修羅の旅路   作:鎌鼬

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新しい活動報告あげたんでよかったらどうぞ。


統一デュエル・トーナメント 決勝・2

 

デュエル開始から5分が経ったが全体を通して俺もランも動きが少ない。俺が動こうとすればランのOSSの範囲内に入らないといけないので不利、対するランは俺が先にダメージを受けているのでこのまま時間切れを待てばこのデュエルはランが勝つことになる。無論、ランはそんな勝ち方では無くて俺のHPを全損させる勝利を狙っている。だが無理に動く必要も無いのも事実。精神的優勢はランの方にある。

 

 

攻め手をいくつか考えながらHPを確認する。直撃は防いでいるもののHPはいくらか削られていて残りは7割といったところ。対するランは満タンのまま。開幕で放たれたOSSの他に二度撃たれてそれを防ぐ事は出来ているので大体は見切る事は出来ている。

 

 

問題はタイミング。俺の剣速でもOSSの出だしと同時に振るわなければ迎撃する事は出来ないだろう。迎え撃ち、吹き飛ばされなければそこから一気に決めれるだけの自信はある。速度は分かった、威力は体験したーーーあとは、倒すだけだ。

 

 

「すぅ、ふぅ〜……」

 

 

呼吸を変える早く深く吸い込み、早く深く吐き出す。やり直しの効かない一発勝負。覚悟は出来ている、成功させる自信はある。デュエル開始と変わらない自然体のままで、ランの間合いに入り込む。

 

 

ランを中心とした半径10メートル、そこがOSSの範囲内。間合いに入った瞬間にランが僅かに反応したが、まだ早いと考えたのか抜刀の構えのままで動かない。ここで撃って来てくれたのなら良かったのにと考えながら、さらに踏み込む。

 

 

ここから先はチキンレースだ。ランのOSSは近ければ近いほどに脅威となる。しかし、だからといって近付け過ぎれば俺はランがOSSを撃つよりも先に倒しにかかる。つまり、ランがどこまで俺のことを近付けるのかがカギになる。

 

 

ーーー9メートル、ランは動かない。

 

ーーー8メートル、まだ動かない。

 

ーーー7メートル、動きたがっているのを必死になって堪えている。

 

 

そして6メートルまで近づいた瞬間ーーー

 

 

ーーーッ(〝OSS: 〟)!!」

 

ーーー(〝観察眼:見切り〟)

 

 

ーーーランが耐え切れずに刀にライトエフェクトを纏わせながら踏み込んで来た。極限まで集中されて磨き上げられた観察眼にてその初動を完全に見極め、自然体のままに無拍子で最速の振り下ろしを放つ。

 

 

脳裏に浮かぶのは迎撃が成功し、全身が痺れる様な手応えを感じながらその場に踏みとどまっている自分の姿。ランのOSSを完全に受け止めて、そのまま倒す未来を幻視してーーーその未来は訪れないと思い知らされた。

 

 

「ーーーッ!?」

 

 

ランの姿がブレ、視界から消える。それはランの動きが捉えられないほどに速いからでは無くて、単純に()()()()()()()()()()()()。目が追いつかなくても気配は感じられるーーー()()()()()

 

 

南無三ーーー(〝直感〟)ッ!!!」

 

 

考えてでは無くてこれまで積み重ねて来た直感から導き出した最善を反射的に行う。振り下ろした手を止めることなく張り切って刀を地面に叩きつけながら身体を前にズラし、同時に前に飛び出す。

 

 

その瞬間に俺の身体があった場所に閃光が走った。不恰好な前方宙返りをした事で背後から放たれたOSSを回避する事は出来た。着地のことなど考えない形振り構わぬ回避だったので無様に転がりながらランの間合いから逃げ出す。

 

 

ここに来てフェイントをかけるとは予想外だった……いや、初めからあれが目的だったのだろう。ランはあのOSSを直線的にしか放たなかった。あれだけの超加速をするのだから直線的にしか動かないと勝手に判断してしまっていた。そう俺に思い込ませたところで背後を取っての一閃。俺の直感が仕事をしてくれなかったら、今頃俺はHPを全損させて〝残り火(リメイン・ライト)〟になっていたに違いない。

 

 

「あれを避けるんですか……ドン引きなんですけど」

 

「あれだけの超加速をしておきながら俺の後ろに回りこめる方がドン引きだよ。下手すりゃ身体壊すぞ」

 

「最初は直線的にしか動けなかったんですけど、ウェーブさんから縮地教えてもらったじゃないですか?あれを使ってみたら良い具合になって出来るかなぁって思ってやったら出来たんですよ」

 

「塩を送ったのは俺だったか……」

 

 

会話をしながら状態の確認を怠らない。ランのOSSを何度も受け止めた上にさっきの無茶苦茶な回避で耐久値を大幅に減らしたのか刀身にはヒビが入っていて使い物にならない。回避に成功して五体満足……そう言いたいのだが、どうやら失敗していたらしい。

 

 

「どうします?ウェーブさん……()()()()()()()()

 

 

着地して状態を確認している時に、俺の右足が無くなっている事に気が付いた。あまりの速さにダメージを受けていた事に気が付いていなかったらしい、今頃になってジワジワと鈍い痛みがやって来る。

 

 

刀の一本は実質使用不可能で残りは一本だけ、片足を無くした影響でこれまでの様な動きは出来ないだろう。冷静に、客観的に自分の状態を把握してーーー()()()()()()()()()()

 

 

「ハッ、続けるに決まってるだろ?」

 

「そう言うと思ってましたよ」

 

 

幸いな事に爺さんから片足が無くなっても戦える様に仕込まれているのでデュエルに支障は無い。問題があるとすればランのOSSだ。直線的に動くのと回り込むのと2つが出て来た。OSSの初動の動きは全く同じで、モーションからどちらなのか見極めるのは不可能に違い。

 

 

この状況でどうすれば勝てるのかを考えて、考えて、考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えてーーー最終的に考えるのを止めた。

 

 

使えなくなった刀を投げ捨てて、無事な刀を鞘に納める。そして残された左足で立ち上がり、ランよりもさらに深く前傾姿勢になって左手で地面を掴んで足の代わりにしながら右手で柄を握る。

 

 

「……どういうつもりですか?」

 

「どうするも何も、現状からどうにか出来る手段が思いつかなかったんでな。だからーーー()()()()()()()()()()()

 

 

ランのOSSは素晴らしい。あれをどうにか攻略する事が俺の勝利だと思っていたが、野良ならばともかく現状では攻略する事は出来ない。それを残念に思いながら、それでも勝つことを諦めずに、一振りに全てを賭けることに決めたのだ。

 

 

「どうする?乗るか?このまま時間切れになったらランの勝ちだぞ?」

 

「安い挑発ですねぇ……勿論、乗りますよ」

 

 

安い挑発だと分かっていながらランはこの勝負に乗ってきた。勝つことを確信して慢心しているわけじゃ無い。勝つのは自分だと誓っているからこそ、時間切れによる呆気ない勝利では無い完全なる勝利を望んでいるのだと分かる。

 

 

すでにデュエルの残り時間は1分を切っている。ここからHPを逆転させる事は不可能に近い。あぁ、認めよう。この結果がどうであれ、この試合(デュエル)の勝者はランなのだと。だからーーー勝負には勝たせてもらおう。全身全霊の一振りにて、ランの神速のOSSを凌駕しよう。

 

 

刻一刻と減っていく残り時間には目もくれない。彼我の距離は互いの間合いである10メートル。どちらも必殺を狙える距離であるから、狙うは必殺以外には存在しない。

 

 

そして残り時間が10秒になった瞬間ーーー打ち合わせたかの様にその場から同時にリングを砕きながら弾き出した。

 

 

〝勝つ〟のは(〝OSS: 〟)ーーー」

 

「ーーー俺だぁぁぁぁぁぁ(〝抜刀術:全身全霊〟)ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識を失っていたのか、気が付いたら地面に転がっていた。ぶつかったところまでは覚えている。全身が痺れて身体を動かしたく無い。なんとか首だけを動かしてランの姿を探してみれば、彼女も俺と同じ様に地面に転がっているのだが、俺とは違い両手で顔を覆っていた。

 

 

気絶していた事で緊張状態が解除されたらしく、ラン以外の声を聞くことをしなかった耳に割れんばかりの歓声が届く。ビリビリと全身を刺激する程の声量で叫ばれて何があったのか分からなかったが、空中に投影されているモニターを見てすぐに理解した。

 

 

モニターに映るのは顔を覆い隠しているランの姿、そしてその下に書かれた勝者を表す〝WINNER〟の文字。

 

 

ランが俺に勝ち、〝統一デュエル・トーナメント〟で優勝を果たしたのだ。

 

 

 





統一デュエル・トーナメント、優勝はランねーちん。

デュエルで制限時間付きだからこそ掴めた勝利。野良ならば、制限時間が無ければ勝っていたのは修羅波だったかもしれない。だけど、それでも勝ちは勝ちなのだ。

命を燃やしながら掴み取った勝利であるからこそ、その価値は何よりも尊いものとなる。


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