修羅の旅路   作:鎌鼬

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共闘・2

 

 

「ーーーふぅ」

 

 

最後まで残っていたエネミーの首を跳ね飛ばす事でクリティカルダメージを発生させ、ポリゴンになったのを確認してから刀を上に投げて乱回転するそれを鞘に納める。

 

 

「なんでそんな事が出来るのよ」

 

「リアルで暇な時にスタイリッシュな納刀の仕方考えて練習してた」

 

「スタイリッシュな納刀とかちょっと訳わからないですねぇ……」

 

 

あの頃は若かったんだ。無駄に格好よさを求めていたから、今で言うところの厨二病的なものを発症していたのだろう。だけど問題なのは爺さんと母さんだろう。俺に触発されてあの2人はスタイリッシュな戦闘の仕方とかいう二歩は先に進んだものを考えていたから。

 

 

「で、ここがボス部屋だよな」

 

 

俺たちの目の前にあるのは28層でも見た豪奢な意匠の施された一際大きな扉。ダンジョンに入ってから1時間少々で、前情報があったとは言えボス部屋まで来てしまった。

 

 

「プレイヤーが集団で来たって聞いてたのだけど見つからなかったわね。もしかしたらもうボスに挑んでるのかも」

 

「いや、そうでも無さそうですよ」

 

 

そう言ってランがボス部屋に繋がる扉に触れると、重厚感を感じさせる重たい音を立てながら扉は独りでに開いて光源の一切無い空間に繋がる。他のプレイヤーがボスに挑んでいたら扉は開かないと聞いているのでこうして開いたという事は誰もボスには挑んでいなかったのだろう。

 

 

「すれ違っただけじゃないでしょうか?」

 

「もしかして、ここに来る途中で倒されたとか……」

 

「いや、それは無いんじゃないかな?」

 

「でもここはトラップがあれだったから……」

 

 

このダンジョンで何が怖いのか聞かれれば、迷わずにトラップだったと答えるだろう。ここに来るまではエネミーは飽きる程に湧いて来たが、トラップは数える程にしか無かった。しかし、そのトラップがどれも即死系だった。俺は嫌な予感がしたのでトラップが仕掛けられている位置には近寄らないようにしていたのだが、それをランとユウキの2人は察知出来なかった。結果、爆破や釣り天井などのトラップにかかってしまい、一瞬で〝残り火(リメイン・ライト)〟に変わってしまった。アスナもこれまでの経験からここにトラップがありそうだと気が付いていたのだが、警告を飛ばすよりも先に2人が飛び出したので間に合わなかったと言っていた。

 

 

「誰もいないのなら丁度良いわ。準備を済ませてボスに挑みましょう」

 

「やっと……やっと壁役になれる……!!」

 

「ここに来るまでは楽で良かったんですけど、暇で暇で……」

 

「シウネーとテッチの声がすっごい悲壮感に満ち溢れてるんだけど」

 

「戦わなかった人が悪いんです」

 

「チャンスを掴もうと前に出なかった奴が悪い」

 

 

確かに後衛役のシウネーと盾役のテッチの仕事を取った事は認めよう。だけど、それならそれでやれる事を探せば良かったのだ。俺たちと一緒に前に出て戦うとか。

 

 

まぁ過ぎた事をとやかく言っても何にもならないのでさっさと準備を済ませる事にする。とは言っても前のダンジョンアタックでの経験から使っていた予備の刀を本番用の刀に変えるだけ。HPは受けも防ぎもしていないので満タンの状態のままだから回復の必要は無い。

 

 

ランとユウキはダメージを食らっていたのか回復ポーションを飲んでいるが、その姿が側から見てもとても良く似ていた。ランの言動が吹き飛んでいて忘れそうになるが、こういうところで2人が姉妹なのだと改めて思い知らされる。

 

 

「良しーーーそれじゃあ、行くわよ」

 

 

準備が整ったのを見計らってアスナの出した指示に従い、真っ暗なボス部屋に足を踏み入れる。28層の時と同じように周囲の壁に立て掛けられていた松明に順番に火が灯り、徐々に部屋の中を明るくする。

 

 

ボスが出現するまでの僅かな時間、その間にアスナとシウネーが全員に支援魔法(バフ)を掛ける。HPバーに筋力、耐久、敏捷のステータスが上がった事を表すアイコンが表示されるのと同時に松明が全て点火し、部屋の中心に巨大なポリゴンが大量に湧き上がり、ボスが形作られていく。

 

 

現れたボスを表現するのならば、騎士だ。純白の鎧と兜を身に纏い、大型の盾と両手剣を片手に持った3メートル程の中型の騎士。巨人タイプと呼ばれるエネミーよりも小さいのだがプレイヤーからしてみれば大きい事には変わらない。

 

 

首チョンパ(〝斬鉄剣:斬首〟)ーーーッ!!」

 

「あ、なら私は足貰いますね(〝OSS 〟)

 

好き勝手し過ぎよ(〝弓術:連射〟)

 

 

ボスが出現するのと同時に正面から飛び込んで鎧の隙間に刃先を滑らせながら首を斬る。急所を斬られた事でクリティカルダメージが発生し、悶絶しようとしたボスの足をランがOSSで斬り、シノンの火矢が追い打ちとして突き刺さる。

 

 

シノンの火矢とランの斬撃でバランスを崩した騎士は、がしゃんと大きな音を立てながらその場に倒れた。

 

 

「そら、早くしないと俺らが倒しちゃうぞっと(〝斬鉄剣:乱れ斬り〟)!!」

 

 

倒れた騎士の上に乗り、斬鉄剣にて斬り続ける。急所を狙わない、とにかく手数を目的とした斬撃は騎士の鎧を無視するかのように斬れる。

 

 

「ボクだって負けないから(〝OSS:マザーズロザリオ〟)!!」

 

 

このままでは俺に倒されると思ったのかユウキが倒れている騎士の頭部目掛けて十一連続のOSSを叩き込む。倒れたとはいえ無抵抗で攻撃され続ける事を良しとしなかったのか、騎士は両手剣を振り回して俺たちを振り払うと立ち上がる。

 

 

「みんな!!あのキチガイに負けるわよ!!それで良いのかしら!?」

 

俺に仕事をさせてくれぇ(〝挑発〟)ーーーッ!!」

 

 

アスナの煽りに対してテッチが心の底からの咆哮を上げながら〝挑発〟スキルを使って騎士のヘイトを自身に向けた。ダメージ的に考えれば騎士のヘイトは俺とユウキに向けられているのだが、〝挑発〟スキルによりテッチにも意識を向けてしまう。

 

 

その隙にランが盾の裏に潜り込んで盾を待つ手を、シノンが両手剣を持つ手を攻撃する。

 

 

「ここまで来りゃあ、後は任せても良いな」

 

 

初手の奇襲で戦いの流れはこちら側に引き寄せている。これならば俺が手を出さなくても彼らだけで戦えるだろう。もちろん完全にサボるとまではいかないが、積極的に攻めるつもりはもう無い。あくまでこれは俺たちの戦いだから、俺だけが戦う戦いでは無いのだから。

 

 

〝挑発〟スキルを連発して強引に騎士のヘイトを自身に稼いでいるテッチの勇姿を見ながら、俺は気配を消して騎士の死角から攻撃する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーもうそろそろかな?」

 

「ーーーえっと確か更新が1時間後くらいだから……お、出てきたぞ」

 

 

〝剣士の碑〟の前で待っているとFloor30まで刻まれていた隣に新たに新たなにFloor31と刻まれる。その下にはユウキたちの名前と俺たちの名前に6つのギルドのエンブレム、そしてアスナの名前がしっかりと刻まれていた。

 

 

「やったぁ!!」

 

「どうしましょう……ちょっと素直に喜べないです」

 

「俺、何もしてないんだよなぁ……」

 

 

ユウキは素直に飛び跳ねる程に喜んでランに抱きついているが、シウネーとテッチはそこまで喜べていないようだ。何故ならランとユウキがメインアタッカーを務めて、シノンが時折狙撃するだけのボス戦だったから。テッチは何度も〝挑発〟スキルを使ってボスのヘイトを自身に向けようとしていたが、それよりもランとユウキがヘイトを稼ぐ方が圧倒的に早かった。シウネーはそれでも何度か回復をする事は出来たのだが、アスナは暇だったのか途中から細剣を取り出してボスに突っ込んでいたからな。

 

 

「よし、それじゃあ俺の家で打ち上げやろうぜ!!もちろん俺の奢りだ!!他のメンバーも呼んでいいぞ!!」

 

「ホント!?やったぁ!!」

 

「ラン、ちょうど良いから〝料理〟スキルを伸ばすわよ」

 

「はい、師匠!!」

 

 

お詫びの意味合いも含めて31層突破の打ち上げを俺の自腹で行う事にする。幾らか散財してしまう事になるのだが、蓄えはあるので問題にはならない。俺の食べる物はランの料理ばかりになりそうだが、熟練度は上がってきているので前のように焦げた料理だけが出てくるという事にはならないはずだ。

 

 

いつかこの時間が終わると分かっている。だけどもう少し、後少し、この時間が続いて欲しいと願わずにはいられなかった。

 

 

 






ボス戦はさっくり終わる物。だってALO二大キチガイの修羅波とランねーちん、バーサクヒーラーことアスナ、天真爛漫純粋美少女のユウキチャンとかいう最強パーティーなのだから。ごめんよテッチ、君の出番は実は無かったんだ。


count down……1

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