インフィニット・ストラトス~シロイキセキ~   作:樹影

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13:突撃! 楯無さんの教室訪問!!

 

 

 

 

 神出鬼没な闖入者の存在に、箒やセシリアのみならず周りの少女たち全員が固まる中、抱きしめられている本人が半眼で動かぬままポツリと呟く。

 

「―――あれを引き分けと言いますか、貴女は」

「数字の上ではそうでしょ。 ……というか、なんで敬語なのよ」

「一応、公衆の面前ですので」

「かしこまった席じゃないからいいのー。 というか、この場で盛大に拗ねるわよ?

 べったりくっついたまま離れなくなってやるわよ? いいの?」

「………すでにべったりくっついているだろうが、楯無」

「ん、それでよし」

 

 ムフー、とどこか嬉し気に笑う楯無。

 それに対し周囲の皆が唖然とする中、ただ一人の例外が声を上げる。

 

「あれー? なんでかいちょーがここにいるのー?」

「フフフ、それはね本音ちゃん。 私の可愛い部下がうまくやっているかどうか視察に来たのよ!!」

「……遊びに来たのか」

「違うわよー。 視察よ、し・さ・つ。 そう、内情がどうであれ私が白と言えば黒も白!!」

「どこの暴君だお前は」

 

 呆れたように呟く一夏。

 なお、実際は昨日は本当に挨拶だけで終わってしまったので我慢できずに迎えに行ってしまったというのが正しいのだが、それは本人すらもはっきりとは自覚していないことだったりする。

 

「お、おい」

「ん?」

 

 と、そんなやり取りをする一夏に、箒が戸惑いがちに声をかける。

 

「ん?」

「い、一夏……その、お前の後ろにへばりついてるのは誰だ?」

 

 すると、一夏が答える前に楯無がするりと離れて佇まいを直す。

 そして不敵な笑みを浮かべながら、

 

「私が何者か、ですって? フフ、いいでしょう、教えてあげるわ」

 

 そう言って箒を見据えると、気圧されるように彼女のみならず周囲の皆が身を引かせる。

 そして、

 

「ある時は―――」

「ただの生徒会長だ。 特に敬う必要はないぞ」

「―――って、なんでネタ潰すの!?」

「めんどい」

 

 直後に、再び一夏と漫才じみたやり取りを再開した。

 わかりやすく頬を膨らませる楯無と、それを軽く流してあしらう一夏。

 妙に息の合っている二人の姿に、箒は胸の内に面白くないものが首をもたげるのを自覚したが、それはそれとしてある言葉に注目した。

 

「生徒会長……?」

 

 と、クラスメイトが先程までとはまた違うざわめきを得ていく。 

 

「生徒会長って……」

「あたし聞いたことある、たしかこの学校の生徒会長って生徒の中で一番強い人だって……」

「あたしも知ってる!! それで今の生徒会長ってロシアの国家代表なんでしょ」

「え? 候補生じゃなくて!?」

「そんな人がなんで織斑くんと?」

「そういえば、部下って言ってたけど」

「ということは……」

 

 そこで皆が一斉に一夏たちをじっと見つめる。

 それに対し、楯無は「あらら」と困った風なようで実際は楽し気に笑い、対して一夏は呆れと疲れを混じらせた溜息を吐く。

 また、傍にいたためとばっちりのように視線の集中砲火に晒される羽目になった箒と本音はびくりと身をひるませる。

 と、ここで楯無が再び得意げな笑みで声を張る。

 

「フッフッフ……何を隠そう、ここにいる一夏は私が実技試験で相手をしたときに、直々に副会長としてスカウトしたのよ!!

 ………あ、ちなみに本音ちゃんは別枠で書記やってもらってるわ」

「いえーい」

『『『な、なんだってぇーっ!!!?』』』

 

 どうやらこのクラスの人間は軒並みノリが良くてお祭り好きらしい。

 そういう意味じゃ楯無との相性も頗る良さそうだと、一夏は現実逃避のようにそう思った。

 

 一方で、クラスメイトの一夏に対する視線はある種の尊敬と羨望の入り混じったものになっていた。

 現役の国家代表に認められ、スカウトされるほどの存在。

 実は、彼は想像以上にすごい人間なのではないか……彼女たちの中でそんな認識が芽生えつつあるようだ。

 と、そこで「コホン」という咳払いが響く。

 見れば、先程まで蚊帳の外に出されてしまっていたセシリアが気を取り直すかのように髪をかき上げる。

 

「―――成る程、どうやらただの馬の骨ではないと、そう思っても良いようですのね」

 

 と、彼女はそこで踵を返し、

 

「良いでしょう。 私の期待を裏切らないことを祈っておりますわ」

 

 そう言い残して、昨日と同じく教室を去っていった。

 その背を見送る一夏の頬を、何故か楯無がプニリと突く。

 

「なにをする?」

「いや、なに考えてるのかなって」

「―――いや、単にセシリアはISに深くかかわっている割に随分と辛辣な態度だと思ってな」

 

 純粋にこちらが嫌いなだけなのかとも思ったが、どうも自分という個人に向けられたものではないような気がする。

 何度か街で見かけた女尊男卑の思想に染まった女性と、同じとは言わないが若干似たような雰囲気を持っているような気がした。

 と、楯無が「んー」と唇に人差し指を当てて考えるような仕草をする。

 

「多分だけど、セシリアちゃんが軍属じゃなくて、機体も研究所由来なのが関係してるんじゃないかしら?」

「む?」

 

 どういうことだ、と一夏が楯無を見上げると、彼女は唇に当てていた指を振りながら、講義をするかのように説明を始める。

 

「ISの運用において、軍の場合はパイロットも整備も全員軍人でカテゴライズされてるからそれだけで一つのチームとして括られるの。

 階級や立場による上意下達も教え込まれてるしね。

 ただ、国や企業の研究機関で生み出されたISの場合、その運用においてISのパイロットは適性の高い外部の人間が招致されることが多いのよ。

 セシリアちゃんもこの口ね。

 そうなるとパイロットは外様……要するにお客様扱いになることがままあるのよ。

 特に彼女の場合は名門の家系だし、余計にその傾向が強いんじゃないかしら」

 

 そう説明する楯無は、それに、とこちらは声に出さずに付け加える。

 

(彼女の場合、周りの環境や境遇がそうならざるを得ないような状況になってたみたいだしね)

 

 難儀なものだ、と彼女は実感のこもった感想をしみじみと抱く。

 どうやら、己の立場と照らし合わせて若干の共感を得ているようだ。

 そんな楯無をよそに、一夏は一夏で楯無に呆れと感心が半々となった視線を彼女に送っていた。

 

(こいつ、何気にセシリアの専用機のことまで把握してるのか)

 

 もっとも、入学時から専用機を有する代表候補生なのだから、調べておくのは当然と言えば当然なのかもしれないが。

 

「と、そういえば楯無。 明日以降の生徒会業務はどれくらい忙しい?」

「ん? ……ああ、訓練の都合かしら?」

「ああ、訓練機がどの程度借りられるかは解らんが、できるだけ感覚は研いでおきたいからな。

 明日も、剣道場を借りて箒と打ち合うつもりだしな」

 

 言うと、楯無は閉じたままの扇子を口元に当てながら、「ふーん」、と横目で箒を見やる。

 そして、おもむろにその扇子をバッと開いた。

 そこには、『迅速果断』の四文字が綴られている。

 

「それなら、今からやっちゃいましょうか」

 

 

 

***

 

 

 

「で? なんでこんなことになってるんだ?」

 

 一夏は憮然とした表情を浮かべていた。

 その身には、剣道着と防具を身に着けている。

 

「ふふん、いいじゃない。 本番まで一週間、時間は無駄にできないもの」

「……楯無、なんでお前まで防具着けてるんだ」

 

 その言葉通り、楽しげに笑う彼女も剣道着に防具を着けて小脇に面を抱えている。

 その姿から察する通り、二人が今いるのは学園の剣道場だ。

 時間的には剣道部の練習時間なのだが、今は竹刀を打ち合う音も掛け声も聞こえない。

 

「それに……」

 

 一夏は半眼で剣道場の壁際を見る。

 そこには、同じように剣道着と防具で身を固めた少女たちが姿勢良く、しかし期待に目を輝かせながら座っていた。

 その中には、どこか不満げな表情を浮かべる箒の姿もある。

 

「なんでか話が大きくなってないか?」

「あはは、なんかごめんね。

 でも男の子と打ち合うとか、まずないからみんな楽しみなんだよ。

 わたし含めて」

 

 苦笑を浮かべながらそう言うのは剣道部の部長だ。

 

 なぜこんなことになっているのかというと、あの後、教室を出た楯無たちはその足で剣道場へと直行。

 すでに練習を始めようとしていた剣道部の部長と親しかった楯無は、その場で部活終了後に場所を借りることへの承諾を得たのだ。

 ちなみにこの時、箒も入部の手続きを済ませていた。

 と、ここまではよかったのだが、ここで剣道部の方から条件が出された。

 それが、

 

「今日、剣道部の部員たちとも打ち合うこと、か。

 いや、構わないと言えば構わないんだが……」

 

 一夏はちらりと楯無に視線を送る。

 向けられた方は「なに?」と小首を傾げて見せた。

 

「今日の生徒会の方は大丈夫なのか?」

「それなら心配ないわ。 まだ学校始まって二日目だし、虚ちゃんにもお願いしてきたから」

「……後でしっかりお礼を言っておこう」

 

 溜息を吐く一夏の肩を、剣道部部長が籠手に包まれた手でポンポンと叩く。

 

「それじゃあ、さっそく始めようか?

 準備運動は済ませてるよね」

「ええ。 ただ、一ついいですか?」

「ん? なにかな?」

「最初は箒とやらせてもらっていいですか?」

 

 その言葉に、箒が眼を大きく見開く。

 そんな彼女に一夏はニヤリと笑いかける。

 

「久しぶりだからな。 真っ先にやりたいんだが……構わないか?」

「っ! ああっ!!」

 

 箒は表情を輝かせて立ち上がる。

 その様子に、楯無と部長は顔を見合わせて笑いあう。

 

「それじゃあ、さっそく始めましょうか」

 

 そして、楯無は下がり、部長は中心へと場所を移す。

 どうやら審判をしてくれるようだ。

 

 一夏と箒は面をつけ、互いに向き合い、一礼する。

 そして竹刀を構えながら腰を下ろすと、

 

「―――始め!!」

 

 号令と共に、猛然と竹刀をぶつけあった。

 

 




 あらかじめ言わせていただきますと、一夏と箒の試合シーンはカットします。
 だって剣道とか高校の授業以外でやったことないし……

 というか、楯無が必要以上に出しゃばっちゃってる気が……
 これくらいならセーフで大丈夫だろうか。

 ついでに、セシリアのきつい態度の訳を独自解釈設定込みで説明。
 とりあえず解釈としてはスポーツのチームが全員その国の人間か一人だけ外国人選手が混じってるかに近いかも?
 ……こうして考えると日本人でロシアの国家代表になった楯無さんいろんな意味でアウェーだったろうな。

 で、次回はちょっと長めでセシリア戦が始まるところまで。
 本格的に戦うのは次々回からになりますので、お楽しみに。
 ……うまく書けるよう頑張ります。

 それでは、また明日。

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