ユグドラシル最終日にワールドチャンピオンのセラフィムがナザリックに単騎で攻め込んできて、それをモモンガがNPCと妨害するが10階層まで突破されて、 10階層でモモンガとアルベドで最終決戦を行い辛くもワールドチャンピオンが勝利するが、 実はパンドラでしたからの課金失墜する天空で止め刺して「アインズ・ウール・ゴウンに敗北はない」の締めで終わる小説誰か書いて

>書いたった

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原案:Part28 >>986


第1話

『すみません、モモンガさん。死にました』

 

 最後はメイド達と過ごしたいと我儘を言って出て行ったヘロヘロから<伝言(メッセージ)>が届いたのは、ユグドラシルが終わるほんの10分前だった。

 

『最後までご一緒したかったんでけど、復活時間もないですし、流石にちょっと睡魔がやばいのでアウトします』

「お疲れですしね。アウトしたらゆっくり休んでください」

『本当にすみません。……モモンガさん、いやギルド長はどうされるんですか?」

 

 <伝言(メッセージ)>越しにあくびの音が聞こえてきた。

 彼と二人で円卓(ラウンドテーブル)で盛りあがっていた仕事の愚痴の最中でも、何度も頭を落とし気を抜けばそのまま寝オチしてしまいそうな様子をみせていた。明日も4時起きのモモンガと同じように彼も疲れているのだ。例え攻撃には参加できない幽霊としてでも、一緒にいてくれたらどんなに心強かったことだろう。だが、非常に疲れた中、一仕事してくれたのだ。感謝こそすれ、それ以上を願うのは迷惑というものだ。

 

「私も最後まで戦おうと考えてます。倒せないまでも、サービス終了までナザリックを守り抜けば我々の勝ちですから」

『別に倒してしまっても構わないですよね』

「はは、流石にワールド・チャンピオン相手に無理ですって」

 

 そう、今ナザリックは侵入者に攻撃を受けている。

 最終日ということで久しぶりに集まっていたうちの2人が帰り、装備破壊など嫌がらせに重点をおいたヘロヘロと死霊使いロールプレイヤーのモモンガという、プレイヤーとしてさして強くない者だけになったタイミングを狙うように攻めてこられたのだ。すでに10階層にまで来ている彼の名はセラフィム。異形種の中でも人気の高い天使種族しか入れないギルド【セラフィム】の頂点に立ち、ランク一位に長らく君臨し続けたギルドの名を冠するに相応しく、その実力は一葉の世界最強も担うほどだ。

 清廉潔白な天使様と悪のギルドでは戦うのがお約束とばかりに、彼のギルドとは今までも幾度となく多人数PVPをしたり、狩り場で争ったり、ホームに攻め込んだりしてきた。だが、こんな最終日にまで攻めてくるとは。そう呆れつつも、迎撃準備をするモモンガの背中は楽しそうだった。

 

「でも、ここを守るのはギルド長としての仕事ですから、全力でいきます!」

『草場の蔭から応援してます』

 

 ブラック企業に勤めて心も体もヘロヘロな男の定番ブラックジョークに、懐かしさと、もうユグドラシルでは聞けなくなる寂しさを覚えた。

 それらの感情をぐっと堪え、モモンガは見えないとわかっていても笑顔の感情(エモーション)アイコンを浮かべて、現実へと帰っていくヘロヘロを見送る。

 

『もしよかったらあとで戦闘動画送ってください。勝つことを信じてます』

「ええ、アインズ・ウール・ゴウンに敗北はありませんから」

『懐かしいな、ぷにっと萌えさんがよく言ってましたね。敗北があるとするのならば、次の戦いへの布石でしかない』

 

 王座の間に続くソロモンの小さな鍵(レメゲトン)の扉が開く。

 滑るように開く巨大な扉の向こうから徐に姿を現したのは、モモンガの背丈よりも大きな羽の塊だ。階位が上がるほど人の姿を失う天使族の最高位である熾天使級(セラフクラス)をいくつも重ね持っている彼のものには手足も、目や耳すらない。16枚の翼だけで出来た体は三位のうちの一つを、いや二つを持ち合わせていないように現実味がない。

 一つ一つの羽根は内から光輝き、それが集まった姿はまるで燃え盛るが如く。羽ばたく毎にはらりと舞い落ちる羽毛は降る星の如く。

 

『だいぶ装備を削っておきましたんで、がんばってください!』

「お疲れ様です」

 

 まばゆい姿をモニター越しに眺めながらモモンガは、配置についているNPCアルベドとパンドラズ・アクターへの命令コマンドをもう一度だけ確認すると、最後まで残ってくれた友と戦い散ったNPCたちが整えてくれた盤上へと駒を進める。

 

 アインズ・ウール・ゴウンに敗北はない。その言葉を現実にするべく。

 

 

―――カチリ。時計の針が一つ進んだ。

 

***

 

 

 セラフィムは彼らのことが嫌いではなかった。

 

 PKを繰り返したり、エリアの独占をしていたりとアインズ・ウール・ゴウンは確かに眉をひそめる事をしてはいるが、悪のギルドというロールプレイを全力で楽しんでいる姿は、同じユグドラシルを愛する身として憎めなかった。

 個人としてもギルドとしても互いに衝突を繰り返し、運営に怒られるまで罵詈雑言メッセラリーをしたこともあった。だけど、喧嘩するほど仲がいいと古人が言ったように、殺し殺され、顔を合わせれば憎まれ口を叩いてはいても、そこには確かに絆があった。

 片やアースガルド、片やヘルヘイム。間に6つも世界を挟むほど遠い場所を拠点にしているギルド:セラフィムとアインズ・ウール・ゴウンは、最高十大ギルドとしてやワールドチャンピオンとしてのどうしても避けられない場を除けば、遭いたくなければいくらでも顔をあわさないでいられた。だけど、セラフィムはわざわざ世界を下りてヘルヘイムで蛙狩りをしたし、アインズ・ウール・ゴウンはわざわざ世界を上がってアースガルドで精霊狩りをしては”偶然”出会った相手と喧嘩をしていた。

 

 今日だってそうだ。

 途中まではギルドメンバーたちと本拠地で最後を惜しみ、思い出を語り合っていたのだ。それを花火をみながらカウントダウンをする仲間の誘いを断り、こんな場所まで来たのは、少し前に会った際ヘルヘイムの空のように憂鬱そうだった腐れ縁のギルドマスターの顔に最後の挨拶として一発、景気付けをくらわせてやる腹つもりだった。

 

―――カチリ。時計の針が一つ進む。

 

 ぞわりと、ヘドロの中に誤って踏み入った時のような嫌悪感が湧いた。神聖魔法を放ったのは属性が極悪のオーバーロードに効果的だからなどと戦略的なことではなく、それは害虫をみた人間が反射的にスリッパを振りかぶるのと同じで、ただ汚らしい闇を清浄な光で消滅させたかったからだ。

 

 セラフィムは彼らのことが、アインズ・ウール・ゴウンのことが嫌いではなかった―――はずだった。

 だけど、<燃夷(ナパーム)>を指先に灯すモモンガも、そいつを守るべく前に立ちふさがる黒い鎧の女悪魔も、同じ空間にいるだけで、いや世界のどこかに存在していると思うだけでぞわぞわと嫌悪感が湧いてくる。

 

 それは相手も同じだった。こちらを見上げるモモンガの目には憎悪の炎が宿っている。

 セラフィムが闇に犯されるのを厭うように、彼らも光に焼かれるのを嫌った。

 

「「チッ」」

 

 感情に任せて魔法を放った愚策と、相手を傷つけられなかった悔しさに、二つの舌打ちが重なる。それだけで無性に腹が立った。アンデッドを創造するモモンガにむけて今度は光と神聖魔法のコラボを打ち込む。

 防御を任せられたアルベドが自身のスキルで対応している間に、先ほど魔法を受けて蹴散らされた上位精霊を再召喚する。自身からこぼれた光が形作るのを認知しながら、セラフィムは怒りに荒れた心の片隅で、ポツリと思った。

 

(アインズのことは嫌いではなかったのに……)

 

 

***

 

―――カチリ。時計の針が一つ進む。

 

 どんなに惜しまれようと世界(ユグドラシル)が終わるように、どんなに悲しもうが(ゲーム)が終わるように、すべての物事には終わりがあった。

 

 それは、アインズ・ウール・ゴウンとセラフィムの戦いも同じだった。

 

 背もたれが天を衝くように高い王座を更に高い場所から見下すのは翼を半分まで減らした天使で、地に転がり瀕死なのに守護者総括として気力だけで立ち上がろうとするアルベドの目線の先には、金と紫で縁取られた豪奢な漆黒のアカデミックガウンだったぼろきれを羽織るオーバーロードが、装備に負けず劣らずボロボロの身体で王座の足もとに座っていた。

 ぽっかりと空いた空虚な眼窩に灯る光にも、折れた杖を握る手にも闘志は消えていない。

 

 だけど、戦いはもう終わりだった。

 

      (お前の負けだ)

「いいや、アインズ・ウール・ゴウンに敗北はない」

 

 エノク語で言われた宣言に、きっぱりとした声が返される。

 座っていることすら辛いのに、ガウンの裾を払って骸骨はふらつきながら立ち上がると、光こぼすセラフィムをビシリと指さす。その芝居かかったまでの自信あふれる仕草の端々には、己の正しさを確信している気持ちがにじみ出ていた。

 

                 (さらばだ、アインズ・ウール・ゴウン)

 

 8枚の羽が輝きを増し、砕けたシャンデリアの代わりに広く高い王座の間を照らしだす。面頬付き兜(クローズド・ヘルム)を破壊され、美しい顔にいくつも傷を負ったアルベドが、<超位魔法>の前兆に絶望と、ナザリック最高の盾としての役割を果たせない自らの不甲斐無さに、激怒し胸を掻き毟り絶叫する。

 

「か、か、かとう、かとうせいぶつがぁあ! あああぁぁああ、憎い! 憎くて憎くて憎くて、心が弾けそうぉおおお!」

「そんなに怖い顔をしていては、嫁の貰い手がないぞ。アルベド、お前は薔薇の様に美しくも可憐なお姿の方が魅力的だ」

 

 アルベドの方を振り返る彼の姿が、オーバーロードの存在が増す光に塗りつぶされる。

 最後を悟り静かに燃える眼窩の炎と、金色に輝くトパーズの瞳が空中で重なる。そこには多くの言葉はなかった。それでもナザリックを守るために共に戦った二人の思いが通じ合うには十分であった。

 

「お前に言われても嬉しくないわ」

 

 涙で頬を濡らしながら、アルベドは優しい慈母の笑みを浮かべた。それが男にもう届かないだろうと思いながら。だが、白く強い光に消えゆく異形の肩が、残念だと言う代わりにすくめるシルエットがわずかに見えた。返事がないのは彼女は知っていた。なぜなら”彼”が最期に言う台詞は決められている。どうして知っているかというと、アルベドの命令コマンドにも同じ作戦が書かれているからだ。

 

 完全に消える間際、かき消される間際のかすかな染みとなった男が、ただ一つのスキルを叫ぶ。涼しげな声を喜びに振るわせながら、我が神のお望みのままに!

 

「<ロード・オブ・ア・キャッスル>!」

 

 それはチェスを元にした職業(クラス)であり、同じ名前のスキルだった。

 効果はただ一つだけ。攻撃には向かず、防御にも使えない。

 

 (ルーク)(キング)を入れ替える……ただ、それだけのスキルだ。

 

 

 

「アインズ・ウール・ゴウンに敗北はない」

 

 

 

 最期の力を振り絞りスキルを発動させた『パンドラズ・アクター』の替わりに、遠隔視の鏡(モニター)越しに戦況を見ていた『モモンガ』が盤上に入る。

 

 

―――パリン。時計の針は進まない。

 

 砂時計が彼の掌のなかで割れ、発動までにかかる時間がゼロになった<失墜する天空(フォールンダウン)>が、ナザリックの黒い王であるモモンガと、敵対する白い王セラフィムの間で炸裂する。先ほどの光が神聖な清廉さを感じさせる白い光だとすれば、今、目の前を焼く光は悪も善も焼き尽くす黒い光だった。

 

 セラフィムは残っていた翼を防御に回すが、装備を削られ、守護者たちと連闘した後では全てを理不尽に燃やす閃光に耐えきれなかった。

 敗北があるとするのならば、次の戦いへの布石でしかない。アインズ・ウール・ゴウンの軍師を担う男がよく口にしていた文句が脳裏に甦る。張り巡らされた計略に見事にひっかかったことに気が付き、彼は憎々しげに、そして清々しそうにモモンガに笑いかけると、…………自身の負けを認めた。燃える端から光になって空に昇っていく羽根の残りはもうわずかになっていた。

 セラフィムは穏やかに別れを告げる。

 

                 (さらばだ、アインズ・ウール・ゴウン)

「さようなら、セラフィム」

 

 モモンガも帰って行く友を笑顔を浮かべて見送る。

 

 最後の一粒となった蛍のような光が名残惜しそうにくるりと王座の間を巡ってから、ゆっくりと空へと昇り、天井の向こうへと消えていった。

 先ほどまでの激戦の痕跡を残す室内は荒れているが、今はただ静かだった。アルベドのかすかな呼吸音がなければ、全ての者が眠る墳墓にも思えただろう。

 

―――チャリン。

 

 そんな静寂を裂く金属音が、モモンガのすぐ右隣で鳴った。

 なにかと思い足元をみれば、ユグドラシル金貨が転がっていた。女性の横顔が彫られた硬貨は何食わぬ顔で床に落ちている。こんなところになぜ金貨があるのかと、不思議がりながらしゃがんで拾おうとしたモモンガの後頭部に上から降ってきた金貨が当たり、澄んだ音を立てる。

 

「え?」

「は?」

 

 それを皮切りに、セラフィムが消えたあたりから次から次へと金貨が降り始めた。山になるほど積もる金貨は止むことがなく、あわてたモモンガが怪我で碌に動けないアルベドを抱えて逃げ出さなければ、二人共、押しつぶされていただろう。

 ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)を越え、広間へと走り抜けたモモンガの後ろからは、ざざぶりの雨に似た絶え間ない金属音は長いこと続いたが、あまりの恐ろしさに止んでからもしばらくはそちらを振り向く気にはなれなかった。

 

「なんだ? あいつから最後の嫌がらせか?」

 

 ようやく止んだ音に、深呼吸して気合いを入れてから振り返れば、王座の間を埋め尽くす黄金の富士山がそびえたっており、くらりとめまいがした。あまりに強い混乱が沸いてすぐに沈静化したことも不思議だったが、それよりもこの金貨のほうが気になり、モモンガはへっぴり腰ながら、元いた部屋へと戻って行く。

 ナザリック中のNPCを集めれるほど広く、見上げるほど高い部屋のほとんどは、新旧混合された金貨で埋め尽くされていた。なんの意図もなく、ただ山がそこにあるから昇ってみたが、見晴らしがよくなったぐらいで、辺りを見回しても金貨以外のなにも特には見当たらない。

 

「それにしても、すごい量だな」

「モモンガ様、少しよろしいでしょうか」

「なんだ、アルベド?」

 

 雨がやむまでの間に回復を済ませた彼女は鎧を脱ぎ、いつもの純白のドレスをまとっている。ただ完全には回復しきれてないようで、羽根は歯抜けだし、片方の角は欠けている。

 

「概算ですが、この金貨の量は、死亡したNPCの復活に必要な金貨の量とほぼ同じだと思われます」

 

 アルベドの説明に、モモンガはしばらく思考を停止し、そして彼の帰っていった空を見上げた。

 ゲームは終り、死んだNPCをわざわざ復活させる必要なんてないのに、きっとセラフィムは戦いに必要なアイテムを削ってまでしてギルドにため込んでいた大量の金貨を抱えてナザリックへと来たのだろう。勝ったのならば施しとして渡すために、負けたのならば詫びとして渡すために。そうだ、彼はそういう人だった。

 

 

 

 だから、―――モモンガは彼らのことが嫌いではなかった。

 

 

 

 




おまけ ※一途ビッチさん

「さて、NPCを復活させるか」
「あ、あの、あの、モモンガ様、よよよよろしいでしょうか?」

 張り切った気分を出すために腕まくりをしたモモンガに、壊れたレコードの如くどもるアルベドから声がかけられた。

「なんだ、アルベド」
「も、も、もしよろしいければですけど、あのその」
「一番、がんばってくれたお前の言うことだ。私に叶えられることなら、なんでも聞くぞ」

「で、でしたら、あの、……パンドラ様をまず復活させていただいてもよろしいでしょうかっ!? べ、別にすぐに会いたいとかではなくてですねっ! ただ一緒に戦った仲ですし、お礼も言いたいですし、ほ、惚れたとかそんなことなくてですねっ!!」

 紅潮した頬でつらつらとパンドラのいいところを挙げ始め、恋は盲目とばかりにこちらが目に入らないほど必死なアルベドを横目に、モモンガは全てを許す仏の微笑みでアイテムボックスから嫉妬する者たちのマスクを取り出すと被る。
(そういえば、セラフィムのギルメンたちもほとんどこのマスクを持っていたなぁ)
 だから、―――モモンガは彼らのことが嫌いではなかった。


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