ダンジョンを英霊が求めるのは間違っているだろうか 【無期限休載中】   作:たい焼き

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季節外れのインフルB型で療養してまして、少し短いです

一応怪物祭編は次の話で終了予定です。


怪物祭 その4

 「きゃああああ!!」

 

 怪物祭のイベント用に捕獲されて地上に運び出されていたモンスターが脱走するという事件の最中、突然地中から見知らぬ蛇のようなモンスターが現れた。ロキ・ファミリアの第一級冒険者であるティオネ姉妹や遠征に参加出来る実力を持つレフィーヤですら見たこともない新種のモンスターで市民達はパニックに陥って逃げ惑う。

 

 「「はぁぁぁッ!!」」

 

 硬い岩石すら打ち砕く彼女達の拳打だがそのモンスターの表皮はそれ以上に硬く、逆に二人が拳を負傷する程だ。打撃は殆ど通さない程硬いようだが、刃で切断すれば倒せそうではあるだろう。だが今日は祭を見物しに街に出たので武器を持ち合わせていない。

 

 だがそれ以上の問題はレベル5の二人の打撃が効かないということだ。レベル5以下の冒険者が苦戦するモンスターですら容易に打ち砕ける彼女達の拳打が全くといっていい程効いていない。ということは並の武器ですら打ち砕くことが出来ないのではないだろうか。

 

 「打撃じゃ埒が明かないわね」

 

 「あーあ、武器持ってこれば良かったなぁ……」

 

 打撃では有効打は与えられない。斬撃は手元に武器が無いため論外。であれば魔法で燃やし尽くすか氷漬けにして跡形もなく砕く。

 

 【解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり】

 

 二人の攻撃はダメージにこそなっていないが時間を稼ぎ注意を引くには充分だった。レフィーヤが稼いで得た時間を使って魔法詠唱を試みていた。速度を重視した短文詠唱だ。威力は大分落ちてしまうものの、直ぐに放てるのが利点だ。

 

 【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】

 

 魔法が完成し、放つだけになったその瞬間だった。今まで二人のアマゾネス姉妹の相手をしていたモンスターが今まで注意すら向けていなかったレフィーヤの方を見た。

 

 直感で危険に気がついたものの、回避行動に入る前にモンスターの触手がレフィーヤの腹を打ち抜いた。

 

 「レフィーヤ!!」

 

 内蔵が損傷する程の衝撃を腹部に受けながら上空に打ち上げられ、投げ飛ばされた。屋台の上に落ちて落下の衝撃は和らいだがどのみち動けるような状態ではない。内蔵が損傷して傷口や口から血が溢れている。誰が見ても重症だ。

 

 蛇のようだったモンスター―――――食人花は、先程レフィーヤが放とうとした魔法に反応してレフィーヤを攻撃した。そして動けなくなる重症を負ったレフィーヤを仕留めるために触手を更に増やして二人を妨害しながらレフィーヤに悍ましい歯の生えた口をレフィーヤに迫る。

 

 並んだ歯ですり潰されるか、無惨な肉片になるか、もしかしたら粘液で跡形もなく溶かされるかもしれない。そのどれにしてもレフィーヤの命はここで潰えるだろう。

 

 「レフィーヤ!!立ちなさい!!」

 

 妨害にあって動けないティオネとティオナだが、声だけは届けようと未だ動けないレフィーヤに檄を飛ばす。

 

 (死にたくない)

 

 彼女は痛みに耐えている間にもそんなことが脳裏に浮かんだ。目指すべき憧憬があった。今の自分はまだ弱くてもいつかその憧憬の隣に立って誇れるように必死で努力していた。

 

 (死にたく、ないッ!!)

 

 生に向かって必死に足掻こうと体に鞭を打って避けようとする。だが体中を走る痛みによって無情にも叶わない。むしろ痛みに耐え抜いて意識を保っているのはレフィーヤの精神力の高さによるものだ。だがモンスターには慈悲どころか知性もないのだろう。苦しむレフィーヤを前にしても躊躇う気持ちは無い。嫌だ嫌だと必死で抗い、悶えるが体は動かない。体が脳に伝えた痛覚によって本能的に体を休めようとしているのだろう。決して恐怖に屈して硬直してしまっているわけではない。思考と反して動かない自分自身に対して情けないと思う気持ちはやがて自分自身すら否定してしまうマイナス感情に繋がる。

 

 (また、私は……誰かに助けられるの?)

 

 今まで努力していたのはそんな自分が嫌で頑張って来たのではなかったのか?ならばこんなところで力尽きてたまるものか。動けず、死が目の前まで迫っていようと、レフィーヤは自分を奮い立たせ立ち上がろうとした。

 

 諦める気が無ければ奇跡は起こるというのはどうやら本当のことらしい。レフィーヤに迫った食人花の上顎と下顎が斬り裂かれ泣き別れになる。通った剣閃の中心には極彩色の魔石がありそれが砕け散り、食人花は弾き飛ばされながら灰と化した。

 

 「あ……」

 

 朦朧とする意識でレフィーヤの双眼は自らを救った人影を確かに見た。自分が望んだ金色の彼女ではなかったが、代わりに現れた紅の救世主は、憧憬の彼女と同じくらい格好良く見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「間一髪、か」

 

 直剣を振り抜いたアーチャーは落ちて灰になった食人花を一瞥するとレフィーヤに駆け寄った。

 

 「大丈夫かね?傷は深いぞ。早くこれを飲みたまえ」

 

 手渡されたのはエリクサーといい、オラリオで売られているポーションでは最高級の代物だ。どんな傷も瞬時に癒やし、斬り落ちた腕や足ですら切断面が綺麗ならばくっつける程に強力な物だ。それをレフィーヤの傷口に半分かけ、残りをレフィーヤに直接飲ませた。内蔵を損傷している可能性があるなら中から治した方が確実だ。

 

 体の中に入ったポーションによって細胞が活性化して傷はすぐに塞がったがダメージまでは回復しきれないようでレフィーヤの顔には苦悶の表情が浮かんでいる。

 

 「貴方は……」

 

 「アーチャー!?」

 

 モンスター相手に足止めされていたティオネとティオナ、そして空を切り裂きながら駆けつけたアイズが一歩遅れて到着する。彼女は風を纏って空中を弾丸のように跳び回りながら街中に逃げ込んだモンスターを退治していたところで、レフィーヤがピンチに陥ったのを視認したのだろう。

 

 「ロキ・ファミリアの君らだったか。どうやら外れクジを引かされたようだな」

 

 「そっちこそ、だね」

 

 新たに地面を砕いて三体の同じ食人花が今度はアイズに狙いを定めて触手を叩き込んできた。アイズは魔法で風を纏って食人花を切り裂く。

 

 ――――――パキッ

 

 何かが罅割れる音が響き、アイズが持っていたレイピアが硝子のように砕ける。元々細く繊細な使い方が求められるレイピアを風を纏わせる負荷を与えながら不壊属性の武器と同じように使っていれば壊れるのは確実だ。とっさに柄で叩いて怯ませるが打撃には滅法強い食人花にはそう大して効いてはいないだろう。

 

 「アイズ!!こいつら魔法に反応してるわ。風を解きなさい!!」

 

 ティオネとティオナが攻撃を加えて注意を引こうとしてもアイズ以外眼中にない。むしろアイズが使っている魔法が常に魔力を出し続けて目立つ分、この男は動きやすかった。

 

 「――――――」

 

 アイズ目掛けて襲いかかっている食人花の中に鋭い剣が撃ち込まれ、そのまま寸分の狂いもなく口内の魔石を打ち砕いて食人花が灰へと還る。いつの間にか剣から弓へと装備が変わっていたアーチャーが矢を撃ち込んだからだ。

 

 「魔石はそこか。見えている分楽に狙える」

 

 立て続けに矢を三度撃ち込んで食人花の息の根を止めたアーチャーだが、このように急所を撃ち抜き絶命させる程度のことなどいつもやっていた作業のような物だ。

 

 「アンタ、弓も使えたのね……」

 

 「むしろこっちが本職だがね、おっと、また来るぞ」

 

 またもや地面から同様に食人花が飛び出して来る。醜悪な口を開いてアーチャー達を喰らうべく存在しない眼で姿を捉えていた。

 

 「うへぇ。流石に武器もないのにこれ以上相手をしたくないなぁ」

 

 「全くよ」

 

 戦闘開始直後からずっと素手で戦っていたティオネとティオナの拳はもう限界だ。レフィーヤは傷は癒えたとはいえまだ戦える状態ではなく、アイズが持ってきた剣は既に砕けてしまっている。

 

 「ほう?今遠回しに武器があれば戦えると言ったように聞こえたのだが事実かね?」

 

 「はぁ?あったりまえじゃない。私達を舐めないでよね」

 

 「フッ、頼もしい限りだよ。受け取りたまえ」

 

 先程食人花を真っ二つに斬り裂いた直剣はティオネに渡した。

 

 「さて、投影、開始」

 

 バチッ、と微かに魔力が漏れる。何もない無の空間に形を持つ物が現れ始め光を放つ。完全に光が消えるとアーチャーの手には武器が二振り握られていた。

 

 『……はい?』

 

 右手には特大にして超重量を誇っていた武器でありティオナが先の遠征まで主兵装としていた『大双刃(ウルガ)』が、左手には剣の姫と名付けられた少女の剣技を受けてなおも輝きを見せる剣『デスペレート』があった。ウルガは先の遠征でモンスターの溶解液を受けて完全に消滅し、現在ゴブニュ・ファミリアの職人達が不眠不休の徹夜で二代目を打ち続けている。デスペレートは同じく溶解液を吐くモンスターを切ったことで斬れ味が落ちて現在神ゴブニュ自らが打ち直している最中である。つまりこの場にこれらの武器がこの場に存在することはありえないのだ。

 

 「ちょ!?これ私のウルガじゃん!?」

 

 「私のデスペレート……」

 

 愛剣を受け取った二人が調子を確かめる。その二振りはどこまでも、二人が担った己の武器そのものだった。

 

 「それでまともに戦えるだろう?そしてここにもう逃げ遅れがいないようだからこの場は君たちに任せるとしよう」

 

 「うん、いいよ!!これで10体でも100体でも倒せそうだよ!!」

 

 「これなら、もっと戦える」

 

 「この剣といい妹のウルガといい、聞きたいことが山程出来たけどひとまずアイツらを片付けてからね」

 

 水を得た魚とはこういうことだろう。この先にあるのは人間とモンスターによる命のやり取りではなく、強者が弱者を蹂躙する一方的な虐殺劇であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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