最近級友の雪ノ下雪乃がとっても可愛い件について   作:ぶーちゃん☆

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思いのほか早く仕上がったので(なぜなら今回で終わると思ったら当然のように終われなかったからッ白目)さっそく投下!


そして今回、葉山がアンチヘイトされます(・ω・)






私のクラスメイトは戦場(いくさば)に凛と立つ

 

 

 

「え、なにこれ、え? どういう状況……?」

 

 

 

 武道場に足を踏み入れた私は、騒然とした場内の様子に目が点になる。

 なにせあの雪ノ下プレゼンツな柔道大会。野郎同士の熱いバトルはさぞや盛り上がってるんだろうなぁと急ぎ足で踏み込んだ私の目に映ったのは、うちの学年の有名人葉山隼人くんに詰め寄る一年生“女子”という謎すぎる構図だったのだ。なんだこれ?

 

「い、いろは……」

 

「葉山先輩いないから一年どうしていいかわかんないんですよー」

 

 おいおい男同士の汗臭いくんずほぐれつ見にきたのに、なんで男と女のラブゲームやってんだよ……と唖然としていると、異物感満載な女の子はそう言ってぷくっと頬を膨らませた。

 そんなあざとさMAXで「あ、ああ。いや、今ちょっと」と動揺している葉山くんの柔道着の袖をちょこんと摘むその女の子は、……うん、ありゃどう見ても養殖モノだわ。私知ってるよー? だって男の前の真希がちょうどあんな感じですもの!

 

 しっかしすげーなあの子。この戦いの場において明らかに異質感バリバリなのに、周囲の目なんか一切気にしちゃいねぇ。ぽかんと口を開けてる観客達なんかお構い無しに、葉山くんに向けての「可愛い後輩がこんなにも先輩を頼りにしてますよー」アピールがもんの凄い。

 あんな潤々上目遣いのくせして、あれは間違いなくハンターの目やでぇ……

 

 状況も理解出来ず、葉山くんvsあざとい後輩女子の異種格闘技戦の行方を静かに見守っていると、なんとここで思わぬ飛び入りゲストが。

 

「わりー、いろはす。俺戻るから、隼人くんは勘弁してやって」

 

 ってまさかの戸部登場! これはもうプロレスばりのサプライズ! (ちなみにプロレスの世界ではサプライズと書いて演出と読みます)

 なによあいつ元気そうでなによりじゃん。

 

「あ、戸部先輩は大丈夫です」

 

 でも残念ながら後輩女子はスルー余裕でした。

 

「お、おう……」

 

 ブフォッ! ちょ。噴き出しちゃうからやめてよ! ホント元気そうでなによりじゃん(笑)

 いやー、久し振りに戸部見たけど、相変わらずそうで安心しちゃうまである。

 

 戸部と私の一年以上ぶりの再会は、こうして静かに幕を閉じたのじゃった……

 

「あー、しほり遅かったじゃーん」

 

「マジおっそい。なにしてたのよ」

 

「うぅ……ごみ〜ん」

 

 そんなやりとりを私同様あんぐりと見つめていた二人。冒頭の私の問い掛けに答えてくれなかった真希&愛は、大遅刻で大会観戦に姿を現した私をそう言って迎えいれてくれる。

 なにを隠そう遅刻する事が決定した時点で、この二人に場所取りをお願いしておいたのだ。

 

 しかし憧れの雪ノ下さんに笑顔で「来てくれると助かるわ」とか言われちゃって、あれほどにへにへ締まりなく楽しみにしていた大会観戦に大遅刻とは、一体どういう了見だ! っつーとね……?

 ……ふぇぇ、今日に限ってHR後に担任からまさかの雑用押し付けという罠を食らってしまったよぅ……。なんでよりによって今日、なんでよりによって私なのよ!

 

 ま、まぁ? 先生が? 優秀な私に頼りたくなっちゃうのも? まぁわからなくも? ないですけどぉ?

 …………はい、今朝大遅刻かましたからですよね分かります。まじアニメを深夜に放送する必要性について全世界の民衆に問いたい。

 

 しかも急いで雑用こなして職員室に行ったら、今度は残念師匠の平塚先生に捕まって、なぜか夕べの合コン失敗の愚痴を延々聞かされるというね。おいおいちょっと待て、残念師匠ってなんだよ。まるで私が残念の次代を担ってるみたいじゃないですかやだー。

 

 にしてもさ、なんか私だけスーパーレアな光景目撃(にゃ〜ん)の代償でかすぎない? 神は私の財布の中身だけでは飽き足らないと申されるのか……!

 

 

 とまぁ山あり谷ありでようやく武道場に辿り着いた私が目にした光景がこれなわけですよ。

 おっかしいなぁ? 私たしか柔道見に来たはずなんだけど、なんでこんななんちゃって青春グラフィティを見せられてるのん?

 

「……で? 今どんな感じになってんの? んで、なんでこんな事になってんの?」

 

「あー、なんか思いの外展開が早くてさ、これが決勝の第二試合なのよ」

 

 もう決勝なの!? ちっくしょう、あの独神ェ……!

 

 愛の無慈悲なお言葉に愕然としていると、真希がこの謎状況の顛末を説明してくれる。

 

「でー、さぁ試合が始まります! って時に、空気も読まないでなんかめっちゃ同性に嫌われてそうなあのあざとい子が乱入してきちゃってさー」

 

 お前がそれ言っちゃう?

 でもまぁ腹黒真希が思わずそう言っちゃうのも分からなくもないくらいにはあざとい。なんていうか、くりっとしたお目々から、艶っと可愛らしい唇から、小動物っぽい愛らしさから、ピンクのジャージから、どうやら地毛っぽい亜麻色の髪色に至るまで全部が全部超あざとい。

 あれは並みの男ならコロッと騙されちゃうわ。葉山くんは恐ろしい本性に気付いてるっぽいけども。

 

 まぁそんな事はどうでもいいから、とりあえずなんでもいいからちゃっちゃと柔道始めてくんないかしらねー?

 ……あ、そもそも私、柔道も葉山くんもあざといのもどうでもいいんだったっけ。私が関心持ってるのは我らが女王様のみ!

 そういや武道場に入ってからというもの、妙な展開に気を取られて我が主様の姿を拝んでないじゃない! くっそ、私としたことが!

 どれどれ〜、どこにいらっしゃるのかな〜っと。

 

「ねぇ、あんさー。今、隼人忙しいんだけど?」

 

 ようやく本来の目的であるマイマスターのお姿を探し始めると、なんともいいタイミングで騒然とした武道場に女王様のお声が響き渡る。

 いやいやこれ女王様違いだから! 我らが女王が発したお声であれば体感温度がぐぐぐっと下がるであろうトコなのに、こっちの女王様のそんなお声によって、武道場の体感温度がぶわぁっと跳ね上がっちゃったよ!

 

 あ、あれって、確か三浦さん……だよね。うちらのマスターとは対照的に、獄炎の女王様で有名な。

 いくらJ組が世間(総武高事情)の情報や噂に疎いとはいえ、さすがに学年どころか今やスクールカーストトップの三浦さんくらいなら知っている。

 はぁぁ〜……さすがは雪ノ下さんと双璧を成す女王三浦優美子。マイマスターには若干及ばないものの、さすがにかなりの美人よね。あと超恐い。そこら辺もさすが双璧。

 ただし……、フッ、双璧と言っても壁具合に関してはマイマスターの足下にも及ばぬわ! ちっくしょう、いいチチしやがって三浦ァ!

 ……あれ? なんだか別方向から寒気ががが。

 

 そして、獄炎の女王の名に恥じないほどの熱気を放ってあざといのに突進していく三浦さん。大丈夫? なんか熱気の凄まじさで彼女の周囲がゆらゆらしてんだけど。

 

 三浦優美子が葉山隼人にお熱なのはわりと……てか超が付くほど有名なお話である。そんな獄炎さんにビビって葉山くんに近づけない恋に恋する乙女は一人や二人じゃ済まないとかなんとか。

 それなのに、こうも目の前であざとい女豹とのイチャコラを見せつけられたんじゃ、そりゃ赤い炎も蒼く燃え盛るってなもんでしょうよ。

 

 そんなもの凄いプレッシャーとパッションを一身に浴びてしまっては、さしものあざとい後輩もどうしようもない。

 蛇に睨まれた蛙の如く、彼女はこう口にするのだった。

 

「え〜? でもー、部活も大変ですしぃ……」

 

 ってうっそマジ!? なにこの子! この獄炎を涼しい顔してそよっと受け流しやがったよ?

 こ、こいつっ、こう見えてめっちゃ肝が座ってやがる……! 思ってたよりずっと大物だわこの子。私なら普通にチビッちゃってるトコだわよ? やだわお下品!

 

「はぁ?」

 

 自信の圧をそよ風のように受け流された余裕綽々の態度に、大層ご立腹の女王様はさらなる灼熱を込めて後輩に詰め寄るも、未だ揺るがぬ涼しげな表情。「ま、まぁまぁ」と慌てて三浦さんを宥める葉山くんの表情の方がよっぽど冷や汗ダラダラでワロス。

 しかし涼しい顔した亜麻色の乙女も、葉山くんに間に入って貰えた事を好機と捉えたらしく、途端に葉山くんの背中に隠れて小動物のようにびくびくと裾をちんまり握りはじめたもんだから、ついに獄炎の堪忍袋の緒が切れましたよ?

 三浦さんは顔を俯かせ、ふぅと深く深く息を吐き出した。

 

「……隼人、先に部活行ってていいよ。あーし、ちょっとこの子と話、あるから」

 

「え」

 

 思わず噴き出してしまいそうなくらい間抜けな声を出して固まってしまった葉山くんの視線の先には、なんとも極上なスマイルを浮かべる三浦さん。控え目に言って恐すぎる。

 

「部活、頑張ってね♪」

 

 あ、これマジヤバいやつだ。

 「はやませんぱーい」と悲鳴をあげながらずるずると引きずられていくあざと後輩の顔にも、さすがに戦慄の色が浮かんでる。御愁傷様です後輩ちゃん、あんたちょっと煽りすぎたんだよ。

 でもその勇気、お姉さん忘れないからねっ。あんたとは別の世界でなら親友になれそうよ☆

 

 

 これには葉山くんも後輩の命が懸かっていると判断したらしく、もう柔道どころの騒ぎではなくなってしまった様子で──

 

「ごめん! ヒキタニくん! すぐ戻るから!」

 

 と、多分チームメイトなのであろうヒキタニくんとやらに手を合わせ、颯爽と武道場から走り去ってしまった。

 どう考えてもすぐ戻るってレベルじゃないね、これは。ふぁいとー!

 

 

 たぶん今大会の主役であろう葉山くんの突然の失踪に、場内はさらなる騒めきを余儀なくされる。若干三名の悪意を除いて。

 

「ぷっ、なにあれダッサ〜、完全に間男じゃん」

 

「ウッケる」

 

「いやぁ、さっき来たばっかなのに、スタートからクライマックス頂きましたわー」

 

 ざわざわしてる中、腹黒真希の失笑から始まった邪悪なる悪口大会。もちろん込み合うギャラリーには聞こえないように小声ですよ?

 

 実を言うと学校の人気者葉山くんは、我らJ組の間ではあまり人気がないのだ。人気がないってか、むしろ大不人気キャラまである。

 

 それはなぜか。そりゃ決まっとろうが。学園ラブコメにおいて完璧超人メインヒロインは一人でいいのだよ! うちの雪ノ下さんを差し置いて学校の人気を集める完璧超人ヒロイン葉山くんは、もはや我々の敵なのである!

 ばっか葉山派の連中は分かってねぇなー、うちの雪乃嬢の魅力を。

 そりゃね、葉山くんと違って人当たりはすこぶる悪いし協調性も皆無だよ? 愛想だってゼロだし性格もキツくて悪いときたもんだ。なにこれ普通に考えたら人気バロメーターは惨敗じゃない。

 

 でもね、だからだよ、だからこそなのだよ、雪ノ下さんの魅力は。普段刺々してる彼女だからこそ、ふとした瞬間見せる笑顔や優しさや照れ隠しに、うちらのクラスはメロメロなのさ。あーんもう、思い出しただけでも可愛いわね、まったく!

 だから葉山くんみたいないい人オーラ全開の八方美人だと、ツンノ下のデレノ下に飼い馴らされた私達にはもう物足りないのです。なんていうか……あれを知っちゃったらもう普通では満足できない体になっちゃったのぉっ! って感じ?

 

 まぁ実は我がクラスには、葉山くんアンチが決定的になった出来事があるんだよね。それはいつぞやのテニス対決での一幕。

 

 なんか昼休みに雪ノ下さんがあの葉山くんとテニスやってたらしいよ! って噂になった時、勇気ある子が雪ノ下さんに聞きにいったのよ。「雪ノ下さんって、もしかして葉山くんとお友達とかなんですか……?」って。

 そしてその時の雪ノ下さんの一言が、私達の葉山嫌いを決定付けたのだ。

 

 あのとき彼女はこう言いました。

 

『……はい? 彼とはなんの関係もないし、まったく興味が無いのだけれど』

 

 と。

 それは、誤魔化しとか照れ隠しとかそういった感情など微塵も感じさせないような、それはもう尋常ではないくらい能面のごとき表情で。

 

 そのとき私ら思ったね。あ、これ興味無いどころか、めっちゃ嫌ってますわ、と。

 

 あまりにも室内温度が低下した為それ以上は誰も聞けなかったんだけど、それ以来J組の間では葉山という単語は禁句扱いに。なんなら非葉山三原則(葉山を持たず、作らず、持ち込ませず)が提唱されるレベル。

 

 そんなわけで、うちらのクラスは葉山くんをとてもとても敵視しているのです。完全にとばっちりですね、葉山くんごめんちゃい☆

 

 しかし、なにせとても目立つ二人の事。今後この二人の間に在らぬ噂が立つことだってあるでしょう。

 でも私達は、葉山(の噂)は持ちません、作りません、持ち込みません!

 

 

「ぷっぷー、いざというときに役に立たないイケメンほど無力なものって無いよねー」

 

「やっぱ雪ノ下さんの相手じゃないわー」

 

「だよねー! さらば、無害イケメン! ぷーくすくす」

 

 

 推しヒロインをアゲる為に他ヒロインをサゲる事の愚かさは重々理解しつつも、こうして不毛なヒロイン論争は、いつの世も続いてゆくのであった。

 

 

× × ×

 

 

 などと葉山ディスりなどに興じている場合ではなかった。私達が楽しんでいる間にも場内の混乱は当然続いている。

 「え、なになに!? これどうなっちゃうの?」「嫌ァ! わたし葉山くんの雄姿を見に来たんですけどー!」などと各自勝手に騒ぎだして騒々しくなる事により、憎っくきヒロイン(葉山くん)叩きで盛り上がっていた私は急に現実に引き戻された。

 ……そーいやこの柔道大会は雪ノ下プレゼンツだった! もしこのイベントがポシャった日にゃあ、雪ノ下さんの汚点となっちゃうんじゃねーの!? と、ことの深刻さをようやく理解する私。

 

 おいおい、これ雪ノ下さんの為にも私が一肌脱ぐしかなくね? 脱ぐと言ってもちゃんと道着は着るんだからね! 全裸柔道(帯のみ着用)とかヤバくね? などと、多少の混乱により意味不明な供述を始める私ではありますが、そんな時、私の耳に届いた誰かの悲痛な声。

 

「構うよ! ダメだよ! 絶対ダメ!」

 

 ん? なにごと?

 

 そのあまりの悲痛さにそちらへ視線を向けると、私達が観戦している場所からちょうど対面、葉山チームが座して待っている(そのうちの一人は打ち上げられたトドのようにピクリともせず横たわっているけど)スペースに、なんと雪ノ下さんの姿がっ!

 おおマイマスター! そんなところにおられましたか!

 

 だがしかし! だがしかーし! そんな私の雪ノ下さんの隣には、明るい茶髪にちょこんとお団子を乗せた、なんとも可愛らしいおっぱいが居たのだったッ……!

 そのおっぱいは、先程の養殖フグとは違う天然フグの面持ちでむーっと頬を膨らませ、涙目で雪ノ下さんの袖を両手で握っている。

 

「あ! あれあれ、あの子だよ! あたしが前に見たっていう雪ノ下さんの仲良し!」

 

 あ、あの子が噂の仲良し部活メイト……! な、なんつう百合感かっ……

 

「へぇ〜……あの子って……確か、由比ヶ浜さん、だったかな。わりと有名な子だよ。グループが有名だからってだけじゃなくて、男子に超人気あんのよね」

 

 愛の衝撃発言にムラム……モヤモヤしてると、真希がおっぱいの名前と情報を教えてくれた。……ほう、パイヶ浜か……覚えておこう。

 

「ふーん、そんなに人気あんだー?」

 

 真希の説明に対して私もふと思った感想。以心伝心か、同じくそんな感想を抱いた愛の問い掛けに、真希はこんな答えを返す。

 

「そーそー。見ての通り可愛いし、なんか明るくて超いい子らしくってー、男子人気だけなら雪ノ下さんとか三浦さん抑えて、実質一番人気カモ」

 

「マジ……?」

 

 なんとまさかの新ヒロイン枠に名乗りを上げてきやがったぜあのおっぱい。

 でも確かに可愛いけどさー、ルックスは雪ノ下さんの方がずっと美人だし……てかそもそも私らJ組美少女トリオ(自薦他薦は以下略)だってそんなに負けてなくなーい?

 

「……」

 

 ……フッ、やはりおっぱいか(白目)

 男ってみんなケダモノよぉ!

 

 ……ハッ!? てことは私達とそこまでの関係を築いてくれていない雪ノ下さんが彼女と仲が良い理由も、やっぱり……おっぱい?

 

 そう、よね。人は自分に無い物を持っている人に惹かれる生き物なんだもの。

 だったら、そりゃ雪ノ下さんだってあの子に惹かれ…………、あ、あれぇ? なんか私、雪ノ下さんに凍える眼差しで超睨まれてないかしらん? うん、気のせい気のせい。

 

 

 さ、さて、おっぱい談義はここまでにしておくとして、とっとと真面目な話に戻そうか。断じて身の危険を感じたからとかそういう事ではないことは、ここに宣言しておこう。

 

 なぜか涙目で雪ノ下さんを行かせまいと制するパイヶ浜さん。そんなパイヶ浜さんの必死の抵抗にたじろぐ雪ノ下さん。

 はて、あれは一体なにが起きているのだろう。この混乱した状況の中、あの子はなにをそんなに必死になってるんだろうか。

 

 そんな疑問を抱きつつ、二人の美少女ゆるゆり光景をまったり眺めていた時だった。……私は……とても信じられない物を目撃してしまった。

 

 

 さっきからちょこっとだけ気になってたんだけど、羨ましくも憎らしくも、さっきからずっと雪ノ下さんの隣に座っている男子がいた。顔はそこそこ整ってはいるものの、どよっと淀んだ目、ボサボサのままの頭、正座していても分かるくらいに面倒くさそうに折れ曲がった猫背。

 一見しただけだと、かなーり冴えない部類に入るであろう男の子。

 なぜあんな男子が彼女の隣に座しているのか分からなかったけど、まぁたまたま流れであんなポジショニングになっただけのラッキーチェリーボーイくらいにしか見ていなかった。

 

 でも、雪ノ下さんとおっぱいのやりとりを見ていたその冴えない男子が、口を開いてぼそぼそ何事か喋りつつ、ゆっくりと立ち上がろうとした時だった。

 

「……え……っ?」

 

 なんと雪ノ下さんが、あの雪ノ下さんが、そんな冴えない男子の裾を思いっきり引っ張ったのだ……!

 さらにさらに、急に引っ張られた事により首をがくんとさせられて、げほごほとカッコ悪く咳き込む男子とさぁ、ゆ、ゆき、雪ノ下さんがぁ……! まっすぐ見つめ合って、なんか二人で喋りだしたのよぅ!

 

 うっそだろ!? あの雪ノ下さんが、穢れた男なんかとまっすぐ見つめ合って語り合う、だとぉ……!? あんな光景、私ついぞ見たこと無いよ!

 

「ちょ、ねぇねぇ、なんか雪ノ下さんが変な男と語り合ってるんだけどぉ……!」

 

「え、あ、マジだ……っ。なにあれ雪ノ下さんが男子をまっすぐ見つめてるとか……。あの人も、部活仲間かなんか……なんかな」

 

 当然の如く真希と愛もその異様な光景に釘付けとなる。

 なにが異様って、いくら部活仲間だったとしたってよ? あんな冴えない男子がだよ? あの雪ノ下さんに袖を捕まれてお話してくれてるのにだよ? ……なんっであの男、あんな面倒くさそうな顔してんのよぉ! 何奴じゃあ貴っ様ァ!

 

 

 ──すると雪ノ下さんは冴えない男子に何事かを呟くと、不意に不敵に嗤う。

 その冴えない男子に対してではない。なぜか葉山チームの対戦相手の柔道部員を見据えて。

 

「……あ」「……あ」「……あ」

 

 そして今度は涙目のパイヶは……ああもうめんどくさい! 由比ヶ浜さんと二人で頷き合うと、二人して立ち上がって武道場から出ていってしまったのだ。なんか由比ヶ浜さんが雪ノ下さんの手を引っ張って。つまり……て、手を繋いでぇ! うぉぉ! ちっくしょう! なんかよくわからんがゆりゆりしやがってぇ、うらやまけしからんぞぉ!

 

 あまりの珍百景に三人揃ってあんぐりとしていると、ものの十分もしない内に彼女達は戻ってきたのだ。あいるびーばーっく。

 

「ふわぁぁ〜……」「ひゅ〜っ……」

 

 そう言って、先ほどまでの謎男子とのやりとりと由比ヶ浜さんとのゆるゆりにヤキモキしてた真希と愛が感歎の声を上げるのも無理はない。

 だって……だって……、だってそこに立っていた雪ノ下さんは……!

 

 

 

「……ふ、ふつくしぃ〜……」

 

 白の胴着と紺袴に身を固め、普段目にする事など叶わないアップで大人なヘアースタイル。そしてそのしなやかな黒髪の頭上には、可愛らしく結い上げられたお団子髪がゆらゆら揺れる。

 

 

 そう。私だってモヤモヤも百合ムラも、そんな昔の事はとっくに忘れちまったぜ。だって、そこに凛と立つ雪ノ下さんはまるで美しきバルキリー……いやさ、美しき和装の戦女神だったのだから。

 

 

 

続く

 






というわけでありがとうございました!


今回葉山がディスられたのは完全にとばっちりですw
あとは、年明けのあの噂がJ組で流れなかったのはなぜなのか!?の理由づけも兼ねてですかね(^皿^)
なにせそこまで書ききる事は出来ないと思うので、今のうちにその理由づけだけはしとこうかなーと笑


本当は今回で終わる予定だったこのS1グランプリ編も、多分次回で終わりますっ(>ω・)
ではまた次回お会いいたしませうノシ



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