ダンジョンを英霊が求めるのは間違っているだろうか 【無期限休載中】   作:たい焼き

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” その5 理想的な結果

 「ただいま戻りました」

 

 ベルは本拠である廃教会の隠し部屋へと帰って来た。

 

 「おう坊主、早速だが出掛けるぞ」

 

 帰って来てすぐにベルはランサーに連れられて本拠を出た。主神のヘスティアは本拠の中に居たみたいだが、ランサーが予め話を通していたのか特に何処に行くのかとは聞かれなかった。

 

 「どうしたんですか?こんな時間から出掛けるんですか?」

 

 「お前神の宴ってのがあるって知ってるか?」

 

 「何ですかそれ?神様達が何かするんですか?」

 

 神の宴とは地上に降りた神達が集まる宴会のことだ。庶民では手の届かないような豪華な料理や酒が並べられ、神達の娯楽の一つとなっている。主催となる神は毎回変わる、というより誰かが開きたい時になったら勝手に開き、招待された神が集まってくるようだ。

 

 「まあ要するに暇潰しの一貫だろうな。面白そうな話題や情報の集まる場でもあるが、何よりその神のファミリアがどれだけの力や金を持ってるかが装いや振る舞いで一目瞭然になるってわけだ」

 

 「もしかして、神様も招待されたんですか?」

 

 「ああ。今回の主催はガネーシャって男神でな、お前ら人間が大好きで性格も評判もいいと、総じて残念か碌でなしが多い神の中ではオレが信用出来るって思えるくらいの傑物だな。本人の趣味が変わっててアレだが」

 

 「へぇ……」

 

 「てなわけで、ヘスティアには間違っても普段着で行かせるわけにはいかねぇからな。ドレスや装飾品を買いに行くぞ。ドレスに関しては注文済みで取りに行くだけだがな」

 

 しばらく歩くと、二人はとある店の前に辿り着く。主にヒューマンの衣服を扱っている店ではあるが、ベルが昼間にアイズと立ち寄った店よりもより高価な衣料品を扱う高級店だった。

 

 「こ、こんな高そうなお店で注文したんですか!?」

 

 「まあな。仮にも神様が着るモンだ。そこらのドレスじゃ見劣りするどころか釣り合わねぇよ」

 

 「でもお金はどうしたんですか!?」

 

 「ダンジョンって金稼ぎには便利だよなー」

 

 店の中に入ると、内装も豪華に仕上がった店だった。磨き上げられた大理石で彩られた内壁は、まるで貴族の豪邸のようだ。

 

 「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 「ヘスティア・ファミリアの者だが、注文していた物の仕上がり予定日が今日だろう?それを受け取りに来た」

 

 「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 

 応対した店員はバックヤードに下がる。

 

 「そういえば、サイズとかってどうしたんですか?神様には内緒なんですよね?」

 

 「ヘスティアの知り合いの女神経由で注文したんでな。ちょいとした冒険者依頼の報酬代わりでな。サイズは聞いちゃいねぇがその辺は向こうもしっかりしてるだろうぜ」

 

 流石にランサーも寝ている内に直接サイズを計測するという暴挙には出なかった。ただでさえ自分の幸運がEランクだと自覚しているのだ。途中で起きて手痛い反撃を食らうのが落ちだ。

 

 後は完成品を出して来るだけだったらしく、すぐに商品は受け取れた。

 

 「こちらになります。念のため中を確認いたしますか?」

 

 「おう。頼む」

 

 袋の中身が取り出され、露わになる。無駄な装飾がないシンプルなドレスだが、その代わり素材は拘り抜かれた最上級の物で、ほんの少し青の入ったオフホワイトに染められた布地は着る者を引き立てるために存在する。

 

 「すっごく綺麗なドレスですね!!これなら神様にもきっと似合いますよ」

 

 「あったりまえだ。何しろ着る奴の素材がいいんだ。しっかり相性を合わせればそうなるだろうぜ」

 

 「お気に入りになられたようで何よりです」

 

 「いい仕事するじゃねぇか。代金は前払いで全額払えているよな?」

 

 「はい。計100万ヴァリス全て頂いております。この度は当店にご依頼くださりありがとうございました」

 

 「ああ、またの機会があれば利用させてもらうぜ」

 

 元々依頼していた服や装飾品を取りに来ただけのため、すぐに退店した。ベルは落としたり汚したりしないようにドレスの入った袋をしっかり抱えてランサーの後に続く。

 

 暗くなり、街灯が点灯し始めたころ、ささっと二人は本拠に戻る。

 

 「おうヘスティア、ちょいと服脱げや」

 

 「な、なんだい急に!?セクハラかい!?」

 

 「ラ、ランサーさん!?もう少し言い方考えましょうよ!!」

 

 ベルは慌てて事情を説明した。それから暫くして……。

 

 「うぅ……僕は主神思いのいい眷属を持てて嬉しいよ……」

 

 「ああもう泣くんじゃねぇ!!涙で汚れたらどうすんだよ!!」

 

 「うわぁぁ。すごく似合っていますよ神様!!」

 

 鏡に映る女神を見てベルは思わず見惚れた。

 

 普段着のままでもヘスティアは女神らしく、整った容姿で可愛らしさを振りまいていたが、ドレスを纏い、髪を整え、装飾品で飾った姿は間違いなく神話で語られる女神であろう。

 

 「神が集まる宴なんだ。アンタも神なんだからよ、少しは着飾って身だしなみもしっかりしないとな。間違っても出された料理を持って帰って来るなんて真似すんじゃねぇぞ?」

 

 「わ……分かってるよ……」

 

 「やる気だったなコイツ……」

 

 「まあまあ……その辺りにしておきましょうよ……」

 

 ふと時間を確認すると、時刻は8時を回っていた。

 

 「おっと、そろそろご飯にしようよ。またジャガ丸くんを貰ってきたんだぜ。いやぁ……ありがたいことだよねぇ……」

 

 「あーヘスティア、悪いんだが、オレとベルはちょいと外で食ってくるわ」

 

 「え?神様はどうするんですか?」

 

 「む?なんだい?僕は除け者かい?酷いじゃないか」

 

 「いやなぁ……呼び出しくらってんだわ。オレとベルの二人が。コレだけやるからヘスティアもなんか美味いモン食ってこいよ」

 

 ランサーはヘスティアに1万ヴァリス程手渡す。

 

 「むぅ……隠し事されるのも除け者にされるのもやだけど、仕方ないってことだね?わかったよ」

 

 「悪ぃな。埋め合わせはどっかでさせてもらうぜ。じゃあ行くぞベル」

 

 「は、はい。すみません神様」

 

 ランサーに連れられ、ベルは再び外の街に繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それで何処に行くんですか?」

 

 「豊穣の女主人に行くぞ」

 

 すっかり暗くなった街を歩くベルとランサー。夜が更け、人通りも少なくなり始めたころだ。

 

 一般人は殆どが自宅に帰ったようであまり見られず、代わりに冒険者らしき者達は酒場で酒を飲んで騒いでいる姿がよく見えた。

 

 「豊穣の女主人ですか?」

 

 「ああ、オレの知ってる奴がそこに呼び出しやがってな。仕方ねぇから行ってやるのさ」

 

 「でも閉まってるんじゃないですかあれって……?」

 

 看板がCLOSEになっているが、中には確かに人の気配を感じる。

 

 「邪魔するぜ」

 

 それにも関わらずランサーは中に入る。

 

 「来たか、ランサー」

 

 「何の用だアーチャー?つまらん用事ならただじゃおかねぇぞ」

 

 「私からは特にない。あるのは後ろの御一行様だ」

 

 「あん?おめぇらは……」

 

 ランサーが振り返り、後ろの机を視界に捉える。そこに居たのはステイタスレベル5を超える第一級冒険者達の集団。ロキ・ファミリアの幹部陣だった。

 

 「まずはこんばんわ。君がランサー、さんだね?僕はロキ・ファミリアの団長を務めているフィン・ディムナという者だ」

 

 フィンがまず話を切り出し、彼らとベルを巻き込んだ騒動の経緯を説明し始める。

 

 事の発端は遠征帰りのロキ・ファミリアがミノタウロスの大群に遭遇するところから始まった。

 

 交戦して間もなくミノタウロスは群れを成して上層へ逃走する道を選んだ。まだミノタウロスと相対できない下位冒険者達の方へなだれ込むことになった。

 

 遠征メンバー総出でミノタウロスを狩り続けたが、運良く逃げ続けた最後の一頭が運悪くベルと遭遇してしまったのだ。

 

 結果的に言えば、1から10までロキ・ファミリアの失態であり、ベルはただそれに巻き込まれただけであり、ベルに非があるわけでもなく、増してはあの場で笑い者にされる筋合いすら無いのだ。

 

 「以上が今回の騒動の経緯だ。我々の不手際に君を巻き込んでしまったこと、本当にすまないと思っている」

 

 「そ、そんな……僕はあの場でアイズさんや皆さんに助けて貰った側です。こ、こちらこそ本当にありがとうございました」

 

 ロキ・ファミリアもベルも頭を下げ続け謝罪と感謝を繰り返す。こんなやり取りが何度も続いた。

 

 確かにベルはロキ・ファミリアが逃したミノタウロスに殺されかけた。その責任はロキ・ファミリアにあるが、彼を助けて命を救ったのも紛れも無くロキ・ファミリアなのだ。受けた恩を仇で返したり、糾弾するようにベル・クラネルは育っていない。

 

 「そこまでや。ウチらに責任があるのも、そっちが救われたのもよう分かった。だからもう恨みっこなしにしようや」

 

 「……だそうだけど、君はどうだい?」

 

 「僕もその方がいいと思います」

 

 「いいのか坊主?」

 

 「はい。運が悪かったんですよきっと」

 

 「そうかい。じゃあオレも何も言うことはねぇ」

 

 ランサーはロキ・ファミリアの者達が座っている席につく。

 

 「オレも昨日は悪かったな。酒も入ってたが仲間を虚仮にされんのは見逃せなかったんでな」

 

 「それに関しては申し訳ない。またベートにはキツく言っておきます」

 

 「ああ、もういいぜ。アイツの方からケジメ付けに来たんでな。ちょいとお灸据えてやったがな」

 

 「ベートが?」

 

 「根性がある奴だったぜ。修行すればもっと上行けるぜ。アイツは。おいアーチャー。酒、ありったけ持って来い!!」

 

 「了解した。肴はどうするかね?」

 

 「お前に任せる。坊主も席着け。今日は飲もうじゃねぇか」

 

 「は、はい……分かりました」

 

 ベルは若干ビクビクしながらランサーの隣の席に着く。目の前にいるのはオラリオどころか世界中にその名を轟かせる第一級冒険者、即ちベルの目標である英雄候補であり、何れベルが追い越さねばならない壁でもある。

 

 そんなベルにとっての憧れの者達と食事をする、畏れ多いとも言える感情をベルは感じていた。

 

 「今日はオレが奢ってやるからお前らも飲めや。湿っぽい話はアレで終いにして、今日は飲もうぜ」

 

 「いいんかいな?ウチらのこと嫌っとるんやないのか?自分?」

 

 「だからもういいって言ったろ?あんま細けぇこと気にすんな」

 

 「そういうことなら、ゴチになるわ」

 

 「おう。アーチャー早く酒持って来いよ」

 

 「やかましい。羽目を外して暴れてくれるなよ?次は貴様が自分で直せ」

 

 奇妙な形で始まったロキ・ファミリアとヘスティア・ファミリアの宴会も、酒が入れば自ずとぎこちなさはなくなり、普通の物と何も変わらない物になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちっ、ランサーめ。分かってはいたが、面倒な……」

 

 「お酒はともかく、もう食材があまり残っていませんね」

 

 「お米は大量にあるんですけどね。でもこれだけじゃ物足りないですよね……」

 

 アーチャーと5人のウェイトレスが引っ込んだ厨房の中。ランサー達の来訪の前までに来た客が全て帰ったが、いつも以上に繁盛したことで、食材が切れかけていた。

 

 「ふむ、ならばアレにするか」

 

 アーチャーは炊き上がった米を取り出し、軽く混ぜる。ほんのり温かい米を手に乗せてそれを握り形を整える。二、三回程握って三角になった米にほんの少しだけ塩を掛ける。

 

 「アーチャーさん、これは?」

 

 「米を持ち運びやすくした料理で、おにぎりとか握り飯と呼ばれる物だ。初心者にも作りやすいだろう。こんな感じでやってくれ」

 

 かしこまりましたと皆でおにぎりを握り始める。今日こうして厨房に立つ前に知った事だが、5人の中の一人、エルフの女性ことリュー・リオンは致命的な程に料理音痴だ。

 

 仕込みの手伝いを頼もうとしたところ、他の者達が必死で止めたところを見る限り、そうなのだろう。まあ女将がほぼ一人で厨房を切り盛りしているのならば仕方ないだろう。

 

 だからアーチャーはまずは基本となるおにぎりから入らせた。軽く様子を見るが、慣れない作業に苦戦しながらも、なんとか三角にみえるおにぎりを見て安堵した。

 

 その間にアーチャーは冷蔵庫から鶏肉を取り出し、一口サイズに切り分け、塩と胡椒で味を整える。それを串に刺してフライパンではなく、鉄網の上に乗せる。熱された鶏肉から脂が染み出して香ばしい香りが漂い始める。

 

 生前食べた焼き鳥といえば塩とタレと種類があるが、タレを用意するとなると前々からの仕込みが必須となるため、今回は塩だけで妥協せざるを得ない。

 

 ランサーを待つまでの間にあまり料理を食べなかったロキ・ファミリアの彼らも腹を空かせていることだろう。

 

 鶏肉が焼けるまでの間に別のフライパンに魚の切り身を投入し、それを塩焼きにする。それも焼きあがりを待つ間に少し塩を入れて沸騰させた鍋にパスタの麺を投入し、時間の計測機を投影しタイマーをセットして茹で上がりを待つ。加えて昼頃にも使った中華鍋に米や具材、卵と調味料を入れて炒飯を作り上げる。

 

 「くっ……何処かは覚えていないが、百人を超える人間やサーヴァントの食事を同時に作った記録がある……のか?どうなんだ、私?」

 

 ふと脳裏に浮かんだそんな光景。アーチャーの生前の記憶ではないそれは、何故だか鮮明に覚えている。

 

 気が逸れたが、それは大切な思い出だったのだろう。記憶の片隅にしまい込んで調理に集中する。

 

 アーチャーは己の技術をフルに使い、酒が進む肴や腹を満たす料理を残りの食材を使い尽くすつもりで作り上げていく。もちろんここの女将が可愛がっているウェイトレス達への賄い料理も忘れない。

 

 「店長代理。こんな感じでいいですか?」

 

 「ふむ……」

 

 米という食材を使い慣れているアーチャーからしてみれば申し訳ないが残念な出来だろう。普段は女将のミアが一人で厨房を回しており、料理を作り慣れていない彼女達からすれば仕方がないことだ。

 

 だがそれ以上に一生懸命握ったという熱意を感じた。売り物として出すには失敗作だが、あまり米を使った料理が普及していないオラリオならばこういう物だと受け入れられるかも知れない。

 

 「少々形が歪だが問題あるまい。ランサーなら麻婆豆腐と犬の肉以外はよろこんで食べるだろうさ」

 

 「犬の肉ですか……?」

 

 「奴の誓約(ゲッシュ)に関係するんだが、犬の肉を食うと奴の力が激減するだろうな。奴の逆鱗に触れて逆に手強くなるかも知れんがね」

 

 「なんだかケルト神話のクー・フーリンみたいですね」

 

 そう呟いたのはシルだった。そういえばそうだねとリューとルノアが続く。猫人(キャット・ピープル)の残り二人は気が付かなかったようだが。

 

 「あぁ、言ってなかったな。アレがクー・フーリンだ」

 

 「えっ?」

 

 『えええええぇぇぇぇぇ!?』

 

 当然のように驚きの声があがる。かつてアーチャー達が召喚された第5次聖杯戦争の舞台は日本だった。日本ではランサーの故郷程知名度が高くない。本場のアイルランドで召喚した場合の結果があれなのだから。

 

 「馬鹿な……!?そもそもクー・フーリンはケルト神話の英雄譚の登場人物ではないのですか!?百歩譲って彼がそうだったとしても、人間が何千年も生きることができるわけがありません!!」

 

 「ああ、確かに奴は死んでいる。使い魔として霊体で召喚されただけだ。そしてバレると弱点を晒す真名を隠すためのクラス名がランサー。槍兵のサーヴァントだ」

 

 「霊体ってことは幽霊ってことなのニャ?」

 

 「もちろん霊体化することで触れたり見えなくなることも可能だ。こんなふうにな」

 

 アーチャーは彼女達の前で消えて見せる。その光景に彼女達は絶句しており、驚きを隠せていない。

 

 「ってことは店長代理も……なのニャ?」

 

 「まあね。クラス名はアーチャー。弓兵のサーヴァントだ。もっとも私は名乗る名もない無名の英雄だった者だがね。格が違うよ」

 

 「充分すごいと思うんだけどなー……」

 

 「そのことはまあいい。料理を出そう。大型犬がいつまでも『待て』ができるか分からんからな」

 

 そうですねーと出来上がった料理を配膳し始める。残る食材をかき集めて作った寄せ集めだが、これだけあれば満足するだろうと見た。ここに腹ペコ王が参戦しなければ。

 

 「おっと待つんだリュー」

 

 「?なんでしょうか?」

 

 「随分一生懸命握っていたようだな。顔に米粒が付いている」

 

 ふとリューが側にあった鏡に目をやると、確かに一粒だけ米粒が頬についていた。

 

 「待っていろ。今取ってやる」

 

 アーチャーの指がエルフ(・・・)のリューの頬に触れる。エルフが己が認めた極一部を除く他者との肌の接触を極端に嫌うとアーチャーが知るのは当分先にことだ。

 

 「なっ……」

 

 「これでよし……と、どうかしたか?」

 

 「い、いえ、なんでもありません。ありがとうございました。」

 

 リューもこの時には僅かな疑惑しか感じていなかった。アーチャーの肌が自身に触れた時、必ずと言っていい程湧いていた嫌悪感がほぼ無かったことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あら。おかえりアーチャー。遅かったわね」

 

 「ああ。とある酒場の手伝いをしていてね。少しばかり熱が入ってしまったようだ」

 

 あの後特に騒動が起きることなく宴会は終了した。ランサーはレベル6のロキ・ファミリア最高幹部の三人と特に盛り上がっていた。ランサーも決して長くない人生だったが、彼なりに誇れるように生き抜いた経験は、彼らにとっても見習うべき物だろう。特に団長の名前に彼の後輩の影がちらついているのが大きかったのだろう。

 

 一方ベルという少年は神ロキやアマゾネス姉妹との絡みが多かったように見える。アーチャーが見た限りでもあそこまで邪に染まっていない真っ白な人間は特に冒険者の中では珍しい。俗に言う優しい人間の模範というべき存在である彼は特に神ロキに気に入られた様子だ。

 

 「そう……。貴方なりに現界を楽しんでいるようで私も嬉しいわ」

 

 「……マスター、いや神ヘファイストス。貴方に頼みたいことがある」

 

 「何かしら?私で出来ることなら何でも言ってちょうだい」

 

 きっかけは豊穣の女主人でランサーとセイバーと遭遇した事。前回のステータスから随分と離されてしまい、彼が上回る点が極端に減ってしまった。限りなく細く成り過ぎた道では、勝利どころか痛み分けすら難しくなってしまった。

 

 悩んだ時間は短いが、これ以上に悩んだことは、正義の味方を目指して生まれ育った国や街、側に居た仲間の全てを捨てた時くらいだ。それは現実主義者で効率が良い方法を求めることを方針とするアーチャーの中にほんの少しの誇りや意地、プライドといった物が残っていることを表す。

 

 「オレに、神の恩恵を刻んで欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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