ダンジョンを英霊が求めるのは間違っているだろうか 【無期限休載中】 作:たい焼き
匿名希望ですが、処女作ではありません。
不定期更新でかなりゆっくりでの投稿予定ですが、気長にお待ち下さい。
『ダンジョン』という物がこの世界にはある。
地下深くまで根付いた巨大な迷宮であり、そこには人間に害するモンスターが存在する。
それらはダンジョンによって生み落とされ、人間の敵として存在しており、問答無用で人間に危害を加えようとする。
そのため昔の人々はダンジョンの地上への出入り口を『バベル』と呼ばれる巨大な塔で蓋のように封印した。
不変で不滅である故に娯楽に飢え、下界へと降りて来た神と共に。
神は自らの子供達である人間に
ある者は地位や名誉を夢見て、ある者は一攫千金を夢見て、ある者は己が辿り着ける限界を求めて、それぞれが野望や欲望、理想といった夢を己の内に秘めている。
そして一人が後世にも残るであろう偉業を成し遂げる度に、それに心を打たれて憧れた者がダンジョンに集い、冒険者を相手に商売をする者達も集まる。
そうしてここ『オラリオ』は世界で唯一ダンジョンを有した最高峰の巨大都市に成長したのだった。
とある世界で魔術師と呼ばれる者達が子孫の代まで利用してでも辿り着こうとする終着点のことを『根源』と言った。
過去現在未来、果ては並行世界にまでわたる情報と知識もこの中に存在しているとされ、その内部にはかつて地球で生きて名を残した英雄達の記録や偉業が記録されていた。
それは英霊の座と呼ばれている。
その膨大な数ある英霊の座の幾つかに接続し、呼びかける声があった。
「誰だ……?こんなハズレの男を呼ぶ奴は……」
男はかつて擦り切れる一歩手前まで来ていた。生前に抱いていた理想に裏切られ、絶望する結果になった自分自身を恨んでいた。
だが少なくとも今はそうではない。座に集まった以前召喚された時の経験や記憶を自分の座に記録して読み込んだ結果、自分でもほんの少しは柔らかく甘くなったのではないかと感じてはいる。
「まあいいさ。オレはオレの正義を貫き通す。オレはそれしか出来ないなのだからな」
男は呼びかけに答えた。その瞬間、男、錬鉄の英雄『エミヤ』は自身の英霊の座から消失した。
何もなく暗い洞窟のような場所に突然魔法陣が浮かび上がり、集まった魔力の粒子が人形を作り出す。
「サーヴァント、アーチャー。召喚に応じ参上した。さて、私のマスターは……」
辺りを見渡しても誰も見当たらなかった。それどころか人の気配もしない。洞窟全体が魔力で満ち溢れていて、魔力で作られた肉体に現界を維持出来るだけの魔力が流れ込む。
「ふむ、マスターとのパスは感じられない。状況から推察するに、はぐれでの召喚というわけか……
次に今の自分の状態を解析の魔術で確認する。
体に不調は特に無く、魔術回路も27本全て問題なく稼働しているし、固有結界も展開が可能だ。
「
両手に現れるのは使い慣れた夫婦剣。黒の雄剣『干将』と白の雌剣『莫耶』だ。
「体にも違和感は特に無いな」
質感を確かめ、軽く干将莫耶を振る。普段通りの性能を出せているため、経験や感覚が抜け落ちての召喚ではないだろう。
「さて、ここは一体何処なんだ?」
マスターを有した聖杯戦争でも無ければ守護者の仕事としての召喚でもない。本当に偶然、何の縛りもなく召喚されたのだ。
「出口は……あれは階段か?」
エミヤが所有するスキルの一つであるCランクの『千里眼』。だが今回の召喚ではB+ランクの『鷹の目』となっている。
これは猛禽類の鷹の如き目を手に入れる物だ。より遠距離を視認でき、高速で動き回る物体でも認識出来る動体視力を兼ね揃えた物である。
それで捉えた上層へと続いている階段に向かい、それを使って上層へと向かう。
階段を登りきった先もまた同じような光景が広がっていたが、その先に見える階段は間違いなく出口に繋がっているようだ。
だがそれを阻むように立っている何かが視界に入った。
「あれは……小鬼?いやゴブリンか……?」
しばらく思考に浸っていたが、やがてそいつもこちらに気付き、一直線に殺意を剥き出し突撃してきた。
「少なくとも話せるわけでも味方でもないようだな。」
軽々とゴブリンの一撃を回避し、ガラ空きの背中を見せたゴブリンの首に強烈な蹴りを横から叩き付ける。
「グエッ!?」
人が出せないような声を小さく出して壁へと水平に飛んで行き、そのままめり込んで動かなくなった。
首の骨が折れたのか、そのままぐったりして動かなくなったゴブリンが灰へと姿を変えていく。
「なんだったんだ?」
今の戦闘で得た知識を頭の片隅に残し、エミヤは外へと出れる階段を登った。
「ほう……これはまた……」
外に出たエミヤの目に入ったのは、活気で満ち溢れた街に希望を抱いた人々、そして今出てきた洞窟の上にそびえ立つ巨大な塔だ。
「なるほど、さしずめあの塔はあの洞窟を封じ込める蓋というわけだな。ともあれまずは情報だ」
エミヤは塔の周りの如何にもこれから戦いますと言っているような者たちを標的に情報を集めて回った。
集まった情報では、彼らは冒険者という職業で、下の洞窟ことダンジョンに潜ってモンスターを狩り、中に持っている魔石を集めて売って生計を立てているという。
何よりエミヤを驚かせたのは、神が下界に降りて来ており、そこで人間達と何一つ変わらないルールの下で生きているということだ。
彼らはそれぞれファミリアという物を創り、自分のファミリアを運営している。
それぞれが冒険者となる人々に神の恩恵を与えてダンジョンに送り出すほか、武具を作る鍛冶を専門とするファミリアや農業や医薬品を売るファミリアもあるそうだ。
その中でも鍛冶系のファミリアのトップと言われている『ヘファイストス・ファミリア』に興味を持ち、エミヤはそこの武具を販売している店へと足を運んだ。
「確かにいい武器を扱っている。職人の腕も良いみたいだな」
バベルと呼ばれている塔の四階から八階が全てヘファイストス・ファミリアの武具を扱っているテナントだそうだ。
ショーケースの中に飾られている剣の値段を見ると軽く1000万を超えるヴァリスで表示されていた。
レベル1の冒険者が一日で出せる平均の収入が大体で1万から2万と言われていることから、相当上位の冒険者が数週間ダンジョンに籠もり続けなければ得られない金額であろう。
それでもそれ相応の性能はあるだろうが。エミヤの解析結果ではいまいちの域を出ない。
「だが私が見た剣と比べると、か」
エミヤは見ただけでその武器を複製し己の中に貯蔵する。今こうして見ている剣も既に登録しているが、正直に言ってまだ期待値以下だ。
というのも、剣自体に込められている魂が温いような気がする。
この剣が極地に至るために打たれた物かと言われれば、打ったことのないエミヤでもNOと答える。
悪くない出来だが至高の物でもないといった所だ。
「高ければいいというわけでもないが……これは?」
次に目に入ったのは魔剣や付加属性として『
この世界の魔剣とは魔法を放てる剣であるそうだが、使用回数に制限があるらしい。
「回数制限が決まっている剣に絶対に壊れない剣か……私に言わせてみれば、ナンセンスとしか言えんな」
武器は使い手の半身である。使い手を残して消えていく剣なぞに己の命を預ける者など信用出来ないし、絶対に
一通り見て回ってから、エミヤは主に新人の鍛冶職人達の武具が集められたスペースに来た。
やはりこちらの方が性能が低いが、剣に込められている想いは比ではない。
のし上がろうとする野心やただ極地を目指している向上心といった超えたい物を目指している熱い想いが熱気となって剣越しで伝わって来る。
「製作者名、ヴェルフ・クロッゾ、か。この剣の打ち手は将来有望だな」
中でも一番と言っていい出来の作品には、剣に関しては少しうるさい錬鉄の魔術師も興味を惹かれていた。
「ちょっと貴方、いいかしら?」
振り返るとそこには燃えるような紅い髪に右目を眼帯で覆った女性がいた。それに存在感が人間とは違う。となればこの特徴に当てはまる者は一人しかいない。
「何かね?貴方は神ヘファイストスとお見受けするが。ああ、私はただ武器を見に来たただの一般市民だよ」
「人は神に嘘は吐けないわ。それに一般市民は流石に無いわ」
そう言えば神に人は嘘を吐くことが出来ないし、神は人が言った嘘を見破れるという情報もあったなと今更思い出す。
「貴方が持ってるその剣。それってもしかして干将莫耶じゃない?」
「これか?ああこの剣の銘は確かに干将莫耶だが?まあ贋作だがね」
「嘘じゃないのに嘘でしょ……?あんな名刀を見間違えるはずがないわ」
といってもこんな人がいる中では種明かしをするべきではない。こういった希少スキルや魔法は秘匿すべきだと言われている。でなければ娯楽に飢えた神のいい玩具だ。
「種明かしはするが、できれば人がいない場を希望したい」
「そう?分かったわ。私の執務室があるから、そこでいいかしら?」
構わないと伝え、執務室に連れてこられた後、何故か鍵を掛けられた。
「さあ、洗いざらい吐きなさい」
「元よりそのつもりだし、逃げるつもりもないのだがね・・・まあいい。まずはこれを見てほしい」
差し出した干将と莫耶はヘファイストスが見ている前で魔力の粒子となって消えた。
「なっ!?まさかあれを魔力で編んでいたっていうの!?」
「そして……」
試しに同じ干将莫耶を三対、その場で投影する。寸分性能も違わず、同じ複製品を作り出して見せられた鍛冶神ヘファイストスは呆気に取られていた。
「これが私の魔術、
「魔力だけで武器の器も中身も完全に投影することで完全な複製品を作るってこと……?」
「ああ、君達鍛冶を営む者達からすれば根底からひっくり返されるような代物だろうがね」
武器とは職人が技術も時間も己の誇りも全て燃やして作り出す。
エミヤの投影は経験もかけた年月も全てを投影する故に異常なのだ。
「さて、これを踏まえたうえで、神ヘファイストス。貴方に要望がある」
「……何かしら?」
「何、簡単なことだ。私をこのヘファイストス・ファミリアの一員として欲しい。勿論タダとは言わない。その暁には私が持つ全てを貴方達のために役立てよう」
「入団希望って捉えても?」
「ああ、ただし契約はこちらのやりかたでやらせてほしいがね」
「いいわ。続けて」
「まずは手の甲を上に向けて差し出して、私が言った言葉を唱えてくれ」
ヘファイストスが差し出した手の甲の上にエミヤの手を重ねる。
『―――告げる、汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うのなら我に従え。ならばこの命運、汝が剣に預けよう……「これでいいのかしら?」』
すると手の甲が熱を帯び、エミヤの体に魔力が満ちる。
「サーヴァント、アーチャーの名に懸け誓いを受ける・・・。貴方を我が主として認めよう、神ヘファイストス」
エミヤが引いた手の下には、入れ墨のような痣が刻まれたヘファイストスの甲があった。
「これは?」
「それは令呪。私をサーヴァントとして使役しているという証だ」
「聞いたことがあるわ。確か過去の英雄の魂を器に押し込んだ使い魔だったかしら?でもそう簡単に召喚出来る物でもないでしょう?」
「今回ばかりは私にも分からん。相当なイレギュラーである故にこちらも早めにマスターを確保しておきたいのでね」
投影されていた干将莫耶を消し、自らのマスターであり主神でもあるヘファイストスの前に跪く。
「我が真名は『エミヤシロウ』。これといった逸話も無い無名の英霊だが、貴方の剣となることをここに誓う。まあ大抵のことは出来ると自負しているから、便利な傭兵のように使って欲しい」
「例えばどんなことが出来るのかしら?」
「貴方が望めば大抵のことは。幸い家事も出来るし、今判明している程度の階層ならば無傷で帰って来れると自負している。必要な素材があれば私に命じればいい」
「なら、まずは紅茶を一杯頼めるかしら。近くの厨房を使っても構わないわ」
「了解した」
エミヤは霊体化して部屋の中から消えた。一息吐けたヘファイストスは執務室の椅子に腰をかける。
「ふぅ……これは一波乱ありそうね……」