ダンジョンを英霊が求めるのは間違っているだろうか 【無期限休載中】   作:たい焼き

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プロローグ 剣の場合

 ここは迷宮都市オラリオを守る市壁の頂上。見張りなどの関係者に移動や襲撃された際の迎撃地点として使われる場所に、一つの人影があった。

 

 目の前に広がる街に見覚えはない。生前と過去に召喚された時の街とも違う、全く見新しい街だった。

 

 「ブリテンでもなければ冬木でもない。むしろ中世に近い……?」

 

 高い城壁で街を囲み、中の街を囲んで守る役目を持っているのだろう。遠くに門のような建造物が見える。

 

 「これは……!?」

 

 街に降りてきてまず驚いたのは、人間自体だ。自分と同じ人間(ヒューマン)に加え、狼人(ウェアウルフ)犬人(シアンスロープ)猫人(キャットピープル)猪人(ボアズ)狐人(ルナール)などといった今まで自分が生きていた世界では幻想として消えていった種族達が、人間と変わらず笑いあって生活を営んでいることだ。

 

 「まさか、ここは私が居た世界とは別の世界なのでは……?」

 

 もし仮に異世界だった場合、ここが自分の居た世界と常識が全く異なる可能性が高い。一刻も早く信用出来る者を見つけ、そこからこの世界の常識やルールを聞き出す必要がある。

 

 「まずはあの大きな塔を目指しましょう」

 

 幸いなのは鎧等を身に着けている者が多く、今のバトルドレスでも余り目を引かないことだ。

 

 以前召喚された冬木は騎士の時代は既に終わっており、とある事情で霊体化出来なかった彼女は身だしなみに大層苦労させられた。

 

 「ふむ……ギルド、ですか……」

 

 ギルドとは商工業者の間で結成される職業組合のことを指す。秘密結社として知名度の高いかの『フリーメイソン』の前身も元は魔術王ソロモンに仕えたかもしれない石工職人達の労働組合であるという説もある。

 

 「ここならば何か情報があるでしょう」

 

 門をくぐり、中の様子を伺うと目に膨大な数の人間達が入ってきた。服装からして旅人や冒険者のような格好をしている者が多く、これから戦いに行くのか武器を装備している者が多い。

 

 「ダンジョン、ですか……」

 

 側にあったパンフレットを手にとって、パラパラと流して見る。見たこともない文字だったが、召喚された時に何処かから頭に流れ込んできた知識の中に文字の知識があり、それによって読み書きに支障はなかった。

 

 「ダンジョンに潜るためには神から恩恵を貰うことが条件、ですか」

 

 ダンジョンに潜ってモンスターを倒して魔石を手に入れてそれを換金して収入を得る。それがここで冒険者と呼ばれている者達の仕事のようだ。

 

 「冒険者にしても、それ以外の職にしても、まずはファミリアに所属するべきですね」

 

 大きなファミリアが後ろ盾となってくれるならば何を始めるとしても心強いうえにやりやすいだろう。既に自分は王ではないただの一人の人だ。何事も生前のようにはいかない。

 

 「すみません。どこか団員を募集しているファミリアはありませんか?」

 

 「はい。探索系ファミリアでしょうか?少々お待ち下さい」

 

 係員がすぐに資料を用意して手渡す。眼鏡をかけており、耳が長いことからエルフではないだろうか。

 

 「こちらが現在オラリオで登録されている探索系ファミリアの一覧になります。やはり最大派閥の『ロキファミリア』か『フレイヤファミリア』がオススメですが、それだけ倍率や人気も高いですよ」

 

 「これは丁寧に、ありがとうございます」

 

 「いえいえ、こちらこそ、あなたの冒険者生活を応援させていただきます」

 

 ギルドの係員は丁寧に、かつ有用な情報を渡してくれた。見てみると分かりやすくまとめられていて各ファミリアの特徴やデータの比較によって自分にどのファミリアが適しているかよく分かる。

 

 「とりあえずは、ロキファミリアって所に行ってみましょうか」

 

 ほとんど何も知らない自分が身を置くことになるファミリアだ。出来る限り大きく力の強いファミリアを選びたい。その上でファミリアの主神が人格者であればなお良い。

 

 聞けばこの世界の神は娯楽に飢えており、レアなスキルや魔法が発現した人間は彼らの暇潰しの格好の獲物になるそうだ。

 

 それだけは彼女からしても御免被る。

 

 「おっと、ここですか」

 

 貰った資料に付属していた地図を片手に目的の場所に辿り着いた。

 

 他の建物の比較にならない程に高くそびえ立った館の名を『黄昏の館』と言い、オラリオで一、二を争う探索系ファミリアの『ロキ・ファミリア』の本拠である。

 

 まるで城のように巨大な建造物は、生前の自分の本拠であったキャメロットやかつて参戦した聖杯戦争でサーヴァントとなった陣営のアインツベルンの城と比べても見劣りしないだろう。

 

 「何だ貴様は?」

 

 正門と思わしき場所に重装甲で身を固めた人間が立っている。おそらく門番であろう。

 

 「ロキ・ファミリアへの入団を希望する者です。神ロキとの面会を希望します」

 

 「何だと?貴様みたいなチビがか?悪いことは言わんから立ち去れ」

 

 その言葉に彼女は少しムッと来た。

 

 冒険者は常に命と隣合わせの危険な職業だ。魔石を得るためにモンスターを倒さねばならないのだから当然であり、その関係で屈強な男が多い。

 

 だが見た目だけで強さを判断されていることには苛立ちを確かに感じていた。

 

 「ほう?このファミリアは門番がファミリア入団の是非を決めるのか?貴方程度が団長や主神よりも大きな権限を持つとでも?」

 

 挑発じみた言葉を含みながら彼女はほんの僅かに殺気を混ぜて言い放つ。

 

 「ッ、貴様!!」

 

 門番の男はそう言いながらも無意識に携えていた剣を抜き放って目の前の女性目掛けて振り抜いた。放たれた殺気を本能が感知し排除しなければならない外敵と見定めたからだ。

 

 だが勢いよく振り抜かれた剣は彼女の腕を守る手甲に妨げられた。

 

 「なんだと!?」

 

 防がれたまでならまだ理解できる。だがその先に全く進まない。

 

 こちらが全力で力を入れているにも関わらず、手甲に食い込むどころか目の前の細腕が微動だにしない。力比べで完全に負けているのだ。

 

 「力の使い方がなっていません。それではせっかくの恩恵も持ち腐れですよ」

 

 「このッ!!」

 

 男がムキになって二撃目を出そうとして、それを防ごうとした時だった。

 

 「なにしとるんや、自分?」

 

 彼女の後ろから人間の物ではない圧倒的な威圧感を含んだ言葉が放たれた。

 

 「神ロキッ!?これはその……」

 

 「言い訳は要らんわ。神々(ウチら)に嘘が通じんのはわかっとるやろ?それに入団希望の子を面接もせずに追い出す気遣いなんてもっと要らんわ」

 

 ロキ・ファミリアの主神『ロキ』。目の前の門番の言葉が正しいなら後ろにいる女神がそうなのだろう。なるほど、力を封印していても神は根本的に人間とは違うらしい。

 

 「うちの子がごめんな~。ウチらが完全に悪いけど許してやって欲しいわ」

 

 こちらに向けられた言葉に対して彼女もロキの正面に向き直った。

 

 「いえ、そもそも彼が私に礼の無い行動を取ったのは私が彼を挑発したからです。こちらも私の無礼を謝罪させて欲しい」

 

 そこで目の前のロキが固まっているのに気付いた。そこで自身の直感スキルと手に入れた知識が危険を察知する。

 

 (そういえば神ロキは美女と美少女好き……!?)

 

 「金髪!!碧眼!!美少女!!アカン、ウチのめっちゃ好みや!!」

 

 恩恵を受けていない人間と同等の身体能力まで落ちているはずなのに高速で飛びついてくるロキを英霊の身体能力を無駄に使用して掻き消えるようにロキの進行方向から退く。

 

 「ぶべっ!?」

 

 「大丈夫ですか?」

 

 勢い余って外壁に激突したロキを引き剥がす。

 

 「なんやねん、速すぎて全く見えんかったわ。ウチのベートやアイズたんを超えとるんじゃなかろか」

 

 腫れて赤くなってはいるが大した怪我ではなさそうだ。

 

 「んで、入団希望やったか?自分なんて名前なんや?」

 

 「セイバーです」

 

 「セイバーたんな。ウチはここの主神のロキや。よろしくな」

 

 目の前の神は自分が知っている神と全く違う威厳の欠片もない存在だった。今ならかの麗しの女狩人が自分を育ててくれた狩りの処女神の恋愛脳に卒倒しかけたことに激しく同意できる。

 

 「こんなところじゃなんだし、ウチの執務室に行こか。そこで入団の儀式をやるで」

 

 「よろしいのでしょうか?ここの団長の意見を聞くとか試験とか色々あるのでは?」

 

 「ああ、あれか。セイバーたんならやるだけ無駄だし、今団長のフィンは遠征中や。今日帰って来る予定やけどな」

 

 本拠の中に入って執務室に向かって廊下を真っ直ぐ進む。都市で一位二位を争うファミリアなのに人が少ないということは出払っているからなのだろう。

 

 「着いたで」

 

 中は綺羅びやかな調度品や装飾のない、本当に実用性を重視した最小限の設備しかなかった。だが使われている物は第一級品であろう。

 

 「んじゃ一個聞くで、何モンや自分?人間やないやろ?」

 

 先程感じた威圧感が彼女一人に向けられる。並の人間なら一秒も持たずに崩れるか卒倒するだろう。

 

 「順を追って説明しますが、まず貴方方に危害を加える者ではありません」

 

 「いまいち信用できへんのや。なんというか、嘘か本当かごちゃごちゃやねん。人間以外に何か混ざっとるやろ?」

 

 「それは私の生前に関わるので後にしますが、私についての説明を惜しむことはないと騎士の誇りに誓いましょう」

 

 纏っていた武装を全て魔力に変換して収納する。

 

 「私は剣士、セイバーのサーヴァントです。世界に登録された英雄や偉人の魂をサーヴァントという器に流し込んで現界させた存在です」

 

 「サーヴァント。直訳で使い魔の意やな?ってことは誰かの差し金ってことか?」

 

 「いえ、今回の現界は私に取っても異常な召喚です。この世界の知識は一通り与えられての召喚ですが、契約している主はいません」

 

 「つまり後ろ盾や拠点が欲しいってことやな」

 

 「簡潔にまとめればそうですね」

 

 「ならOKや。セイバーたんの入団を認めるで。それで、契約している主がいないって言うたな?どうやって契約するんや?恩恵でええんか?」

 

 「いえ、こちらのやり方でやりましょう。今は現界した時に与えられた魔力でやりくりしていますが、契約によって魔力供給のパスを結ばなければなりません。手を出してもらえますか?」

 

 差し出されたロキの右手に己の右手を重ねて魔力を同調させる。自然と魔力の渦が発生し、部屋の中が暗くなり魔力の粒子が発生し始める。

 

 『―――――告げる。我が身は汝の元に、汝の命運は我が剣に、聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うのなら応えよ。ならばこの剣、汝の運命に委ねよう』

 

 「誓うで。これでセイバーたんとウチは運命共同体って奴やな」

 

 なんとも気の抜けた言葉だが、大事なのはその意思だ。その意思が揺るがなき物であればあるほど主と従者の関係は強くなる。

 

 「セイバーの名において誓いを受ける。貴方を我が主と認めよう。神ロキ」

 

 ロキの右手には令呪が刻まれ、セイバーに魔力が流れていく。

 

 「改めて自己紹介しましょう。私はサーヴァント、セイバー。真名は……」

 

 それを遮るように喝采が聞こえて来る。

 

 「あちゃあ、今帰って来たか。ごめんなセイバーたん。ウチ皆を出迎えに行くわ」

 

 「では私も行きましょう」

 

 元来た道を辿って外に出ると、そこには大小の怪我はある物の数十名の団員達が欠けることなく無事に帰って来たらしく、ロキが子供みたいにはしゃいでいる姿が見えた。本当に眷属達を気にかける良い神らしい。

 

 だがそんな微笑ましい視線の先にほんの一瞬だけ、見覚えのある紅色が見えた。

 

 その紅色はすぐに後ろを向いて体を霊子に変換してその場を去って行った。

 

 「あれは……アーチャー?」

 

 そんな彼女、アルトリア・ペンドラゴンの呟きは誰の耳にも留まることなく空気に溶けていった。




初めまして(三話目)

まず感想への返信が一つ。感想の中に七騎出すのかな?とか五次縛りかな?という考察がありましたが、そのような関連性は全くありません。

ただ投稿者が好きなサーヴァントを扱いやすい数で出した結果、五次の三騎士になっただけです。

ただしこれ以降気が向いたら追加でキャラを追加する可能性はあります。

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