イリヤは夢を見た。
それは知らない豪華な部屋。
そこには
これはもしかしたら、いやもしかしなくてもクロの記憶。
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俺は目が覚めた。場所はルヴィアの屋敷だろう。本当に毎度毎度申し訳ない。
まあ流石に家では話せないことなのだろう。
「あらカズマお目覚めの様ね。」
そこには俺を強制的に眠らせた張本人が笑顔で座っていた。
「眠ったのは母さんのせいだけどな。あともうちょっとで天界に逝くところだったぞ。もう少し手加減してくれよ。俺が紙耐久なの知ってるよな!」
「ええ、知ってるわよ。だから昔よく鍛えてあげたじゃない?」
鍛えられた…か。あれはいじめ同然だったのにな。
あれはひどかった。『修行よ!』などと言いあの拳骨を食らわされ続けた。もちろん避けたが。しかし次の日に切嗣を呼ばれ切嗣に押さえつけられた。『切嗣はこれも訓練の一環だ!』と言ってきた。
もちろん次の日、芸能達人になるスキルを使いイリヤの声で切嗣に『お父さん最低』と囁き続けた。
そうこうしているとイリヤもクロも目覚めた。
そして「教えて‼︎愛理ママのコーナー」が始まった。
まずは聖杯戦争。
その言葉に美遊が少し眉をひそめた気がした。
どうやら俺の推測どうりクロは封印されたらしい。全てをリセットして一からやり直しなど都合が良すぎた。だからクロが苦しめられた。それなのに俺は、いや俺が口出しできる事でもなかったのだろう。
クロは普通の人生をイリヤに歩ませるのはいい。なら魔術師としての人生を頂戴と、私をアインツベルンに返してと言った。だが帰ってくるのは辛い現実だった。
「アインツベルンはもう無いわ。もう、聖杯戦争は起こらないの。」
「えっ⁉︎」
クロは絶望する。もう自分には何も残っていないと。
「なに…それ。それじゃあ、私の居場所はどこにあるのよ‼︎」
クロの体から魔力が放出される。そう、それはつまり。
「うそっ?」
クロの破滅を意味していた。
クロの体は魔力で構成されていた。その魔力が放出された今からの体を構成するものはない。
「そっか、魔力使い過ぎちゃったか。
クロにはもう色彩も鼓動も何もかも感じることが出来ない。
だが、再びその感覚が戻る。
「えっ?」
目を開くとそこには兄がいた。
俺はクロに触れドレインタッチで魔力を送った。そして再び体は少しずつ構成されていく。
「消えないでくれ!頼む。昨日誓ったばかりなのに…俺はイリヤもクロも両方守って。だからお願いだ消えないでくれ!」
それは暖かい何か今までの私にはなかったもの。兄はずっと支えようとしてきた。なのに私は、こんな事ならちゃんと冷静になればわかった事だったはず。なのに、私は。
クロの体の崩壊は一時止まった。だがまた崩壊しだした。
「う、嘘だろ。消えないでくれ。俺が決めたばかりなのに。俺は妹が一人増えたくらいで助けられないのかよ。」
兄の顔からは涙が浮かんでいた。最後に悲しんでくれる人が、お兄ちゃんが悲しんでくれるならいいかな。とクロは思う。
「もういいの。最後にお兄ちゃんが泣いてくれるなら。」
後悔はない。
まだ俺は諦められない。俺はこの前貯めたマナタイトを取り出す。それをドレインタッチで吸い尽くしクロへと送る。だが魔力が流れる速度は遅い。いや、全く流れていかない。まるでクロが拒んでいるかのよう。
「もういいの。ごめんね、お兄ちゃんが私の事ちゃんと考えてくれてたのに分からなくて。だから私の事は……諦めて。」
違う、そうじゃない。俺が欲しいのはそんな言葉なんかじゃない。俺が欲しいのは笑っている妹の顔だ。
ドレインタッチで魔力を渡せない。それなら、
その時口と口が重なる。
舌でクロの唇を無理矢理こじ開け、クロの舌と自分の舌を絡める。周りの目など関係なしに。
魔力が空っぽになって行くのを感じる。
自分からするキスなど初めてだ。全部相手からされたもの。俺は自らキスをした。
だがそれでも足りない。仕方なく近くにある観葉植物に手を触れ魔量を奪い舌から舌はと魔力を渡す。それでも足りないと悟った俺は生命力も限界まで渡す。
「せい…はいなんだ…ろ。だ、だったら、ね、ねが…え。自分の…願いを。」
俺は立つ力もなく倒れ込む。その後意識が消え目が覚めたのは約十分後。
どうやら俺の生命力と魔力でも足りずイリヤがキスをし、魔力を渡し、クロは『生きたい』と願った。普通の生活でもなくただ生きたいと。
「お兄ちゃん目が覚めたのね。ありがとう。私の為に、あんなに頑張ってたのに。ちょっと違うからってあんなことしてごめんね。」
「いいよ別に。言ったろイリヤもクロも両方助けるって。いやぁー良かった良かった。また約束破るとこだったわ。今回はマジで洒落にならないし。」
「もお!最初だけだったらとてもロマンチックだったのに〜。」
クロは頬を膨らませる。その仕草はとても可愛らしかった。
「はは、ごめんて。さて帰るか。」
「うん。お兄ちゃん。」
と帰ろうとした時二人の人物に止められた。
「カズマ(お兄ちゃん)」
二人とも目が笑っていなかった。
「なんでキスしたのからしら?別にあの技でも大丈夫でしょ?もしかしてそういう趣味?切嗣に相談しなきゃ。」
「勘弁してください。」
それは本当にやばいです。キャリコとコンテンダーでおれやられちゃいます。
「お兄ちゃん。仕方ないとはいえキスはどうかと思うよ。」
「いや、だって。」
クロは魔力が送られてくるのを拒んでいたから仕方ないし。
「どうやら教育が必要なようね。」
「そうだね。」
一人は魔術の拳骨を、一人は転身を。一体俺は何をされるのだろうか。
「お兄ちゃんは私ともしておいて節操がないと思う。」
「カ☆ズ☆マ」
より一層母さんの目が怖くなる。
「いやあれは起こそうとしたらイリヤが勝手に…」
「う、うるさい!」
どうやら俺にはなんの権利もないらしい。
「そうそう。あの時の夜もお兄ちゃんとキスした時お兄ちゃん可愛かったわよ。抵抗したくてもできない。そんな悔しそうな目がだんだんとキスして欲しそうな顔へと変わる様子がとても。」
クロが爆弾投下をした。今の現状で例えるならテポドンが落とされたかのようだ。
そう、母さんとイリヤの顔は火を見るより明らかだった。
「本格的に教育が必要かしら。」
「私もお兄ちゃんに教育しなきゃね。」
二人共めちゃくちゃ怖い。
俺は切嗣に言われた事を思い出す。
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「いいかいカズマ。女性を敵に回しちゃダメだぞ。女性は怖いんだ。怒らせたら魔術で編んだ拳を人に何回も何回も笑いながら食らわせてくるんだ。着実に…追い詰め最後まで…」
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きっと切嗣が言っていたのはこの事だろう。切嗣に何があったかは考えたくない。
イリヤはステッキを握る反対のぐるぐると回し肩慣らしをする。母さんも魔術の拳骨をぐるぐると回している。
「お、おい。まて、いや待ってください。」
「ダメよ教育しなきゃ。コブシデ。」
「私もコブシデ教育してあげる。」
本当に二人とも怖い。
「もちろん俺は抵抗するで。コブシデ。」
と一度でいいから言ってみたかった。
俺はそれを言った後、何の迷いもなくドアを開け逃げた。
「イリヤ追いなさい。確実に追い詰めてじっくりと教育してあげるのよ!」
「了解!」
切嗣の体験した事が大体わかった。俺は全力疾走した。それが人の家という事を忘れて。
廊下の角を曲がりイリヤの視界から外れ、足音を消し、近くのドアを開けそこには入らず閉め、足音を消した状態で走る。
「イリヤ近くのドアに入ったわ!もうカズマは袋の鼠よ!もうゆっくりと攻めて恐怖を味あわせるの!」
「分かった!」
さっきから本当に怖い。もしあのままあそこに逃げ込んでいたらとんでもないことになっていただろう。
その廊下の角も曲がり、ドアを開ける音がバレないようにイリヤ達がドアを開けると同時にドアを開けた。
「ふう助かっ……てませんね」
なんとそこは広場らしくドア同じ場所に繋がっていた。
「あらあらカズマ考えたらしいけど運が悪いわね。まさか広場にドアが繋がってるなんて。」
俺はドアを開け逃げる為ドアへ向かったがそのには桃色の障壁が展開されていた。
「すごいですよイリヤさん!使い方はまあ、あれですが任意の座標に障壁を展開出来るなんて!」
その後俺は成す術なく捕まった。
「や、やめて。やめてくださいイリヤ様。お、お前あれだろクロに嫉妬してんだろ!キスして欲しいならそう言えよ!」
「お兄ちゃんのバカ!」
イリヤは顔を赤くし俺を叩いた。
俺はイリヤになんの抵抗もできず運ばれてきた。
私は今お兄ちゃんを捕まえて搬送している。お兄ちゃんが抵抗出来なくて悔しそうな顔をするのを見てなんだか気分が高鳴って変なスイッチが入っちゃいそうになる。
何故だろう。イリヤからとてつもなくやばい感じがする。その後俺はなんの抵抗もできず、教育されたのであった。
その後クロは正式に家族になり楽しい日々を送った。
完全にクロがヒロイン枠になってしまう。