もしもカズマがプリヤの世界に行ったら。   作:こしあんA

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お久しぶりです
今回は5千文字弱しか有りませんが許してください。


5話 我は他力を求める者也

「よぉ、ランサーとは随分良いご身分だこった」

 

どこかから響くようにして聞こえてくる男の声。

 

どこに居るのか分からないその声の主に警戒し、皆臨戦態勢に移る。 ダストは槍を、マシュは盾を構え。俺は十四年式拳銃をホルスターから抜き、右手に持つ。白髪はガンドの構えを取り、円の形を作る。

 

立香は俺が渡した刀を構えても無駄と即理解して円の中に入り、四方八方を見渡す。

前に出られて死なれるよりはマシだ。まあ餌にしても誘き出すのも良いけど。

 

「おいおい、何もやり合おうなんて気はねぇよ」

 

突如としてダストの居る側に現れた薄い水色のフードを被った男。

その存在に俺は全く気が付く事が出来なかった。

 

「ああ? 誰だオメェ? 第一お前は英霊で、この聖杯戦争は皆敵だろ? 大体な、フードをかぶって居る奴は怪しいって相場が決まってるんだよ」

「そりゃすまんな。ほれ、これで文句ねぇだろ?」

 

そう言って男はフードを外す。

特徴的な青い髪。ファンタジーゲームの魔法使い職が持っているような木製の杖。

それは彼の身長と同等の長さ。

 

あいつ(エミヤ)の記憶で見たことのある者。だが今回は持っている得物が違った。

 

「フードを外したからって敵じゃないって言えんのかよ? ああ?」

 

喧嘩腰に話しかけるダスト。ダストの言い分は最もであるが、もはやチンピラである。

元々か。

 

「はいはい、理由を言えばいいんだろ?」

 

彼は気怠そうに瓦礫の上の埃を手で払って、腰を深く下ろし、座り込み、話し始める。

 

この聖杯戦争は普通のそれとは違う。マスターが居ないと思ったらセイバーが暴走していきなり斬りかかってきたらしい。斬られなかった自分以外は何故かセイバーの配下になったらしい。しかも斬られた奴ら全員質が落ちているらしい。

 

それで奴らの事が気に入らなく、それと敵対している俺たちに手を貸すとのこと。それに敵は多い方が楽しみがあると戦闘民族のような台詞を言っていた。

 

もう既にライダーとランサーを倒し、今丁度アサシンを俺たちが倒して残りはバーサーカー、アーチャー、そして元締のセイバー。

セイバーさえ倒せばあとは倒さなくても解決するらしい。

バーサーカーに関しては手を出さなければ、滅多に襲ってくることはないとのこと。

 

そして聖杯を使ってまで叶えたい望みはないだとか。

強いて言えば良いマスターに恵まれたいとのこと。

今まで何があったのか問いただしたいところだが、聞いてはいけない気がした。

 

 

何はともあれ

キャスターが仲間になった。

 

 

「よいしょ……と。ほんじゃまあ行くとしますかね」

 

キャスターは勢いよく起き上がり、杖をつき、一人スタスタと歩いて行く。

 

「「「「「どこにだよ」」」」」

 

これが初めて皆の意見が合致した時であった。

俺たちの言葉にキャスターの歩みが止まった。

 

「決まってんだろ。奴は聖杯を守っている。だったら聖杯の眠る地円蔵山のはらわた。大空洞だ。」

 

またか。これでもう二度目。

ギルガメッシュ戦の時のことが脳裏に蘇る。

次は失ってはならない。何もかも。生きて五体満足の状態でイリヤ達に会う。

その為だったらなんだってやる。

俺は決意を胸にキャスターに着いて行く。

 

 

 

地面が振動し、小さな石ころが揺れる。

 

「何これ? 地震?」

 

『違う! サーヴァントだ! 真っ直ぐこちらに向かってきている。速度的に逃げ切れない。総員戦闘態勢に移行してくれ!』

 

こいつほとんど同じ内容しか言わねぇな。

某アニメの『青野野球しようぜ』に匹敵するのではないか。

 

敵は砂塵を舞い上げ、家宅や瓦礫などの障害物を壊しながら進行する。

 

「なんだありゃ、まるでデストロイヤーみてぇだな」

「おいおい、ありゃバーサーカーだぜ」

 

真名ヘラクレス

あの時の戦闘が昨日のように鮮明に思い出される。魔力にものを言わせ上級魔法で復活しては殺し、復活しては殺す。というハメ殺しが出来たから勝てたというもの。

いくら質が落ちているとは言え、カードではなく本物の英霊。上級魔法でも1発で仕留められるかどうか怪しい。

いくら味方が多くてもアタッカーがダストとキャスターしか居ない。俺は魔力の補給さえあればアタッカーに転じれる。

しかし無いものは無い。

 

皆武器を構え、俺だけが苦悶の表情を浮かべる中ある一人の者が皆の前に立つ。

 

「先行きな。元締のセイバーさえ倒しちまえば解決さね」

 

「で、でも……」

 

「男が情けねぇ声で喚くんじゃねぇ! 誰か一人が食い止めなきゃならんし、それに奴を全員で攻撃したところで倒せねえよだろうよ。それにな俺は一対一の手に汗握る死闘を期待してたんだよ。まあランサーで呼ばれなかったってのがちと心残りだがな。ほらさっさと行きやがれ!」

 

その合図と共に皆一斉に大空洞へと向かい走り出す。

 

キャスターが残って足止めすると言った時、俺は内心両手を上げるほど喜んだ。

あのままの皆で戦えば間違いなく全滅。誰かを犠牲にしなくてはならなかった。

 

皆健闘を祈るように深刻な顔をしていた。

俺の内心を勘付かれないように皆の表情に同調した。

自分は本当にどうしようもない奴だ。イリヤに会う為いざ仕方ない、コラテラルダメージだなどと自分を擁護するつもりもない。分かっている。元々自分はこんな奴だ。

 

 

 

 

イリヤ達に会う為ならどんな手でも使う。それも己の欲を満たす為。

 

 

 

 

 

大空洞への道のり。

一成の神社の姿は目視可能。目的地まではもう少しのところまで来た。

 

「キャスター大丈夫かな」

 

「気になるならお前だけ回れ右して前進。その後犬死してこい」

 

「ちょっ、ちょっと……」

 

「なんてこというんですか! たしかにあなたはロクでもありません。ええ、そうですとも。それでもあなたは妹達に会いたいが為にひたすら頑張って。見直したと思ったら……どんな思考をしたらあの方を心配する先輩にそんなことを言えるんですか!」

 

心の底から出したような大きな声。

 

「マ……マシュ」

 

「お前ら! 他人の心配する余裕があるなら今この状況をどうにかしやがれ!!!」

 

俺は不満を訴えるかのように叫ぶ。

 

「そうだぞテメェら!」

 

そう、今は敵に四方八方を塞がれているのであった。

いくらダストが強いからと言って、今くっちゃべってる俺らを守りながら、湯水のごとく沸いて出る敵を槍で一体ずつ倒すのは骨が折れるであろう。

 

「そうよ、確かに心配だろうけど会話してないで、あなた達も戦って!」

 

「お前本当は大して心配してないだろ」

 

『ちょ、ちょっと……』といったのは俺の言動に注意したのではなく戦えという事だ。

 

「すいません所長!」

「やぁーい、怒られてやんのぉおおお!!!」

「あんたもよ」

「だってよ立香」

「だから、あんたよ!」

 

いや、だってね立香も一応刀持ってるし、数は多くても所詮雑魚だし。

一部竜牙兵とか言う骸骨の上位互換が紛れ込んでるけど。

それでも油断すれば今の貧弱な武装では俺はあっさりと死ねる。

そう、それはコボルドで経験したことだ。どこかの誰かさんを盾にして弓で倒して調子に乗ったらいつのまにか囲まれてボコボコにされて死んだ。

 

それでも今は決戦前に魔力を出来るだけ補給しておきたい。

 

「『スティール』『ドレインタッチ』」

 

骸骨から奪った頭蓋骨から魔力、生命力を吸い取り、活動を停止させる。

スティールで消費した分の魔力の元は取れる。だが利潤はやはり少ない。まだ足りない。これでは初級魔法一回分撃てるかどうか。

最低でも上級魔法一回分の魔力は集めておきたい。

槍を持っている者以外を狙う。

槍を使われては近づきにくいからだ。

 

逃走スキルを使用し、回避率を高め、槍を持たない骸骨共の集団へと走る。

敵は十体。

剣が六体、弓が四体。

 

射出される四本の矢。

それは横一列に並び俺の進行を阻害しようと飛来する。

地面に寝そべり、矢を避ける。

矢特有の空を裂く音が通り過ぎると同時に、素早く起き上がり前進。

前からは六体の剣を持った骸骨はこちらへと向かい来る。

構わず前進。

 

六体の骸骨は俺の前で、半円の形となり俺を待ち構える。六本の剣は俺の体へと突き出される。

スライディングで骸骨共の足元を通り過ぎる。それと同時に両脇の骸骨二体の足に手を触れ魔力、生命力を奪い取る。

 

剣は俺を突き刺す事はなく、剣同士が空中で交わるだけ。

 

両手で地面を押し立ち上がって弓持ちへと向かう。

もう既に矢は再装填されており、俺を射抜かんとばかりに飛来する。

魔法を使わずどう防ぐか。

一、二を争う事態で名案など浮かばず、手を顔の前でクロスし、致命傷だけは回避する。

あわよくば『回避』スキルが発動してくれることを期待して。

結局のところ発動せず、腕に鋭く、神経を焼かれる様な痛みが走った。

どうやら三本刺さったようだ。

 

矢が刺さるのは初めてだ。

異世界ではまともに戦わず、本当に戦ったのは数回ほど。

魔法を喰らう体験はした。矢はなかった。

果たして矢とはここまで痛いものなのだろうか。もっと弓を使う敵と戦う機会があれば魔法を使わずとも回避する手段が何か思いついていたかもしれない。

 

しかし反省は後だ。

今は目の前の敵を倒す。

痛みを堪え、前進し、両腕を伸ばし、二体の骸骨の頭蓋骨を鷲掴みし、地面に叩き落とす。

 

「『ドレインタッチ』」

すぐさま骸骨は活動を停止した。

 

その後残りの弓持ち二体に飛びかかりドレインタッチで魔力、生命力を吸い尽くす。

 

活動の停止した骸骨の弓と腕に刺さった三本の矢抜く。

狙撃スキルを使わず矢を放つ。

 

1本目

 

最も接近している骸骨に狙いを定め迅速に放ち、すぐさま日本間の矢を番える。

矢は頭蓋骨を貫き、骸骨は地面に倒れる。

 

2本目

 

1本目放たれた後1秒と掛からず放たれ、最後の一本を番える。

それも先ほどと変わらず見事頭蓋骨を貫き、同じく骸骨は地面に倒れる。

 

最後の矢

放つと同時に俺は矢が向かう敵とは別の敵へと向かう。

見てはいないがどうせ何処かには当たるであろう。

 

 

骸骨は俺へ剣を振り下ろす。

弓柄で受け、刃は弓柄に食い込む。

その骸骨の胴体を蹴り飛ばし、距離を取る。

 

後は二体。

サバイバルナイフを逆手に持つ。

またも骸骨は剣を振り下ろす。

ソードブレイカーで受け、砕き割り、後ろへと回り、柄で剥き出しの頸椎を力の限り叩くと骸骨の活動は停止された。

 

姿勢を低くし、残りの骸骨に向かって走る。

俺の顔面を串刺しにしようと剣は突き出される。

地面を勢いよく蹴り、骸骨へ突撃。

骨に顔面を埋め、両手でしっかりと骸骨を抱きつく形となった。

何が悲しくてこんなことをしなくてはならないのか。顔も痛い。

 

「『ドレインタッチ』」

 

だが魔力を得る為いざ仕方ない。

 

「カズマ、後ろ!」

 

立香の声に反応し、後ろを振り向くと、骸骨が剣が落ちて来ていた。

咄嗟に右手を出し、剣を防ごうとした。

もう右手は無くなってしまうであろう。

 

もうイリヤ達を抱きしめられなくなるのか。

 

手を引こうにも、もう遅い。

剣を振り下ろされ俺の手は

 

 

 

「んん……切れてない⁉︎」

 

 

 

しかも全然痛くない。今更気が付いたが手にグローブが装着されている。

そういえばギルガメッシュ戦前に無駄ってわかっていても気休めとして防刃製のグローブを購入してたのを忘れていた。

 

優勢になったことでつい顔が緩んでしまう。

 

「ぐっヘッヘッヘ」

 

そのまま剣を掴み、奪い取り、左手で骸骨の頭を握る。

 

「『ドレインタッチ』」

 

骸骨が活動停止したことを確認後、蹴り飛ばした骸骨から順に弓で倒していった敵から魔力を奪い取り、制圧完了。

 

今回の反省。

 

魔法は範囲攻撃など多々あり、制圧力に優れている。だがそれが無くなったらどうだ。俺はあんな奴らを相手に苦戦を強いられた。銃があるからと言って弾は無限じゃない。

それに固有結界から物を出すときは手数料がかかる。配達と同じで物の大きさによって消費する魔力も違う。

そもそも刀を渡していなければもっと楽に倒せたのではないのか。

それ以上は辞めておこう。

 

反省終了。

 

 

「おいカズマ、そんなところで油を売ってないでとっととこっちに来い。このままじゃ埒があかねぇ。俺が突破口を切り開く。それに続け!」

 

槍の柄の端と端を握り前進。

前に待ち構えている骸骨共は槍に押され、次々とダストの前へとゴミのように溜まっていく。

それでもダストは止まることを知らず、速度は加速していく一方だ。ダストの周りでは微風が起こる。

そうして敵のど真ん中に一筋の道が作られた。

 

俺たちはダストロードを走る。

 

しかし敵も俺たちを逃すつもりは毛頭なく、弓を持つ者は弓を番え、一斉射撃をおこない、剣、槍を持つ者はこちらへ接近してくる。

 

「走れ! 両端から撃たれたら盾では防ぎ切れない。英霊化しているマシュは兎も角、俺たち一般人は止まったら蜂の巣にされるぞ!」

 

「私は魔術師よ!」

 

「なら魔術の一つくらい使って矢を全部弾き返してみろ!」

 

「ロクな宝石のない今の私じゃ無理よ!」

 

「お前使えねぇ」

 

そんなこんな走りながら会話をしているとで矢の雨が降り注ぐが、運良く掠ったくらいで、誰も負傷はしていない。

それでも第2波はやってくる。

 

「はぁ⁉︎ ならあなたはどうにかできるんでしょうね?」

 

「使いたくないなから魔力のあるお前に頼ってんだよ!」

 

 

「頼……分かればいいのよ。仕方ないわね。出来れば温存していたかったけど。見せてあげるわ」

 

取り出したるは二つの緑色の宝石。

凛達が普段使っているものよりは一回り小さい。

それを第2波が来ると同時に両端へと投げる。

すると光の障壁が現れ、矢は全て光の壁に弾かれた。

 

「おお、スッゲェ。魔法みたいじゃんか。」

 

そうだよこれだよ。まさに近代ファンタジー系。いままでのお子ちゃまステッキや魔術師がレベルを上げて物理で殴ってきたそれとは訳が違う。れっきとした魔術。

俺は子供が真新しいものを見るときのような高揚感に包まれる。異世界に初めて着いた時もこんな感じだった気がする。

 

「フン、ようやく私の凄さが分かったようね」

 

「お前ら! 早く来い! 俺がどんだけ頑張ってると思ってるんだ!」

 

 

 

 




たまに三人称になったりすることがあるかもしれませんが寛容な精神で見守って下さい。
お願いします。


そういえば防刃グローブを作中で書いているつもりだったんですけど無くて冷や汗かきました。

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