ラブライブ!side “M” お兄ちゃんは魔法使い 作:真仁
空いてる部屋が無いとの事で千歌の部屋に寝る事になった束、千歌の寝ているベッドのすぐ隣のスペースに布団を借りて寝ていた。
ジリリリッ!
一夜が明け窓のカーテンの隙間から朝日が射し込む頃、千歌の枕元の目覚まし時計が鳴り響く。
千歌「うぅ・・・ん」
バン!
千歌は目覚ましを止めると再び寝てしまう。
そして・・・
千歌「ぎゃー⁉︎遅刻だぁーっ⁉︎」
再び目が覚めた時には登校時間ギリギリになっており、千歌は慌てて飛び起きる。いつもと同じように勢いをつけてベッドから飛び降りるがその先には・・・
ドズッ!
束「ッガ⁉︎」
千歌「・・・あ」
ベッドの隣に寝ていた束は千歌に思い切り腹部を踏みつけられ短い悲鳴をあげて目を覚ました。
千歌「行ってきまーす!」
千歌は慌てながら走って旅館を出ていった。それをお腹の辺りをさすりながら見送る束。
束「いてて・・・ん?」
ふと束が玄関に目をやるとノートが一冊落ちていた。束がそれを拾い、中を見る。中には短い文章がいくつも書いてあり、それらには消しゴムで消した跡や何度も書き直した形跡などが見て取れた。
束「これってもしかして・・・歌詞か?」
昨日、千歌がスクールアイドルを始めた事を聞いていた束はノートに書かれた短い文章を見てそう感じた。
束「無いと困る・・・よな?やっぱ・・・」
千歌の姉二人に聞いて千歌の通う学校『浦の星女学院』の前に来た束。時間はちょうど昼休みになる頃を狙って来たので会えさえすれば簡単にこの用事も終わる・・・はずだった。
束「さてと、まずは千歌を探さないとな」
校門から中に入り辺りをキョロキョロ見回す束。
束「お、第一生徒発見」
外に出ている生徒の一人を見つけた束は千歌の事を聞こうと声をかける。
束「RPGの基本は情報収集・・・ってね。おーい!そこの君ー!」
束は小柄で赤い髪をツインテールにした女生徒に声をかける。
「ピギッ⁉︎」
突然呼びかけられた事に驚いたのか少女はビクッ!としながら束の方を振り向く。
束「いきなり呼びかけて悪い。この学校の生徒で高海 千歌って子・・・」
「ピ・・・ピ・・・ピギャァァァァァァッ⁉︎」
声をかけられた少女は突然大声をあげる。
束「どわぁっ⁉︎」
あまりに突然の事で思わず後ろに後ずさる束。
束「な、なんだ⁉︎どういうんだ⁉︎」
少女は大声で叫んだ後もずっと束を見て怯えており、側から見たら完全に束が悪者だ。まぁ実際女子校に無断で入っているのだが。
束「ち、ちょっと待って!落ち着こう?怪しいモンじゃないからさ?」
束が近づくと少女は怯えた顔のまま後ろに後ずさる。
「ルビィ!どうしましたか⁉︎」
見ると黒いロングヘアの女生徒がこちらに向かって走ってくる。それを見た束は思わずその場を離れてしまう。
「ルビィ⁉︎大丈夫⁉︎ケガは無い⁉︎」
黒髪の生徒がルビィと呼ばれたツインテールの少女に駆け寄る。
ルビィ「うん、大丈夫。ダイヤお姉ちゃん・・・」
ルビィも自身の姉である黒髪の生徒、ダイヤにそう答える。
ダイヤ「一体何がありましたの?」
ルビィ「えっと・・・えっとね、あの男の人が・・・」
そう言ってルビィはその場から走って去っていく束の後ろ姿を指差す。
ダイヤ「アイツがルビィを・・・。絶っ対に逃がしませんわ!」
一方逃げてきた束は・・・
束「はあ・・・はあ・・・、思わず逃げ出しちまったけどやっぱマズイよなぁ。ちゃんと誤解を解かないと・・・」
辺りを見回してみるがどうやら校内に迷い込んでしまったらしくどっちに行けばいいのか皆目検討がつかない。
束「どうするか・・・」
するとそこに女生徒が現れる。赤い髪をバレッタでとめた大人しそうな子だ。
「えっ⁉︎なんで男の人⁉︎」
束「待った!怪しい奴じゃない、ここの生徒の知り合いなんだ」
「し、知り合い?」
束「ああ。高海 千歌って子なんだが・・・」
「千歌ちゃんの・・・?」
束「知ってるのか!だったら・・・」
その時、束の声を遮るように校内放送のアナウンスが流れる。
ダイヤ『生徒の皆さんに連絡します。先程校内に不審者が浸入しました。生徒の皆さんは教室から出ないようにしてください』
「ふ、不審者⁉︎」
束「おいおい物騒だな・・・」
ダイヤ『もし不審者を見つけても追いかけたりせずに落ち着いてその場から離れて近くにいる先生に報告してください。なお、不審者は20代くらいの男性で服装は黒のジャケットに赤いズボンで・・・』
束「ん?黒のジャケットに赤いズボンって・・」
束は自分の服装を見る。
束「俺の事かぁっ⁉︎」
「やっぱり怪しい人じゃないですかぁ⁉︎」
束「くそ!俺はただ忘れ物届けに来ただけなのに!」
そんな事を言ってる内に別の生徒達が束を見つける。
女生徒A「え・・・?あれってもしかして・・・」
女生徒B「さっき放送で言ってた不審者だよ!」
女生徒C「見て!桜内さんが人質に!」
束「えええぇぇぇッ⁉︎」
女生徒A「早く先生に知らせないと!」
女生徒C「桜内さん!待ってて!すぐに助けを呼んでくるから!」
そう言って三人の生徒は行ってしまい束達2人が残された。
「・・・・・」
しばらくの間、お互い顔を見合わせて黙っていた2人だったが沈黙に耐えられなくなった束が話し出す。
束「なんか、ゴメンな?巻き込んじまって・・・・。えーと・・・」
「さ、桜内梨子、です・・・。あの、本当に千歌ちゃんの知り合いですか?」
束「本当だよ、コレを届けに来たんだ」
束はノートを取り出して梨子に見せる。
梨子「それって・・・千歌ちゃんのノート!」
束「やっぱそうだったんだな。遅刻しそうになって慌ててたからな。玄関に落としていった」
梨子「もう・・・千歌ちゃんったら・・・」
束「君、千歌の家の旅館のすぐ隣に住んでるだろ?」
梨子「えっ⁉︎な、なんでそれを・・・」
束「桜内の表札があったからな。あそこ昔俺が住んでた家なんだ。もう7年も前の話だけど」
梨子「そうなんですか?・・・あの・・・」
束「ん?」
梨子「千歌ちゃんって昔はどんな子だったんですか?」
束「昔ったって7年前で1年位の付き合いだったからそんなに細かく覚えてる訳じゃないけど・・・、まぁ普通の子だったんじゃないか?」
梨子「普通・・・ですか」
束「どこにでもいるような普通の元気な女の子、って感じかな?あ、でも・・・」
梨子「でも?」
束「久しぶりに会った今の千歌はちょっと違うかもな。なんつーか、前にも増して活発!っていうか?活き活きとしてるっていうか・・・」
梨子「・・・そうかもしれません」
そう答える梨子の顔はは少し笑っていた。
束「あと意外と胸も大きく育って・・・」
梨子「大きな声出しますよ?」
束「ごめんなさい」
その後、束は梨子にノートを渡して帰ることに。
梨子「大丈夫ですか?」
束「ノートが渡せる目処が立った以上ここに長居する理由も無いしとっとと退散するさ。ま、なんとかなるっしょ」
束は窓から抜け出し外へ出る。
束「えーと、アッチに向かって行けば出られるんだよな?」
梨子「はい。あ、そうだ不審者さん!」
束「不審者はやめて!俺の名前は束!」
梨子「つ、束さんは昔、今の私の家に住んでたんですよね?」
束「ああ」
梨子「今はどこに住んでるんですか?」
束「本当は東京の音ノ木坂だが今は千歌の旅館に世話になってる。じゃあな!ノートよろしく!」
そう言って束は走り去っていった。
梨子「え?・・・ええぇぇぇっ⁉︎」
束「やれやれ、早いとこ抜けださないと・・・ん?」
コソコソ隠れながら校門に向かって進んでいると怪しい人影が束の目に写る。
「クックックッ・・・感じるわ・・・大いなる闇の力が集まってくるのが!」
地面に怪しい魔方陣のようなものが描かれており、その中心には黒いマントを羽織った少女がなにやらブツブツ言いながら笑っている。
束「なんだアレ?見たことない魔方陣だが・・・」
一応、魔法使いの端くれである為かまずそっちに目がいってしまう束。
「暗黒の魔力よ!堕天使ヨハネに力を!」
そう言って少女が両手を天にかざすと雲が無いにもかかわらずみるみるうちに暗い雲に覆われる。そしていきなり空から巨大な雹が降ってきて束のすぐ側に落ちる。
束「ふぉおおおっ⁉︎」
ギリギリの所で飛んでかわした束。慌てて飛び出した為、少女に見つかってしまう。
「キャアアアア⁉︎・・・お、脅かさないでよ!」
束「誰のせいだよ!」
「あ!あなたまさか放送で言ってた不審者⁉︎まさか・・・このヨハネを攫おうと・・・」
束「攫うか!」
ヨハネ「だ、堕天使ヨハネにちょっかいを出すと悪魔級の最高に最悪な事が起きるんだからね⁉︎」
束「良いんだか悪いんだかどっちなんだよ⁉︎」
そんな事を言っている内に更に巨大な雹の塊が二人のいる場所めがけて降ってくる。
束「危ねぇ!」
とっさに少女を突き飛ばす束。雹の塊は束の足元に落下し、砕けた破片が飛び散っていくつかが突き刺さる。
束「くっ!なんでいきなり雹なんかが・・・」
チラッと突き飛ばした少女の方を見ると魔方陣が淡く光っている。
束「まさかアレのせいか?すると・・・」
束は魔方陣を描いた張本人の方を見る。
ヨハネ「痛たた・・・」
束「くそ!忍者の次は堕天使かよ!どーなってんだ一体!」
ヨハネ「堕天使?ヨハネの事?」
束「こうなったら仕方ねぇ。あまり気は進まないが・・・やってやる!」
少女に向かい構えて戦闘体制に入る束。
ヨハネ「え?・・・な、何がどーなってるのよぉぉぉっ⁉︎」