原作通りにならない僕アカ   作:オリオリ

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お待たせしました。
今回は特に甘さないです。
用意したブラックコーヒーが無駄になってしまった……

今回も楽しんでいただけると嬉しいです。


第十話 やることが一杯だ

 !月!日 天才って……

 

 天才ってホントに怖い。

 なんで技術指導とかなしの戦闘経験だけで準達人級に踏み込んでんの?

 自分で調べて『観た』ことなのに、自分が信じられないんだが……

 イズくんが準達人級に入るのに時間換算で4~5年くらいかかったんだよ?

 なのに数カ月でその域に至るって……かっちゃんマジ半端ない。

 

 しかも好戦的過ぎるし。

 普通No.1ヒーローに「俺と戦え!」っていうか!?

 イズくんもかっちゃんに影響されたのか静かに闘志を燃やしつつ「僕もお願いします」とか言うし。

 それを笑って受けるオールマイトもおかしいと思うんだが……俺がおかしいのか?

 ランク分けするなら超人級に当たるオールマイト。

 流石に勝つことはできなかったけど、オールマイトをして「鍛えていけば私より強くなるかもしれない」とか言わせるとか……

 

 イズくんも準達人級だったはずなのに、なんか壁越えた?

 それともライバル効果?

 君も達人級に踏み込んでるんだけど……これが原作キャラの力?

 イズくんたちの努力を否定する気は全くないけど、ここまで急激に成長するものなのか?

 

 ……駄目だ、俺にはわからない。

 そもそも個性一つでここまで来た俺には壁を超える感覚もわからない……あえて言うなら、自分の感情が一番の壁だけど……それとは全く関係ないし……

 

 もしかして、イズくんたちに個性を使ったのかな?

 いや、でも個性を使いながらイズくんたちが強くなるような想像はしてないよな。

 常時発動型の個性でもないし……寝ぼけて使ったことはないし。

 ってことはやっぱり、イズくんたちが壁を越えたってことだよね。

 原作キャラだからって言葉で片付けるつもりは一切ないけど、すごいなぁ二人とも。

 

 お祝いとして何か作ってあげようかな。

 ほしい物があるか聞いておこう。

 

 まぁ、とにかく

 二人とも昇格?おめでとう!

 

 

 !月?日 草案の完成

 

 消太君からもらった資料を読み終わったので、自分の個性を最大限に使って最高の環境を作れるように草案を考えてみた。

 USJが無くなっちゃうかもしれないけど、それ以上に良い物が用意できたと思ってる。

 俺が用意するのは『仮想現実空間訓練所』と『仮想現実管制AI』の二つ。

 仮想現実空間訓練所は、前世で見たマトリ〇クス的な物で、俺が用意した転移門から仮想現実空間へアクセス。

 管制AIとの連携によって、様々な状況を作り出すことができる。

 管制AIは教師の要望を聞いて無数にある情報から最適な空間を作り出す。

 ただ、これはかなりヤバい。

 管制AIが仮想現実空間を100%把握するように作ってあるとはいえ、痛みは現実と変わらない。

 仮想現実内で死ぬようなダメージを受ければ、管制AIが即座に情報を遮断し、現実に戻せるけど……

 痛みに関する所は要相談だな。

 

 ヒーロー目指すならそのままでいいと思うけど、トラウマ製造機になりかねない。

 

 近い内に消太君に体験してもらって意見を聞こう。

 消太君なら色々欠点とか気が付きそうだし、その都度修正していけばより良い案になるはずだ。

 ……考えてたら近い内と言わず、明日にでも連絡しようかな。

 

 消太君にはいろいろと迷惑をかけてるなぁ……

 何かお返しができればいいんだけど。

 

 

 !月★日 なんか超展開

 

 

 消太君に相談したら、あっという間に緊急会議が始まった。

 まさかの教師全員集合で、俺の持ち込んだ草案について色々と聞かれた。

 色々と話していたが最終的に見せることになった。

 試作状態ではあるけど、実際に体験した皆さんの反応が凄まじかった。

 俺の個性をフルに使って作り出した仮想現実空間は、現実との相違が全くない。

 

 現実と全く変わらない経験をさせる為の施設であり、その為にあるのが管制AIだ。

 あらゆる情報を検索して、起こり得る可能性を想定し、それを仮想現実として作り出す。

 一般人も、警察官も、ヒーローも、ヴィランも。

 仮想現実で作られたモノは全て、現実世界と何ら変わりはない。

 

 育てることに妥協しないとは言ったけど、やりすぎた感があるなぁ。

 

 教師の皆さんに実際に体験してもらったけど、仮想現実と言うのが信じられないらしい。

 スペースヒーロー13号さんと俺が、仮想現実空間のレスキュー隊の人に協力要請を請われた時はみんな動揺していた。

 俺の個性で作った仮想現実空間は、ある意味でもう一つの世界だ。

 その後に管制AIに頼んで、俺たちの姿が見えないようしてもらい、『要請を受けた』と言うデータを消して改めて見学してもらった。

 

 世界を再構成して、飲食物を食べる、建造物に触れたり、ヴィランの襲撃、災害、事故などあらゆるシチュエーションを体験してもらった。

 皆、本物にしか見えないこの空間は素晴らしい教材になると言ってくれた。

 ただ心配なのは場合によっては『死』に近づく経験をしてしまう事である。

 

 話し合った結果としては、命が保証されているのだから痛みくらいは乗り越えろ。

 と言う事になった。

 ヒーローたる者、その程度できなくてどうする!だってさ。

 俺、個性のお蔭で怪我とか全くした事ないから痛みに全然強くないんだけど……

 ……お蔭でショック死寸前で強制送還されました。

 もう真冬の海でダイブなんてしたくない。

 

 ちなみに施設名は『シミュレータールーム』で管制AIは『ナビィ』と言う呼び名になった。

 特に呼び名とか考えてなかったので、俺もそれに賛成した。

 AI……もとい、ナビィも喜んでいたな。

 どうでもいいけど、ナビィっていうと前世でやったゼルダ〇伝説が浮かぶんだけど……こっそりと見た目も変えておこう。

 雄英の生徒が使うのは来年からだけど、先生方の要望で警察、消防、救急、ヒーロー事務所の方々が訓練として使いたいとのことで、早々に設置する事になった。

 

 ついでにオールマイトにも話をして、俺の個性でオール・フォー・ワンの情報を全部登録したシュミレーターを作ってそこで対オール・フォー・ワン訓練をしてもらうことにした。

 なんか、オールマイトが乾いた笑い声をあげてたけど、どうしたんだろう?

 でもこうすれば、オール・フォー・ワンとの戦闘時に起こり得ることは全部把握できるだろ。

 万が一でもオールマイトが負ける可能性は排除しておかなきゃ。

 

 こういった手助けなら大丈夫だよね?

 余計な事だったかな……でもやっぱりオールマイトには怪我をしてほしくないし……(以下惚気の様な文章が続いている)

 

 

 

 D月A日 まじでか!?

 

 オールマイトが近くにいるから、原作通りに雄英で先生をするつもりはあるのかなって聞いたらその予定はないと言われた。

 後継者はどうするんだろう?

 仮に原作通りにイズくんにワン・フォー・オールを渡したとしたら……今の段階でも達人級の技術+心力強化+ワン・フォー・オール=超人級IZUKUさんの誕生?

 心力強化とワン・フォー・オールだけでもオールマイトの倍以上の身体能力になるのに?

 更に特A級の武術の達人になったら?

 

 ……ヴィラン終わったな。

 っていうか、そうなった場合地球上でイズくんに勝てる人っているのだろうか?

 今のオールマイトでも拳圧で天気を変えるんだぜ?

 その倍の強さになったら……え、どうなるの?

 想像できないんだけど?

 

 そういえば、最近のイズくんってワンピースの『月歩』みたいなことやり始めたんだよね……

 空中で戦える様になったかっちゃん対策って言ってたけど……既にIZUKUさんと化してきているのか……

 これ、雄英高校に入ったらどうなるんだろ……

 今度シミュレータールームで個性把握テストみたいなことやってみようかな。

 

 俺は個性チートだけど、イズくんはいつの間にか肉体チートになってるし。

 ハンターハンターの世界みたいに空気にプロテインでも入ってるのかな。

 

 …………あれ?ふと思ったんだけど……

 もしかして俺って既にイズくんに勝てなくね?

 正々堂々とした立ち合いだったら……個性使う前に一瞬で意識刈り取られそうな気が……

 ……このことは心の棚の奥深くにしまい込んでおこう……

 イズくん……早くも師匠越えか……いや、だから考えるなっていうに!!

 

 

 V月E日 なんでや

 

 なんか、警察、消防、救急から感謝状貰った。

 いやシミュレータールームの事で感謝状を貰ったと言う事はわかる。

 わかるんだけど、なんで?

 なんで総理大臣からも会談の要請がきてんの?

 そんなお偉いさんに会いたくないんだけど……あ、お腹痛い。

 俺は良いからオールマイトでも連れて行ってくれませんか、駄目ですかそうですか。

 

 俺は表に出たくないんです、勘弁してください。

 社会に貢献したから表彰?

 いらないです。

 俺をその気にさせたオールマイトを表彰してください。

 

 精神的プレッシャーが凄まじい……

 個性使って図太くなりたい……いや、ダメダメ。

 この個性は自分の為じゃなくてサポートの為に使うって決めたんだから。

 うぐぅ……おなかが痛いぃぃぃ……

 や、やっぱり使っちゃおうか……くっそう、意志弱すぎんぞ俺。

『絶対遵守』でも使って自分に使えないよう……あ、やっぱ怖いから無理。

 

 ど、どうにかオールマイトを引っ張っていけないかな……もしくは消太君。

 あ、でも流石に迷惑だよな……うぅ……か、覚悟を決めろ俺!

 高名なドクター達に会うのと変わらないと思えば……!!

 ……どっちもいやだわ。

 個性で治療してるんです、そんな先進的な医療知識なんてありませんから、俺に意見を求めないで!!

 全部個性のお蔭なんだよ!!

 そもそも一人で活動するのが楽だからこうして一人で活動している訳で、組織に入ったら色々と責任が(以降ネガティブな文章が続いている)

 

 

 ★ ★ ★ ★

 

 

 先輩は無茶苦茶な人だと思っていたけど、どうやら俺の認識はまだ足りなかったらしい。

 今の俺は豪華客船で食事をしている。

 他の教師たちも真剣な目で食事をしたり、周りの人に話しかけたりしている。

「皆楽しんでるかーーー!!俺のライブはまだまだ続くぜぇ!!」

 ……山田が壇上で楽しそうにしているのが見えたが無視する。

 

 俺達が今いる豪華客船は冬の太平洋を航行している。

 そう設定されて作られた仮想現実空間だ。

 俺達は客人設定でこの客船に乗っている。

 作られている料理を食べれば、肉の柔らかさ、繊細な味付けがされた味を感じる。

 水を飲めば喉が潤うし、酒を飲めば胃の中からカッとした様な感覚に陥る。

 これが現実ではないというのが、経験しても信じられない。

 

「仮想現実だからって酒を飲んだら酔うわよ。AI、消太君のアルコール分解しておいて」

『了解しました』

 先輩が管制AIにそういうと、熱くなっていた胃が一瞬で冷めた。

「……先輩って本当に規格外ですね」

 一体どうやってこの仮想現実を作り出したのか。

 やっぱり抱えていた何かを吹っ切る事が出来たんだろう。

 

「うん、次世代の子達を育てるために全力を尽くすって決めたからこれを作ったんだ」

 先輩はそういうと、時計を見た。

「AI一度時間を止めてくれる?」

『了解しました』

 管制AIが声を返すと、周囲の人間の動きが止まった。

「うおーい!! 神綺さん!! 今良い所だったのに止めないでくれよ!!」

「ごめんね、プレゼントマイク。そろそろ時間だから一度集まって話しておこうと思って」

 あいつ、ここが仮想現実だと言う事忘れてないか?

 

 先輩に言われて渋々とこちらに向かってくる山田の頭を叩いておく。

「いて!? なにすんだよイレイザー?」

「遊んでないでこの空間をちゃんと調べろ」

「ちゃんと見てたさ。リスナーの反応が完全に現実と変わんねぇ。ほんとにここが仮想現実なのかわからなくなりそうだ」

 なんだかんだでちゃんと見てたのか。

 完全に遊んでいるようにしか見えなかったが……

 

「皆さん、この仮想現実はどうでしたか?」

「やはり現実と全く変わりありませんでした。この世界で再現された人達も、こうして止まっている所を見なければ、偽物だと思えませんね。素晴らしい技術です」

「ありがとうございます、校長先生。このシステムを使うことで学生の内から現場と同じ経験をさせ、より高い指導を行う事が目的です。皆さんも色々と試したと思いますが、現実で起こり得る事は仮想現実でも同じように起きます。最後に、管制AIによる生命保護システムを体験して頂いて、今回の見学を終えようと思いますが……」

 そこまで説明して、先輩が口を噛む。

 

「どうしたんですか、先輩」

「……この生命保護システムは、AIが助かる見込みがないと判断した場合、転移門まで強制送還するシステムです。つまり『死にかける』ほどのダメージを経験させてしまうんです」

「成程……貴方が言っていた『トラウマ』級の精神ダメージを与えてしまう可能性があるわけですね」

 校長先生の言葉に先輩は頷いた。

「今からこの船は沈みます。つまり私達は冬の海に投げ出される。体温が低下してショック死寸前で強制送還か、水の中で水死寸前で強制送還か……どちらにしても『臨死体験』となるわけです。一応管制AIが全てを管理していますので、実際に死ぬことは絶対にありません」

 ……先輩、本当に規格外すぎます。

 だが、ヒーローをしている以上逃げるわけにはいかない。

 生徒達にこのシミュレーターを使わせるなら、自分たちも絶対に体験しなければいけないだろう。

 

 そうでないと、合理的ではない。

「一応聞いておきます。今なら臨死体験をせずとも、現実世界へ戻すことができますが、一度始めたら全員が強制送還されるまでシミュレーターから出れない上、個性も使えなくなりますので、辞退する方がいましたら今のうちにお願いします…………まぁ、予想はしていましたが、誰も居ませんね」

 

 先輩は周りを見渡して小さく息をついた。

 よく見れば少し震えている。

 けど、それを恥じる必要は全くないと思う。

 何せ、俺も怖い。

 助かるとわかっていても、態々臨死体験をしたいとは絶対に思わない。

 だが教師として、これからこのシステムを使う者として避けて通れない。

 だからこそ、他の先生方も顔を青くしながらも覚悟を決めた顔をしている。

「生きて臨死体験をすることになるなんて思わなかったぞ、俺は」

「奇遇だな、俺もだ」

 山田と軽口を叩いて少し気を落ち着ける。

 

 

「……では、始めます。AI、お願いね」

『畏まりました。シーケンスDを開始します』

 AIがそういった直後に、客船のどこかで爆発が起き、船が傾き始めた。

「私達は既に周りから見えなくなっていますので……うん、臨死に向かう私達は大人しくしていましょうか」

 

 

 そうして、俺達は沈みゆく客船と一緒に冬の海へと沈んだ。

 無事……?臨死体験を終えた俺から言える事はただ一つ。

 命が保証されていても、臨死体験はもうしたくない。

 

 冬の海はとても、とても冷たかった。

 身体が徐々に動かなくなって、意識があるまま水底へ向かうあの絶望感は間違いなくトラウマ物である。

 できるだけ、生徒には臨死体験をさせない様に心掛けるが、これをうまく使えば馬鹿共の矯正にも使えるな。

 自分を過信した結果どうなるか。

 そう考えるとやはりこれは良い教材となる。

 

 ……そういえば、先輩の姿が早い段階で見えなくなっていたが何があったのだろうか?

 

 

 




教育に限り自重を振り切ったアリス
トラウマ製造機となりえる仮想現実なシミュレーター……さて、これからどうなるかな。
除籍ではなく退学が増えそうなシステムを入れてしまったぜ……!

魔導人形?
彼らはクビになりますた

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