ダンジョンを英霊が求めるのは間違っているだろうか 【無期限休載中】 作:たい焼き
「夜は打ち上げやるからなー!!遅れんようにー!!」
ロキの声が木霊のようにエコーし続ける。それに送られながらロキ・ファミリアの面々は本拠を発つ。
昨日までの遠征で得た鉱石やドロップアイテム等の換金。破損した武具の整備や再購入に消費したアイテムの補充などを行うが、これにはファミリアの団員が総出で行う。
必然的に大人数で大通りを歩くことになるため、町人達の視線が集中することになる。
「見ろ。【ロキ・ファミリア】だぜ」
「あれが【
「【剣姫】にヒュリテ姉妹……スゲェな、第一級冒険者が何人もいやがる……」
「バカッ!!目を付けられたらファミリアごと潰されるぞ!!」
尊敬や憧れの眼差しが多く集まるが、恐れや畏怖の念も多い。最大派閥ということはそれだけ多くの注目も浴びることになるのだ。
「なんかヤダなーこういうの。ベートは喜びそうだけど」
「ベートもそこまで下品ではないぞ。あやつはあやつなりに第一級の誇りと自覚がある。【ロキ・ファミリア】はオラリオでの実力も影響力も指折りじゃ。その事実は受け止めねばならん」
しばらく歩くと街の中心地にある摩天楼施設『バベル』の前に辿り着く。天を衝く白亜の摩天楼。ダンジョンの蓋として機能しており、武具の販売店や魔石等の換金所を含む冒険者向けの施設も充実している。
「僕とリヴェリアとガレスは魔石の換金に行く。皆は予定通りここから各々の目的に向かってくれ」
各自バックパックや荷車に溢れそうな程換金アイテムを持っている。
「換金したお金はどうかちょろまかさないでおくれよ?ねぇラウル?」
「あっあれは魔が差しただけっす!!本当にあれっきりです、団長!!」
「ははっ、じゃあ一端解散だ」
人が冒険者となってダンジョンに潜る理由は、主な理由としては魔石の採集が一番である。
モンスターの核となっている魔石は加工をすることで様々な魔石製品となる。夜の街に昼のように明かりをもたらす灯りも魔石の加工品である。
その他にも発火装置や冷凍機の燃料代わりに魔石が多く使われており、もはや魔石は人の生活に必要不可欠の物となっている。
そんな魔石がもたらす利益を独占することで巨万の富を築き上げた組織がギルドだ。
ギルドを中心としてオラリオは世界一の魔石産出都市となり、オラリオもまた大陸の一国家を遥かに凌ぐ発展を遂げたのである。
「それじゃ私達も行くわよ」
先程話題に上がった剣姫こと『アイズ・ヴァレンシュタイン』やティオネ、ティオナ姉妹にレフィーヤを加えた四人は今回の遠征で達成したクエストの報酬を受け取りにディアンケヒト・ファミリアに向かっていた。
「それにしてもあの人がサーヴァントで人間じゃないっていうのには驚きましたね」
「それを言ったらウチに入ってきたセイバーだってそうだよ?あんな小さい女の子がアーサー王だなんて聞いてないよ」
それは昨日の夕食のために皆が食堂に集まった時のことだった。
『そんじゃ皆に紹介するで。今日新しくウチに入ったアーサー王のアルトリアたんや』
『よろしくお願いします。少々訳があるので『セイバー』とお呼び下さい』
談笑で賑わっていた食堂が一度静まり返るが、その後全員が大声を上げた。その中の誰もが目の前の少女が嘘を言っているとは思わなかった。特に遠征に行った者はそれより前に同じような圧倒的な存在感を持つ存在を見ているからだ。
「でも、あの人の実力は本物、だよ。きっと」
「それでも今まで持ってたイメージが粉々になったよ。騎士って言えば美形の男ってイメージが強いからね」
最初は恐ろしいまでに思えた彼女は、一度食事を始めると年頃の女の子と変わらない笑顔を浮かべて誰よりも多い量の料理を体の中に入れていた。
『こんなに美味な食事は前に召喚された時以来です!!』
思いの外健啖家であったアーサー王にロキも少し顔が引きつっていたのはとても印象的だった。
「いらっしゃいませ【ロキ・ファミリア】の皆様」
ディアンケヒト・ファミリアは主にポーション等の回復薬や風邪薬等の医療系の商品を扱うファミリアだ。
四人を出迎えたのはディアンケヒト・ファミリアの団員で治療師の『アミッド・テアサナーレ』だ。
「クエストで注文いたしました泉水。要求量も満たしています。依頼の遂行ありがとうございました。ファミリアを代表してお礼を申し上げます。つきましてはこちらが報酬になります」
用意されていたのは万能薬が数十本。ディアンケヒト・ファミリア製の物ならば一本50万ヴァリスは下らないため、この数なら豪邸を建てることも可能であろう。
「ところで、一緒にこの『カドモスの皮膜』をドロップしたのだけど、これも買い取ってくれない?」
「これは……!!防具にも回復系の道具のどちらに使っても申し分ない一品です。700万ヴァリスでお引き取り……」
「1500万ヴァリスでどうかしら?」
「お戯れを……800までは出しましょう」
「貴方も言ったわよね?これは今まで出回った物よりも遥かに上等だと自負してるわ。1400」
ティオネもアミッドも一歩も譲らない。ティオネはただ一つの純粋な想い。ただ想い人のフィンに褒められたいとの想いで燃えている。
「850、これ以上は出せません」
「今回殺り合った強竜は活きがよくて危うく死にかけたわ。私達の削った寿命も加味してくれるとありがたいんだけど?1350」
(いけしゃあしゃあと……!!)
なおこの強竜の皮膜。四人が倒した物ではない。到着した時には既に死んでおり、たまたま落ちていたこれは先にアーチャーが拾った物をティオナが譲り受けた物である。
後ろで見ている三人は申し訳無さで冷や汗が止まらない。
だが救いの手が差し出される。
「1150万ヴァリスでどうかね?それでお互い損も得もあるまい」
「ハァ!?ちょっと横から何……!?」
ティオネの横に居たのは強竜の皮膜の元々の拾い主であるアーチャー本人だ。
「1500万は流石に盛り過ぎだ、それに700万の価値しか無い物でもあるまい」
どうやら先に来店してポーション等を購入していたようで、既に購入する予定のポーションを手元に持っていた。
「アーチャー。助かりました。このままでは予定よりもオーバーになるところでした。」
「チィ……まあいいわ。それでこれを売るわ」
商談は成立し、かばんに袋詰の1150万ヴァリスが詰め込まれてティオネに渡される。
「元々かなり足元を見てクエストを依頼したのはこちらが先です。ここは痛み分けといきましょう」
アミッドもこれが両者に損のない妥当な金額だということは分かっている。だから決して怒りの感情しか無いわけではなかった。
「アミッド。これも精算してくれ」
「わかりました。少々お待ち下さい」
計算機を弾き、値段を計算する。
「
「……なんだか随分と安いな」
「ええ。貴方にはご贔屓してもらっていますから。今後も良き関係を築いていきたいので、差額はサービス料として引かせていただきました」
「そうか。ではこれで」
アーチャーは袋に提示された額のヴァリスを入れてアミッドに手渡す。
「何よ……この扱いの差……」
「日頃の行いの差ですよ。ティオネ」
不敵な笑みを浮かべたアミッドは彼女達が見慣れている姿よりもほんの少し色っぽい。
「そうだ。アーチャーって武器も作ってるんだよね?あれだけ良い武器作れるんだったら、私の武器も作ってよ」
「武器か?悪いが一億ヴァリスより安くすることはできんぞ。主神様の指示で私の武器を一億ヴァリス以下で売ることを禁じられているからな。できる限り安く抑えるしローンも組めるだけ組むが、それでもいいのなら打たせてもらうよ」
「OKだよ!!やった!!」
アーチャーはヘファイストス最高の鍛冶士である椿ですらまだ及ばないと認められている。そんな腕のアーチャーがそれ以下で武器を売ると、他の鍛冶士の作品よりも安く高品質な作品が出回り、それ以外が売れなくなってしまうからだ。
「ではな、アミッド。また来させて貰うよ」
「はい。ロキ・ファミリアの皆様もまたのご来店をお待ちしております」
店舗を出てすぐにアーチャーはティオネに道を塞がれる。
「待ちなさい」
「何かね?私が何かしたかね?」
「それもあるけど、もういいわ。あの後色々聞いたわ。貴方もサーヴァントの一騎ね?」
僅かにアーチャーの動きが止まった。
「……誰から聞いた?」
「あの後すぐにウチにも
「……そうか」
「貴方は、本当に敵じゃないんですか!?私には少なくとも貴方が敵には見えません!!」
今まで後ろに下がっていたレフィーヤが前に出る。
「さてね。本当に私にも分からないんだ。聖杯戦争ならばマスターの指示で敵サーヴァントは皆倒さなければならないが、状況が状況なのでね」
「もし聖杯戦争が始まったら、どうするの?」
「まず聖杯が何か知ってるかね?」
「え?大昔に存在していたキリスト教で登場する聖遺物でしょ?」
キリストが「最後の晩餐」において、キリストが弟子達に「私の血である」としてワインを注ぎ、振舞ったという杯。それが一般的に聖杯と呼ばれている物だ。
「それは『Holy Chalic』と呼ばれる物だ。聖杯戦争の賞品は『Holy Grail』と呼ばれる願望器だ」
「ってことはどんな願いでも叶えられるってこと?」
「理論上はな。そしてその燃料として6騎のサーヴァントの魂が使われる。後は分かるな?」
「だから、殺し合う?」
「そうだ。実際に聖杯戦争が起きればこのオラリオは間違いなく火の海になるか更地になるかのどちらかだろうな」
「そんな!?」
レフィーヤの顔が青ざめる。今までを見ていれば、少なくとも自分が踏み込める領域ではないと察しているからだ。
「安心したまえ。少なくとも聖杯はここには無い。だから聖杯戦争は起きないさ」
「でも、貴方は、どうするの?」
「さあ?お役御免になるまで今のマスターに仕えるだけだろうさ。ところで君達のところのサーヴァントは誰かね?」
「そうだった。聞いたら驚くよ!!アーサー王だってさ!!」
「バカ!!真名は伝えるなって言ってたでしょ!!」
「アッ、ゴメンゴメン」
上から振り落とされた拳骨をまともに受けてティオナは涙目で痛む部分を抑える。
「ああ、彼女か」
「えっ?知ってるの?」
アーチャーはアーサー王と聞いて迷い無く女性だと言った。つまり前から知っていることになる。
「彼女には昔世話になってね。少し境遇の違う私にとっては特に縁のある人だよ」
アーチャーの目は目の前のアイズ達ではなく、どこか遠いところを見ているようにも四人には見えた。朧げでとても悲しい目をしていた。
「今日の夜、豊穣の女主人ってお店で打ち上げをやる」
「ん?」
「そこにセイバーも来るから」
「来いってことかね?分かった。予定が合えば伺うとしよう」
アーチャーは四人に別れを告げて彼の本拠へと歩いて行くが、アイズ達はその姿が道の果てに消えるまで見届けた。