素で話すやつだった。なのに今のこいつは違う。葉山やその他男子(戸部は除く)と話すときのような顔と喋り方をしている。
「…っ…!」
一色は驚いたような顔を見せ俯いてしまった。
「…一色…何があった…?話してくれ」
一色は俯いたまま口を開いた。
「…先輩…すいません…ちょっと用事出来たんで出て行ってもらっていいですか…?」
その声に覇気は無く、さっきの様な空元気も出せなくなっている。
「いや、お前それは通らないだろ…いくら俺が人の裏読むからって今のお前が嘘をついてるって確信できるぞ…見るからにおかしい後輩ほっとけるかって」
「っ…せんぱい…ほんと何でもないんです…今回の件は学校のために仕方ないんです…だから分かってください」
「一色…」
-キーンコーンカーンコーン…
「あ、予鈴ですね。もう鍵閉めちゃうんで、すいませんが出て行ってくださーい♪」
先ほどのように空元気を取り繕う一色に廊下へと出され、鍵を返しに行くのでまたです!と、何も進展の無いまま話し合いが終わってしまった。
ただ、一色の様子がおかしいということと、恐らくこれは一色の望む事じゃないって事だけは理解できた。
『これでいいですか?』
『あぁ…すまない。よくやってくれた』
『こんな事して…バレたらたたじゃすみませんよ』
『どうしてだい?これはPTAからもクレームが来ていることだ。むしろ今までがおかしかったんだよ』
『…っ…幻滅しました…まさか…こんなにクズな人だったなんて…』
『彼が悪いんだよ…俺が彼女のよりどころになるはずだったのに…それにそんな口聞いてお父さんがどうなってもいいのかい?』
『…っ…』
俺が一色の事を奉仕部に伝えるべき悩んでいるとき、ある場所では一人の女子と一人の男子で、穏やかでない会話がされていたのだった…
-終―
いかがだったでしょうか?うーんなかなか上手く書けません…
とにかく駄文ですが読んでいただければ嬉しいです!
この続きは評判が良ければ書きますが、もし悪ければやめるかも…というのも今回勢いで書いちゃった感じがありありで…すいません…
もっと他作者様みたいに、いろはすが萌え萌えする作品書きたいですねー…
それではまた!