インフィニット・ストラトス~シロイキセキ~   作:樹影

22 / 47
※注意
 二話連続投稿の一話目です。
 ご注意ください。


幕間:ある女軍人たちの駄弁り場

 

 

 

 一般における認知度はどれほどかは定かではないが、軍の基地には多少なり娯楽施設が併設されていることが多い。

 考えてみれば当たり前のことで、軍人も人間でありそして過酷な日々を送ってはいるものの囚人ではない。

 故に、ストレス発散などのために様々な設備が設けられている。

 映画などで見かけるのはバスケやバレーのコートなどであろうか。

 屋内で言えば、図書室や小型の映画館などもあったりする。

 そして周囲に人気のない、それこそ機密性の高い基地などには、バーが存在する場合もある。

 それは、知る者に【地図にない基地(イレイズド)】と呼ばれるその基地も例外ではない。

 

 こじんまりとしていながら趣のあるバーには、今は客は二人しかいない。

 貸し切りというわけではないが、結果としては同じようなものになってしまっている。

 理由は単純明快だ。

 

「チクショウ! 一夏の浮気者ぉおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 盛大にやけ酒を煽っている大虎に絡まれるのを避けたためだ。

 

「イーリ、変なこと言わないの。 というか、違う意味にしか聞こえないわよ?」

「だってよぉ……」

 

 ウィスキーのロックを空けたグラスを快音と共に叩きつけて喚く彼女に、呆れ半分に声をかけるのはその親友だ。

 

 【イーリス=コーリング】と【ナターシャ=ファイルス】。

 共に地図にない基地所属の米軍IS操縦者であり、前者に至っては国家代表でもある。

 さて、なんでこの二人がこんな状態になっているかといえば。

 

「大体、一夏くんの機体が【ファング・クェイク】系統じゃなくなったのは彼の意志じゃないじゃない」

「解ってるけどさぁ。 折角あたしも張り切ってあいつ専用機の設計に協力したのによぉ」

 

 【ファング・クェイク】とは米国の開発した第三世代相当のISだ。

 白式が受領される前まで一夏の専用機最有力候補となっていて、同時にイーリスの愛機でもある。

 とどのつまり、揃いの機体にならなかったことに盛大に拗ねているのだ。

 おかげさまで本日のバーは二人を除いて閑古鳥である。

 

「……巻き込まれたジョージとグレッグは災難ね」

「いや、関係ねぇみたいなこと言ってるけど、それ半分はおまえも原因だからな?」

 

 ……訂正、約二名ほど犠牲者が出ていたようだ。

 ジョージとグレッグと言うらしいマッチョな男性軍人白黒コンビは床に倒れ込んで呻いている。

 どちらも相当飲まされたのか、赤と青が混ざった顔色になっている。

 しかし女性二人はそんな二階級特進寸前の二人など一顧だにせず(一応、最低限の介抱は既にしている)、干した杯に琥珀色の酒を注がせている。

 淀みのない透き通った色合いを眺めながら、イーリスはカウンターテーブルに左頬をべったりと付けながらつまらなそうにぼやく。

 

「あーあ、いろいろコンビ名とか考えたんだけどなぁ……【ダブル・ファング】とか【ツイン・ビースト】とか【ワイルド・カップル】とか」

「別に同系統だからってツーマンセルになるわけじゃないでしょってか最後のどういう意味だオイ」

 

 ナターシャが常の口調を投げ捨ててイーリスを鋭く睨んだ。

 手の中のグラスがミシリと盛大に軋む。

 

「大体、貴女の趣味って年上だったんじゃなかったっけ?」

「いや、そりゃそうなんだけどさ」

 

 身を起こしたイーリスは後頭部をガリガリと掻きながら苦笑を浮かべる。

 

「ぶっちゃけ、あいつってそこらの歳食っただけのヤツよかよっぽど渋いじゃん?」

「確かに」

「それにさ、いったんそういう風に意識したら、年相応っていうの?

 前は何とも思わなったそういう反応のギャップにこう、グッとくるのがあるっていうか……」

「解るわ」

 

 前者は浅く、後者は深々と肯いて同意する。

 と、床で戦死寸前の二人が「そういえばさ、俺たちってこの二人に近いからうらやましがられてるみたいだぜ?」「こんなんなりたい奴いるのかよ?」「そもそも脈ないってか思いっきり別の相手に首ったけになってるんじゃなぁ……」「というか、美人の形したターミネーターはちょっと……」とか、なにやらボソボソと呟いている。

 きっと魘されているのだろうとナターシャは空になった酒瓶を軽く放っておいた。

 ゴンゴンとリズミカルな音を立てて二人の二階級特進の手伝いをしておく。

 

 と、床は静かになったが隣は絶賛面倒くさいままだった。

 

「大体さぁ、ナタルはいいよなぁ~、ってかずっこい」

「なにがよ?」

 

 と、イーリスはナターシャのグラスを持つ右手、正確には手首に巻かれている物を指さす。

 それは革製の組紐で、端に翡翠の飾りが付けられている。

 

「その飾り! 一夏とお揃いじゃねぇか!!」

「ぬぐっ!?」

「し・か・も! お前が主導になって作ってる新型にも、アイツが関わってるって話じゃねぇか!!」

「そ、それは一部の武装のテスターやったり、それで軽い模擬戦しただけよ!!

 ……結局、そっちの武装は採用されなかったし……」

 

 目を逸らしつつ答えるナターシャに、イーリスはしばらく人差し指を突き付けた状態で固まったまま、しかしその直後にまた崩れ落ちる。

 

「ちくしょう~、アタシだってあんなに頑張っていろいろやったのによ~!!

 長い付き合いあったからって、なんで横からさっくり取られてんだよ~!!」

 

 その背を軽く撫でて慰めてやりながら、ナターシャはその言葉に疑念が持ち上がる。

 

(……確かに、いくら本決まりではなかったとはいえ、プロジェクトとして制作も進んでいた物をここにきて急な横やりで反故にされるなんていくらなんでも不自然よね。

 けど、そのことに対しての抗議もおざなりで形ばかりのモノのようだし……)

 

 その辺りもイーリスの荒れている原因の一つなのだが、どう考えてもおかしいことだ。

 ともすればメンツを潰されたと言っても過言ではないのだが、そのことに対する反応がやけに鈍い。

 

(最初からこうなる予定だった? ……いえ、それにしては予算も時間もかけすぎね。

 なら……その横入りを黙認するだけの価値か意味があるって事かしら?)

 

 ナターシャは沈思するが、しかし答えが得られるはずもなく、それ以前に隣の大虎が放置されるのを許すはずもない。

 

「おらぁ、無視すんなよ~、寂しいじゃねぇかよぅ……」

「あぁ、もぅ、わかったから落ち着きなさい! というか泣くな!! 本当に面倒くさいわね今日のアンタは!!」

 

 赤ら顔で酒臭い息を吐きながら軟体動物のように絡みついてくる親友に、ナターシャは口調を投げ捨てて引きはがそうとする。

 やがて諦めたように溜息を吐くと、気合一発、勢い良く立ち上がる。

 

「こうなりゃヤケよ!! とことん付き合ってあげるわ!!」

「おっしゃぁっ!! 鬱憤晴れるまで飲み明かすぞゴラァッ!!」

 

 気炎を吐く女傑二人。

 その傍らの屍二体は「いや、まだ飲むのかよ」「てか大の男二人が潰れるレベルでなんでこんな元気なんだよ」「イチカも大変だな。 こういうの“フラグガタツ”って日本語で言うんだっけ?」「しかもこれ氷山の一角とかアイツ死ぬんじゃなかろうか」などと囁き合っていた。

 とりあえず、死人がさ迷い出ても困るので墓標代わりにちょっといいお酒を彼らの頭に備えておく。

 直立した中身入りの酒瓶は不安定に揺れているが、まぁ割れても大丈夫だろう。

 彼らの翌月の給料が悲しいことになる程度だ。

 なんか盛大に「「Noooooooooooooooo!!!!」」とか聞こえるけど気のせいだろう。

 

 

 

***

 

 

 

 

 それからしばらくして。

 

「ほら、イーリ。 部屋に着いたわよ。

 シャンとする!!」

「うぃ~」

 

 ナターシャは肩を貸しながら引きずった親友の部屋の鍵を開け、ベッドまで引きずっていく。

 その顔は酒精で真っ赤に染まっており、イーリスに至っては目の焦点が合っていない。

 ベッドに辿り着くと、軟体生物のようなイーリスをその上にパージした。

 放り出された彼女は受け身を摂ることもせず布団に顔を埋めている。

 

 彼女たちは軍人であるが、ISの国家代表とそれに準ずる立場故にそれぞれ個室が与えられていた。

 こういう辺りは軍隊内でも数少ないIS操縦者ゆえの特権と言えるだろう。

 

「ほら、大丈夫? 吐き気はないでしょうね?」

「うぇっへっへっへ……だいじょーぶだいじょーびゅ」

 

 怪しい呂律の中でイーリスはノロノロと服を脱いでいく。

 やがて下着だけになるとベッドの中に潜り込んですぐさま寝息を立て始めた。

 その様子に、ナターシャとしては溜め息が出るばかりだ。

 

「まったく……せめてシャワーくらい浴びなさいよ」

 

 言いつつ、ナターシャもふらつきそうになる体をなんとか支える。

 この様子だと、自分もイーリスも明日は酷いことになりそうだが、自業自得と割り切るしかないだろう。

 ナターシャはしばらくイーリスの様子を見て、吐き気を催すことなく寝息を立てていることに苦笑を浮かべつつ踵を返す。

 

「それじゃあ、私も戻るわよ。 じゃあね、イーリ」

「うぅ……いちかぁ……」

 

 返事代わりの寝言に苦笑を浮かべつつ、ナターシャは今度こそイーリスの部屋を後にした。

 溜息を吐きながら今日は酷い目にあったと思いつつも、たまには構わないかとも考える。

 なぜなら。

 

「もうちょっとしたら、しばらく会えなくなるものね」

 

 そう、ナターシャは自身が開発に関わっていた試作機の大詰めのために、近くこの基地を離れることになるのだ。

 彼女は件の試作機に深い思い入れと愛情を抱いている。

 それこそ、我が子のような存在といって差し支えないほどに。

 

 そして、ふと思う。

 この機体が生まれるに至って、自分がほのかに想いを寄せる少年は僅かに関わっていた。

 それは自身が言っていた通り一部の兵装に関してのみで、それも採用は見送られたものだ。

 だが模擬戦を含め、収集されたデータは確かに反映されている。

 

 ならば。

 生まれてくる仔(きたい)は、私と彼との間にできた子供に等しいのではないのか。

 

「―――いえ、それはない。 流石にないわよね」

 

 頭の中に出てきたその考えに、思わず声に出して否定する。

 もし余人が傍から見ていれば、酔いが余程に頭に回っているかと思われるだろう。

 幸いというべきか、それを見ていた者はおらず、ナターシャもそういった懸念に気付くこともなかったが。

 

 そうしてナターシャは酒気に足をふらつかせながら、自室への道を鼻歌交じりに闊歩する。

 その足取りがどこか浮ついているのも、顔の赤みも酔いばかりのせいではないだろう。

 

 いずれ辿り着く未来が、仔の名前が如く【福音】に彩られたものであることを心の片隅で期待しながら。

 彼女はこれまでとこれからにその想いを馳せていた。

 

 

 

***

 

 

 

 一方、同時刻の酒場。

 

「……………なぁ、ジョージ。 俺らいつまでこうしてればいいんだろうな?」

「俺にもわかんねぇよ、グレッグ」

 

 白黒マッチョ共は未だに頭に酒瓶乗せられたまま床に伏せていた。

 

 その後、なんとか翌月の給料は無事で済ませられたようだ。

 

 

 

 

 




【おまけの妄想機体紹介】

◎ファングクェイク織斑一夏仕様機【ビーストマスター】

【概要】
 背面の特徴的なスラスターのレイアウトはイーリスのそれと同じで、個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)の使用も可能。
 イーリスの機体のデータも反映されているため、一夏の適性も併せて彼女よりもはるかに安定した成功率を発揮できる。
 また、一夏の希望として刀型の近接ブレードを収納するための機構が設けられている。

 一方で、IS本体の方は本来の仕様からかなり逸脱したものになっており、殆ど別の機体だと言っても過言ではない。
 というのも、『拡張領域に換装装備を登録し、状況に合わせて展開・換装する』という、言わば『換装装備での運用を前提とした機体』になっているためだ。
 これはISの生みの親である篠ノ之 束が提唱する『換装装備に頼らない万能機』という第4世代のコンセプトに、まったく逆のアプローチで挑んでいるとも言える。

 この機体に対応するための換装装備は【ジャケット・シリーズ】と呼称され、これを拡張領域から展開するために組み込まれたのが【C・J・S】(チェンジング・ジャケット・システム)というプログラムである。
 ジャケットを装着した形態はそれぞれのジャケット名に準拠しており、以下のようなものが想定されている。

・タイガー……虎の頭を模した展開型大型クロー『ワイルドファング』と肩部バルカン砲を装備した近接戦用でデフォルト設定のジャケット。
・バイソン……全身に大口径の砲やミサイル、ガトリングなどの実弾装備を多数装備し、短時間でそれらを全て撃ち尽くすことで対象を完全に制圧ないし破壊する飽和攻撃を可能とする砲戦用装備。
・アルバトロス……全身の各所に追加のスラスターを取り付け、さらに本体を遥かに超える大きさの翼を装備し、単体での大気圏突破すら可能とする推力と最高速度を実現。意図的に生んだ小規模の暴風の中に小質量の金属片を幾つか混ぜ込むことで爆撃のような破壊をもたらす長距離高機動装備。
・レオ……全身に鬣のように小型近接ブレード『レオン・プライド』を多数装備し、それを用途に合わせて様々な形に組み合わせることで変幻自在な攻撃を可能とする全領域対応型斬撃特化装備。
・エレファント……象の耳のように広がった大型センサーと、対象と目的に合わせてその場で弾丸の形状と硬度を調節する演算型長距離狙撃砲『ワイズマン・ノーズ』による広域索敵及び長距離精密破壊狙撃装備。
・パンサー……正確にはジャケットを排した素体の状態であり、背面のスラスターを最も活用できる状態。アルバトロスが最高速度と推力なら、こちらは加速度と敏捷性に特化している。ある意味一夏に最も適した形態。

 欠点としては、拡張領域の容量的に一度に詰め込めるジャケットは多くて三つまでで、さらにそれ以外の通常の兵装を登録する余地が殆どないことである。
 だが、それを差し引いても戦術・戦略の幅を単機で大きく広げることが可能。

 ……なお、一夏が白式を受領したことで開発は中止、計画も凍結されている。





 ……というわけで、幕間の一つ目です。
 ナタルさんどころかイーリさんも落としてたよアイツ。
 というか留学中どんだけフラグ立てたのか、自分も知らない……(ぉ

 ジョージとグレッグについては現地での一夏の年の離れた悪友みたいな感じで。
 たぶん、こんな寸劇とかあったと思われ↓


ジョージ「ん? イチカ、なんだそれ?」
一夏「炬燵だが」
グレッグ「KOTATU?……オイ、ジョージ見ろよ。 テーブルとベッドのお化けだぜ!!」
ジ「うえーん、怖いよマミー! モンスターに食べられちゃうよ~!!」
ジ&グ「「HAHAHA!!」」
………
一時間後
………
ジ「おいグレッグ。 便所行きたいけど出たくない。 代わりに行ってくれ」
グ「やだよ。 むしろお前が代わりにに行ってくれ、ジョージ」
一「もうすぐ鍋ができるから二人ともとっとと行って手を洗ってこい」
ジ&グ「「いえっさー」」


……だいたいこんな感じ。

 【ビーストマスター】については、最初はビルドビルガーでイメージしてたんですがジャケットシリーズの設定が思い浮かんでいろいろ考えてたらライガーゼロになってたという……
 なんも付けてない状態で強くなるって辺りはコロコロでやってた漫画版の方に近いかもですね。
 ………知ってる人ほとんどいないよなソレ。(ちなみに自分はボンボン派でした)

 さて、幕間はもう一つあるので詳しいあとがきはそちらで。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。