ラブライブ!side “M” お兄ちゃんは魔法使い 作:真仁
束「う〜ん!いい天気だ、今日も一日キバっていくぜ!」
朝早く起きた束は日課の一つである店先の清掃を行っていた。いつも通りに手短に済ませるがいつもと違う所に気付く。
束「あれ?配達の牛乳が来てない?」
いつもなら束が外に出た時には既にあるのだが今日はまだ来ていなかった。
束「珍しいな・・・。まぁ無くて困る事は無いんだけど・・・」
「おはようございます!」
束が話をしていた矢先に自転車が穂むらの前に来て止まり、若い女性が降りてくる。
「ごめんなさい。遅くなってしまって・・・」
束「あー、別に構わないよ。ってか今日はいつものおじさんじゃないんだな」
束は受け取った牛乳の一本を開ける。
「体調があまり良く無くて・・・私が今日まで臨時でやらせてもらってるんです」
束「へー、おじさん大丈夫かなぁ・・・ってその声もしかして・・・」
束が帽子で隠れた顔を覗き込むと
絵里「あら?束さんだったんですか?」
束「やっぱり・・・」
大体予想していたからか今回は前のように噴き出す事なくガクリと肩を落とす。
束「はぁ・・・これが君のやりたい事な訳?」
絵里「やってみて大変さや面白さもわかりましたがちょっとコレは違うかなぁって」
束「ちょっとじゃねぇよ大分違うよ。もういい加減素直になろ?君の迷走っぷりに作者がエリチカ推しの友達からガチで怒られたらしいからさ?」
絵里「知りませんよ!そんなの!あと作者って何ですか!」
束「まぁそれはおいおい考えるとして・・・いいのか?時間」
絵里「あ!もうこんな時間⁉︎それじゃ束さんまた今度!」
絵里は慌てて自転車で去っていった・・・。
束「やれやれ・・・。どーしたもんかねぇ・・・」
放課後 音ノ木坂学院
束「チィース」
にこ「ちょっと!窓から入って来ないでよ!」
アイドル部と合流した事で晴れて部室を手に入れたμ’s。束も一応顔を出すよう言われたので部室に来る。
束「で?活動の手ごたえはどうなんだよ?」
穂乃果「順調・・・なのかな?この間撮ったPVは再生回数多くなってきてるんだけど・・・」
束「PV?そんなのいつの間に撮ったんだよ?」
穂乃果「お兄ちゃんが熱で寝込んでた時に」
束「知らない間に終わってた⁉︎」
海未「確かに見てくれてる人は大勢いますが学校存続に繋がるかどうかは正直微妙な所ですね・・・」
束「まぁネットは老若男女誰でも見れるしなぁ。やっぱり近い年齢層にもアピールしてかないと意味無いんじゃない?」
花陽「あ、そういえば・・・」
花陽が何かを思い出したように呟く。
凛「どうかした?かよちん?」
花陽「確か・・・去年のこのくらいの時期にオープンキャンパスに参加したと思うんです。それに合わせてライブを行えば・・・」
真姫「今年もやるって決まった訳じゃないでしょ?廃校になるかもしれないのにオープンキャンパスなんてやるとは思えないんだけど?」
花陽「あ・・・そ、そうですよね・・・」
穂乃果「とりあえず今年もオープンキャンパスをやるのかどうか先生に聞きにいってみよう?それからライブが出来るかどうか考えよう。あ、お兄ちゃんは部外者だからここでお留守番ね?」
束「ま、仕方ないか・・・。いい報告を期待してるぜ」
そうしてμ’sのメンバーが出ていった後、一人ポツンと部屋に残された束。特にやる事もないので部室にあったアイドル雑誌を物色していると誰かがドアをノックする。
束「悪いけどアイドル部なら今出払ってるよ」
「その声は束君やな?ちょうど良かった」
ドアを開けて入ってきたのは希だった。
束「なんだ希ちゃんか。?穂乃果達なら今オープンキャンパスについて先生に聞きにいったぜ?」
希「ありゃ?じゃあ入れ違いになっちゃったんやね。その事について教えてあげようと思ったんやけど」
希は近くにあった椅子に座りながらそう答える。
束「その事?」
希「まぁえりちもいるからあの子達も多分そこで聞くことにはなるとは思うんやけど・・・」
希の説明ではオープンキャンパスは今年も例年通りに行うらしいがそこでの結果によって廃校かどうかが本決まりになるらしいとの事であった。
束「マジか・・・。ライブは出来そうか?」
希「それは一応大丈夫なんじゃないかな?えりちはあまり良く思ってないみたいだけどね?」
束「正に運命の分かれ道って所だからなぁ・・・。ま、生徒会でどうにかしようと頑張ってたから無理もないか」
束は手に取ったアイドル雑誌をパラパラめくりながら答える。
希「えりちは生徒会長としてなんとかしたいみたいやけど、それじゃダメなんよ。今のえりちは無理してるだけだから・・・」
束「まぁ楽しそうではないよな?生徒会以外でやりたい事を見つけろって言ったらなんか変な方向に突っ走ってるし」
パラパラ読みで読み終わった雑誌を棚に戻してから席に戻る束。
束「・・・まぁこのままでも拉致があかないし、何か考えた方がいいかもなぁ・・・」
希「何かって?」
束「それはまだ考えてないけどさぁ・・・」
そこに穂乃果達が帰ってくる。
穂乃果「ただいま・・・ってあれ?副会長?なんでここに?」
希「うーん、二人っきりで秘密のお話ってヤツ?」
束「誤解を招く言い方するんじゃない」
真姫「そういえばこの前の夜の学校でも妙に親しげな様子だったわ」
凛「秘密のお話って何なのにゃー?」
ことり「ことりも知りたいな〜?」
海未「破廉恥な事ではないでしょうね?」
希「あれ?なんか皆おかしいよ?目が笑ってないよ?ちょっ・・・助けて!束君ー!」
ジリジリと希に詰め寄るメンバー達。その異様な雰囲気に希はたじろぎ、束に助けを求める。
束「やれやれ・・・。いやね?秘密の話って程じゃないんだ。ただ希ちゃんがμ’sに入りたいってだけの事だからさ?」
希「えええぇぇぇっ⁉︎」
海未「副会長が・・・ですか?」
束「ああ、前々から興味はあったらしいんだが立場上中々言い出せなかったらしくてな?それで俺の所に相談に来てたって訳だ」
希(束君⁉︎一体どういう・・・)
束(絵里ちゃんの事もあるからな・・・。まぁここは俺の嘘に乗れって)
花陽「ほ、本当ですか?副会長?」
希「え?えーと・・・そ、そうなんよ!講堂でのライブ見てから良いな〜って思ってて!」
穂乃果「私は全然構いませんよ。皆はどうかな?」
海未「まぁ、穂乃果が良いのならば・・・」
穂乃果「決まりだね!副会長、ううん!希先輩!ようこそμ’sへ!」
希「よ、よろしくね?(ホントに頼むで?束君・・・)」
翌日
今日は練習には顔は出さない日なので束はいつも通りに穂むらで働いていた。お菓子の売れるピークの時間帯を過ぎ、のんびり店番をしているとそこに珍しい客が訪れる。
束「いらっしゃい・・・あれ?絵里ちゃん?」
絵里「こんにちは。あの、今の時間大丈夫ですか?」
束「あー、もうちょっとで勤務時間終わるからもし良ければ部屋で待っててくれ」
その後・・・
束「お待たせっと・・・。で?何か用かい?」
勤務を終えた束が自室に戻り、下から持ってきた茶菓子を用意しながら用件を尋ねる。
絵里「・・・希が突然スクールアイドル部に入ったんです。何か知りませんか?」
束「へぇ・・・というと?」
絵里「・・・単刀直入に言わせてもらいます。あなたが希に何か吹き込んだんじゃないんですか?」
束「だとしたらどうする?」
絵里「どうして!希は何も関係ないじゃないですか!」
絵里は立ち上がり束に詰め寄る。
束「確かに入るように言ったのは俺さ。でも彼女がやりたいという意思がなければ俺だって誘わないさ」
絵里「やりたいという意思?・・・希が?」
束「ああ。それが彼女のやりたい事、なんだろうさ」
絵里「そんな・・・」
立ち上がり詰め寄っていた絵里はその場に座り込んでしまう。
束「話は大体聞いてるよ。オープンキャンパスの結果次第で廃校が決まってしまうんだろ。だから穂乃果達も今まで以上に頑張ってる。音ノ木坂を廃校にしない為に」
絵里「前にも言いました。いくら学生がアイドルの真似事をしても所詮は素人です、人の心を動かすようなパフォーマンスが出来るとは思えません」
束「随分な事言ってくれるな。まるで知ってるみたいじゃんか」
絵里「これでも子どもの頃はバレエをやってましたからね。彼女達のダンスには表現力が足りないと私は思います」
束「絵里ちゃんバレエやってたのか!・・・そいつぁ好都合だ」
束がニヤリと笑う。
絵里「な、なんですか・・・?」
束「絵里ちゃんこの前言ったよなぁ?やりたい事を見つける為先入観無しで色々な事に挑戦するって」
絵里「え、ええ・・・言いました・・・けど・・・?」
束「そうかそうか・・・クックックッ・・・」
束の怪しい笑いに段々不安になってくる絵里。
絵里「な、何をする気ですか・・・」
束「それはだな・・・」
更に翌日、音ノ木坂学院 屋上
μ’sはオープンキャンパスに向けて練習に励んでいた。ついこの間からメンバー入りした希も練習に必死についていく。
希「見てる時と違って結構ハードなんやね・・・アイドルって」
花陽「そうなんですよね。花陽も知識としては知ってましたが実際やってみて初めて実感しました」
そんな中海未は一人浮かない顔をしている。
ことり「どうしたの?海未ちゃん・・・」
海未「いえ・・・これで本当に大丈夫なのか、と思ってしまって・・・」
真姫「ダンスやフォーメーションはかなり出来てきてると思うけど?」
にこ「そうよ、何が不満な訳?」
海未「・・・どうしても感動する事が出来ないんです」
凛「感動出来ない・・・?」
海未「確かに歌もダンスも上達していると思います。でも何かが足りない気がするんです。観ていて引き込まれるような何かが・・・」
ことり「それが・・・感動出来ない?」
そこに束が扉を開けて屋上に入ってくる。
束「悪い、遅くなった・・・って何しんみりしてんの?」
穂乃果「別にしんみりしてる訳じゃないんだけど・・・」
ことり「歌やダンスで感動する事が出来ないって話をしてたんです」
束「そうか、ならちょうどいい。まずはコレを見てくれ」
そう言って束はパソコンを開いてある動画を見せる。
真姫「コレって・・・バレエ?」
ことり「わぁ〜この子可愛い!」
海未「ええ、それに上手ですね」
穂乃果「それだけじゃないよ。なんかこう・・・楽しいって気持ちが凄く伝わってくる!」
束「海未ちゃんが言ってるのは多分そう言う事だろ?見てる側が楽しいと思える演技、まぁ表現力っていうのかな?」
花陽「表現力・・・」
束「バレエなんかは唄ったり出来ない分、身体の動きなんかで感情を表現しなきゃいけないからな。そういった意味じゃアイドルより大変かもな」
にこ「言ってる事はわかるけど・・・じゃあ今から私達にバレエをやれって言うの?」
束「そうは言ってないさ。でもバレエの経験者からなら学べる事はあると思わないか?」
海未「つまりバレエをやっていた経験者の方からステージでの表現方法について教えてもらうってことですね」
束「理解が早くて助かる。それじゃそろそろ先生を呼びますかね。その動画の女の子をね」
希「束君、この子ってもしかして・・・」
束が合図をすると扉の向こうから絵里が恥ずかしそうに入ってくる。
穂乃果「生徒会長⁉︎」
希「やっぱり・・・」
絵里「つ、束さん・・。やっぱり私・・・」
束「君は一度スクールアイドルがどんなものかちゃんと見るべきだ。素人の半端な真似事かどうかはそれから決めればいい。穂乃果達もレベルアップに繋がるし、いわばこれはウィンウィンってヤツだ」
絵里「でも・・・」
束「という訳であとはよろしく!俺はちょっとやる事があるから」
そう言って束は出て行ってしまった。残された穂乃果達は・・・
穂乃果「生徒会長、よろしくお願いします!私達、もっと上手くなりたいんです!」
絵里「・・・わかったわ。それじゃまず二人ずつペアになって?」
束「あとはあいつら次第ってとこかな?」
学校を出た束は屋上の方を見ながらそう呟く。その様子を校庭の木の上から見つめる人影があった。
「ふーん、あいつが『魔法使い』ってヤツなのね?まあなんだろうと私がスパッ!っと倒しちゃうんだから!」
人影は穂乃果達と同じくらいの歳の少女で背中に背負った刀を抜くと切っ先を束に向けるのであった。