もしもカズマがプリヤの世界に行ったら。   作:こしあんA

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お久しぶりです皆さん。
もう卒業式も終わったのでひたすら執筆してますね。


3話 英霊対決

「はぁ、オラかかって来いよ黒ローブ! 」

 遣る瀬無いといった様子で溜息をつきで槍を握り走り出す。

 

「また乱入者ですか……あら、同業者? ならもうお遊びはやめにしなくてはなりませんね」

 

 だろうな。どう見ても遊んでいた。相手がギリギリの所を踏ん張っている光景を眺めて顔を歪めてたからな。

 

 互いに得物を構え、ジリジリと距離を詰めて行く。

 緊張が張り詰め、まさに一触即発の状態。

 周りの者は固唾を飲み、見守る事しか出来なかった。

 

 刹那、二つの影が動き、そよ風が発生した。

 それでようやく見ていた者は戦いの火蓋が切って落とされた事に気が付いた。

 

 

 

 

 

 耳をつんざく風切り音

 

 次へ、また次へと繰り出される両者の槍。

 それは空を裂き、ぶつかり、高々い金属音は千里にまで響き渡る程に。

 

 こちらが攻めればあちらが、あちらが攻めればこちらが見事な槍捌きにより、互いの槍は上へ、下へと動くばかりで互いに傷が付く事は無かった。

 

 

 ダストの放つ槍を奴はもう慣れたとでも言うかのようにあっさりと槍で下へと受け流してしまう。

 だがそれはダストの罠であった。その事に奴は気付いてももう手遅れ。

 テコの原理を利用し右脚を支点にし、両手で力点に力を入れ、作用点の穂先は奴の槍を上へと押し出し、奴の体はガラ空きになった。

 今だとばかりに槍を持ち直し渾身の一撃を放つ。

 

 

 その凄まじい勢いにより奴は吹き飛んだ。

『決まった』そう思った。だが違っていた。吹っ飛んだように見えたのはただ単に直撃する前にバックステップで後ろに下がっただけ。それでギリギリで避け、擦り傷程度なのであった。

 

 

「危ない、危ない。私も槍だけでは飽きてきましたね。そろそろ違うものでも出しますか。」

 

 腹部を摩りながら、ダストを睨む眼光は蛇のように黄色く、どこか狂っており、他に顔を付しているカズマと戦っているダスト以外は身震いしていた。

 だが立香はもう目を閉じようとはしないし、逸らしもしない。まるで親の仇を見るかのように瞬き一つせず、爪が肉に食い込むほど手を握りしめた。

 

 

 今後嫌という程こんな光景を見るんだ。今の内に慣れておかなければ…

 

 立香はそう硬く誓うのであった。

 

 ローブから長ったらしい髪を出す。何事かと思えばそれが鎖へと変化する。

 鎖は生きた蛇のように唸り、複雑に動き回りダストを狙っている。その筈なのだが、全くそうは見えない。

 どこに向かって行くのかと魅入っているといつのまにか四方八方から這い寄られ囲まれていた。

 

「あっぶな」

 

 これにはたまらずダストも勢いよく後ろへと跳ぶ。

 だが、どこまでも、どこまでも。得物を喰らうまで追尾し続ける。

 

 相手は鎖。槍でなぎ払おうものなら絡め取られ、対抗手段すら無くなってしまう。

 いくらチンピラのダストさんと呼ばれた男でも拳で抵抗するのは不可能。

 

 だがなんとか躱せている。嫌という程磨いた槍術は、足運びは、体の芯にまで染み付き、衰えるどころか、肉体を捨て、英霊へと上華され身体能力も、技術も全盛期を凌駕する程である。

 

 

 ただ、英霊の身にはまだ慣れていなかった。

 

「あっ、やべ、飛び過ぎた。」

 

 ダストが真上へと跳躍した際に得た運動エネルギーは次第に衰え、重力と運動エネルギーは釣り合い一瞬静止する。

 

 それを今だとばかりに鎖達は襲いかかる。

 ダストは体を捻りなんとか避けきる。

 

「うっひょぉおお!英霊になると空中で移動できんのかよ。」

 

 これは決して敵を侮辱しているわけでも、挑発しているわけでもない。……多分

 

 

 

 だが奴は微かに青筋を浮かべていた。

 

「おいおい、遠隔操作している時は動けないお約束だろ?守れよな。」

 

 そんな知識どこで得たのかは謎だがそれは大体やられ役が言う台詞であろう。

 

 もうメデューサの堪忍袋の尾は限界に達していた。

 遂に切れてしまった奴はなりふり構わず得物を振るう。

 とは言え究極にまで極めた英霊の技の質は、そう易々と落ちたりなどしない。

 

 繰り出されるそれは突風を起こし、砂煙が舞い上がる。

 

「よっ、ほっ、やっ、と。」

 

 一歩、二歩、三歩と後退し、何事も無かったかのような顔をする。

 

「惨めですね。先程から逃げているばかりで何も出来てませんね。なんですか?もしかしてその手に持っている槍は飾りですか?貴方ランサーではなく、ランナーですか?」

 

 顔を醜悪なまでに歪め、蔑み、笑いを堪えるように言う。

 

 

 因みに聞いていた者の大半は

『あれ程煽られたんだ。それくらい言っても良いと思うぞ』

 と内心思っていた。

 

 

 だがそんな言葉に常日頃から誹謗中傷を浴びせられてきたこの男には効きはしない。

 

 たがそんなダストの足が止まった。

 それは怒りに我を忘れたからでは無かった。

 

 メデューサへと振り向いたダストの顔は一言で言って冷淡だった。

 目を見るだけで身体の芯まで凍り付くような感覚に襲われる。

 そして口を開き淡々と一言話すだけであった。

 

「で、それだけか?」

「は?」

 

 突然の豹変ぶりに素っ頓狂な声を出し、まさに鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

 

「これ以上お前に引き出しが無いってなら……死ね」

 

 槍の穂先はメデューサに触れる。

 そう思えば、槍は驚く程簡単に肉を引き裂き、心臓へと到達する。

 穂先を抜く。

 メデューサは倒れ、やつ胸から噴水の如く鮮血が噴き出し、宙を舞いその一部がダストの顔に付着する。

 

 本当に一瞬の事だった。

 

「ああ、やはり呆気ないですね。今度会ったら次こそ八つ裂きにして犬の餌にしてあげる。覚えてなさ…」

「知るかよ」

 

 横たわるメデューサの顔を魔力で強化した足で踏み付け、その間に付着した血を手で拭い舐める。

 

「雑魚の割には無駄に魔力あるんだな」

 

 踏まれ喋る事は出来なくとも足で塞がっていない目でダストを睨みつける。

 その瞳には憎悪が宿っていた。

 

「あっ、なんだその目は」

 

 今度は槍で眼球を潰す。一回、二回と。

 そして両目を潰し終わる頃にはメデューサは光の粒子になって消えていった。

 

 

 さあ、これで良いんだろマスター(カズマ)。全く嫌な仕事させてくれるな。まあ俺にゃお似合いか。

 

 そう淡々と心の中で呟く。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「よお、随分無様な姿だなカズマ」

 

 横たわる俺の姿を見て鼻で笑う。

 

「うるせえ、自害させるぞ。大体俺にはくだらない言葉に反論する

 余裕もねぇんだわ。立たせてくれない?」

 

「お前サーヴァントをなんだとも思っている訳?……よっと」

 

 そうは言いながらも俺を立たせ、肩を貸してくれる。

 

「おーい、白髪。治癒してくれ。」

「白髪言うな!」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 どうしてこうなってしまったのだろう。

 

「転身しなさいイリヤ。叩き潰してあげる。」

 

 どうして。

 そもそもなんで私はここ(並行世界)に。

 

 あれは……

 

 

 

 

 

 

 暗闇の世界が徐々にきえていく。

 それはまるで劇が始まる時の幕のように。

 そして暗闇の世界は無くなり溢れんばかりの光が目に降り注ぐ。

 そんな光景にも慣れ視界に映ったのは白銀に染まる世界だった。

 地面はとても冷たくふかふかの雪。木々は全て枯れ、まさしく冬の光景。

 確か今は夏真っ盛りだったはず。それなのに視界に入るのは真逆の光景。

 

 

 

 手足の先の感覚が無くなってきた。思うように動かすこともできないし動いているのかどうかも分からない。

 先程までは感じ取っていた肌を突き刺すような寒さも感じない。今のままの薄着では低体温症になってしまう。

 

 この場に誰かいないかと立ち上がりあたりを見渡すが目視出来なかった。

 どうやらここは森らしい。

 街を見つけた。

「何……これ」

 それは見慣れた冬木の街のはずなのだがあるはずのないクレーター。海が異常なまでに引いていた。干潮では説明がつかない程に。

 

 

 

 今はお兄ちゃんもクロも美遊もルビーも、誰も居ない。

 そうだ、美遊を助けなきゃ。

 でも、どうやって。

 2枚目のアーチャーのカードは金髪の女の人が手に入れちゃったし、もう1人は大の大人が数人がかりでも持ち上げられないようなハンマーを片手で持ってたし。

 

 ルビー無しの私じゃどう足掻いても『死』しか待ってない。

 としあえず探さなきゃ、みんなを。

 そう決意して私は歩き出した。

 

 

 探した。思い当たる場所全てを。

 しかし誰一人として見つからなかった。

 自分の家に帰れば家族が、兄が待っているかもしれないという淡い期待を抱き、家のある場所に近づくにつれ歩く速度が上がって行くのを自分でも感じた。

 しかし家があるはずの場所には『売地』と書かれた看板が突き刺さっていただけであった。

 

 私はあまりの事に膝を地面へと落としてしまう。

 

 大きなクレーターを見た時から分かってはいた。探し回って分かったが人の気配が微塵もせず、夏の筈なのに雪が降っている。

 間違いない。並行世界だ。

 

 

 この時、私は限りなく絶望をした。

 そんな時田中さんと出会った。

 その子は記憶が曖昧で俗に言う記憶喪失だった。

 でも『エインズワース』を知っているような言い振りをしていた。

 

 田中さんと話をしている時出会ってしまった。

 

 ハンマーを持っていた子。

 名をベアトリス・フラワーチャイルド。

 

 ルビーが居ない状況で。

 

 彼女の力は凄まじく電柱をあっさりと壊し私達を下敷きにしようとした。

 田中さんは下敷きにされたのにも関わらず平然と立ち上がった。

 それが彼女の琴線を刺激してしまったらしく、田中さんは英霊化した彼女の拳によって吹き飛ばされてしまった。

 それでもまだ生きていた。

 私はその場に立ち尽くすことしか出来なかった。

 

 目の前で人がやられている。

 それなのに私は何も出来ないまま心の中で『お兄ちゃん』と叫んだ。

 こんな時でさえ人に頼ってしまう。そんな自分が嫌になった。それでも立ち尽くすばかり。

 

 彼女は何か命令をされたのか『命拾いしたな』と言い帰って行った。

 

 

 

 

 

「麻婆ラーメン2人前お待ち」

 

 そんな声と同時にまるで地獄の業火を表したかのような禍々しい赤。それはスープとは言えず麺がそれに沈み豆腐、ひき肉等の麻婆に使う具材だけが自己主張していた。

 果たして現世においてここまで地獄に近いものがあっただろうか。そもそも存在自体許されるのだろうか。もしも地球に修正力が存在すると言うのなら既にこれは修正され消えているであろう。

 

「どうした、食わんのか?」

 

「えっ、いや……」

 

「まさか私の作った飯を食えんとでも言うのか?どうしても無理と言うのなら……」

 

 食べなくてもいい。

 そんな言葉を期待した。

 だが現実は非情である。

 

「首から下を土に埋めて口から麻婆を流し込んでやろう。それに隣の客を見てみろ。」

 

 その指示に従い田中さんの方を見る。

 

「ごちそうさまです」

 

 丼が地面にぶつかる音と同時に完食の合図を送る。

 

「口の中とお腹が焼け爛れたようにズンガズンガして汗と震えが止まらないです。」

 

 料理の感想ではなかった。

 

 これを……食べる。

 店主さんは既にスコップを持ってきていた。

『食べなかったら埋める』

 そう目が語っていた。

 私は死する覚悟で食した。

 

 

 

 ☆

 

 

「麻婆ラーメン二つで3200円だ」

 

 お金を請求されました。

 私はてっきり行き倒れの田中さんを見て同情して作ってくれたと思ったのですが世間は外の寒さよりも厳しいようです。

 

「まさか文無しではあるまいな!」

 

 鷹のような鋭い眼光でこちらを睨む。

 

「た、田中さん。お金は……」

 私は足を竦ませながら田中さんにたずねた。

「お金?何ですかそれ。うまいもんですか?」

 終わった。

「ほう、食い逃げとは舐められたものだな。だが丁度豚骨が切れていたところだ。文字通り身体で支払ってもらうとしよう。」

 

 日本の昔話に出てきそうな大きな出刃包丁を手にする。

 それはラーメン屋さんが放っていいレベルの殺気では無かった。

 

 出刃包丁はゆらゆらと揺れ怪しげな光を放つ。

 一歩、二歩、三歩とこちらに歩みを寄せる。

 

「こんにちはー、おじさんやってる?」

 

 私達はギルくんに助けられました。(代わりに払ってもらいました)

 

 

 

 ギルくんに出会えなかったら私はもう生きていなかったと思う。

 

 それからギルくんとは利害の一致により停戦協定を結んだ。

 私はギルくんの力を、ギルくんは好奇心に惹かれエインズワースの工房があるというクレーターの真ん中へと向かった。

 

 そこから地獄が始まった。

 

「誰だ……?」

 のどが潰されたようにひどくガラガラな声。

 水分など有るはずのない枯れた木をこれでもかと絞って出したような涙が彼の瞳から溢れ落ちた音がする。

 牢屋の奥の壁にぐったりと持たれたついている。

 光は牢屋の奥まで照らす事が出来ず胸から上の部分は見ることが出来ない。

 だが他の部位は見ることが出来る。いや見えてしまう。

 それは小学五年生が見るには余りにも残酷な光景。服はボロ雑巾のようになり両手は何キロもありそうな金属製の手枷で拘束され、脚や

腕は砂漠に佇む枯れ木のようだった。

果たして人はここまで心身共に枯れることが出来るのだろうか。

 

彼の話を聞くには美遊の兄で、拐われた美遊を取り戻す為エインズワースと一人で戦い、美遊を別の世界へと送った。だが、結局は戻ってきてしまった。

彼は運命の鎖からは逃げられないと言った。

 

彼は叫ぶ。

枯れゆく命を使い、地の淵から天へと願いが届くように。

『美遊を救ってくれ! 』と

次の瞬間。

おどろおどろしい黒い電流が彼の身体を走り、彼は糸の切れた操り人形のように動かなくなる。

 

「死に損ないが喚くと思えば侵入者か。どうやってここに忍び込んだ。答えよ。こなえぬのなら」

 

一筋の閃光がこちらへと飛翔する。

 

「下がってイリヤさん」

一筋の閃光はギルくんが出した黄金の波紋に吸い込まれて行った。

「貴様何をした!」

今度は弾幕を張り制圧しようとするが、また、ギルくんの出す黄金の波紋の中に吸い込まれる。

 

「12本か、総数に比べればちりみたいな数だけど、ご返却どーも」

「お前は……」

「こうして見て改めて実感するよ。贅沢で、傲慢な戦い方だ。」

 

ギルくんは自嘲するように鼻で笑う。

 

「本来一人の英霊に対し宝具は一つ。そんな神話や伝承に謳われる宝具の原典を星の数ほど有し、それを矢のように無造作に放つ。

故にアーチャー、故に最強。それこそが人類最古の英雄。英雄王ギルガメッシュ

その宝具は宝物庫そのもの。僕のカードの使い心地はどうだい?

ねぇ、アンジェリカ」

 

彼女は何かに気がついきはっとしたように目を見開く。

 

「まさか、受肉したのか?」

「さすが理解が早い。まぁ受肉と言っても半分だけだけどね」

「成る程、財宝の一部が消えていたのはお前と二分していたためか。向こうの世界で随分と遊んできたらしい」

「君らにとっては幸運だったかもね。完全な受肉だったら()()()()()、僕が完全に塗り替えていた」

 

私は二人の会話について行けず、終始沈黙を守った。

田中さんなんてもう夢の中に入っていた。

 

「カード風情がよく吼える。大人しく私に使われていれば良かったものを」

「ああ、全く。傲慢や慢心まで真似しなくたっていいのにさ。ああ、そうそう。イリヤさんたちここに居ても流れ弾で死ぬだけだから先に行って。僕の目的はこの女の使っているカード。君はこの先に居るはずの友を助けに!」

 

ギルくんはそう言い、私に例の布を渡す。

 

「逃すと思っているのか? 貴様らはここでまとめて皆殺しだ」

 

彼女は王の財へと繋がる門を開く。

 

「逃すさ、さあ、行って!」

 

ギルくんの投げた黄金一色のアクセサリーはあたり一帯を眩い光で塗りつぶし、敵の動きを一瞬止まらせた。

 

私は田中さんの手を引っ張り、例の布を使い出口へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

咄嗟に飛び出してきたのは良いけど美遊がどこにいるかわからない。

 

「ついてきてくださぁい」

「田中さん、美遊がどこにいるかわかるの?」

「感? というやつです!」

 

不安だ。

 

「突っ込みます!」

窓へと突撃し、入り込んだ所までは良かった。ただ、床が数メートル下に存在していた。

 

「堕ちるです」

「え?」

 

どうやら私の不安は見事に的中してしまいました。

 

「おーお、見事な落ちっぷりだな」

 

敵、ベアトリスが待っていました。

 

 




最初ダストたちのところで終わらせようと思ったんですが結構文字が少ないからイリヤ達を入れました。と言っても原作と殆ど同じなので心苦しいですが。
ある一つのぐだりをやるために必要なのです。
どうかご理解お願いします。戦闘シーンも大幅カットして入れたいところだけ入れますので。すぐ終わると思います。

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