ラブライブ!side “M” お兄ちゃんは魔法使い   作:真仁

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第7話 束の長い一日 その1

雨の日が少なくなり、梅雨明けを感じさせるようになったある日。

束は非番の日だったので気晴らしに街へ繰り出していた。

束「こんなゆっくりした休みは久しぶりだな〜。最近忙しかったし」

今日はμ’sの練習も休みの日の為、穂乃果達もそれぞれで休みを楽しんでいるのだろう。

束「さーて、何処行こうかな・・・ん?」

特にこれといって趣味らしい趣味も持ってないので街をブラブラしていた束の目に見覚えのある少女の姿が見えた。

束「あれは・・・海未ちゃん?」

大きな荷物を持って歩いていた海未。おそらく弓道部の活動があるのだろう。

束「そっか、アイドルは休みでも弓道部があるのか・・・掛け持ちは大変だよな・・・確か家じゃ日舞もやってるとか・・・」

学校に向かって歩いている海未だったがどうも様子がおかしい。前に歩いてはいるが足取りがフラフラしている。

束「お、おい・・・なんかヤバくねぇか?」

フラフラしながら歩く海未。やがて交差点に差し掛かるが信号が赤なのに気づいてないのかそのままフラフラと前に進む。そこに横からトラックが交差点を曲がり進入してくる。死角となってしまっているのかドライバーは海未に気づいていないようだ。

束「やっぱり!くそっ!仕方ねぇ!」

急いで海未の元へ走るが間に合わないと悟った束は魔法で海未の背負っていた弓を思い切り引き寄せる。

海未「ッ⁉︎うわぁっ⁉︎」

いきなり後ろに引っ張られる事でさすがに驚く海未。間一髪目の前をトラックが通過し、弓ごと引き寄せた束が海未を受け止める。

束「バカ!死ぬ気か!」

海未「す、すみません・・・私とした事が・・・つい、ボーッとしてしまい・・・」

普段の海未らしくない行動に疑問を持った束は海未の額に手を当てる。

束「凄い熱じゃんか!やっぱり無理をして・・・」

う「いえ・・・これくらいの熱なら・・・問題ありません・・・それに今日の大会は・・・休む訳にはいかないんです・・・」

束「でも!」

海未「もしここで弓道部としての活動に支障をきたしてしまったら・・・アイドルとしての活動も続けられなくなってしまいます・・・から・・・」

束「海未ちゃん・・・」

息も荒く、顔も赤い。誰がどう見ても大会になど出られる状態ではないのだが自分のせいで穂乃果達に迷惑をかけまいと彼女も譲らない。

束「・・・わかった。でもさっきみたいな事があっちゃ困るから俺も会場までついてくぞ。それでもいいか?」

海未「はい・・・お願いします・・・会場は音ノ木坂なので場所は問題ない筈です・・・」

束は海未を連れて学校に向かった。

 

 

 

会場となる音ノ木坂についた束と海未。控え室の場所を聞き、支えながら歩いていく。控え室に着くといきなり束が海未をベンチに座らせる。

海未「あ、あの・・・束さん?何を・・・」

束「悪ぃな海未ちゃん。やっぱ君に無理させる訳にはいかないんだ」

そう言って束は海未の額に人差し指を当てる。途端に海未は眠ってしまいその場に崩れ落ちる。

眠らせた海未を見つかる事のないようにロッカーの中に押し込む。すると誰かがこちらに近づいてきた。

「園田さん?準備出来ましたか?」

係の人と思われる女性がドアを開け中に入る。

海未「ええ、大丈夫です」

そこには束の姿は無く、海未が弓道着を着て立っていた。

係「ではそろそろ会場にお願いします」

海未「はい、わかりました」

こうして束は海未の姿に変身し、代わりに弓道大会に出場する事になった。

束(俺弓道やった事ないんだよね・・・海未ちゃんの見様見真似と魔法で何とかするしかないか・・・」

 

 

 

係の人に案内され会場に出てきた海未(束)。説明を聞き、自分の番が来るまで座って待つ事に。

海未「確か前に応援に来た時に教えて貰ったはず・・・遠的の的中制だったかな?・・・今回も同じみたいだ。良かった〜」

そこに聞き覚えのある声が響く。

「海未ちゃ〜ん!」

海未「この声、ま、まさか・・・」

恐る恐る声の聞こえた方を振り向くと・・・

穂乃果「おーい!海未ちゃ〜ん!」

穂乃果が手を振っていた。隣にはことりの姿もある。

海未「げっ⁉︎やっぱり!」

穂乃果「えへへ!応援に来たよ!」

ことり「ごめんね?海未ちゃん。穂乃果ちゃんが海未ちゃんをビックリさせるんだって言ってたから・・・」

海未「そ、そうでしたか・・・あの、束さんにはその話は?」

穂乃果「言うの忘れちゃった!」

海未「おい!」

穂乃果「ど、どうしたの海未ちゃん?」

海未「あ、いや・・・なんでもありません・・・姿が見えないので・・・気になっただけです」

海未(束)は顔を背けながらそう答える。それを見ていた穂乃果とことりは・・・

穂乃果「ねぇことりちゃん、海未ちゃん・・・なんか変じゃない?」

ことり「昨日の夜に電話でお話した時、あまり調子が良くなさそうだったから・・・もしかしたら具合が悪いのかも・・・」

穂乃果「そうなの⁉︎・・・海未ちゃん、大丈夫かな・・・」

 

 

 

 

海未「まさか穂乃果達が応援に来るとは・・・アイツ妙に勘が鋭い所あるから気をつけないと・・・」

そんな事を考えていると向こう側から誰かがこちらに来た。

「お久しぶりですね。園田さん」

海未「え?・・・えーと、どちら様でしたっけ?」

弓道着を着て海未の事を知っている様子からおそらく他校の弓道部員なのだろうが当然束は面識などない為、キョトンとしてしまう。

「忘れてしまったのですか?UTXの加賀です。去年の大会で対戦したでしょう?」

海未「あ、あー!加賀さんですね!お久しぶりです!」

加賀「・・・本当に思い出しました?」

海未「も、勿論!ほら、加賀さんって一度見たら忘れられないっていうか?なんか海の上を船のように進みながら弓を射ってそうな?そんな感じですから!」

加賀「船のように・・・?」

海未「全速前進!ヨーソロー!・・・なんちゃって」

加賀「・・・・・?」

海未「・・・すいません、忘れてください」

 

 

 

 

その後、競技が開始され各校の選手達が次々と出てくる。

しばらくの間、競技の様子を見ていた穂乃果だったが

穂乃果「ねぇことりちゃん、弓道のルールってどんなのだっけ?なんか見ててもわからないよ」

ことり「えーと、色々あったと思うけど確か今日海未ちゃんが出るのは遠的の的中制だった筈だよ」

穂乃果「えんてきのてきちゅーせー?」

ことり「簡単に言ったら的に当てた数を競うルールっていうのかな?詳しい事はことりもわからないけど確か的の真ん中を狙わなくても的に当てられれば良いんだよ。海未ちゃんのは遠的だから遠くの的を狙わなきゃいけないんだけどね」

穂乃果「海未ちゃん大丈夫かな・・・よーし!穂乃果達も応援頑張っちゃうよー!」

そんな事とはつゆ知らず、海未(束)は先程話をした加賀の弓の腕前を見ていた。やはり言うだけの事はあり、手持ちの矢を全て的に命中させていた。

海未「やっぱスゲーな・・・全弾?命中かよ」

自分の番を終えた加賀が海未(束)の所に来る。

加賀「次は園田さんの番ですね。アイドルの練習ばかりしていて腕が鈍ったとか言わないでくださいね?」

海未「・・・知ってたんですか?μ’sの事」

加賀「噂程度ですが・・・ね。正直な話、私はアイドルの真似事なんてやめて弓道に専念して貰いたいです。『二兎追う者は一兎も得ず』という言葉もありますから」

海未「言いたい事はわかりました。でも、こちらにも譲れないものがありますから」

海未の名が呼ばれ、弓を持って立ち上がる海未(束)。

加賀「譲れないもの・・・?」

海未「私の事を頼りにしてくれる人がいるんです。・・・無理をしてでも期待に応えようとする奴もいるしな」

加賀(?・・・なんか雰囲気が・・・)

海未「先程『二兎追う者は一兎も得ず』と言いましたね?・・・私は希望の対価に犠牲を求めません。そんなルールがあるのなら、壊してやるまでです」

加賀「そんな欲張りな・・・」

海未「ええ、欲張りなんですよ・・・『俺』は」

そう言って海未(束)は舞台に上がるのであった。

 

 

 




加賀さんのモデルは本文にもありましたが某戦艦ゲームののあの加賀さんです
オリキャラで出そうと思いましたがここでしか使う予定のないキャラなので別作品から弓の似合いそうな人を拝借させて頂きました。

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