ダンジョンを英霊が求めるのは間違っているだろうか 【無期限休載中】 作:たい焼き
「うわああああ!ランサーさん!助けてくださぁぁぁい!」
オラリオの東の方角に位置するセオロの密林と呼ばれる大森林にベルとランサーは居た。
「おいベル。とっととそいつら倒さねぇと食われちまうぞ」
「そんなこと言われましてもぉ!」
身軽な体躯を活かして必死に逃げる白兎を、見た目通り血走った眼で得物を見定める恐竜のようなモンスターがいた。『ブラッドサウルス』と呼ばれるそのモンスターは本来ならばオラリオの真下に根付くダンジョンの三十階層以降から生まれるモンスターだ。だがこの森に生息しているブラッドサウルスはダンジョンにバベルによる蓋がされる前に地上に進出したブラッドサウルスの子孫だ。森に住み着いた祖先達はそこの環境に適応して自分の核である魔石を削って卵を産んだ。それを繰り返して世代を重ねたのが今の地上にいるモンスター達なのだが、体内に魔石が殆ど残ってないせいでダンジョン内の同種とは比べられないほど力は劣化
しているが。
ベルは持ち前のすばしっこさを使って背後から迫る無数の顎からなんとか避け続ける。背中に背負ったリュックサックにモンスターをおびき寄せる血肉がびっしりと詰まっているのも相まってこのあたりのブラッドサウルスは殆どベルの方に注意を向けている。
「ランサー。卵の回収、終わったよ」
親の目が居なくなった巣から卵を粗方回収し終えたナァーザがベルから離れた位置でルーンの結界で安全地帯を作っているランサーの元に戻ってくる。
「おう。ご苦労さん」
そもそも彼らがなぜ活動拠点のオラリオを離れているのか。それは数日前に遡る。
莫大な借金を背負っているミアハ・ファミリアに対して資金援助をする男が突然現れた。それがランサーからその話を聞いたアーチャーだった。アーチャーが借金を全額負担する代わりに出した条件が『どのファミリアも売っておらず、有効で効能の高い新しい回復薬を開発すること』だった。借金だけを返したとしてもミアハ・ファミリアに金を稼ぐ力がなければまた元に戻るだけだからだ。
ちなみに主神のミアハは本拠で落ち込んでいる。アーチャーの言葉が余程響いたらしく、ついてきても使い物にならないか空回りするかのどちらかになるだろう。
「それにしてもよぉ、ベルの奴、情けねぇなぁ」
「それは仕方ないと思う。ベルはまだ冒険者になって間もないから」
冒険者になってからまだ一月も経ってないベルに地上のが付くとはいえ下層に出現する凶暴なモンスターの相手をさせるのはあまりに酷というものだ。
「ったく、しゃあねぇなぁ……」
重い腰を上げるようにゆっくりと空中にルーン文字を刻む。キャスターとなったクー・フーリンは、師匠のスカサハから18の原初のルーンを授かっている。刻んだ文字に込められた意味によって発動する効果が変わる魔術だ。
刻んだルーン文字から炎が発生し、それらが逃げるベルを追い掛け回すブラッドザウルスを尽く焼き尽くす。
「うわぁ、相変わらずすごいや」
「よく燃えるてるね」
何十頭も居たブラッドザウルスだったが、神話に名を残す大英雄の魔術から逃れられるはずもなく、一頭残らず触れれば崩れる炭と化す。延焼しやすい木が密集している森林の中で大規模な炎を撒き散らす魔術を行使しているにも関わらず周りの木々に燃え移っていないのは流石の腕であろう。
「あれ、ランサーさん。一頭残ってますよ」
熱で空気が温められ前方が歪んで見えるが、確かに一頭だけ無傷で残っている。討ち漏らしかと思ったが、そんな初歩的なミスをするような人にも見えない。
「あれはお前の獲物だ、ベル。やってみな」
「えぇっ!?」
ブラッドサウルスといえば深層で猛威を振るうモンスターだ。いくらランサーに鍛えられているとはいえ、レベル1のベルが相手にするにはまだ早い。
「大丈夫だよ。地上で世代を重ねたモンスターはダンジョンのモンスターよりも弱い。あれも精々ダンジョンのオークくらいの強さくらいしかないよ」
「だぞうだぞ。だから気楽に行って来い」
二人から背中を押される。決してからかっていたりお巫山戯で立ち向かわけせているわけではないだろう。ベルならこれくらいやれると確信しているからこそ背中を押すのだろう。
「はい……! 行ってきます」
先日自身の主神から贈られたヘスティア・ナイフは温存する。あれは確かにベルの持つ武具の中では最も性能が良い。だがそれ故に普段から使い続けるとそれに頼り切りになり、それが手元に無い状況になった時に実力を出しきれない。その代わりにベルが信頼している双剣を構える。
色んな事が起きた祭りのあの日、突然ランサーから贈られた黒と白の双剣はあの出来事があってから毎日欠かさず訓練を積んで来た。
大した時間は経っていないが、目の前に迫る巨大なモンスターならばなんとか倒せる確信があった。
新しい武器を手に、ベルは相対した驚異と向き合った。
「おりゃああああああ!!」
オラリオの街の地下に存在するダンジョンの17階層。中層とミノタウロスやライガーファングといった屈強な肉体を持つモンスターが多く出現するエリアで、それらが群れとなって冒険者達の行く手を阻んでいる。だがそのモンスター達の壁を紙のように切り裂いていく剣の暴風が吹き荒れる。一瞬のうちにモンスターの群れが肉塊に変わり、灰と魔石に成り果てる。
「うんうん。二代目
切るべき物が全て肉塊と成り果て、刃についた血肉をふるい落としながら生まれ変わった相棒の調子を確かめる。改めて言うまでもなく絶好調だ。背中に背負った瓜二つの予備も含めて最高のコンディションを保てている。
バラバラになった血と肉片が周りに飛び散る。破壊の嵐を巻き起こしたのはロキ・ファミリアに所属するレベル5の冒険者のティオナ・ヒリュテ。その後に続くのはその姉のティオネ、アイズ・ヴァレンシュタイン、フィン・ディムナ、レフィーヤ・ウィリディスなど、ロキ・ファミリアを代表する冒険者たちだ。
なぜ彼らがパーティを組みダンジョンに潜っているのか、理由は単純な金策だった。事の発端は先日の怪物祭に襲撃してきた食人花のモンスター。それなりに強かったそれらにアイズが借りていた代剣を折られたことだ。代用品とはいえそれなりの性能があったあれの弁償に必要な価格は4000万ヴァリス。
即金で出せる価格ではないがロキ・ファミリアがその気になれば集められない価格ではない。そのため修理に出していた武器の試し斬りも兼ねてダンジョンに潜っていた。
「これがダンジョン、ですか」
その中で一人、周りから浮いた者が居た。ダンジョンに潜るのはこれが初めて。だがこの中では一番の戦闘力を誇る。オラリオの常識からしたらかなり異常な彼女は、パーティから一歩引いて彼らの様子を観察していた。
(中々やる、というところでしょうか)
あと一歩、何らかのきっかけがあれば彼らは英霊の領域に至る。それくらいの強さは感じられた。改めて
受けた人間は得た経験に応じて経験値を得る。まるでゲームのように数値されたステイタスを強化し、反映する。レベル1の状態でも一般人を大きく超える身体能力を持てるがそれを活かせる者は少ない。
ロキ・ファミリアの動きを客観的に見ていたが、彼らの動きは確かにこの都市で頂点を競うに相応しい実力がある。
「どうだい? ダンジョンに初めて潜ってみた感想は」
「そうですね。意外に明るいものなのですね」
太陽の光が届いていないはずなのに、松明も必要ないくらいの光量がある。片腕が塞がれないというのはかなりありがたいものだ。
「そうだね。なぜ明るいのかはよく分かってないんだけどね」
「まだ解明されてない、ということですか」
「情けないことにね。何階層あるかも分かってないんだ」
フィンはセイバーに軽く説明する。
現在判明している最下層は58階層だが、完全に探索が完了した階層は上層にも殆ど存在しない。未知で溢れているのがダンジョンというものであり、それに富や名声を求めているのが冒険者というものだ。
「なるほど。参考になります」
「ところで、君なら一体どこまで行けると思う?」
それはつい浮かんだ疑問だった。フィンの目の前に立つ女性はフィンよりも膨大な経験を積み、偉業を重ねた英雄の一人だ。勝つヴィジョンも浮かばない相手にはオラリオでも有数の冒険者のフィンも畏敬の念を抱く。
「下の階層がどんなものか見たことがないのでなんとも言えませんが、少なくとも貴方達が到達したことのない階層に行くつもりはありませんね」
「それは、何故だい?」
「それは、私達が既にこの世の者ではないからです。呼ばれた結果こうして現界していますが、やはり今起きている問題は今を生きる貴方達が解決するべきだと私は思います」
気づかないうちに接近していたミノタウロスを手が振れるくらいの速度で剣を振るい真っ二つにする。
「勿論最大限の助力はさせていただきますが」
と、付け加える。
倒れたミノタウロスの切断面が目に入る。見たほどが無いほど綺麗な断面に驚かされる。武具の性能だけでなく使い手の技量も自分たちの何歩も先を行っており、一種の到達点であることを認識する。
「はは、末恐ろしく思うよ」
もうすぐ17階層に降りる階段に到達する。そこを抜ければ安全階層に入る。
魔石を拾い集め先に進むが、この先起こる事件のことは今は知る由もなかった。
気付いている人もいるかと思いますが、この度この小説の匿名投稿を解除しました。
はじめましての人ははじめまして。知ってる人もいると思いますが。
なんとなく察している人もいるとは思いますが、モチベの欠落と時間の確保が難しいこともあり、これだけ期間が空いてしまうことが多々あると思います。