最近級友の雪ノ下雪乃がとっても可愛い件について   作:ぶーちゃん☆

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さーせん、ひと月ぶりになってしまいました(白目)





私のクラスメイトは武舞台を華麗に舞い踊る

 

 

 

 そのあまりにも美しき姿に、葉山くんが退場したことにより騒然としていた場内にも途端に熱気が籠もりだす。

 ある者は感歎の溜め息を漏らし、またある者は拍手を打ち鳴らす。

 それほど迄に凛と美しい佇まいなのだ、我がクラスの主の和装姿は。

 

 フ、フフフフフ、どうよ皆の衆! 圧倒的じゃないか我が主は! これでようやくお分かりいただけたしらっ。雪ノ下さんが本気出したら、葉山くんなんて目じゃないんだからね!?

 

 

 ……っと、それはそうと、一体あの出で立ちは何事なん? 確かに美しくて格好良いけど、なぜ突然そのような格好を?

 

「女子剣道部から借りた!」

 

 戦女神の御姿に魅せられながらもふよふよとクエスチョンマークを浮かべていると、まるでそんな私の疑問を代弁してくれたかのような目の腐った憎っくき男子の何事かの呟きに、パイヶ浜さんが元気にそう叫んだ。

 

 ……ほう、そっかあれは剣道着なのかぁ。言われてみれば確かにそんな感じがしなくもない。まぁ剣道着って防具まで含めてようやく剣道着一式ってイメージだから、あの臭っさくて武骨な防具を着けてない袴姿だけの状態だと、あんま剣道ってイメージが沸かないのよね。

 ああいう格好はどちらかというと弓道とか合気道とか東堂(シオン)とかそんなイメージ。ふふ、今のは弓道と合気道と東堂で“ドウ”が掛かってるっていうウィットに富んだナイスなジョークですよみなさん! こんなナイスジョークをさらりと飛ばせる小粋な私をイゴよろしく! っつってね。フヒッ。

 

 

 ハァ〜、それにしてもなんといいますか、やはり美人はなにを着ても似合うものですなぁ。

 初めて見たけど、雪ノ下さんの和装の似合いっぷりはハンパないわ。やっぱ着物ってスラッとした日本人体型にぴったりフィットちゃんだよね! 美少女は美少女でも、三浦さんや由比ヶ浜さんではこうはいかないだろう。

 

 ……うん、良かったねぇ雪ノ下さん! 雪ノ下さん本人もかなり気にしてるっぽい唯一のウィークポイントかと思われていたとある部分だけど、アレはアレなりにきちんと有効利用できるんだね!

 ……あ、あれ? 途端に私の全身を謎の寒気が襲ってきたぞ? ……おや、誰か来たようだ。

 

「てか雪ノ下さん、なんであんなカッコしてんの……?」

 

 謎の氷点下の殺気にぶるぶるしていると、さっきまで隣で雪ノ下さんの凛々しきお姿に興奮していたはずの愛が、不安げにふとそんな疑問を口にする。

 

「ま、まさか今からあの汗臭そうな柔道部員と戦うわけじゃ、ない……よね」

 

 すると今しがたまで同じく色めきたっていたはずの真希も途端にサァッと青ざめはじめ、なんかお芋みたいな柔道部員をぷるぷると指差した。

 

 ──ハッ!? そ、そういや雪ノ下さんの凛々しすぎるお姿に興奮しすぎてすっかり忘れてたよ!

 この流れって、普通に考えたら雪ノ下さんが試合に出るって事じゃんか!

 

「いやいや、さすがにそれはダメでしょ! だ、だってあの雪ノ下さんがあのお芋と肌を合わせるとか有り得ないってばぁ!」

 

 と、そんな嘆きの言葉を口にしてふと気が付いた。

 

 ……あ、だから、か……

 

『構うよ! ダメだよ! 絶対ダメ!』

 

 ……だからさっき由比ヶ浜さん、あんなに涙目で雪ノ下さんを引き止めてたのか……!

 そりゃ必死で止めたくもなるっての……。例えどんなに凄い人だとはいえ、仲良しの女の子を男子とバトらせたい子なんかいるわけない。

 そしてあの正体不明の男子、さっき立ち上がろうとして雪ノ下さんに袖を引っ張られていたのを考えると、たぶん雪ノ下さんが戦わないで済むように自分が出ようとしたんだろうな。

 

 でも、あれだけ必死に引き止めてた由比ヶ浜さんを説得してまで、困惑の表情を浮かべるあの男子を真っ直ぐ見据え、そんな男子の心配に勝ち気な微笑みで応えてまでも、雪ノ下さんはあの戦場に自ら立ったって事なんだ。

 あなたがそんなことまでする価値があるんだね、雪ノ下さんが所属している奉仕部っていうのは。

 

 ……だったらさ、悔しいけどただの部外者でしかない私らが、ここでどうこう言えるワケないじゃない。

 なんならそんな資格ないまである。

 

 うん、そっか、そうだよね。

 だから私はこんな言葉を口から溢れさせるのだ。ねぇ、真希、愛。さっきは私も否定しちゃったけどさ……、雪ノ下さんが選んだ選択を温かく見守ろうよ、二人とも、って想いをたっぷり籠めて!

 

 

「ぐ、ぐぬぬ……! な、なにあのお芋……! 雪ノ下さん見ていやらしそうに頬染めちゃってんだけどっ……! ち、ちっくしょー! あんの芋ぉ、雪ノ下さんの陶器のようなスベスベお肌に触れたらただじゃおかねーぞぉ!」

 

 全然温かく見守る心なんて持ち合わせていなかった。いやん私ってば心狭すぎィィ!

 

 今にもムキーっと試合場に殴り込みをかけんばかりの私を真希と愛が必死に羽交い締めにする中、ついに審判(これまたお芋)が開始の号令をかけてしまった。

 待ってぇ! 私まだあの芋殴ってないのぉ!

 

 

 始めの合図と共にお芋がダッシュで雪ノ下さんに襲い掛かる。

 ダメよ雪ノ下さん! あの目は完全にレイプ目だからぁ! あの芋、絶対にどさくさ紛れにパイタッチとかする気だよぉ! いくらあんまり無いお胸といったってあるにはあるのよ!? 早く逃げてぇぇ!

 

 

 ──その瞬間、背筋にゾッと寒気が走る。

 いや、別に雪ノ下さんのお胸事情を揶揄した事による殺気で寒気が襲ってきたわけではない。んーん? そもそもこれは寒気とかじゃなくって、あまりにも凄まじい光景を目撃してしまった事による、感動の鳥肌なのかしら……

 

 

 勝負はほんの一瞬だった。一瞬も一瞬、まさに瞬殺。

 

 迫りくる暴漢が彼女の胸元に手を伸ばした直後(訳・相手選手が道着の襟元に手を伸ばした直後)、暴漢はふわり宙を舞っていたのだ。

 陶器のようなお肌どころじゃないよ……。肌どころか道着の袖さえも指一本触れさせず、足捌きと身のこなし、そして相手の柔道着にほんの僅かに添えた手だけでお芋を空気投げ──あのお姿と雪ノ下さんのキャラ的には、合気道で言う隅落しの方がしっくりくるのかな……、とにかくそんな美麗な神業で、大の男を軽く投げ飛ばしてしまったのだ、ウチのクラスの主様は。

 これはもう格闘技というよりは、もはや軽やかな舞いのごとき美しき所作。

 

 どさっと派手な音が会場内に響き渡り、観客達の脳と心臓への衝撃により生まれた数秒間の静寂。そして、次の瞬間沸き起こる喚声、歓声。

 

「す、すっげー……」

 

 そんな呟きが勝手に口から零れちゃうくらいにはホントにすげぇ。マジでなんとも凄いモノを目撃してしまった。

 

 や、やっぱ雪ノ下さんって凄い、凄すぎる! はっきし言って、美しカッコイイぜ! 私あなたに一生付いていきますぅ!

 

「キャー! 超すごーい! やっぱ雪ノ下さん神だよ神! どっかの修羅場間男イケメンとは違うよねー」

 

「ほんとマジそれ! さっきイケメン(笑)が決めた背負い投げ? とかなんて、雪ノ下さんのに比べたら超しょっぼーい! あんだけ歓声上がってたのに、もうこの会場で葉山投げなんて誰の記憶にも残ってないんじゃねっ!?」

 

 当然のように真希と愛も大興奮で大喜び。そしてちょいちょい葉山ディスりを忘れずブッ込んでくる辺り、さすがはJ組の精鋭部隊☆

 

 勝者……ってか絶対的支配者を讃えるこの大歓声の中にあって、当の本人はなんとも涼しげな顔で歓声の花道を優雅に歩く。こんなにとんでもない事をやってのけたのに、声援? 歓声? なにそれ美味しいの? 私、大したことはしていないのだけれど、と言わんばかりの平静さで。

 字面はそっくりでも、褒めるとすぐ調子に乗っちゃう平塚静さんとは大違い!

 

 ああん、もう! あまりの格好良さと素敵さに惚れてまうやろー! もう抱いて欲しいまである。

 てか感極まってを装って抱きつきに行っちゃおうかしら。

 

「すごいすごい! 超かっこよかった!」

 

「なっ!?」「ん……」「だと……!?」

 

 どうやら私だけではなく真希達もどさくさ紛れに抱きついちゃおうかなっ? とか画策していたらしく、まさかの横からのかっ攫い抱き付きヶ浜さんに、私達は絶望の嘆きをハモらせてしまいました。

 ちょっと? 私達J組一同だってそんな風に雪ノ下さんと気軽にスキンシップしてみたいのに、こちとら一年以上も我慢してるのよ? ちょっとゆるゆりし過ぎなんじゃないかしら由比ヶ浜さんとやら。ちくしょう、少しは自重しなさいな? (血涙)

 

「ちょっと……。暑苦しい」

 

 でも由比ヶ浜さんの抱き付き攻撃をウザがりながらも、なんだか頬を染めてどこか嬉しそうな雪ノ下さんが口惜しい事にまじカワユス。いやん悔しい! でも感じちゃう!

 なんか納得いかないのに、なんでかほっこりしちゃうんだよね〜。だって……あの雪ノ下さんが、ホントにあんな表情見せるんだなぁ、って。

 

 

 ここに来るまでは半信半疑ではあったけれど、いざ実際に目の当たりにしてしまうと、これはもう信じざるを得ないなぁ……

 ついぞ私達が見たこともないような無防備な表情で自然に微笑み、普段関わることのない男などという存在にもああして気を許し、そしてそんな仲間達の心配を押し切ってまでも自らを戦いの場に曝す。

 

 そう。雪ノ下雪乃という少女にとって、その奉仕部とやらは我らJ組よりもずっと大事な場所であり、そしてずっと心和む友人が居るのだという事を。

 

 

 なんという敗北感だろう。でもなんという清々しさだろう。

 

 私達は雪ノ下さんともう一年以上同じ教室で共に勉学に励んできた。だから私達はこの学校内において、他のどの生徒達よりも雪ノ下さんに近い存在なんだと自負していた。

 その根拠の無い自負がこんなにもあっさりと……こんなにも脆くも崩れ去ったのだ。悔しくないわけがないではないか。

 

 そう、……めっちゃ悔しい! めっちゃムカつくのぉ!

 でもさ? なんで? ってくらい、なんか嬉しい。

 だってさ、確かに少しだけ近いとか思ってはいたけれど、でもこれ以上は近づけない……触れられない特別な存在なんだと思ってた憧れの雪ノ下さんがあんな表情(かお)してんだもん。

 それって裏を返せば、私達にだってあんな表情してくれるかも知んないって事じゃない? ふっふっふ、これはワンチャンありでしょう!

 

 うう、でもやっぱ悔しいよぅ悔しいよぅ……! でも超悔しいぶん、俄然ヤル気が出てきたぞぉ!

 ちっくしょー! 今に見てろ奉仕部っ、私達だって……私だって、絶対雪ノ下さんとあんな風に笑い合ってみせるんだからね!

 

 

 

 ──たくさんの歓声とたくさんの溜め息、たくさんの感情に包まれた謎の柔道大会。

 そんな乱痴気(らんちき)騒ぎ片隅で、人知れずそんな決意を胸に秘めた少女がひとり、グッと小さくガッツポーズを決めた。

 ……こうして、S1グランプリとかいうなんだかよく分からない一学期最後のイベントは、大盛況の内に幕を閉じていったのでした。

 

 

 

 

 

 

 え? その後の大将戦はどうしたって? ごっめーん! ちょっと興味無かったんで、あんま見てなかったですぅ!

 でもなんか、奉仕部男子がえらいゴツいお芋のラスボスみたいなのに、バックドロップ食らって悶絶してましたよ? はっきし言って超面白カッコ悪かったです! ざまぁ♪

 

 

 

 柔道大会総括──

 

 雪ノ下さんが素敵すぎてこわい。

 あと、柔道ってバックドロップとかOKなのね!

 

 

続く

 





というわけでありがとうございました〜!
これで終わりかと思いきや、もう一話だけ続くんじゃ(・ω・)

ホントは今回で書き切るつもりだったんですけど、今話のテーマが「華麗に舞い踊るゆきのん」だったもんで、これ以上続けちゃうとそれがボヤけてしまいそうだったので一旦区切っときました。


次回で完結(詐欺じゃないよっ?ホ、ホントなんだからね……!?)です!それではまた次回お会いいたしましょうノシノシ




追伸。
前回投稿後にガールズラブっぽくて気持ちが悪い、ガールズラブタグ付けたら?と言われてしまったのですが、この作品にはこれといってガールズラブ要素はありません!
もともとJ組がゆきのんに対してゆるゆりお姉様っぽい世界というのは原作設定から拾ってきたモノなので、これでガールズラブタグを付けていたら俺ガイルSSは全部ボーイズラブタグを付けなきゃならなくなっちゃいます。だってこれでアウトなら、戸塚に対する八幡のモノローグは完全にアウトですもん。
なので今後もガールズラブタグは付けませんのでご了承くださいませm(__)m


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