ラブライブ!side “M” お兄ちゃんは魔法使い   作:真仁

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第7話 束の長い一日 その3

花陽「束さん!私と一緒に来てください!時間が無いんです!」

非常に切羽詰まった表情で花陽が束に訴えかける。その必死な様子に束と穂乃果は顔を見合わせる。

海未「・・・行ってあげて・・・ください」

その時、束に背負われていた海未が口を開く。

束「海未ちゃん?」

海未「私はもう大丈夫ですから・・・花陽の所に行ってあげてください・・・。あなたの力が必要なんですよね?」

束「海未ちゃん・・・」

穂乃果「海未ちゃんは穂乃果が送って行くよ!だからお兄ちゃんは行ってあげて!」

束「穂乃果・・・わかった。海未ちゃんを頼む」

束は海未を降ろすと穂乃果に渡す。そして花陽の方へ振り向き

束「行こう、花陽ちゃん」

花陽「束さん・・・!ありがとうございます!こっちです!」

2人はその場から駆け出すのであった・・・。

穂乃果「頑張ってね、お兄ちゃん・・・」

 

 

 

 

 

穂乃果達と別れ、花陽に連れられてきた束。2人は秋葉原にある大型家電量販店に辿り着く。

束「で、花陽ちゃん。俺の力が必要って一体・・・?」

花陽「これです!」

花陽が指差す方を見ると何やら人が大勢集まっている。そこには看板が出ており・・・

束「何?『第一回男女デュエット限定のど自慢大会』・・・?」

花陽「男女ペアでしか出られないのど自慢大会です!これに花陽と一緒に出てください!」

束「・・・はぁぁぁぁぁっ⁉︎」

あまりにも予想斜め下の依頼に思わず声をあげてしまう束。

束「そんな事⁉︎そんな事であんな必死な顔で俺の事呼んだの⁉︎」

花陽「そんな事とはなんですか!みてください!賞品が『黄金米』と黄金米の為に作られたと言っても過言ではない高品質炊飯器、『匠の極み』のセットですよ!それをそんな事とは!」

束「物の問題じゃねぇんだよ!あのシリアスな雰囲気どーしてくれんだよ!なんか俺もう穂乃果達の所帰り辛いよ!」

花陽「あ、エントリーが始まりました!行きますよ!束さん!」

束「人の話を聞けぇぇぇいっ!」

 

 

 

 

こうして無理矢理のど自慢にエントリーさせられた束。

順番を待つ間、ステージでの衣装を選べるという事で花陽と2人で選ぶ事に。

束「大体さ、なんで俺なんだよ?」

花陽「他に男性の知り合い居ませんし、ほら、この作品って男の人存在しないじゃないですか」

束「いるわ!ちょっと画面に映ってないだけで存在はしてる筈だわ!あと作品とか言うな!つーか走り回って俺探すんなら凛ちゃんに男装させた方が遥かに手っ取り早い気がするけどな。普段からボーイッシュな服装してるし」

花陽「凛ちゃんに僕っ娘になれと⁉︎」

束「いやそこまでは言ってない」

花陽「確かに凛ちゃんはスカートよりズボンを履く事が多いですけど、凛ちゃんもそれを気にしてるんです。μ’sに誘う時も女の子らしい格好は自分には似合わないって言ってましたから・・・だから・・・」

束「あー・・・そういう事か・・・。それじゃ確かに言えないな・・。悪かった、つまらない事言って」

花陽「いいんです!それよりも今はステージでの衣装を選びましょう!」

束「張り切ってるな。まだμ’sとしてのステージもやってないのに・・・ま、確かに練習と思えば大した事は・・・花陽ちゃん?」

ふと束が花陽を見ると花陽の顔がみるみる青ざめていく。

束「・・・えーと、花陽さーん?もしかして今更緊張してらっしゃる?」

花陽「き、き、き、緊張なんて!し、し、してませんよ?」

強張った笑顔でそう答えるが身体はガッチガチに固まっており顔色は悪く、目は涙目である。

束「緊張してます!って貼り紙するよりわかりやすいな・・・。あんま無理しない方が・・・」

花陽「いえ!ご飯の為です!こ、これ位・・・!」

束「ご飯への情熱半端ねぇな・・・。アイドルより凄いんじゃない?」

そうこうしている内に順番の前の番号のペアが呼ばれた。もう時間がない。

束「はあ・・・仕方ない。こうなったら奥の手だ」

花陽「奥の手・・・ですか?」

束「ああ、ちょっと耳貸して・・・」

束が花陽に耳うちをする。

花陽「・・・えぇぇぇぇッ⁉︎」

 

 

 

 

 

前のペアの歌唱が終了し、ステージ袖に退場する。

司会「それでは次の参加者です!エントリーナンバー7番、『仮面シンガー』さんです!」

司会の紹介と共に花陽と束がステージに上がる。しかし壇上に上がると同時に観客からどよめきが起こる。なぜなら

二人はマスクを付けて顔を隠してステージに上がっていたからである。

花陽「わ、私達は!」

束「二人で一人の・・・仮面シンガーだ!」

束(こーやって顔を隠しちまえば少しはマシだろ?)

花陽(そ、そうですか・・・?)

花陽のマスクは蝶の形をした目元のみを隠すタイプの物であったが束が付けてるものは頭からスッポリ入れるタイプの馬の頭である。側から見たらかなり怪しい。

司会「え、え〜と、それではお名前を教えて頂けますか?」

花陽「ピャッ⁉︎」

司会からマイクを向けられ緊張して固まってしまう花陽。

束(花陽ちゃん!打ち合わせ通りに!)

花陽(は、はい!)

花陽「え、えっと!初めまして!ご飯大好き小泉さんです!よ、よろしくお願いします!」

司会「そこはラーメンじゃないんですね・・・」

花陽「ラーメンは凛ちゃんが大好きです!」

司会「いや知りませんけど・・・。それではそちらの男性?の方、お名前を・・・」

馬のマスクを被った束にマイクを向ける司会者。

束「はい、私の名前はウマ シカオです。よろしく」

司会「はい、よろしくお願いします。馬鹿さん」

束「だれが馬鹿だ!」

花陽「ふふっ・・・」

司会と束のやり取りを見て花陽は思わず笑ってしまう。その瞬間フッと肩の力が抜けた気がした。

束「いい顔だ、このままいくぜ?」

花陽「・・・はい!」

司会「それでは曲の方に移らせて頂きます!曲は『孤独なheaven』です!」

司会の紹介と共に曲のイントロが始まる。

花陽「あなたへのHeartBeat〜♪ 熱く、熱く・・・」

 

 

 

 

 

 

花陽&束「とめられない〜♪熱いねheaven〜♪」

最後まで歌いきった二人に会場から惜しみない拍手が送られる。二人は一礼してステージを降りた。

束「いい・・・手ごたえ・・・だったんじゃない・・・?」

馬のマスクを頭からスッポリ被ってる関係で空気の入りが悪く、歌い終わった直後で軽い酸欠状態になっている束。

足取りも若干フラついている。

花陽「あれだけの人に見て貰えるなんて・・・思ってもいませんでした・・・。もしアイドルとしてステージに上がったら同じくらいの人に私の歌を見て貰えるんですかね・・・?」

束「何言ってんだ、その可愛い顔を見せるんだからもっと見て貰えるに決まってるだろ?」

花陽「か、可愛い・・・⁉︎そ、そんな事ないですよ!花陽なんて全然・・・」

束「謙遜するねぇ」

とは言いつつ可愛いと言われた花陽は嬉しそうであった。

間も無く、全ての組が終わり結果発表になる。

司会「優勝は・・・・・エントリーナンバー7番!『仮面シンガー』さんです!」

花陽「やった・・・やりました!優勝ですよ!束さん!」

束「よかったな花陽ちゃん!お米と炊飯器手に入って!」

花陽「はい!これからは毎日部室でご飯炊けます!」

束「・・・にこちゃんが部室来たらビックリするだろうな、それ・・・」

司会「それでは優勝した『仮面シンガー』のお二人には優勝賞品の奥駿河旅館優待券のペアセットを差し上げます!」

花陽&束「・・・・・・え?」

司会「いえ、ですから旅館の優待券を・・・」

花陽「あの、お米は・・・」

司会「黄金米は副賞で・・・」

よく見ると遠目からでは見えなかったが炊飯器の横にちっちゃく副賞と書かれていた。

花陽「そ、そんな⁉︎」

ショックのあまりその場に崩れ落ちる花陽。

花陽「私は・・・一体何の為に・・・アイドルに・・・」

束「いやアイドル関係ないからね⁉︎あなたが勝手に参加した只ののど自慢だからね⁉︎こんな所で勝手にアイドル人生にピリオド打たないで⁉︎」

花陽「もう何もかもどーでもいーです・・・廃校でも何でもしてください・・・」

束「花陽ちゃん⁉︎」

こうして、賞品の優待券を貰い燃え尽きて真っ白になった花陽を引きずりながら束は会場を後にするのだった・・・。

 

 

 

 

 

 




第7話、もうちょっと続きます。

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