入学初日の授業も問題なく終わり、HR。
担任である千冬が、教壇で声を張る。
「さて、再来週にはクラス対抗戦がある。
これはそのままクラスの代表となるわけだが……」
と、一人の女生徒が挙手と共に立ち上がる。
「はーい。 織斑くんを推薦しまーす」
途端、同じように何人かの生徒が挙手を以って賛同の意を示していく。
「さんせー」
「異議なーし」
「せっかくの男の子だもんねー」
「そうそう、盛り上げないと」
楽し気に色めき立つ少女たち。
そんなおちゃらけた雰囲気を、
「―――いい加減にしてくださいまし!!」
そんな叫びを伴ったバンッ!!、と机を強く叩く音が引き裂いた。
波を引くように静かになる教室。
その場の視線は、一人の少女に集中する。
長い金髪の少女……イギリスの国家代表候補生、セシリア=オルコット。
彼女は髪をかき上げながら憤然と言い放つ。
「程度が低いとは思ってましたが、これほどとは。
呆れるだけにすませるには限度がありますわ!!」
程度が低い、という物言いに他のクラスメイトが眉を顰める。
だが、セシリアからすればそんな彼女たちの反応こそお門違いだ。
「ここはIS学園で、これはクラスの代表を決めるための選出。
それを物珍しさからだけで推すなど言語道断!!」
そう、ここはそういう場所だ。
狭い門を潜り抜けてこの場に座っているのに、自分たちの代表をなぜそんな軽いノリで決めるのか理解できない。
なにより。
「わたくしがここに入学したのは珍獣に芸をさせるためでも、その芸を見るためでもありませんわ!!!」
そう力強く言い放てば、もう誰も何も言えなかった。
周囲の少女たちは圧倒され、教壇に立っている千冬は冷然とその様を眺めていた。
「……クラス代表、立候補いたしますわ。
異論はございまして?」
沈黙が降りている中で、セシリアは先ほどまでの剣幕が嘘のように静かに宣言する。
誰もが押し黙る中、千冬が何かを言う前に挙がる手があった。
一夏だ。
「織斑、なんだ?」
問われ、立ち上がる一夏。
彼は休み時間以上の敵愾心を込めて睨みつけるセシリアを尻目に、口を開いた。
「織斑先生、俺へのクラス代表への推薦を取り下げていただけますか?」
途端に教室がざわめく。
同時にセシリアの視線が喜悦に和らぐ。
身の程を知ったか、そう言わんばかりに。
ひそひそと話し合う生徒たちに、千冬が鋭い視線を投げかける。
「貴様ら、静かにしろ。
―――織斑、基本的に他薦を拒否することはできない。
が、理由は聞いてやろう」
「理由は二つ。
一つは、物珍しさで推されるのは不本意であること。
この辺りはオルコットさんの言葉が概ね正しいですね」
チラリと横目で見れば、セシリアは満足げに頷いていた。
そのまま分を弁えた振る舞いをしているがいい、そんなことを思っていそうだ。
一夏は視線を戻し、真っ直ぐ言い放つ。
「もう一つは、やるからには誰かに言われてなどではなく、己の意志で立ちたいからです」
その言葉に、またしてもざわめきが起こる。
だが、先程とはまた違う意味合いだ。
どこか期待しているような空気の中、千冬が目を細める。
「……ほう、つまり」
「えぇ。 ―――織斑一夏、クラス代表に立候補します」
力強い宣言とともに、教室内が今日一番に沸き立つ。
待ってましたと言わんばかりの歓声の中、それを再び引き裂くような言葉が静かに紡がれた。
「そう、少しは賢いかと思えば……見込み違いでしたようね」
再び水を差されたかのように静まる教室。
一夏が静かに振り向けば、そこには笑みを浮かべるセシリアがいた。
『笑顔とは本来攻撃的なもの云々』という俗説を持ち出すまでもなく、それは獲物と定めた相手に向ける表情だった。
だから一夏も、不敵に同じ類の表情を浮かべる。
「ああ、元からやるつもりだったが……それだけじゃなくなってな」
「あら、そうですの。 ………なら、引くつもりは毛頭ないと」
「無駄な質問はするなよ」
ぎしり、と空気が軋むような錯覚を得る。
二人の間に走る緊張感に、他の少女たちはようやく事の真剣さを思い知る。
「そうですわね。 なら、やるべきは一つだけ」
セシリアは一夏に向ける視線を細め、ゆっくりと、しかし真っ直ぐ射貫くように彼を指さす。
「―――決闘ですわ!!」
「勝負と言えよ? その言葉は一応、日本じゃ犯罪だぜ?」
軽口を叩いて返す一夏は、しかし笑みを深めている。
それが意味するものは、宣戦布告の受諾だ。
一夏とセシリア。
二人の真っ向勝負がここに決定した。
そこまで見届けて、締めるように千冬が手を打つ。
「決まったな。 ならば一週間後の月曜、時刻は放課後、場所は第3アリーナ。
そこでの勝負で勝った方がこのクラスの代表だ。
双方、悔いは残らないように必要な用意はしておけ」
それでは解散、と言って千冬は日直に号令を促す。
彼女は教室を出るその間際、一言だけ言い残していく。
「それと―――オルコットの言は言い過ぎの部分もあるが大体は正論だ。
皆、入学してはしゃぐのは構わんが、ここの生徒である相応の自覚は持てよ?」
***
千冬が去り、放課後となった。
すると、一夏の周りに人が集まってくる。
ちなみにセシリアは自分のカバンを持ってさっさと帰ってしまった。
引き留めなかった辺り、クラスメイトも先程のセリフからどうにも彼女に近寄りがたいものを感じてしまったらしい。
周囲の一人が、申し訳なさそうな顔で頭を下げる。
「ごめんね、織斑くん。 ちょっと調子に乗りすぎちゃったかな」
「いや、このくらいなら構わない。
どのみちやるつもりだったからな」
でも、と今度は違う少女が口を開く。
「今からでも、オルコットさんにハンデもらったほうがいいんじゃない?
彼女、候補生だし」
その言葉に、一夏がなにか言い返すよりも先に彼女は「それに」と続ける。
「―――織斑くん、男の子だし」
「は?」
思わず、怒り出すよりも先に呆気に取られてしまう。
見れば、他の面々も同意見だとばかりに頷いている。
それを見て、固まること数秒。
「ク………アハハハハハハハハ!!」
一夏は、耐えきれず笑い出す。
奇行ともいえる突然のことに、周りの者たちも互いの顔を見合わせて戸惑いを露わにする。
だが、一夏からすれば彼女たちの方こそ頓珍漢だ。
「ああ、悪い……それはアレだろう。 女は男に勝てないとか、女と男が戦争したら三日で女が勝つとか、そういう話」
即ち、女尊男卑。
今の時代の世間一般に広く浸透している価値観だ。
だが、現実を知っている一夏からすれば笑い話の種でしかない。
確かにある意味一理あるだろうが、それは『世界中の核ミサイルが使われれば、地球は複数回分滅亡する』とかいうのと同じことだ。
その通りではあるだろうが、そうなった時点で終わってしまうので結果的には現実感がない仮定の類だ。
無論、危機感としては必要な想定だろうが。
「これは忠告だが、IS関連の仕事を目指すならそういった認識は邪魔になるだろうから今のうちに捨てたほうがいいぞ」
留学での経験からくる言葉に、しかし少女たちは首を傾げる。
当然ながら、彼女たちは意味をはき違えたどこぞのバカ女のように殊更に男を貶めるつもりはない。
だが、一般常識になりつつある考えを捨てたほうがいいというのはどういうことか。
一夏の言葉を図りかねている彼女たちに、一夏はあっけらかんと答えを繰り出す。
「ISの現場は結構な男所帯だからな。
そんな主義主張とかもってても肩身狭くなるだけだ」
それに対し、今度は一夏以外の面々が呆けた表情を一様に浮かべることになった。
というわけで、短めですがきりが良いのでここまで。
セシリアオンステージからのクラス代表を決める決闘の申し込み。
セシリアに原作の日本ヘイト発言は敢えて言わせないで書くことは最初から決定していました。
……他の方の二次創作でもよく言われてますが、国家の代表に準ずる立場の人が言ったらだめだよねっていう……
そしたらセッシーってば(珍獣云々はさておき)概ね正論しか言わない上にしまいには立候補までしちゃいました。
……あれ?(笑
ちなみに、敢えてモブの子たちを擁護するなら、苦労の末に漸く突入した花の高校生活の一日目で浮つくなっていうのも無茶だよねっていう。
さて、次回はちょっと間が空くと思いますが、幕間と同レベルの独自解釈と設定捏造を特盛でお送りする予定。
今書いてる最中ですが前々から考えて書きたいと思ってた部分だから割とスムーズに文が出てきてたり。
その分早めに出せたらいいなとは思ってます。
まぁ、書き溜めとかもするかもなので遅れる可能性も高いですが。
と、なんかいつもあとがきが長いですがこの辺で。
また次回に。
……なろうでやってる方もこのくらいスムーズに書きたい……
あっち、こっちみたいに反応してくれる人いないからモチベが上がんない……(涙