修羅の旅路   作:鎌鼬

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感想と評価に飢えている作者です……作者のヤル気を出したかったら餌をくれよ!!


実家

 

 

『ーーーいやぁ、それにしてもリアルで久しぶりに電車に乗って太陽の光なんて見ましたよ〜』

 

「軽い口調で言われても分かる奴が聞けば自虐が酷過ぎて苦笑いするしか無いからな?」

 

『不知火さんなら?』

 

「貧弱とか言って高笑いする」

 

『う〜んこの外道っぷり』

 

 

〝統一デュエル・トーナメント〟から一週間後。ガタンガタンと小気味のいい音を立てて走る電車の外の景色を見ながら、肩の上に細いハーネスで固定された小型のドーム型の機械に話しかける。内蔵されているスピーカーから聞こえるのはランの声だ。勿論この世界はVRの世界などではなくて現実の世界、彼女は今も病院で〝メディキュボイド〟に繋がれて眠っている。

 

 

それなのにランがこうして現実の世界の光景を見て、俺と話す事ができるのは肩に乗せられた機械ーーー通称〝視聴覚双方向通信プローブ〟のおかげだ。元々はキリトがAIであるユイと現実世界でもコミュニケーションを取るために研究していたそれを使い、間接的にではあるもののユウキは現実の世界を見る事が出来たという。

 

 

それをユウキから聞かされたランが羨ましがり、俺がキリトに頼み込んで〝視聴覚双方向通信プローブ〟を借りたのだ。幸いなことに今日ならばアスナとユウキは使わないということで借りる事はできた。その代わりに予定していた〝新生アインクラッド〟31層のダンジョン探索をシノンだけに任せてしまうことになったが。その話をした時に拗ねていたので後で悶絶するくらいに可愛がってやろうと思う。

 

 

ちなみに29層だか、前にやったバーベキューのメンバーたちがその場の勢いでダンジョンアタックを仕掛け、そのままの勢いでボスを倒してしまったのだ。30層は別のギルドが攻略したので31層は〝スリーピング・ナイツ〟と俺たち〝三身一体(トリニティー)〟で攻略しようということになっている。

 

 

『それにしてもすいません、私の我が儘に付き合ってもらって……』

 

「良いの良いの。俺がそうしたかったってのもあるし、それにデュエルで時間切れとは言えランは俺を倒したんだ。頼みの1つでも聞いてやらないとな」

 

『その後のデュエルじゃボコボコにされましたけどね……』

 

 

〝統一デュエル・トーナメント〟でランは時間切れという若干モヤモヤする結果だったとは言え俺を倒した。ラン本人は最初は勝ったことに喜んでいたが、時間が経ったらHP差で勝った事を不満に思ったらしく、トーナメント後で俺にデュエルを申し込んできた。

 

 

流石にあのOSSの危険性を散々味合わされた後なのでその時はランを誘導してわざとあのOSSを撃たせ、納刀するよりも先に倒した。正面から挑んでは勝てないと分かっているのなら幾らでも勝つ方法は思いつく。

 

 

「まぁ折角リアルにいるんだからゲームの話だけじゃ味気ないだろ?気になったのがあったら説明してやるから景色を楽しんだらどうだ?」

 

『そうですね!!あ、不知火さん不知火さん!!あのピンク色のケバケバしい色合いのお城って何ですか?』

 

「ハッハッハ、初手から説明しにくい物を選びよって」

 

 

〝視聴覚双方向通信プローブ〟のレンズの向いている先にはランが言った通りにケバケバしい色合いの城が建っている。どこからどう見ても大人の休憩所だ。どういう風に説明した方がダメージが少なくて済むのか考えながら、出掛ける前にランから伝えられた目的地が書かれたメモ帳に視線を向ける。

 

 

横浜の保土ケ谷区月見台……わざわざここまで指定をされたのだからこの場所がどんな場所なのか簡単に予想する事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いくつか電車を乗り継ぎ、目的地であった星川駅に到着する。まだ2月なので寒いと言われれば寒いのだが、少なくとも実家の寒さに比べればコート一枚着るだけで耐えられる寒さなどマシだ。実家の冬は最低でも防寒着を着込んで目出し帽を被らなければ出歩けない程に吹雪いていたから。

 

 

「ここから先の案内出来るか?」

 

『任せて下さい』

 

 

大雑把な目的地に着いたのだが、ランの行きたい場所までの道のりが分からないのでランに任せることになる。3年もの間、〝メディキュボイド〟に繋がれているので土地勘とか不安だったのだが、その不安を他所にランはスラスラと淀みなくナビゲーションをしてくれる。

 

 

途中で店や郵便局、神社などを見るたびに懐かしそうに声を出しながら。

 

 

その反応だけでランの行きたい場所が何なのか、予想していた事が正しかったと確信出来てしまう。俺が考えていた通りにこの街はかつて彼女たちが暮らしていた場所なのだと。そしてーーー

 

 

『……ここです』

 

「……」

 

 

ーーー最終的に辿り着いたのは白いタイル張りの壁を持つ一軒家。白い壁と緑色の屋根の家は周囲の家と比べると小さく思えたが、その分庭が広く作られていた。手入れされる事なく庭に伸びている芝生、雨風に晒されて色を霞ませた椅子とテーブル、何も植えられずに枯れた雑草が生えた花壇。窓は全てが雨戸が閉められて、人が生活している気配を全く感じさせない。

 

 

「ここがランの家なんだな」

 

『正確には紺野の家ですけどね。この家に住んでたのは1年足らずなんですけど……懐かしいなぁ。マンションからここに引っ越して庭がある事が嬉しくってユウキと一緒に走り回ったり……日曜日にはバーベキューをしたり……お父さんと一緒になって日曜大工をしたり……』

 

 

1年足らずの短い時間だったとしても、彼女の中ではその頃の事は昨日のように思い出せるのだろう。例え短い時間だったとしても、良い思い出が詰まっていたと分かる程に彼女の声は柔らかかった。

 

 

『実はですね、この家のせいで親戚中が大騒ぎしてるらしいんですよ』

 

「この家……それと土地をどうするかって事でか?」

 

『ハイ。コンビニにするとか、更地にして売るとか、そのまま貸家にするとかみんな好き勝手に言って……この間なんてお父さんの姉って名乗る人がフルダイブしてまで遺言を書くように言ってきたんですよ?』

 

「そりゃあ強欲な事だ。どうせ病気が怖くて会いに来ようとしなかっただろうにな」

 

『その通りです。だから言ってやりました、書いてもいいですけど現実の私じゃあ遺言なんて書けませんよって。あの時の顔は本当に笑えました』

 

 

それはそうだろう。向こうからしてみればさっさと書いて終わらせるつもりだっただろうが、ランの現状を知らなかったせいでそれが出来ないと知ったのだから。その人物の顔は分からないが、どんな表情になっていたかなんて想像するのも容易い。

 

 

『出来る事なら残して欲しいってお願いしたんですけどね、多分壊されます。だからその前にもう一度だけ見たいと思ったんですけど……』

 

「外だけ見て満足するなよ」

 

「ーーーあ、すいません。漣さんですか?」

 

 

家の外見だけを見てランは満足していた様子だったが、その時に小太りの男性が現れて俺の名前を呼んだ。

 

 

「はい、そうです」

 

「あぁ良かった。私は不動産屋の者ですが……その、肩に乗せられてる機械で紺野さんが見ているんですね?」

 

『え……?』

 

「俺が頼んでたんだよ。事情を軽く説明して、良かったら中を見せてくれないかって」

 

 

その結果貰えた答えは承諾だった。どうやら不動産屋の方は紺野家の事を覚えていたらしく、軽くとは言え説明しただけで家に入らせて貰える許可を貰えた。ランの行きたい場所の予想が出来ていたから出来た事だ。サプライズだが、決して悪いものではない。

 

 

不動産屋から鍵を借りて敷地内に入り、玄関の扉を開ける。雨戸が閉められているので家の中は薄暗かったが、手入れはされているのか思っていたよりも埃は溜まっていなかった。

 

 

「……良い家だな」

 

 

家の中に入った感想がそれだった。壁はよく見ればやんちゃしていたのか傷だらけで、柱にはランとユウキの名前が横線と一緒に刻み込まれている。床にはジュースでも零したのか薄っすらとシミが付いている。

 

 

今は誰も住んで居ないのだが、それでも住んでいた者たちの温もりを感じる事が出来た。

 

 

「こんな良い家が壊されるのかよ……」

 

『……ハッ!!不知火さん!!私、良い事を思い付きました!!』

 

「おう、どうせくだらない事だろうけど言ってみろよ」

 

『ちょっと私と結婚してこの家守って下さいよ!!』

 

「ゴメン、俺には詩乃がいるから」

 

『割と雑にフラれた!?』

 

 

くだらないと考えていたが、ランの現状を考えれば確かにそれは名案なのかもしれない。俺の事情や感情を抜きにすればという但し書きが入るのだが。

 

 

『ちぇ〜……だったら私が詩乃さんと結婚します』

 

「詩乃は俺の女だから絶対に渡さんぞ……!!」

 

『冗談ですよ……だったら、不知火さんが詩乃さんと結婚したらこの家を買って下さいよ。それなら大丈夫ですよね?』

 

「……それなら、な」

 

 

幸いなことに金なら母さん名義で株やらを買っているので一軒家を買うくらいには溜まっている。それならば出来なくは無いだろうと軽く考えながら、ランと一緒に不動産屋が呼びに来るまで誰もいない紺野の家に居続けた。

 

 

 






原作でもアスナとユウキチャンがやってた自宅訪問。修羅波の場合は不動産屋に話をつけて中に入るというファインプレー。


count down……3

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