急ぎ足なのはすいません
始まり
どこかの国で見られる当たり前の平穏な日常、どこかの国で見られる地獄のような紛争。
もしもそれらの違う光景が一瞬にして消え去る事を世界中の人々は信じてくれるだろうか、己を含む命が、世界が失われる、そんなありえないような事などまず普通の人間は信じない。
しかし、そんなありえないような事を信じる者達は確かにいた。
とある魔術師達とある英雄達…
命と世界の消失並みにありえない事を乗り越えた英雄達の事を人々はこう呼んだ。
ーーー仮面ライダーと。
「それでは新入り君、こちらを倉庫に運んでくれたまえ」
「わかりました、すぐに終わらせますよ」
新入りと呼ばれた青年は自分に荷物運びを頼んだ中年の職員から大きなダンボールを受け取る。
「48人目がさっき来たらしいから今日から本格的に忙しくなる、だから早く今の仕事を終わらせて身体を休めるといい」
職員はそう告げて青年へ背を向け、急ぎ足で別の職場へと走っていった。
「ご苦労様先輩。……………だけどこの仕事を終わらせても僕は貴方が思ってる以上に忙しいんだけどね」
青年は制服の中に隠していた青い銃を取り出し銃にカードらしき物を装填する
【KAMENRIDE DIEND!】
銃の引き金を引き青年はアーマーのような物に包まれ、カードらしき物が何枚も頭部に刺さり青年はシアンカラーの戦士へと変身を遂げていた。
そして青年はさらに別のカードを青い銃へと装填する。
【KAMENRIDE RIOTROOPER!】
そうすると銃口の先に鎧を身に纏った仮面の戦士が出現する。
青年はその戦士に先ほど受け取ったダンボールを押し付ける。
「そのダンボールを廊下の突き当たりにある倉庫へ運んでいてくれ、ちゃんと綺麗に置いてくれよ?後で僕が怒られるから。それと一応これも」
【ATTACKRIDE INVISIBLE!】
深道は別のカードを装填し再び引き金を引き、目の前の戦士と自分をダンボールごと透明化させる。
「こんな事で使いたくはなかったけど僕も時間が惜しくてね、じゃあ任せたよ」
姿の見えない青年はある人物の元へと走り出す。
48人目のマスターとしてこの《カルデア》へ来た《藤丸立香》へ会うために………
そんな彼の変身する姿を見ていた一つの人影があった。
「おやっ、遂に彼も動きだすようだ…海東大樹…君は私達に何をもたらせてくれるのだろうね…」
青年《海東大樹》の本名を知る人影もまた何処かへと消えていった。
「へえ~、藤丸君も日本人なんだ!俺もなんだよ。いやぁ、やっぱり同じ国の人とは話しやすいな」
「俺もですよ、小野寺さんみたいな話しやすい方がいたおかげでここに来るまでの不安もいろいろ無くなりました」
カルデアの廊下に2人の日本人の話し声が響く。
そんな2人の声を横で黙って聴いていた眼鏡の少女が口を開く。
「お二人とも静かにしてください。他の職員の方に迷惑です」
「「ご、ごめん…」」
周りが見えなかった2人は少女に頭を下げる。
そんな2人を見て少女は少し困惑した表情をする。
「フォウフォウ!」
マシュの肩に乗っている白い小動物《フォウ》が叱るように2人に向かい鳴く。
「せっかくお二人を気に入ってくれたフォウさんも怒ってますよ、本当に緊張感を持ってください、所長の前では特に…貴方方は選ばれたマスターの一人なんですから」
少女は2人の男をマスターと言った。
その言葉の意味を年若い青年《藤丸立香》はそこまで詳しく知らないためよく分からない表情を示すが、隣の青年《小野寺ユウスケ》は立香より長くカルデアにいるため返答に困った表情を示した。
「そうだったね…久しぶりに海東じゃない日本人に会えたのが嬉しかったけどそれどころじゃなかった」
「海東…?」
「ああ…そういえば藤丸君は来たばかりだからアイツにまだ会ってないんだったね…まあ所長の説明の後に追々教えるよ」
「はぁ…」
そんな3人の元に2人の人影が近づいてきた。
片方は今ユウスケが言った海東、そしてもう一人はモスグリーンのタキシードのシルクハットを着用した変わった格好の男だった。
「おやおや、二人とも既に彼と会ってたんだね」
「お前も忙しかったんじゃないのかよ…」
海東を見るユウスケは先ほどまでの明るい表情から面倒くさいものを見るものへと変わっていた。
「さっきそこで彼と会ってね。どうやら仕事はもう終わったようだよ」
モスグリーン衣装の男《レフ・ライノール》は笑顔混じりで言う。
「そうそう、それにまたこんな所で時間潰してたらまた所長に怒鳴られるよ?」
「お前も怒鳴られてばかりだろ…」
騒がしい2人の会話を立香は困惑した表情で眺めていた。
そんな立香にレフが歩み寄る。
「はじめまして、私はレフ・ライノール、このカルデアで顧問をしてる魔術師だ。君が48人目のマスターの…?」
「藤丸立香です、よろしくお願いしま…「フォウ!」うわっ!?」
立香の頭の上にフォウが飛び乗る。
「おやおや、フォウがマシュやユウスケ以外にそんなことをするなんてね」
「ユウスケさんと同じ日本人からでしょうか…?私もフォウさんの懐く基準がよく分かりません」
この中ではフォウと一番長い付き合いなのだが、ユウスケが来るまでマシュ以外に心を開いてなかったらしく、ユウスケに懐いた時、職員達はとても驚いていた。
「俺自身も会ったばかりのフォウさんに懐かれるような点は分からないんですがね…しかし、《初めてが続く》な…」
立香は初めての連続に驚きとワクワクを感じていた。
そしてその後もまた海東とユウスケが揉めたりしながらも5人と1匹は所長の元へ歩き出した。
一時間後
「あぁ…やってしまった」
「まあ元気出しなって。俺も一緒だからさ」
「なんか巻き込んでしまってすいません…」
お互いを慰め合うように歩く立香とユウスケ、そして後ろに付いて歩くマシュ。本来なら所長の説明を受けていたはずの2人がなぜこんな所にいるのかと言うと…。
「居眠りなんてして…なんか情け無いなさところ見られましたね…」
そう、彼は説明の中意識を失い眠っていたのである。そんな彼の様子に気が付いたカルデアの所長《オルガマリー・アニムスフィア》は激怒、立香を部屋から追い出したのだが、ユウスケも立香の横の席にいながら立香の様子に気がつけなかった自分の不注意さも悪いと共に部屋を出てしまったのだ。
「だけと別に一緒に出てこなくて良かったんじゃ…?所長もユウスケさんには残ってもいいと言ってくれたのに」
「いやさ、正直俺はあの所長の話し方がキツくて苦手でさ。ここに来てから随分と経つけど未だに慣れないし別に説明する内容知ってるから居なくても問題ないしね?」
「そうなんですか…」
ユウスケがこのカルデアに来てからはや3ヶ月ほど経過しており、始めなの1ヶ月くらいはカルデアの中で迷子になったりしたが、今では飽きるほどカルデアの中を知ってる人物である。
ふと、ユウスケは歩みを止めてマシュの方を見た。
マシュは窓の外に映る雲に包まれた空を見ていた。
「今日も空は雲だらけだね」
「はい、いつもの空です」
「?…空がどうかしたんですか?」
どこか意味深に感じるマシュの言葉が気になった立香はマシュに歩み寄る。
「マシュはね、二年も青空を見てないんだよ」
「えっ…二年も…?本当なのかマシュ?」
「はい、おそらくカルデアがある場所のせいで見れないなのもあるのでしょうが」
このカルデア、正式名称《人理継続保障期間フィニス・カルデア》の施設があるのは標高6.000mに及ぶ巨大な雪山の斜面であり、そんな高い場所にある施設のため外の景色が曇り空なのは当たり前のことであった。
「俺もここからの青空見たいけど、ずっとこの空なんだ」
ユウスケもマシュの元に歩み寄り2人の間に入り、2人の肩へと手を置く。
「俺はこの曇り空が青空になる日を、マシュがまた青空を見れるまでカルデアにいる、その時は藤丸君も一緒に見てほしいな」
「はい、いつか三人で青空を見ましょう」
お人好しの2人はマシュへと笑顔を向ける。その笑顔には誰かの幸せを望む、共用したいという思いが含まれていた。
「私も先輩方と共に青空が見られる日を楽しみにしてます」
マシュも小さな笑みを浮かべる。
そして3人は窓から放れ再び歩き出し、とある部屋の前で止まった。
「ここが藤丸君の部屋だな、部の中についていろいろ教えとこうか」
「頼みます。それでマシュは?」
「私はこれから色々と仕事があるので申し訳ないですがここまでですね」
マシュとはこのカルデアに来てからかなり一緒にいた立香は少し寂しそうに感じていた。
「まあまた会えるさ二人とも」
「そうですね、じゃあマシュまた後で」
「はい!ではお気をつけて」
マシュは2人に背を向け次の仕事へと向かっていった。
そんなマシュの後ろ姿を見届けた2人は目の前のマイルームの扉を開く。
しかし2人は知るよしも無かった。既に部屋の中にある人物がいることに。
「じゃあまずはどこから説明しようか……って何で貴方がいるんだ…!?」
ユウスケは誰もいないと思っていたマイルームでくつろいでいた1人の男性を指差す。
白衣を身に纏い、ベッドの上でケーキを食すその男は食べる手を止めて驚いた様子で2人を見た。
「ちょっとちょっと!ここは僕のサボり場なんだぞ!それにユウスケ!こういう時は空気読んですぐに部屋から出ていくものだろ!?」
「何言ってんだよDr.ロマン……もしかして、ここが彼の部屋になるって聞いてなかった?」
呆れた様子で目の前の男、Dr.ロマンこと《ロマニ・アーキマン》を見るユウスケはどうやらロマンが立香について知らなかったのだと察した。
そして、ユウスケは事情を説明し、事情を知ったロマンはあたふたしながらもとりあえず立香とユウスケのためにコーヒーを入れた。
「本当にすまなかったね藤丸君、いやあ、いつも以上に部屋が綺麗にされてることを気にしてなかったけど、君の部屋になるからだったんだね。……あっ、名乗り忘れていたね、僕の名はロマニ・アーキマン。これでもカルデア医療部門のトップでね、皆からはDr.ロマンの愛称で呼ばれている」
「こちらこそよろしくお願いしますDr.ロマン」
立香とユウスケはロマンからコーヒーの入ったカップを受け取る。
「それじゃあカルデア最後のマスター到着を祝ってかんぱ…」
その時、カルデア全体に轟音が響き渡り、大きく揺れた。
「!?…この揺れは!」
ユウスケが一番に反応する、それは3人がカップを上げた瞬間の出来事だった。
カルデアが大きく揺れたためか部屋の灯りが消えたが非常用の赤い証明に変わる。
その直後、火災があったと放送が流れた。
「今のはいったい!?それに火災って…!Dr!」
立香はいきなりの出来事に思考が追いつかず、一番状況を理解してそうなロマンの方を見た。
今この場で一番頼りになるはずのロマンだったが、その目はあまりにも予想出来なかったことが起きた事による不安と焦りが感じられた。
「状況を確認するために、すぐに他の部門に連絡を…「ロマン!何をやっているんだ!」レフ教授!」
ロマンの通信端末からレフの声が聞こえる。どうやらロマンはレフに招集をかけられたらしく、現在レフの周りにいる者で無事な者は少ないらしい。
「早く着てくれたまえ、こっちもいろいろしなければならないからな」
「ああ!すぐにでも向かう!」
ロマンは通信を切り、既に部屋の扉の外にいる2人の元へと急ぐ。
「いいかい二人とも!無茶だけはしないように!」
「「はい!」」
3人は走り出し、レイシフトを行おうとしていたマスター候補者やオルガマリーのいる地下へと急ぐ。
連絡通路を抜け、地下ホールの入り口まで到達した3人は入り口の向こう側を見て絶句した。
辺り一面が火と瓦礫に覆われ、人の姿が何処にも見えないほどに悲惨な状況であった。
「…くっ!二人とも!これから僕は管制室へ行き対応する!無茶だけは絶対にしないでくれよ!」
ロマンは2人へ背を向けて管制室へと走り出す。
ロマンから無茶をするなと言われた2人だったが、ロマンの姿が見えなくなった途端、目の前の火の海の中に突入した。
そう、2人は例え危険な状況の中でも、中だからこそここにいるだろう生存者達を見過ごせなかったのだ。
「誰かー!誰かいませんか!?今助けに来ました!いるなら呼んでくださーい!」
ユウスケは必死に瓦礫をどける。しかし、瓦礫をどけても今度は炎が目の前を遮って身動きが取れない…。
「こうなったら変身するしか……待った!アークルが出ない!?藤丸君は何処に行った!?」
ユウスケは腰に手を当て何かしようとしたらしいが失敗したらしく、その上さっきまで近くにいた立香の姿が見えないことに気が付き立香を探し出す。
そして、すぐに立香の姿を見つけた。
瓦礫に下半身が挟まれたマシュを助けようとする立香を。
「藤丸君!それにマシュも!待ってろよ!今助けるから!」
「頼みますユウスケさん!早くしないとマシュが危険です!」
2人は必死にマシュに覆い被さる瓦礫をどうにかしようとする。しかし、瓦礫の量はとても多く、少しずつどけてもそれ以上の速さで炎が迫ってきていた。
「お二人とも逃げてください!貴方達までここで命を失えば何もかも終わりなんですよ!」
「嫌だ!目の前の女の子一人助けられなくて逃げるなんて出来ない!」
立香はマシュの叫びでも逃げようとせず、必死に瓦礫を動かす。
ユウスケはマシュに近寄り瓦礫を持ち上げようとする。
「もう二度と大切な人を失わせない!こんな人間らしくない!普通じゃない死に方なんてさせるかぁ!」
「先輩…ユウスケさん…」
マシュは感覚を失ったために下半身が動かせないことに憤りを感じつつも、2人のためになんとか自分から瓦礫から抜け出せないかと思考する。
この時、3人は気が付いていなかった。
あるカウントダウンが近づいていることに。
【レイシフト開始まで 5 4】
「くそ!クウガになれればこんな物ォ!」
【3 2】
「最後まで一緒にいるから!待ってろマシュ!」
【1】
「「うおおおおおお!!」」
【0 レイシフト開始します】
何かが起動し、そこで3人の意識は途絶えた。
そしてこの瞬間から、彼等の大きな戦いの道が定まったのであった…。
カルデアとはまた違う場所、空間。
上も下も分からない黒い宇宙空間のような場所に九条貴利矢はいた。
「これは……地球…?」
ボンヤリとした意識の中で貴利矢が見たのは自分がよく知る地球そのもの、それも複数あったのだった。
「はじめまして九条貴利矢」
「おわぁ!?誰だお前は!」
貴利矢はいつの間にか横に立っていた茶髪の青年に驚く。青年は貴利矢より少し若いようだったが、その瞳からは数多くの戦いを乗り越えてきたことが感じ取れそうだった。
「僕の名は紅渡、貴方と同じ仮面ライダーです」
「仮面ライダーだと…?まさか俺以前にゲームオーバーされた奴なのか!?」
貴利矢は青ざめた顔をして青年《紅渡》の肩を持って揺らすが、渡は首を横に振る。
「違いますよ、ここにいる者でゲームオーバー…すなわち死亡してるのは貴方だけです」
「そうか…なら良かった…と思ったが、なおさらこの状況が分からない…何で俺がここにいる…アンタなんか知ってんだろ?」
貴利矢の目は相手をとことん観察するものとなり、渡の目的を探ろうとしていた。
「そんなに警戒しなくてもいいですよ、僕はただ貴方に力を貸してほしいのですよ、人理修復の」
「人理修復…なんだそれ?」
「分かりやすく言うと僕達人類全てが文明ごと焼却されることですね。僕のような特別な人間は無事ですがこちらをご覧ください」
渡は無数の地球を指差す、すると次々と地球は真っ赤に染まり燃えてしまい、最終的に一つの赤く燃える地球を残して他の全ての地球は完全な黒い星に変わり果てていた。
「おい…こりゃあかなりヤバい事じゃねえか?」
「ヤバいもなにも我々ですら想像出来なかったこと、複数の世界の人理焼却は人類の死です…それを我々仮面ライダーは救わねばならないんです…」
「成る程ねぇ……………ああ、分かった。死んだ筈の俺がいることを聞きたいが、とりあえず力を貸してやる。…だからどうすれば……!?」
貴利矢は気づく、自分が力を貸すと言った瞬間、自分の身体が赤く燃える地球に吸い寄せられていた。
貴利矢は抵抗するが吸い寄せの勢いはどんどん強くなる。
「おい!まさか騙したのか!?」
「違います、こっちも時間が無くてですね…次の方々がいますので了承を得たらすぐに《特異点》へと向かうようにしてるんです」
「ハァ!?ふっざけんな!こっちだって準備が…あああああああああ!!!??」
貴利矢の身体は燃える地球に吸い込まれていき、その姿は日本のとある都市に消えていった。
「九条貴利矢…仮面ライダーレーザー、貴方をご武運を祈ります。既に到達してるはずの《彼》も力を貸してくれるので…」
渡は燃える地球を見回して、銀のオーロラのようなものに包まれて消えていった。
死んだはずの仮面ライダーレーザーこと九条貴利矢、そしてカルデアの藤丸立香、小野寺ユウスケ、マシュ・キリエライト。
偶然なのか必然なのか彼は出逢うことになる。
燃え盛る炎の都市、始まりの特異点《冬木》にて。
次回
冬木にて九条貴利矢は灰色の飛蝗仮面とルーンの魔術師と出逢う。彼らは何者なのか、そして、冬木にレイシフトしてしまった立香達の運命は?
第2話 炎上する都市