「おはよ栗子ちゃん、今日もいい天気ね。あれ?今日は斉木君と一緒じゃないのね」
ああ、斉木楠雄、彼なら君が来るのが分かっていたからいないぞ。彼からしたら照橋さんと共に行動するのはデメリットが大きいらしいからな。私はそうじゃないが。
「ふーん今日は用事があるから先に学校に行っている……そう。ふーん……」(なによ栗子が見えたから登校中はいつも一緒にいるくにおもいると思ったのに!朝早くから完璧美少女の私に会える幸せからおっふ十連発は固かったはずなのにー!)
そればっかだな君は。
「それじゃ早く教室に行こっか。あ、知ってる?大豆と枝豆って同じ品種なの。魚のブリとワラサもね」
くっそどうでもいい。
照橋さんの話す内容は無難な内容か、わりとどうでもいい知識か、彼についての情報収集かの三択だな、まったく。
ただ別にそれがうっとうしいとまでは思わない。適当な相づちさえうっていれば取り合えず満足してくれているようだしな。……本音を言えば正直それすら面倒くさい、だがそれくらいはしなければならないだろう。前回話した通り照橋さんが近くにいるだけで私にとって十分メリットがあるのだ。せめて話しくらいはちゃんと聞く姿勢でいなければな。
照橋さんがやって来てすぐに、いや照橋さんがやって来る前からすでに周りの男共は道を空け、いつもの謎の声を出している。
「おっふ!」
「オッフ……!て、照橋さんだ……!」
「……!!おっふ……(あまりの衝撃で一瞬声の出し方を忘れちゃった……。あの人が噂で聞いた照橋先輩あんなに綺麗な人は見た事がないよ……。お近づきになりたい)」
「オッフ!オッフ!オッフ!オッフ!オッフ!オッフ!オッフ!オッフ!オッフ!オッフ!(朝早くからを照橋さんを見れた幸せからおっふ十連発出ちまったぜ)」
マジでするやついるんだな、軽く引いた。
と、まあ今の奴らを見れば分かるように、照橋さんがいるおかげで周りからの注目はほぼ全て照橋さんがかっさらってくれている。
だから隣の冴えない眼鏡女なんぞに注目する奇特な人間なんて極々僅かだし、いても゙照橋さんとそのおまけ"という認識、普通の女子なら「ぐぬぬ」と声が漏れ出てしまうような屈辱感を覚えるだろうポジションだがひたすら脚光を浴びたくないと常日頃から思っている私にしてみればスーパーベストマッチだ。
さて、教室に着くまでもうしばらく照橋さんの話しに付き合わないとな。フフ、もし照橋さんの隣にいるのが私ではなく男子、もっと言うならあの照橋さんが恋心を抱いている冴えない眼鏡男なら周りの男共の反応もまた違うんだろうのだろうけど、プフフ、女の私が照橋さんと仲良さげに話しているところを見て敵意を抱く男なんていやしないのだから気楽なものだ。
(あの女ぁなーにあこがれの心美先パイと仲良さげに話してるんデスか!マジで身の程知らずなんですケド!!)
……訂正しよう、敵意を抱く男はいないが敵意を抱く女ならいるようだ。
☆ ☆ ☆
別に心美先パイが私以外の女子と楽しそうに歩いているのが憎たらしいとかそういうんじゃないんですヨ?
心美先パイってなんか美人すぎて女の子からしたら近寄り難い存在じゃないデスか。だからカナ、あの日の合コンで心美先パイの友達の……えーっと、名前なんでしたっけ?……確か最初は、ゆ、で始まる名前だったような?あ!そうそう弓原先パイだ!まあ名前なんてどうでもいいデスけど友達がちゃんといて安心したんですヨ!
私なんかが心配するのもおこがましいかもしれないデスけど、心美先パイには幸せになって欲しいですから!
だから心美先パイが楽しそうにお友達とお喋りしてる微笑ましい光景が見られてとってもハッピー☆………その友達がクズ雄に激似の女じゃなけばね!!!
Ψ Ψ Ψ
なんか急にキレだしたんだけど。
後ろで(心の中で)騒いでる一年女子は照橋さんのために何をそんなにキレているんだか。それにしても照橋さんを慕う女子か……。
隣の、女子からも好かれる美少女の顔をなんとなしにちらりと覗いてみる。
ニコニコ(普段物静かな女の子と分け隔てなく楽しくお喋りする私尊可愛い)
こう言っちゃなんだがこんな女を慕う女がいるなんて意外だな。
{完璧なブーメランである(小説もどき第14x3/3後編参照)}
……は?なんだ今の声。
「これは一年の子にも話して驚かれたんだけどね、なんとホワイトアスパラガスとグリーンアスパラガスも同じ品種なのよ、栗子ちゃん」
そんなどうでもいい情報をドヤ顔で話しているのにも驚きなんだが、さっきのあの声ほんとなんなんだったんだ?そっちの方が驚きなんだんだが。
☆ ☆ ☆
ああぁ、心美先パイが私の話題を出してる(恍惚)……ハッ、しっかりしなさい依舞!あれくらいで一々感動するなんてチョロイン(ちょろいヒロイン)みたいじゃない!
心美先パイのあの時のお話しは正直どうでもいいなってつい思っちゃってとっさに驚いた振りをしましケド(ドヤ顔する心美先パイ可愛い)。なーにあの女困った顔してるんデスか!心美先パイのお話しは確かにつまらないケドそれでも慈悲深い心で聞いてあげるべきでしょ!?常識的に考えて!
やっぱりあの女が心美先パイの近くにいるのを見てるといてもたってもいられない。
まだ確かな情報は何一つないけどあの女は危険、だってクズ雄に激似なんだモン!きっとあの女は心美先パイとその気もないのに仲良くして心美先パイによって来る男子を奪おうって魂胆なんだわ!心美先パイ狙いでやってくる男子をどう奪うかは予想も出来ないけどあの女は見るからに頭がいいわ、眼鏡かけてるし、恐らくあのすました表情の下で悪どい事を考えてるに違いないわ!絶対にそう!
Ψ Ψ Ψ
確かな情報が一つもないのによくそこまで考えられるものだな。……ただ、的を射ていたり的はずれではあるが別の的に当てている部分があるあたり恐ろしいがな。
☆ ☆ ☆
あの女、いやあのクズ女を心美先パイから一刻も早く引き剥がさなきゃ!
でも情報が一つもないのは不味いですヨね。作戦を立てるためにもあのクズ女の事を調べるのよ依舞。難しい事は何一つないわ、だって私は美少女なんだもの!
「おっふ!て、照橋さん。いつ見ても綺麗だぁ。あ、栗子さんも一緒なんだ……ってオイオイオイオイオイオイあの栗子ちゃんが人の話に耳を貸すどころか返事までしちゃってるぜおい。おれが話しかけてもいつも無視なのによぉ」
「それは違うぞ。栗子さんと話しているのはあの照橋さん様です。照橋さん様はただの人ではなく女神ですからね、栗子さんの凍てついた心をも溶かす、そんな御人なのです」
ふーんあのクズ女、栗子って名前なんだ。
「はあ~朝から照橋さんと斉木さんが並んでるシーンを見られるなんてなー!神に感謝だぜ!」
「完全に同意。照橋さん一人でも完璧な美しさを更に知的でクールな斉木さんが隣にいるのはまさにベストマッチ、双方の美しさを引き立てるそれはさながらアマ〇ミの学園のマドンナ森〇はるかとそのクール系の親友〇原響の如く素晴らしい関係であると言えるであろう」
「その例えが適切かどうかちょっとわっかんねーけどさー、照橋さんと斉木さんが並ぶ光景は最高だよな~」
「ちょ~っといいですかぁ先パイ、あのね聞きたいんですけどぉ~」
「ごめん後にしてくれる?」
何こいつ一切私の方を見ずに断わりやがったんですけど…そりゃ今は心美先パイの方が大事だって私でも分かるけど……傷つくわぁ……。
{時は流れ昼休み時間}
バッチリ調べてやったわ!
フフン!私だって心美先パイに比べればほんのちょこっとだけ魅力が足りないカモですけどちょ~っとだけ男子に色目を使えばなんだって調べてきて貰えるんだから!
うーんそれにしても思ってたよりあのクズ女について知ってる人が多かった……ううんそんなの気にしていても仕方ないわ。
斉木栗子、やっぱりあの斉木クズ雄の兄妹で二年生。つまり双子って事ですネ、双子ならやっぱり考え方とか価値観とか似るはずだからクズ女なのはまず間違いないわ。
その他にもいつも無口だとか二年の学年順位一位だとか何考えてるのか分からないところがミステリアスで興味を惹かれるだとか使える情報もムカつく情報も色々と知れたわ。
その中の一つに、斉木栗子は図書委員で図書委員の仕事のない日でも本を読みに図書室に頻繁に行っている、らしいじゃないですか。これは使える情報よね。本当は教室に乗り込みたいところデスけどそれだと心美先パイに迷惑をかけちゃう。だから図書室にあのクズ女が一人で行ったところを狙うべきそしてそれは今!あのクズ女にガツンと言ってやるわ!待っていなさい!
Ψ Ψ Ψ
うん、そうか、じゃあ待ってる。図書室で。
梨歩田依舞、君の考えている事は全て私に筒抜けなんだ。彼の事はともかく私をクズ呼ばわりした事も一時期世界は自分を中心に廻ってるとか考えてイキっていた事も彼を短い期間ではあるが好きになっていた事すら把握している(あのまま「斉木楠雄の♀難」を加速させていれば良かったのに)。
「――ここに代入した後に公式を当てはめて――」
梨歩田がこちらに向かっているのもすでに知っている。面倒になるのは目に見えているが逃げたりはしない。彼女はそれなりに執念深いようだし今日が駄目でもまた明日そのまた明日とやってくるだろう。それならば迎えうってやるまでだ。
「――sinθ、cosθ、tanθの値や三角比をしっかり押さえつつ――」
梨歩田から逃げるために昼の休み図書室を過ごせなくなるというのは馬鹿らしい。
図書室は学校の中で最も時間を潰すのに適した場所だ。馬鹿な学生が多い中無駄に思える程豊富な文書、そして図書室では静かにしなければならないという絶対的なルールを好む人々が集う場所であるという事もとても良い。ああ、それとこれはオマケみたいな理由だが私に勉強を見て貰いたい人間をあしらうのにも都合がいいという理由もついでにあるな。
「――絶対値に絶対関数、絶対係数に絶対零度――ありがとうございました!分からなかった部分が分かってスッキリしました!」
うるさい。
今読んでいる本(知名度零のミステリー小説)から目を離さずに私の口元に人差指を添えて「黙れ、静かにしろ」のポーズをする。
(うわぁその仕草すごい様になっていて美しいや)「あ、す、すみません。このメモ用紙に書いてくれた数学の解説が分かりやすくて、つい、これ大事にしますね。あの今度また別の教科も教えて頂たいんですが、いいですか?」
勝手にすればいい。また今度私に勉強を見て貰いに来るのも、これから今朝見かけて一目惚れした照橋さんを探しに行くのも全部お前の好きにすればいい。
そんな中、バンッ!と音を立てて勢いよくドアを開けた黄色の髪を主張の強いアクセサリーがついたゴムでツインテールにしたタレ目の女子が堂々と登場した。
「斉木栗子先パイって今いる!!??」
くっそうるせぇ。
{次回に続く}
{補則}
・照橋心美は斉木楠雄ほどではないにしろ斉木栗子と積極的にコミュニケーションをはかります。その理由は
・おとなしい女の子と分け隔てなくお喋りをする優しさを周りにアピールするため
・斉木栗子に自分の良さを知って貰う事で斉木栗子の双子の兄、斉木楠雄にそれを伝えさせるため
・斉木栗子の好きな物は恐らく双子の斉木楠雄も好きな物だと想像出来るので何気ない会話からそれらを探るリサーチをするため
大体この三つです。
・斉木栗子は上記の照橋さんの狙いを知った上で付き合っています。
いつだったか投稿者のわたしの住んでいる地域はテレビ東京が映らないので、アニメ「斉木楠雄のΨ難」を見る事が出来ないってお話ししましたが、そんなわたしの救世主BSアニマックスのおかげで見れてるんですよね。改めて笑ったり、相トさんのギャルらしい声に興奮したりして現在12話まで視聴しています。……で、やっぱり最新話はテレビ東京の方が早いわけでいろんなところから次の話の軽いネタバレを受けるわけです。別にそれは全然構わないんです単行本全巻持ってるわけですし。それで知ったんですが…………照橋さんのイメチェンの話が素晴らしいという噂じゃないですか!楽しみです。
次回ついに決戦?お楽しみに!