修羅の旅路   作:鎌鼬

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統一デュエル・トーナメント 決勝

 

 

「一先ず、約束は守れそうですね」

 

「まだ戦う事になっただけだろうが。俺を倒すまで約束を守ったとは言わねえよ」

 

「そうでしたね」

 

 

コロシアムのリング上でランと対峙する。観客席からの声も、マイクパフォーマンスを決めて叫んでいるプレイヤーの声も聞こえない。耳に届くのはランの声だけ。目に映るのはランの姿だけ。自然体で立って微笑んでいる彼女の事を警戒して一挙一動を見逃さないように集中する。

 

 

ランの準決勝のユウキとのデュエルは見た。警戒するのはあのユウキの反応速度を振り切る程の神速としか形容する事が出来ないOSS。〝新生アインクラッド〟の28層のボス戦であのOSSは一度見たのだが、速すぎて躱せる気がしないというのが俺の感想だった。一度だけでも俺に向けて放ってくれていたのなら呼吸、動作、タイミングから予想してカウンターを見舞う事くらいは出来るのだが今の状態では防げれば御の字と言ったところだろう。

 

 

「ウェーブさんウェーブさん、観客席の方から凄い視線感じるんですけど心当たり無いですか?」

 

「多分シノンだな。俺がお前に集中してるから嫉妬してるんじゃね?」

 

 

観客席の方から射殺さんばかりの鋭い視線を感じるのだがあれはきっとシノンの物だろう。子供の頃に姉ちゃんと風呂に入った話をしただけでも嫉妬するような彼女だから、警戒しているとはいえランだけに集中している事を嫉妬しているに違いない。

 

 

「嫉妬ですか……夢の中のシノンさんならウェルカムとか言って両手を広げて歓迎しそうなんですけど」

 

「もうそれは俺の知ってるシノンじゃ無いよ……しゃあない。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

腰に下げていた刀を二本引き抜いて片手を順手に、片手を逆手に握って構えずに自然体で立つ。考えてみればランを相手に二刀流をしたのは初めてだ。最初にあった時には一刀だけだったし、終わり頃には無手で腹パンを決めるだけだったし。

 

 

「もう勝った気でいるんですか……残念、〝勝つ〟のは私です。無限腹パン地獄のリベンジをするんですから」

 

 

そう言いながらランは刀を納めたままで両足を前後に広げて身を低くしながら前傾姿勢を取る。開幕から突っ込んで斬ろうとしているのが見え見えなのだが、あのOSSがあるのならそれが最善だ。ユウキの反応速度を振り切る程の神速の一閃を、例え俺に予想されたとしても叩き込む。

 

 

このデュエルは俺がOSSを予想出来るか、ランが俺の予想を超えられるのかに掛かっている。ランが俺の予想を超えられればランの勝ち、逆に俺がランのOSSを完全に予想して捌けたのなら俺の勝ちだ。

 

 

始まったデュエル開始までのカウントダウン。味覚、嗅覚のリソースを極限まで落とし、浮いた分を全て視覚、聴覚、触覚に回す。そしてそれだけでは足りないと確信し、意図的に心臓の鼓動を早める事で体感時間を加速させる。ちょっとばかり寿命が減るかもしれないが、そんなものは些事に過ぎない。何故ならーーーランは命を燃やしながらこの場に立っているから。

 

 

倉橋さんから聞かされたのだが、ランはいつ死んでもおかしく無い状態らしい。俺たちと出会ってから何とか持ち越しているものの、下手をすれば明日にでも容体が急変し、そのまま死ぬかもしれないと言っていた。医者としては本来なら身体に大なり小なりの負担を掛けるALOは止めさせたいのだが、皮肉にもALOがランに生きる気力を与えているとも。

 

 

それはユウキも同じ。彼女たちは残り少ない命を燃やしながらこの大会に、ALOに参加している。ならばーーー最低限の礼儀として、()()()()()()()()()()()()()()()()()。多少寿命が減ったところで後悔はしない。それどころか、何故あの時そうしなかったのかと後悔するに違いないから。

 

 

平時とは比べ物にならない程に跳ね上がる心臓の鼓動。俺の体感時間が加速した事で、相対的に周囲の速度が遅く感じられる。ランの身体の僅かなブレすら知覚できる程に集中力は研ぎ澄まされる。これで()()()()()()()()()()()()()()。ランの状態がユウキとのデュエルの時と同じ状態ならば、今の俺のような体験をしているに違いないから。

 

 

もちろんそのタネは分かっている。俺が体感時間を操作して加速しているのならば、ランは()()()()()()()()()()()()()()()。意図的になのか偶然なのかは分からないが、本来ならば自分の人生を振り返るはずのそれを使ってランは俺と同じ状態になっている。いや、もしかしたらランの方が上なのかもしれないが。

 

 

カウントダウンが1つ減るのが永遠にも感じられる。それがもどかしく、内側から湧き上がる焦燥と肌を刺激する緊張感が何とも心地良い。

 

 

そして残りのカウントが1になった瞬間に、ランは声を出さずに口を動かした。

 

 

ーーー本気で、戦いましょう。

 

 

それに対する答えなんてすでに決まっている。

 

 

ーーー当然だ、本気で戦わない理由が無い。

 

 

そして、ついにカウントダウンがゼロになった。

 

 

ハァァァァァァァァ(〝OSS: 〟)ーーーッ!!!」

 

 

開幕から放たれる神速のOSS。五感の内の2つを極限まで落として残りの3つにリソースを回したというのに残像しか捉えられない程の超加速。初手からOSSを使うと予想していたので後方に飛び退く事で僅かでも刃が届くのを遅らせながら刀を交差させて全身を弛緩させる。

 

 

次の瞬間に聞こえてきたのは轟音、感じられたのは車と正面衝突したのでは無いかと間違える程の衝撃。全身を弛緩させて受け止めるつもりでいたのに余りの威力に吹き飛ばされる。

 

 

予想はしていた事だが、やはり速さというのは脅威だ。例え砂つぶサイズの石だろうが高速で飛んで来たのなら人さえ殺せる凶器になる。確か女性アバターの体感重量は40キロ程、それが神速でぶつかってくるのだからその衝撃はとんでも無い事になる。

 

 

ランはOSSの硬直時間で動けないのだが、吹き飛ばされた事で距離が出来てしまい、それを詰めるよりも先にランの硬直時間が切れて次のOSSの準備が整うだろう。なので詰めることはせずに、着地して体勢を整える事にする。

 

 

「防がれましたか……一応、反応不可能のOSSだったんですけどね」

 

「開幕から使う気はしてたからな。俺が攻撃しようとしてたら今頃真っ二つになってた」

 

 

そう、今のは初めから受け止めるつもりでいたから防ぐことが出来た一撃だった。もしもあれがカウンターで放たれていたら予想出来ていたとしても反応するよりも先に斬られていたに違いない。これで三度目。内一度は直に体験したのだが、直ぐに攻略出来るのかと尋ねられたら首を横に振ることしか出来ない。それ程までにあのOSSは速すぎる。

 

 

一番良いのは打たせない事だろう。どうにかして鞘から抜かせて、納める暇を与えずに攻め続ける。それが最善手だと分かっているーーー()()()()()()鹿()()()()

 

 

あんな素晴らしい技を打たせずに戦う?あり得ない。命を燃やしながら放たれるあの神速の一閃は、残像しか視認出来なかったが言い表せない程の美しさを感じさせてくれた。

 

 

だからーーー()()()()()()()()。あの神速の一閃を、正面から打倒する。それが俺が決めた事だ。それがあのOSSを作り上げた彼女に対する最大の礼賛だ。

 

 

あの神速を目で捉えよう。

 

見えないのなら耳で追いかけろ。

 

聞こえないのなら肌で感じろ。

 

そしてあの神速に追いつく程に加速するのだ。

 

 

「〝勝つ〟のはーーー俺だ」

 

 

今この一瞬を全力で生きている少女に、忘れられない思い出を刻みつける為に、

 

 

 






本気修羅波VS本気ランねーちんの決勝戦。どちらもシステム外補正により超絶強化。

ランねーちんのOSSは反応や予想を振り切る程に速いのがメイン何だけど、40キロのアバターが超高速で突っ込んでくるのでぶつかればとんでも無い事になる。それこそ完全に受け止めるつもりでいた修羅波を吹き飛ばす程に。


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