しかし、この小説は本当に僕アカの小説なんだろうか……
別物になってきている気がする。
今回もお楽しみください!!
あ、リクエストの方はお伺いした物の下書きをして、ちゃんとした形になりそうなものを選んでる最中ですのでもう少しお待ちくださいませ!
一体何が起きているんだ?
と言うか、これは今までで一番ヤバい状態ではないだろうか?
もはや緊張の極致に至っている所為か、逆に冷静になってきたぞ。
「どう、ですか? 気持ちいい、です?」
ごしごしと背中を洗ってくれているアリス君が聞いてくる。
「あぁ、気持ちいいよ」
「よかった、です」
どうやらアリス君は凄く緊張しているようだ。
敬語になっている、と冷静に分析できるくらいには今の私は冷静だ。
そして、絶対に前は見せられない状態である事もまた事実である。
私は男として枯れていないからな!
好きな人の裸体が後ろにあると考えたらこうなるのも当然だ。
当然だとわかっている。
だが、この状態はまずいのだ。
……だから、我が分身よ……君も少し落ち着いてくれないだろうか……?
と言うか、何故アリス君は一緒に露天風呂に入ろうと考えたのだろうか?
そんなことを考えていると、背中にタオルとは違う感触がした。
「ッ!? あ、アリス君……どうしたんだい……!?」
まさか手で背中に触れてくるだと!?
君は私を試しているのかい!?
すべすべしたアリス君の手が、私の背中を撫でまわしている!!
「……大きな、背中、ですね……」
聞こえてきたアリス君の声色に、私が感じていた緊張は一気に心配へと変わった。
今のアリス君の声には、何かに怯えている様な気がしたのだ。
よくよく考えてみれば、今のアリス君の行動はどこかおかしい。
確かにいつもは異性に対してどこか無防備な所があるが、ギリギリの所で一線は引いていた。
だというのに、今のアリス君にはそれがない。
「どうしたんだい? 今のアリス君は、どこか変だよ?」
「…………」
私の問いかけに、アリス君は黙り込んだ。
何を考えて、こういった行動に出たのだろう。
君はまだ、何かを抱えているのだろうか?
「私で力になれる事ならなんでも言ってくれ。私は、いつでもアリス君の力になりたいと思っている」
「……ずるいなぁ……」
「ずるい?」
アリス君が背後で苦笑する気配を感じながら首を傾げた。
「俊典さん、私の背中も流してもらえます?」
「なっ!?」
思わず振り向きそうになったが、今アリス君の方を見るわけにはいかなかった。
「ダメ、かな?」
「……わかった」
少し悲し気な声色に私は、覚悟を決めるしかなかった。
私は腰にタオルを巻く……我が分身の所為でタオルが意味をなさないが……アリス君の気配が座るのを感じてからその背後へと移動した。
軽く深呼吸してから、目を開けた。
「ッ!」
アリス君の肌を隠していたバスタオルは外され、アリス君が前を隠すようにして持っている。
白く、綺麗な肌だ。
タオルが外されたせいで、普段は絶対に見ることがないだろうお尻まで見えてしまう。
ごくりと唾を呑みこんでしまった。
先程までアリス君が使っていたタオルで、その肌が傷つかないようにゆっくりとその背中を洗った。
「ンッ……ちょ、っと……くすぐったい……もっと強くて大丈夫だよ」
「ッ……す、すまない」
ピクンと身を震わせて、笑いを堪える様に言うアリス君の言葉に従って、もう少し強く背中を擦る。
無心だ、今は無心になるのだ。
アリス君がなぜこんなこと言いだしたのか問いかけたいが、今だ臨戦状態分身を鏡に映らないようにすることが先決である。
次いで言うと、鏡を見ないようにするのも大事だ。
タオルは白いのだ。
二重にしていなければ、絶対に透ける。
私の視神経は全て、アリス君の背中しか見てはいけない。
その下のやわらかそうなお尻とか気にしてはいけない。
いけない、いけないのだ。
そうして、私は戦い抜いた。
私はすぐさま自身の体を流して、露天風呂へと逃げ込んだ。
過去最大の試練だった。
濁り湯で助かった。
臨戦状態の分身の姿を完全に隠すことに成功したのだ。
…………風呂から出ればよかったのではないだろうか?
いや、今のアリス君を放置して逃げるわけには……いや、風呂に逃げてしまったが。
そんなことを考えてると、チャプンと言う音とアリス君の気配がした。
アリス君の気配が、近い。
「あ、アリス君……近くないかい?」
「そう、かも」
は、離れるつもりはないようだ。
私の試練はまだ続くというのか!?
少しすると、パチンという音がして明かりが消えたのがわかった。
「俊典さん、空、すごい綺麗だよ」
アリス君の言葉に私は顔を上げてから瞼を開いた。
「……すごいな」
満点の星空だった。
今日は新月なのか月明りもなく、星しか見えない。
まだ宿の明かりはあるはずなのに、ここまではっきりと見えるのか。
「ちょっとずるして、私達には星が良く見えるようにしてみた」
「ハハハ、確かに少しずるいかもしれないが、これも露天風呂の醍醐味だね」
どんなふうに個性を使ったのかわからないが、風呂に浸かりながらこの空が見えるとはすごい贅沢な事だ。
人工の明かりがある町では、こういった星空は見ることができないだろう。
風呂の明かりも消されているお蔭か、落ち着いてきた。
「……ねぇ、俊典さん」
「なんだい?」
星空を見上げながら、アリス君の言葉を待つ。
「もしかして……なんだけどね? その……わ、私の事……恋愛的な「ま、まってくれ!! アリス君!」ハ、ハイ、ナンデショウカ?」
予想外の言葉が飛び出てきて、私は咄嗟にその言葉を止めてアリス君を見た。
カタコトになりつつ、私から目を逸らすアリス君を見て冷や汗を流す。
暗い中でもわかる、アリス君の顔が赤い!
これは完全に気付かれてる!?
アピールして意識させる事には成功した様だが、まさか早々に確かめに来るとは!?
これはもう行くしかない。
そうでなければ、アリス君から確認を取られてしまう!
もう手遅れな気がしないでもないが、伝えるなら男である私からだと決めているのだ!
大きく深呼吸して、アリス君に向き直る。
「アリス君」
「……はぃ……」
アリス君は消え入りそうな声を発して、赤い顔で私と目を合わせた。
「私は」
さぁ、覚悟を決めろ私。
「アリス君の事が」
後の事は考えるな。
今は、私が抱いてきたありったけの想いをこの声に乗せて
「好きだ」
伝えるのだ。
「……私も……」
「ッ!」
顔を赤くして、潤んだ瞳で私見て、嬉しそうに笑った。
「私も、俊典さんが、好きです」
「……よかった……」
ハァーと大きく息をついた。
一緒に風呂に入っているから嫌われていることはないだろうとは思っていたが、それでも非常に心臓に悪い時間だった。
ほんの数秒でしかなかったはずだが、告白とは思いのほか勇気がいるものだな。
そんなことを思っていると、アリス君が手を重ねて、寄りかかってきた。
思わず固まった。
私の手にはアリス君の手が重ねられているが、それだけじゃない。
腕に、やわらかいものが当たってる。
しかもタオルの感触がないだと!?
不用意に腕を動かせば……柔らかさの中にある硬いものを見つけてしまうかもしれない……!!
私の試練はまだ終わってなかったのか!?
再び臨戦状態になり始めた分身に嘆きつつ、アリス君に声を掛けた。
「あ、アリス君」
「なぁに?」
甘い、声が聞こえた。
声を掛けない方が良かったかもしれない。
「ねぇ俊典さん」
「な、なんだい?」
アリス君の声に戸惑いながら、返事をすると予想外の言葉が飛び出してきた。
「防音に除き防止の結界、それから今から一時間経つか、ヴィランについての連絡があるまで私の個性は一切使えない様にしたわ」
「なっ!? なぜ!?」
思わずアリス君の方を見ると、胸の先にあるピンク色の物が目に移り、即座に視線をアリス君の顔に固定した。
よ、予想外に体を湯の外に出していた!!
そしてアリス君!!
その劣情を催す様な色気に満ちた表情はやめてくれないだろうか!?
「私は、俊典さんの為なら何でもするって……いったよ?」
「い、いや、待ちたまえ、アリス君!」
「こうして、一緒にお風呂に入ったのも、俊典さんの気持ちを知る為だった。だから、こうして煽るような事をしたの」
「そ、そうか。だが、それで私は思いを伝えられたんだ。結果的に見ればOKではないだろうか?」
「でも、辛いでしょ?」
アリス君の視線が、濁り湯の中にある私の下半身へと向けられる。
「いやいやいや! 大丈夫だ! 何も問題はないよ!?」
私がそういうと、アリス君は恥ずかし気に微笑んだ。
「好きに、して、いいよ? 抵抗、しないから」
「ぐはぁ!?」
や、やめてくれ!!
いくらなんでも早すぎるだろう!?
気持ちが伝わって即合体は……って何考えてるんだ私は!?
「私、少し感じやすいから、するなら、手加減して、ね?」
アリス君は最後まで言い切ると、逃げる様に目を閉じた。
煽るような事を言うなあああ!!
というか、感じやすいとか言うんじゃない!!
襲いたくなってしまうだろう!!
開いている片手で自分の頭を鷲掴みにする。
痛みで何とか冷静になれないだろうか!?
この状態からどうやって逃げればいい!?
助けてくれ脳内の二人!!
私がそう願うと、脳内のナイトアイと直正がサムズアップしてボードを掲げた。
『ヤっちまえ! ヘタレ!』
できるかああああ!!
脳内の二人まで敵だった!
だ、だがこのままだとアリス君に恥をかかせるのではないか!?
男からでも勇気がいる行為だろうに、女性にさせてそのまま放置は心に傷をつけてしまうのではないだろうか!?
な、何かせねば!!
そうして、焦っている内にアリス君が目を開けようとする気配を感じた。
ええい!!男は度胸!!
私は瞬時にそう決心して、アリス君の肩を掴み、その唇へとキスをした。
「っ」
アリス君の息を飲む気配を感じた。
ただ唇と唇を合わせているだけなのに、頭が真っ白になる気がした。
心臓が痛いほどに高鳴っているのに、私の神経はアリス君の唇に集中していた。
ただ、甘く感じた。
ずっとこうして居たいと思えるほど、不思議な時間だった。
唇を離すと、アリス君が小さく息を吸った。
目の焦点が合わず、どこかのぼせたようにぼーっとしている。
それは私も同じかもしれない。
何処か現実味がなく、夢心地だ。
「……もう、いっかい……」
「……わかった……」
何故、キスだけでこんなにも暖かな気持ちになれるのだろう。
先程の様に唇をただ合わせるだけの行為が、なぜこんなにも心に響くのだろう。
「……っはぁ……」
アリス君が唇を離して小さく息継ぎをする。
目じりからは涙が流れている。
「……ふしぎ、なんで、なみだがでるんだろう……」
どこか幼い口調で、涙を流しながらアリス君は呟いた。
その問いの答えを私は持っていない。
だが、私もアリス君と同じ気持ちだった。
「としのりさんも、ないてるの……?」
「あぁ……なぜだろうね……胸が苦しいんだ」
「わたしも、すごく、くるしいよ」
アリス君がぎゅっと私に抱き着いてきた。
私もアリス君の体を逃がさないように強く抱きしめた。
何なんだろうこの気持ちは。
先程まで感じていた劣情が何処かへ消え去り、代わりに感じるのは狂おしい程にあふれ出す
思いが通じると、誰もがこんな気持ちになるのだろうか?
ただ、今だけは。
アリス君をこうして抱きしめていたい。
そう思った。
その後、正気に戻った私達は顔を真っ赤にして床に就いた。
あまりの恥ずかしさに、お互い背を向けて横になっていた。
あまりにも恥ずかしくて、二人して朝まで眠れなかったのは言うまでもないことだろう。
明らかに寝不足な顔で外湯に向かう私達を見た従業員が、直正たちの様な笑みを浮かべていたが気にする事じゃないはずだ!
本日の甘さは……うん……甘いってなんだっけ?
とにかくニヤニヤできるものになったかなとは思う。
さて、遂に思いが通じた二人。
アリスは日記を書く余裕もなかった模様。
しかし、思いが繋がったら押せ押せなアリスもいいと思わんかね?
俊典さんがヘタレたけど。