斉木栗子と斉木楠雄のΨ難   作:ムラムラ丸

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お待たせしました!そして月一回更新と言ったのに二日過ぎてしまい申し訳ありませんでした!言い訳にみたいになってしまいますが、あくまで月一回更新は目安だと思ってくださると嬉しいです。なので怒らないでください、よろしくお願いします。

投稿が長引いてしまった替わりと言ってはなんですが、今回の話は過去の話の中でも一番文字数が多いんですよ!なんといってもオマケ話が二つも付いてますからね!お得ですよ!


それでは本編スタート。デッデデデ、カーン、デデデ(この音の元ネタ実は知らないけど好き)





第17x クーリングオフしたい!Ψ愛の妹を想う変態兄 後編

「お茶どうぞぉ」コトッ

「ありがとうございます。今日は斉木君と学校行事の実行委員として少し話しておきたい箇所がありましてお邪魔した次第です。それが済みしだいすぐにお(いとま)しますので。なるべく早く済ませますのでご安心ください」

「あらそうなの?全然ゆっくりしていっていいのよ。あ、なんなら泊まってってもいいんだから!」

「いえ遠慮致しておきます。ご好意は嬉しいんですが」

 

 僕の目の前にいる“人の家に上がってなおサングラスとマスクを外さない明らかに怪しい男”に対して疑う事を知らない母は笑顔で応対し笑顔のまま僕の部屋から出ていった。

 ……まぁ母さんだからな、仕方ないな。

 

「フッフッフッ。これがこの俺、売れっ子名俳優の六神通様の実力ってやつだ。とっさに学校の先輩役をやってのけるなんてどうってことはねーくらいにはなぁ」

 

 いや相手がうちの母だから疑われなかっただけだけどな。それとお前はもっと自分の不審さを自覚した方がいい。

 

 目の前の男、(一応)有名俳優の六神通は丁寧だった口調を崩して荒々しい口振りを見せる。これが演技ではない素である事は心の声と照らし合わせて断言出来る。六神が一つ歳が上の人間とはいえこの態度は正直気に食わない。

 

 というかほんと何でサングラスとマスクまだ外さないの?マスクのせいで少しフガフガいってるぞ。

 

「今日はメガネ君に言いたい事があって来てやったんだぜ」

 

 メガネ君?

 

「この前の休日、映画館で会っただろ?その事でちょっとな」

 

 ああ、あの日か。あの日から日も浅い上にあれほどの災難な一日を忘れる方が難しい。

 “あの日”に何があったの?とお思いの読者のために{回想}を用意したので読んでいって欲しい。

 

 

 {回想}

 

 やれやれ今日は母さんがセールスで衝動買いした日だぞまったくやれやれ。

 

 この商品らをアポートでクーリングオフをしないとな。……ん?これは運気が上がる的な指輪か。さあこれもクーリングオフだ。サワッ(指輪を触る音)、こ、これはテレパシーを遮断する素材!?(見ただけではそれがゲルマニウムだとは流石に気づけない)

 

 テレパシー能力の消失!そんなすてきなアイテムの発見が僕の錆び付いた好奇心を刺激し行動させた。さあ、長年の夢を叶える時!いざ映画館へ!!……いやいや待て待て時間的な都合もあるし楽しみは次の休日までとっておこう。楽しみだな。

{この時ゲルマニウムリングを触っていた事に加えてテレパシーが消えた喜びで周りが見えなかった斉木楠雄は、すぐ横で双子の妹の斉木栗子が黄金水(ゴールデンウォーター)をサイコメトリーで過去を読み取っていた事も、その内容からすぐにでも暴れたいほどの衝動を無理矢理押さえ付けようとする葛藤も知るよしもない}

 

{次の休日。ゲルマニウムリングを指に付けた斉木楠雄は映画館に入っていった}

 ……道中周りの人間が燃堂の顔に見えだした。自分ではそれほど気が付かなかったが相当気が滅入っているらしい。急激な環境の変化が自分でも気が付かない内にストレスがたまっていたのかも知れない。

 ゲルマニウムリングはすぐにでも外すべきだ。将来的にこれを付けて生活をして行きたいが、そう焦る事はないんだ。少しずつ慣らしていくに越したことはない。

 

 だがせめて映画だけでも見てやるぞ。長年の夢だったんだ、燃堂(の幻覚)ごときに邪魔はさせん……!例え映画の登場人物全員が燃堂に差し替えられる可能性があるとしてもだ。

 顔だけ燃堂の女性の受付にお金を支払い映画を観賞するのに一番いい場所を指定する。ポップコーンとコーラをそれぞれ持ち、周りの人間なぞ気にせず(恐らく顔は燃堂)沸き立つ気持ちを抑えながら指定席へと座る。

 

 座ってしまえばもう邪魔するものは――。

 

 

「え、斉木君?!」

 

 

 燃堂!?

 

 いや違う、顔以外から察するに照橋さんか。

 テレパシーがあれば事前に対処は出来たのだが……。いや将来的にゲルマニウムリングを付けて生活をするのならば照橋さんの神に愛された運命操作も受け入れねば……少しだが決心が揺らいでしまった。今は保留という事にしておこう。

 念のため隣を窺うと何やらオロオロと落ち着かない様子。なんだ、一体何を考えている。テレパシーさえあれば……。

 

 いやいい、照橋さんは常識はある方だし映画鑑賞の邪魔はしないだろう。僕は静かに映画を見れればそれで――。

 

 

「おいお前、なに俺の心美の隣席に平然と座ってる!心美の隣は俺だけのもんだ。ほらどっか行け!」

 

 

 燃堂!?

 

 いや違う、こいつは……誰だ。いやもうこの際誰だっていい、もうこいつ燃堂でいいだろ。邪魔するな燃堂、僕は映画を楽しみたいだけなんだ。お前に構ってやる時間はない。

 

 

「やめてよ。斉木君は偶々――」

「斉木、君、だと?心美こいつと顔見知りなのか?おい、てめぇ俺の心美とどういう関係だ!?」

 

 

 燃堂(もどき)はサングラスを取った。

 

 

 {回想終了}

 

 

「いやぁ軽率だったよ。この俺、六神通主演の映画会場で変装を解くなんてさぁ。パニックになって当然だよなー。けどあの騒ぎ中で心美に怪我がなかったのは不幸中の幸いだったけどな!」

 

 何が不幸中の、だ。お前が勝手にやらかしただけだろうが。巻き込まれた照橋さんや僕の方がよっぽど不幸だ。

 僕に至っては騒ぎのせいで映画は中止になるは、突然の事でゲルマニウムリングを外す前に人の波に飲まれて燃堂顔に囲まれるはめになるはで不幸中の幸いどころか不幸しかなかったんだぞ。

 

「ま、そんな訳で一々騒ぎを起こすのもあれだからな、変装する時は油断しないようにしてんだぜ。これが結構大変でなぁ。おっと、一般人のメガネ君にはこんな一生縁のない悩みを話したところで仕方がないよなぁ。すまん、すまん」

 

 なるほどな。でも個室でサングラスとマスクは不自然なんだけどな。……この指摘、流石にもうしつこいか。

 

「話が逸れたな。それでメガネ君に言いたい事ってのは心美と俺の関係について行っておきたくてな」

 

 ああ、それなら既に把握している。照橋さんと兄妹なんだろ?そしてお前は重度のシスコン変態お兄ちゃん。映画館での騒動の真只中ゲルマニウムリングを外したらすぐに分かった。

 

「心美とは兄妹なんだ。よくカップルに間違われるんだけど……いやそうじゃない……うん、正確には心美とは兄妹でカップルだ!そう、もはやカップル、交際しているようなものじゃないか!そうさ心美が産まれてから十六年、同じ家に住み、ずっと見守ってきた。そして何より俺は心美を愛してる!心美はそんな俺の気持ちに気が付いている!なんたって俺が毎日心美に愛の告白をしているからな!毎回断られるが照れているだけで相思相愛に決まってる!あぁ、心美、心美ぃ!愛しているぞぉ!!」

 

 想定していたより末期、それも手遅れのようだ。

 

 だがなんというか、さっきから、というよりも初めから妙な違和感があるんだが……。

 

「あぁ心美、君は正に絶世の美少女……!芸能人として世間的に美人と言われている女優だとかモデルなんかと仕事をしたが、心美と比べたら月とすっぽん、ダイアモンドと石ころ、金銀財宝の山と砂の山、満貫全席とウン〇……!」

 

 おい最後の下品すぎるぞ。流石にそこまでの差はない。

 

 しかしなんだこの気持ちの悪さは……いやこいつが気持ち悪いのもあるがそうではなくて。

 

「だからこそだ、樹液に集まるカブトムシだとか収穫時期の畑を狙う猿みてぇにどこの誰とも知れねぇ釣り合う筈のないクズ男がこぞって寄って集って心美を狙いに来やがる。何度追っ払ってもへらへらしながら下心全開で身の程知らずにも心美に近付いてきやがる。お兄ちゃんはな、心配なんだよ!このままじゃ心美が汚されちまう!だからそうならない為にもこの俺が心美のすぐそばで守るのさ、お兄ちゃんとしてだけじゃなく恋人としてもなぁ!!」

 

 一々例えるんじゃない。なんで今度の例えは田舎っぽいんだよ。

 

 

 今の発言も十分に病的で許容出来るものではない……と言いたいところなんだが、悲しいかな多少は納得出来てしまった。

 

 これでも一応僕も兄だ。双子で同い年、産まれた瞬間が数秒違うといっても“兄”という立場に変わりがない。妹の栗子とはケンカもしたしあまりに生意気で憎たらしく、何かと面倒をかけるようなやつだとしてもだ。家族の一員として彼女の幸せを願わずにはいられないんだよ。

 そうだ栗子だけじゃない、天然でおっちょこちょいな母も、頭が足らない馬鹿だが立派に仕事をして家族を守っている父も、この前久々に会いに行った祖父や祖母も皆幸せに生きて欲しい。あぁ、ついでに我が家の変態お兄ちゃん(斉木空助)もな。嫌いだけど。

 ま、こんな恥ずかしい台詞家族だろうと言えないけどな。

 

 そんな風に考えてしまう僕にはいくら変態で病的なシスコンお兄ちゃんであろうと一概に否定は出来やしないのだ。

 照橋さんは確かに美人だし多くの男に言い寄られているのは事実だ。まぁ実際は不特定多数の男性を意図的に魅了して弄んでいるような可愛いげのない人ではあるのだが。そんな妹を兄として心配になる気持ちは分からないでもない。といっても家族愛が強すぎるあまり恋人として一緒にいようとするのは流石に精神科に行く事をオススメしたい所ではあるが。

 

 それに会って二回目のほぼ他人の僕にいくら愛して止まないからといっても自分の妹自慢ははっきり言って迷惑…………は?おいこいつ今何を考え……、おいおいこれで合点がいったぞ。何故こいつが尊大な態度を取りつつも照橋さんに近付いた僕に敵意(・・)というものがなかったのかがな……!

 

 

 

「な、メガネ君もそう思うだろ。俺と同じ“妹を愛する同志”だもんな!」

 

 

 

 妹を愛する同志、だと……!?この僕をよりにもよってシスコン呼ばわりするつもりか!?ふざけるな!

 

 一体どこでそんな根も葉もない噂が流れたんだ、心当たりがないが……。

 

「そう不安そうにすんなって。心美にも内緒にしてって約束したんだからな。誰にも話したりしねぇからさ。あぁ心美、心美のお願いなら何でも聞くよぉ」

 

 照橋さんかよ!つーかてめぇも照橋さんとの約束平気で破っておいて何惚けてんだよクソが!

 

 確かに一時期僕がおっふしない理由の一つに“妹の栗子を愛するシスコンだから”と考えていたのは知っているが、だからといってそれは可能性の一つとして本気でそう思っている訳じゃなかった筈だぞ。分からない、照橋さんが何を考えているのか全く分からない。

 

「十数年間一緒にいる妹に恋の一つや二つ普通にあるもんだからな。もっと胸をはって世間に妹を愛してるっていいと思うぞ。俺なら言えるぜ」

 

 何が普通だ、お前の歪んだ価値観じゃねぇかふざけんな!僕はお前みたいな頭のおかしい人間じゃないんだよ!

 

「心美ほどじゃないのは確かだが心美が認める美人だそうじゃないか。悪い男に騙されないようにずっと一緒にいてやれよ?」

 

 むしろあいつに近付いた男が殺されないか心配、ってそうじゃない、ああ調子が狂う……!

 もう帰れよ、早く。

 

「お、長い事話してもういい時間じゃねぇか。あー最後にこれだけ言わせてくれ。昨日映画館で怒鳴って悪かったな。心美の隣の席に座って恋人気分を味わう変態だと勘違いしたんだが、メガネ君のような妹を愛する同志なら心美に変な真似をする筈がないのにな。ほんと悪かったよ、反省している、この通りだ」ぺこり

 

 立ち上り僕に頭を下げる照橋信。正直複雑だ。

 ここでふと気付く。もしかして照橋さん、これを狙って……?もしそうだとしても正直迷惑なんだが。

 

「言いたい事言ってスッキリしたよ。ま、心美の美しさは語っても語りきれないんだけどな!うん、それじゃまたなメガネ君、お互い妹は大切に、そして愛しつくそうぜ!」

 

 そう言ってムカつくほど爽やかに僕の部屋から出ていく照橋信。下の階で母と変態が「また来てねー」だとか「お邪魔しましたー」だとかそんな耳から聞こえる声が遠くに聞こえる程に疲れ果ててしまった。なんかもうどうでもいい今日はもう寝――

 

[お前、私をそんな風に思っていたのか?ふうん、キモいからもう私の近付くなよ]

[誤解だ!僕がよりにもよってシスコンな筈がないだろう]

[ほんとかなぁ?]

[疑心暗鬼ゴロ〇の真似は止めろ]

 

 クソっ、そりゃ隣の部屋にいる栗子には全部(僕の心の声以外)聞こえているに決まってるじゃないか!あーもう最悪だ……!

 

(あー面白。このネタで暫くからかうとしようかな。フフフ)

 

 ……ほんっとクソ生意気だよこいつは。

 

 

{オマケ1 災難の後日 斉木栗子とゲルマニウムリング}

 

 

[それで?何のようだ]

 

 僕の部屋に呼び出した僕の双子の妹、栗子は機嫌の悪さを前面に出しながらそう尋ねる。

 

[お前をここに呼んだ理由はだな――]

 

 そう前置きをしてからズボンのポケットからある物を取り出し机の上に置く。そのある物に触れている間少し不安になってしまう静けさを味わい、その効果を再確認する。

 

[これをくれてやろうと思ってな]

[指輪? ……。]

[心配しなくても結婚の意図はないし異性を意識してのプレゼントなんて事は当然だがない。だから安心しろ]

[正直ほっとしたよ。あんな犯罪レベルのシスコン野郎のキモい声を聞いた次の日だからな](もし斉木楠雄、彼もそうだっていうんなら一か八か賭けになるが暗殺でもしていたんだがな)

 

 物騒な心の声はスルー。

 

(まぁ要らぬ心配ってやつだな。彼の普段の様子から見てそれはありえない)

 

 恐らく栗子独自の能力が暴走でもしているのか、栗子の心の声は僕には聞こえ、そして僕の心の声は栗子には聞こえない。そして栗子は僕も栗子の心の声が聞こえない、そう思い込んでいる。

 それを伝えるつもりはない。今はまだ、な。

 

 

[じゃあなんだ?妹にアクセサリーのプレゼントでもしてやろう、とかか?お前はそんなやつじゃないだろ。何のつもりだ、言え。言えないなら話は終わりだ]

[説明してやるから落ち着け。この指輪は超能力に影響を与える材質で出来ている。ゲルマニウムという素材だそうだ。発見の経緯は偶々だ、偶々触ったら影響を受けた]

(彼は意味もなく嘘をつかない男だ。そこは信用しているが……)[具体的に影響とはなんだ]

[悪影響ではないぞ、僕もさっき触って見せただろ?別に死ぬってわけじゃない。そこは安心して欲しい]

 

 悪影響はない、あくまで僕個人としては舞い上がるほど嬉しい効果なんだから嘘は言っていない。

 

[それはいいが具体的な影響は何って聞いてるんだ。一体どんな影響があるというんだよ]

[さぁな。試しに触ってみたら分かるんじゃないか?]

 

 フフ、いつもいつもお前には振り回されてばかりだからな。チャンスがあればやり返す、お互い様だろ?

 

[……。](こいつ私を試すつもりか?そうなってくると彼を完全に信用するわけにはいかないな。超能力者に影響を与える素材ってのがそもそもが嘘臭いが……いや彼はそんな下らない冗談は言わないだろう。だが“悪影響を与えない”ってのはかなり怪しい。しかし彼は指輪を触っているところを見るに……いや、だが頑なにどんな影響を与えるのか語らないし――)

 

 悩んでるな。とはいえ栗子の性格からして最終的には触るだろう。ここで触らなければ僕に負けを認めるのと同意だからな。(うち)の変人お兄ちゃん(斉木空助)程ではないが僕に勝ちたがっているきらいがあるからな。だが時間が勿体ない、さっさと決断して貰おうか。

 軽く挑発してみる。

 

[お前って案外ビビりで怖がりのか弱い女なんだな(半笑い)]

プッツン[私をナメるんじゃあないぞ!!やってやろうじゃねぇか!!]

 

 激昂した栗子はガッという擬音が聞こえそうなほどの勢いで指輪、ゲルマニウムリングに左腕を伸ばし握り込んだ。チョロい。

 

 栗子はどうだとばかりに僕を睨み付ける。ウザいくらいのしたり顔。

 ……。落ち付きを取り戻し始めた様子の栗子は次第に表情が曇り出し顔を俯けた。心なしか震えているようにも見える。ちらちらとこちらを伺うように見てくるが何も聞こえてこない。[大丈夫か]とテレパシーを送ってみたが返事はないし反応もない。

 ……。なんか可哀想になってきたので栗子がゲルマニウムリングを握り締める方の手を指差し、あまり気は進まないが、口を開けて発話して伝える事にする。

 

それ(ゲルマニウムリング)から手を離せば効果は消えるんだが」

「……!」

 

 投げ捨てるように慌ててゲルマニウムリングから手を離す栗子。

 

[あ、あーこれは聞こえてる?]

[ああ]

[よかっ……う、うん(控えめの咳ばらい音)、ゲルマニウムの効果は大体理解した]

[そのようだな]

[で、このゲルマニウム製の指輪を私にくれるんだっけか]

[そうだ]

[悪いが、私には必要がない物のようだ]

[そうだろうな]

[……ちっ(クソデカ舌打ち音)。もう用はないだろ、私の部屋に帰るからな]

 

 栗子は不満を隠しもせず部屋から出ていった。部屋から出る際にも顔を横にして警戒の視線の視線は緩めない。そんな栗子に苦笑してしまう。

 

 今回意図せず判明したのだが、ゲルマニウムリングは心の声が聞く(聞こえる)能力だけでなく相手の頭の中に言葉を送る能力も消えるようだ。つまりゲルマニウムにはテレパシー能力全般が完全に使えなくする作用があった。いや栗子を使って実験するつもりはなかったんだがな。

 

 一息ついて気付いた。やれやれ、栗子のやつゲルマニウムリングを投げ捨てたまま出ていきやがったな。仕方なく拾い上げる。当然またテレパシーが使えなくなる、がそれに慣れる為にも少しの間このままでいてみる事にした。

 

 静寂。人の心の声が聞こえない今だ慣れぬ静けさ。

 常人にはこれが普通なのだろうがやはり不安だ。自分の部屋にいて誰も襲ってくる筈はないのが分かっていても……待てよ、ニンジャならどうだろうか。突然後ろからのアンブッシュが!……考えすぎだ、そもそもニンジャなんて現在に存在しないのだから。勿論新手のスタンド使いも現れやしない。分かっているのに不安感が襲う。

 この静けさによる不安に慣れるまで何年掛かるだろうか。いや何年掛かろうが関係ない。どんな災難が起きようとそれを受け入れる屈強な精神とテレパシーを必要としない普通の人間への渇望さえあればいずれ……!

 

 ……意気込んでみたが、暇だな。本でも読むか?だがしかし読書に熱中しすぎてなにかしら大事が起きた時に対処が……。分かっている、大事なぞそうそう起きやしない、考えすぎだと。それでも出来る限り精神的に無防備な姿勢にはなりたくはない。

 

 …

 ……

 ………暫く静かな世界に身を置き、不意に頭に浮かんできたのはつい数分前の栗子の姿だった。

 先程も言ったように栗子は僕の考えている内容、つまり心の声は聞こえていない。それなのに栗子は特に僕と割りと普通に接しているように見える。

 現在でも警戒はしているものの、三年くらい前までは今以上にあからさまにそして異常な程に警戒の目を向けていたな。その様子を音で表すなら「ガルルルル」と言ったところだろうか。

 だから意外だったのだ。ゲルマニウムリングを触った(握った)栗子があんなにもしおらしくなるなんて予想外だった。予想では強い不安感に襲われるものの、持ち前の強きな性格で「お前らなんか怖かねぇ!」なんて叫びながら過剰な全方位警戒体制に入るかと思っていたのだが。そんなビビリまくった栗子を笑ってやろうと考えていたのだが……怯えたんじゃ笑うに笑えないじゃないか。

 

 テレパシーが使えなくなっていた時の栗子が何を考えていたかは分からない。分からないが僕に助けを求めていた、ように見えた。普段から僕を唯一無二の天敵と言って目の敵にしているあの栗子が、だ。

 

 そういえばゲルマニウムリングを触る触らないの問答をしていた時に栗子はこんな事を考えていたな。

 

 

((彼は意味もなく嘘をつかない男だ。そこは信用しているが……))

 

 

 この事から分かるように栗子からある程度の信用を得ている。こんないい方をするのは偉そうだし少し自意識過剰な感じがするがこれは確かな事実。

 こんな風に相手を勝手に見透かしてしまうのもテレパシーのデメリットと言えるだろう。改めてテレパシーのクソ能力っぷりには辟易してしまう。

 まあ、あくまで“信用”であって“信頼”ではないが、それはそれだ。

 ただその信用がテレパシーでの心の探りもなくただの観察による客観的評価によって得られたものだというのならば、

 

 

 僕はそれに応えなければならないだろう。人として、兄として、な。

 

 

 

 

 

 

 

{ゲルマニウムリングを触り眺めながら物思いに耽る斉木楠雄は気付かない。背後からニヤつきながら忍び寄り“ワッ”をしようとする斉木栗子のその姿に}

 

 

(チャンスがあればやり返す、お互い様だよな?)

 

 

 

{オマケ2 災難の前日 妄想する照橋さん}

 

 

{映画館での災難が起きたその日の夜。照橋心美は自分部屋で自己勉強に勤しんでいた。しかし今日の映画館での出来事が頭を過るせいで勉強に身が入らないでいた}

 

 

(う~ん……、今日は不味い所を見られちゃったわ。まさか映画館で斉木くにおに会うなんて……。

 これが私一人なら絶好のおっふチャンスだったのに……。お兄ちゃんが全部お金は払うから一緒に行こうなんて言わなければこんな事にはならなかったのに!もう全部お兄ちゃんが悪いんだからね!)

 

 

{そもそも照橋信(お兄ちゃん)が誘わなければ好きでもないアニメの実写映画なんて見に行っていない照橋さんであった}

 

 

(はぁ……絶対誤解したに決まってるわ。完璧美少女の私が説明すれは誤解だって分かって貰えるに決まってるけど……。例えばそこらのイケメン程度ならただの友達って言えば、

 

「そっかーただの知り合いかぁ。あー良かったぁ。そもそもあんな男照橋さんと釣り合ってないもんね。付き合ってるなんてそもそも有り得なかったのさ、ハハハ」

 

 で済むけど、それが六神通の場合になると、

 

「そ、そっかただの知り合い……。照橋さんが言うなら間違いなくそうなんだよな。そうに、決まってるのに……有名俳優の六神通さんでも照橋さんと付き合える筈が、がが、ああ、ああああ、想像出来てしま、ぐはー!」

 

 そう、六神通だとまあまあ釣り合ってしまうのよ。私と付き合う六神通を想像して絶望のあまり口から泡を吹いて倒れてしまうかも。私の口から説明するにしても慎重にいかないと……!)

 

 

{過去に兄である照橋信(六神通)と恋人関係にあると勘違いをした男性が吐血し生命の危機に陥った実例を思い返し、斉木楠雄に対しては過度な心配をする照橋さんであった}

 

 

(でもこれってある意味チャンスなんじゃないかしら。

 今斉木くにおは憧れの私に彼氏がいると思い込んで落ち込んでいる、絶対そう違いないわ。

 そこに朗報が伝えられる、あれは彼氏じゃなくてお兄ちゃんだって。そう知らされた斉木くにおは絶対泣いて喜ぶわ。

 斉木くにおが完璧美少女の私に今以上に意識した所で偶然私が通りかかるの。斉木くにおは飼い犬がご主人様に尻尾を振っているような、そんな風に喜びを隠せないでいるの。そんな様子を見て察した私はこう言うのよ。

 

「斉木君、この前はお兄ちゃんがごめんね。あんなお兄ちゃんだけど悪い人じゃないから許してあげて欲しいの{優しさアピール}。あーあ、あんな騒ぎになっちゃったせいで結局映画も観れなかったなー……。わぁ!誘ってくれるの!?ありがとう斉木君!{斉木楠雄に誘われない可能性を一ミリも想定しない照橋さん}」

 

 超絶美少女の私と映画を観に行くって決まっただけでもおっふは固いけど、まだ私のアタックは終了しないわ。

 映画に行く具体的な日時を話し終わった後、これでこの私との幸せな会話が終わってしまうとしょんぼりする斉木くにおに女神そのものの私がそっと距離を詰めて、これだけでもおっふするわ、耳もとで聞こえるか聞こえないかくらいの声でこう言うの。

 

ボソッ「私まだ誰のものでもないけれど、斉木君なら……」

 

 はいドーン!ちょっと積極的すぎるけどこれなら老若男女問わずおっふ確定よ♥

 

 ……。いや、ちょっと待って、やっぱ無理。よくよく考えてみたらやっぱ実際に最後の台詞を言うのは恥ずかしすぎるかなーって。

 それにこの作戦の前提が誰かが映画館での彼氏っぽいあれが私のお兄ちゃんだって伝える所から始まるのだけれど、それが出来るのが当人のお兄ちゃんだけじゃない。……作戦の練り直しね)

 

{照橋信への信頼がほぼ零の照橋さんであった。暫くどうすれば誤解が解けるのか、解いた上でどうすればおふるかを考えていた照橋さんであったがしっくりくる妙案は生まれなかった。

 一先ず勉強に戻ろうかとノートに目を向けたところで、ふと疑問が頭を過った照橋さん}

 

(……そういえば斉木くにおと栗子ちゃんって家ではどんな風にしているのかしら。学校ではいつも無口で何考えてるか分かんない双子だけど。

 私が思うにあの双子は二人揃って人間不信なんだわ。人前で自分を出すのが怖い、そんな感じ?だから斉木くにおは私におっふするのを我慢しているのかも。

 そういえばこの前栗子ちゃんに好きな男の子とかいる?って聞いてみた時に静かに首を横に振ってたけど、もしかして昔悪い男と付き合って以来男性不信になってそのまま人間不信になっちゃったとかかも?

 はっ!?もしかして斉木くにおにも似たような経験があるのかも。ありえるわ……!そんな可哀想な傷付いた心を癒してこそ完璧美少女だわ。待ってなさい、斉木くにお!

 ……あー、栗子ちゃんには申し訳ないけど私にはどうする事は出来ないの。女の子だし。でも栗子ちゃんって普通に美人だしまあまあのイケメンくらい簡単にゲット出来そうだし、いっか)

 

{斉木栗子に寄ってくる男子を片っ端から奪っている事を都合よく忘れる照橋さんであった}

 

(ちょっと脱線しちゃったけど斉木兄妹の家での様子よ。私の予想だと“家弁慶”なんて言葉もあるくらいだし内弁慶とは違うけど家にいる間はまるっきり性格が変わるんじゃないかしら。学校にいる間はお互いツンツンしている二人、でも――

 

{以下、照橋さんの妄想}

 

 ガチャ「ただいまー」

「あ、お兄ちゃんおかえりー。遅かったね、あれその手に持ってるのって……!」

「ああ、栗子が前に食べたいって言ってた人気スイーツ店の期間限定ケーキさ。この前栗子が買ってきてくれた美味しいコーヒーゼリーのお返しだよ」

「え、これ食べていいの?」

「もちろん。その為に買ってきたんだからいいに決まってるさ」

「やったー!一緒に食べよう!」

「いや、僕の分は買ってきてないから栗子一人で食べていいよ」

「えー、やだー。そうだ、半分こしよう!それなら一緒に食べれるでしょー?」

「やれやれ、栗子は本当にいい子でお兄ちゃん嬉しいな」

「よーし、それじゃあ」

「「いっただっきまーす!」」

 

 こんな風に仲良し兄妹なのかも知れないわね。これに関しては本当にただの想像に過ぎないけれど、あの双子にもこんな微笑ましい一面があったらいいと思うの)

 

「はぁ……」

 

(栗子ちゃんは斉木くにおの妹なんだもの、いつも一緒にいるのは当たり前。それは分かってはいるんだけど……)

 

 

ボソッ「栗子ちゃんが羨ましいな」

 

「誰だよ栗子って」

 

ビクッ「ちょっ、ちょっとお兄ちゃん!?いつから、っていうか何で私のベットで寝てるのよ!」

 

「いやー心美に悩みがあるんじゃないかなーと思って相談に乗ろうと来たんだが、ノックしても返事はないし部屋の中を覗いてみたら勉強に集中してるみたいだから時間を改めてまた来ようと思ったんだけど眠くなってね。つい」

 

「だからって何の断りもなく私のベット使わないでよ!もー」

 

(怒ってる心美も可愛いな)「ハッハッハ。それはそうと栗子って子は学校の友達か?」

 

「うん。斉木栗子ちゃん」

 

「斉木……?ふぅん、で?その子を羨ましがる要素はどこなんだ?心美の美しさに敵う人間なんていやしないぞ。お兄ちゃんが保証する」

 

(当たり前でしょ。なんなら女神より美しいわ)「そんなんじゃないってば。羨ましいって言ったのは、(本当の理由を言うわけにもいかないし、ここは適当に)栗子ちゃんってテストの点数が学年トップ取るくらい頭がいいの。それが羨ましいなって」

 

「へー、でも心美は頭もいいからすぐに追い越せるさ。あ、だから勉強頑張ってたのか!あちゃー邪魔しちゃったかな。うん、また今度ゆっくり話そうか。それじゃ」

 

「お兄ちゃん、ちょっと待って!!」

 

「え?心美の頼みならちょっとどころか永遠に待つぞー。心美のすぐ側で、なんちゃって、はは」

 

 

(このままお兄ちゃんを行かせちゃ駄目、きっと、ううん、絶対に変な真似をするに決まってる。そう例えば“斉木君に私に近づくな脅しにい行く”とか。

 そう思ったのは主に三つの理由から。一つは私に悩みがあると見抜かれている事。お兄ちゃんにバレる悩みは今日のあれしかない。二つ目は明らかに“斉木”に反応している事。多分敵意のような感情を抱いていると思う。

 そして何よりお兄ちゃんは私の虜だもの、私の為なら何だってするわ。だって私は世界一の美少女、お兄ちゃんであろうと私に恋をするのは当然ね。私ってほんと罪な女よね。

 お兄ちゃんが何かやるかもっていうのはまだ憶測に過ぎないけれど、斉木君に迷惑が掛かってからじゃ遅いわ!その為には……そうだ!)

 

 

「お兄ちゃんに話しておきたい事があるの。今日偶然会った斉木君の事よ」

 

ピクッ「あいつがなんだって?言ってごらん」

 

「もしかしたらだけど、お兄ちゃんは斉木君が私に気があるんじゃないかのかって心配してるんじゃないかと思ったの」

 

「あぁ実はその通りだよ心美俺が思うにああいうタイプの男は」「黙って。私の話しを最後まで聞いて」「アッハイ」

 

「でもそんな心配する必要一切ないの。だって――」

 

 

(実際これがお兄ちゃんを騙す“嘘”ではあるんだけど――)

 

 

「斉木君は俗に言う“シスコン”なんだもの!自分の双子の妹、さっき話した斉木栗子ちゃんを愛してしまっているの。可愛いし頭もいい子だから実の兄である斉木君も心を奪われてしまうのも可笑しな話じゃないわ。斉木君の目には栗子ちゃんしか映らない。これは本当よ、だって栗子ちゃんがこっそり教えてくれたんだから。ついでに言うと栗子ちゃんもブラコンよ。だからお兄ちゃんの心配するような事には絶対にならないの。分かった?後これ内緒だからね!誰にも言っちゃ駄目なんだからね!」

 

 

(――これが事実である可能性も捨てきれないのよね……。ま、もしそうであっても私の魅力に気付かせる事が出来ればそれでいいの。待ってなさい斉木くにお!必ずおっふさせてみせるわ!)

 

 

{愛する妹の照橋さんの言う事なら基本的になんでも信じると決めている照橋信はどこか嬉しそうに納得した。その様子を見てこれでお兄ちゃんが斉木君に迷惑を掛ける事はないと一安心した照橋さんであった}

 

 

 

 

 

 

 




{補足}

・斉木栗子は気の強い女の子です。超能力の一つ一つが彼女の自信に繋がり、それが気を大きくさせます。そんな斉木栗子が突然一つでも超能力がなくなれば彼女の弱い部分が顕著に現れます。
今回ゲルマニウムリングを触りテレパシー能力が消えた際に斉木栗子は強い不安と孤独感に苛まれました。常に他人の心の声を聞きそれに慣れてしまった、むしろそれに安心感すらある斉木栗子にとってテレパシーが突然消えるという事は、日常生活を普通に暮らしている最中突然神隠しに遭い妖怪がばっこする世界で一人で生きていく、そんなレベルの心細さになるのと同意です。

(斉木栗子はよく深海に癒されに行きますが、その時は魚などの心の声を聞いています。深海にいく主な理由は深海にいるキラキラしたクラゲなんかを見て心を落ち着かせる為だったりします)

 ・そんな斉木栗子は予知夢(寝ている時その日の出来事を模倣した夢を見る能力。正夢に近いが予知夢の中では超能力を使えない)を見た後は……。斉木栗子にとって予知夢は内容がどうであれ悪夢のようです。

  ・斉木栗子にとって超能力は手足のようにあって当然であるため、超能力は必要なのです。
  気の弱い斉木栗子を我々は見たくはありません。←補足に書くべき内容ではありませんでした。自制します。

・再度確認します。この世界は原作世界とは別の世界、所謂パラレルワールドです。この世界は原作世界をコピーミスした世界と言えます。ですのでこの世界独自の斉木栗子とは別に、他の登場人物の思考回路の誤差によるストーリー変化も多々ある事でしょう。

大切な人を想い、行動できる人って素晴らしいですよね。うん、こんな内容の小説もどきを書くようなソウルレスな投稿者の私が言える台詞じゃないですね。


「斉木楠雄のΨ難」が終わってしまい正直モチベーションが低いですが、かなりゆっくりのペースになりますがこれからも頑張りたいと思います。

次回は時間を巻き戻してツンデレおじいちゃんの話にしようかと思っています。お楽しみに!


最後に過去の話についてお話しがあります。わたしの頭はズンビーニンジャ並に腐ってるので誤字脱字が半端ないって!…失礼しました、半端ないです。なので時間を見て過去の話を読み直して直せる部分は直そうと思います。その際、あまりに気に入らないシーンは変える事もあるかもしれません。大きく話を変えたりするつもりはありませんのでご安心ください。ご理解して頂けると嬉しいです。

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