[TS]HUNTER×HUNTER~ノストラード家のメイド長~ 作:ヒロー
「おはようございます、お嬢様」
「う~、さくや~もうすこし……」
「いけません。お嬢様、もう朝食のお時間ですよ」
「う~ん」
とある屋敷の豪奢な天幕があるベットに眠る少女を、メイド服を着た女が起こそうとしていた。
少女は眠たげに、女にもう少し眠らせてと懇願するが、女は朝食の時間なのを理由に、それをにべもなく断り、少女を眠りから覚まそうとする。
「う~ん……わかったよぉ~」
「然様ですか。では、お嬢様改めておはようございます」
「うん。おはよう、サクヤ」
ようやく、ベットから体を起こし目を覚ました少女に、メイド服を着た女は穏やかで、まるで親が我が子に対する様な慈愛の微笑を浮かべてから、頭を90度に下げ、改めて朝の挨拶をした。
その、誰もが見惚れるだろう姿に対して、少女も親しげな笑みを浮かべながら、おはようと挨拶を返した。
女の名前はサクヤ。自らがお嬢様と呼んだ少女、ネオン・ノストラードに仕える侍女を束ねる立場にあるメイド長と呼ばれる存在だった。
完全に意識を覚醒させたネオンは、ベットから出て、いつも朝食を食べるテーブルのある椅子に着席した。
「ねぇ、サクヤ今日の朝ごはんは何?」
「はい、お嬢様。今日の朝食は採れた手の卵で作ったスクランブルエッグと産地直送の新鮮な野菜でできたサラダ、焼きたてのクロワッサンにお嬢様お気に入りのいつもの紅茶になります」
「わ~い! サクヤの作る料理も、淹れてくれる紅茶もだ~いすき!」
ネオンの朝食は何かの問いに対し、サクヤは自身が用意した朝食のメニューをスラスラと答える。その答えにネオンは、両手を上げて大げさに喜びを示した。
「ふふふ、お喜び頂けて嬉しいです。さぁ、どうぞお召し上がりください」
「うん! いただきま~す。ああ! おいしい! 流石は私のサクヤだね!」
「ありがとうございます、お嬢様」
最上級の喜びを示すネオンの様子に、嬉しそうに微笑んだサクヤは、ネオンの前のテーブルの上には、まだ何もないにも係わらず、お召し上がりくださいと言った。しかしそれに、当然のようにネオンが頷くと、いつの間にか何もなかったテーブルの上には、先ほどサクヤが言っていた朝食のメニューが全て、出来たたての状態で並んでいた。ネオンは、その朝食をおいしそうに食べながら、サクヤを褒め称え、サクヤはそれに嬉しそうにお礼を言った。
十代後半の割にはどこか幼げだが、神秘的で儚げな雰囲気を醸し出し、ゆったりとした服を着たネオンは、綺麗に長く伸びたピンクブロンドの髪と翡翠のように輝く瞳も相まって、深窓の令嬢然とした美しさがある。対して銀髪のボブカットをもみ上げから三つ編みにして、青く透き通るような瞳をしたサクヤは、青と白からなるメイド服をきっちりと着こなしている。その頭にはカーチューシャをつけ、腰の辺りに銀の懐中時計を下げ、膝丈ほどのスカートから、ちらちら覗く白い太ももがとてもまぶしい。歳はネオンとあまり変わらないはずだが、どこか色香が漂う美しさがサクヤにはあった。
二人が笑いあう、まるで絵画のごとく美しいこの光景は、主人と従者の2人にとってはありふれた日常だった。
「――ふぅ、うん! サクヤ、ごちそうさま! 今日もありがとう」
「はい、お粗末さまでした」
「それじゃあ、いつも見たく髪をまとめてもらっていい?」
「はい、畏まりました」
朝食を食べ終わったネオンは、紅茶を飲んで一息落ち着くと、持っていたティーカップをテーブルの上に置いて、満面の笑みを浮かべてサクヤお礼を言う。それにサクヤも笑顔で応じた。そしてネオンからいつもしている髪の手入れを任された。サクヤはそれに頭を下げると、いつの間にかテーブルの上にあった食器は消え、その代わり手に櫛やブラシを持っていた。それを使いネオンの髪をサクヤはとかし始める。そして記憶の奥底にあるうる覚えな原作知識に従い、ネオンの髪形を思い出しながら、いつもの巻髪になるようにセットを始めた。
「サクヤはホントっ! 何でも出来てすごいよねぇ~ 髪の手入れも上手だし」
「ありがとうございます、お嬢様」
ネオンの再三にわたる褒め言葉に、サクヤはニッコリと笑いながら髪の手入れを続けた。
そしてそれを続けながら、サクヤは5年前にこの世界に迷い込み、ここで働く事になった経緯を振り返った。
気づくと何もない真っ白な空間に佇んでいた。
「あれ、ここは……?」
「おう、気づいたか」
「え? だれ?」
「うん? 俺か? 俺はあれだな、いわゆる神ってやつだな」
「神?」
「そうそう」
どういうことだ……?
家で寝ていたはずだが、どこかも分からない場所で、よく分からない奴が目の前にいる。
そう目の前にいるというのに、どういう訳か顔や容姿が判別できない。
「それはあれだ俺の姿をしっかり見るとな、お前の魂が耐えられないから、モザイク的なのを掛けてるんだ」
「は? モザイク的なって、あれ? 今……」
「ああ、心くらい読める」
「…………」
「まぁ、そう警戒するなって、実はお前に謝罪しなきゃならねぇ事があってよ」
「謝罪?」
「うん、実はお前死んでるんだ。しかも本当は死ぬはずじゃなかったんだが、まぁ、俺のミスでな許せ」
「……はぁ?」
目の前にいる存在が神だとか、心が読めるとか、自分がすでに死んでるとか、いろいろ驚くところが多すぎて理解が追いつかない。
「え? それを言われて俺はどうすればいいの? 許すって、答えればいいの?」
「ああ、それなんだがお詫びに転生させようかと思ってな」
「転生?」
「そう、よくあるだろう? なんかチート能力? 持って転生とか」
「はぁ、まぁ、そうですね」
「で、だ。なにかある? 要望は聞くよ?」
「そういきなりいわれましても」
ミスで死んでしまったとか、そのお詫びだとかいきなり言われても困惑する。ただの人間1人死んだだけで、神がそこまでしてくれるのは、破格の事なんだろうが正直実感がわかない。
でもまぁ、でもせっかくだしと、いろいろ転生についてどうすればいいか考える。
う~ん、チートといえば例えば時間を操るとかかな? 転生するといえばそういう小説の定番は、漫画とかアニメの世界とかだよな? あとは、美少女がいたりするのが定番かな?
「え~と、ですね」
「ふむふむ、時間操作に漫画にアニメに美少女ね。はい! わかった! じゃあ、いってらしゃい!」
「え? ちょっ……」
その言葉に応じる暇もないまま、そこで俺の意識は暗転した。
そして再び意識が覚醒するとそこはごみの山だった。
「……え? なにこれは?」
思わず言葉が漏れた。そしてその今聞こえた自分の声に違和感を感じた。
「あれ? え? 嘘!?」
そして気づいた。自分が男から女になっている事に、十六夜咲夜になっている事に……
そのごみの山―流星街から抜け出す事して、ある程度の生活基盤を得るまでが大変だった。
自分が使用している咲夜の時間を操る程度の能力が念能力に分類される事。そして、HUNTER×HUNTERの世界に今自分がいると気づいた頃には、すでに半年ほどの時間が経過していた。
いやそれが、HUNTER×HUNTER少しは読んだことあるけど、如何せん残酷な描写が多くて敬遠してたんだよね。
その敬遠していた作品に類似する世界だって、気づいたときは流石に驚いたし、いい加減にしろよ神様って、キレたねマジで。
本当、大変だったんだから、この世界のモラルの低さって言ったら日本のそれより、遥かに低くてね。しかも、最初の場所が流星街だったからね。
まぁ、最初はさ、時間を操る程度の能力を使って逃げ回ってたよ俺も。
でもさ、一週間もしないうちに人を殺したね。犯されそうになってそれに抵抗した結果、つまり、正当防衛。
そのときはこの体に余り慣れてなかったし、念能力を使ってる意識もなかったからね。かなりあっさり、殺しちゃったよ。
人がザクロの実みたいにはじけ飛んでさ、それを自分がやって、人間がそうなる様を目の前で見ちゃったから、まぁ、吐いたね盛大に。
でもそれは最初の頃だけで、金か体か何が目当てか知らないけど、襲ってくる犯罪者や浮浪者どもを徹底的に返り討ちにしていたら、直ぐに慣れたよ。
その頃には流星街から抜け出して、裏の世界の汚れ仕事をして生活を成り立たせるようになってた。
最初は十六夜咲夜になった事に納得してなかったし、神様に対して不満いっぱいだったけどさ、でもやっぱり綺麗なんだよね、俺。ナルシストって訳じゃないけど、この体に相応しくない振る舞いは出来ないだろうって、思うようになってね。仕事において、というか普段から完全で瀟洒な従者を意識して振舞う様にしてたら、腕は良いがメイド服を着た頭がイカレタ女が要るって噂が、少しだけど裏の世界で立つようになったんだ。
それで仕事がやりずらいかなと感じ始めた頃に、マフィアの屋敷の求人を見つけて、侍女として応募したら、そこが今働いているノストラードファミリーだった。
この体の能力は、時間を操る程度の能力だけじゃない。投げナイフ、ナイフを用いた戦闘術、メイドとしての技能等、咲夜として必要な能力を兼ね備えているんだ。
採用試験において、念能力者であることも包み隠さず披露し、完全で瀟洒なメイドとしての能力も披露した結果、侍女の仕事だけではなく、場合によっては護衛なども行うという事で採用されて、正式にお嬢様―ネオン・ノストラード様付きの侍女になった。
それから大体四年、今ではお嬢様のお世話を一番に任せられるようになり、周りからはメイド長や侍女長等と呼ばれるようになっている。
採用された頃は、お嬢様が予知能力者であることから、十六夜咲夜の本来の主であるレミリア・スカーレットを思い出し、咲夜になった自分が仕える事にある種の運命を感じていたが、今ではそんな事関係なく、お嬢様に心からお仕えしている。
母性本能とでも言うのだろうか、可愛らしく神秘的な雰囲気のあるお嬢様を仕えるべき主であると共に、妹や娘のように愛情を抱いている。
ネクロフィリアな趣味の持ち主であるところも、ミステリアスな雰囲気的にプラスだし、些かわがままなところも、可愛らしくていいじゃないかと感じているところに、相当にこの想いが重症なのだと分かる。
「まぁ、私は今の状況に満足していますが」
「え? サクヤ何か言った?」
「いいえ、何も。……よし、さぁ! お嬢様、髪のお手入れ終わりましたよ」
「うん! ありがとう、咲夜」
「どういたしまして、お嬢様」
サクヤはネオンに聞かれたつぶやいた独り言を否定して、話を変えるように髪の手入れが終了した事を告げる。
それに対してネオンがお礼をし、それにサクヤ答える。いつもどおりの様子だが、今日は少しネオンの様子が違った。
「どうしましたか? お嬢様?」
「うん。そのね? サクヤに実はちょっと、お願いしたい事があるんだけど」
「お願いしたい事?」
「うん、あのねその、最近見つかったて言う遺跡のね? 発掘されたって言うミイラが欲しいなって、思っててね? それでサクヤがどうにかできないかなって」
「遺跡のミイラですか。……分かりましたお嬢様、この咲夜にお任せください。必ずやそのミイラ、お嬢様の手元にお届けいたします」
「本当!? サクヤありがとう! 大好き!」
「ふふぇ、っとはい、私も大好きですよお嬢様」
ネオンの様子がいつもと違うのに目聡く、気づいたサクヤは直ぐに尋ねた。
その問いに対するネオンの答えから、様子が違ったのは欲しいものをおねだりするためだったようだ。
そのおねだりにサクヤは少し考えたそぶりを見せたが、直ぐに望みの品を手に入れると了承した。
それに感激したネオンはサクヤに抱きつき、それにサクヤは一瞬だらしなく顔の表情を崩しかけたが、直ぐにキリリとした表情を取り繕った。
それをネオンに気づかれる事がないままに、サクヤもネオンを抱きしめ返した。
抱きしめ返されたネオンの表情は、まるで母親や姉に抱きしめられるがごとく、穏やかで幸福に満ちている。またサクヤも聖母が如く慈愛に満ちた表情をしていた。
二人が抱きしめ合う仲睦まじい様子は誰から見ても微笑ましく、これは最早一種の芸術といえる光景だった。
(くんくんくんくん! お嬢様の匂い!! ふわーーー!! ふぉおおおおおおお!! ネオンさまーーー!!! 最高!! FOOOOOOOOOO!!)
ミイラがほしいとねだるマフィアの令嬢とそれに快く応じるメイドという状況。
そして、聖母の如く慈愛に満ちた表情のメイドの内心を知らなければという注釈が付くが……
続く?