修羅の旅路   作:鎌鼬

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統一デュエル・トーナメント 西ブロック

 

 

緊張と興奮により他の人にも聞こえるのでは無いかと錯覚してしまう程に脈打つ心臓を宥めようと深呼吸を繰り返す。私がいるのは西ブロックの選手控え室。次が〝統一デュエル・トーナメント〟の西ブロック代表を決める準決勝なのだ。

 

 

相手は実妹のユウキ。負けるつもりは無いのだが、ユウキは〝絶剣〟として多くのプレイヤーに名を知られ、野良デュエルでレコードを持っているのでは無いかと噂される程に対人戦を経験している。私も〝絶刀〟などと呼ばれてヨツンヘイムで何度かデュエルをした事はあるのだが流石にユウキほどには戦っていない。少なくとも対人戦の経験ではユウキに負けているのは事実。

 

 

「ーーーハッ、馬鹿らしいですね」

 

 

弱気になっていることに気が付き、自分の事を嘲笑いながら頬を全力で叩く。確かに対人戦の数では劣っている事は認めよう。だが、質では負けてなどいない。ウェーブさんと戦い、レイド部隊とも戦った。あの時の経験は確実に私の中に生きている。ユウキもウェーブさんと戦ったが、ウェーブさんは素手よりも武器持ちの方が強いのだ。だったら強いウェーブさんと戦った私の方が先を行っている。

 

 

本当だったらウェーブさんは〝統一デュエル・トーナメント〟に出るつもりなんて無かった。彼がデュエルをそんなに好んでいない事が原因だが、私はそれを知った上で彼に〝統一デュエル・トーナメント〟に出るように、そこで彼を倒すと宣言したのだ。

 

 

幸いな事に私とウェーブさんは西ブロックと東ブロックに分かれてすぐに戦うような事は無かった。彼と戦うためには西ブロックの代表にならなければならない。東ブロックにはキリトさんの名前があったが、ウェーブさんならきっと代表になると信じている。

 

 

だからーーー勝たなければならない。私の言葉を馬鹿正直に受け止めて、それを信じてこの大会に参加してくれたウェーブさんと戦うために、私はユウキを倒す。

 

 

案内役のNPCが呼びに来たので控え室から出る。腰に下げているのはボス戦の時に武器を壊れてしまった私にウェーブさんが渡してくれた彼の刀。伝説武器(レジェンダリィ・ウェポン)を入手しておきながら、わざわざそれを潰してオリハルコン・インゴットに変えて鍛冶屋に作らせた特注武器(オーダーメイド・ウェポン)。主街区に着いて転移門をアクティベートした時に借りたままになっている事に気がついて返そうとしたのだが、彼はストックは沢山あるからと行って私にそれをくれたのだ。

 

 

その日からこの刀ーーー〝神刀・イザナミ〟は私の愛刀となった。毎日のメンテナンスは当然だし、自分で手入れをする事も欠かしていない。ウェーブさんにはそのつもりは無いのだろうが、好きな人からの贈り物を大切にしない女の子はいないのだ。

 

 

『ーーーさぁ、いよいよ〝統一デュエル・トーナメント〟西ブロックの代表を決める最後のデュエルが行われます!!トッププレイヤーどころか一歩間違えば廃人プレイヤーにもなりかねないプレイヤーたちを下し、この場に立ったのはこの2人だぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

極度の興奮からなのか裏声になろうとも唾を撒き散らそうとも御構い無しでマイクパフォーマンスをしているプレイヤーの声を少しだけ五月蝿いと思いながら、私のいる入場口とは真逆の入場口から出て来たユウキを視界に入れる。

 

 

『皆さんもご存知だろう、〝絶剣〟の噂を!!たった7人で〝新生アインクラッド〟のボスを倒したギルド〝スリーピング・ナイツ〟の噂を!!彼女こそが!!その〝絶剣〟!!ギルド〝スリーピング・ナイツ〟のリーダー!!十一連撃のOSSと触れる事すら許さない速度を持ってしてここまで勝ち進んで来たーーーユウキィィィィィィィィッ!!!』

 

 

軽快に歩きながらリングに上がったユウキを観客席から歓声が出迎える。囃し立てるような口笛も、真剣な応援も、ふざけ半分の野次も、全てを受け止めて彼女は笑顔で手を振りながら笑っていた。

 

 

やっぱりユウキが一番可愛い。二月の初め頃にウェーブさんとユウキとシノンさんのどっちが可愛いのかでサラマンダーハントをした事があった。最終的にはウェーブさん殺し隊の神風特攻で2人まとめて倒され、復活してからユウキとシノンさんからお説教をされた事で有耶無耶になったがそれだけは譲れない。

 

 

『そんな〝絶剣〟と対峙するのは知る人ぞ知る〝絶刀〟!!〝スリーピング・ナイツ〟の偉業を凌駕する3人で〝新生アインクラッド〟のボスを倒したキチガイギルド〝三身一体(トリニティー)〟の一員!!サラマンダーハントをあのキチガイのウェーブと共に行うというクレイジー!!自称超絶可愛い美少女剣士ーーーラァァァァァァァァァァンッ!!!』

 

 

キチガイ、クレイジー、その上若干黒歴史になりつつある超絶可愛い美少女剣士のワードを引っさげてくれたプレイヤーに向かって中指を立てながらリングに上がる。観客席からの声は女性プレイヤーだからなのかユウキの時と同じようなものが殆ど。しかしサラマンダーのプレイヤーたちはサラマンダーハントの事を思い出したのか罵声を叫んでいたが、どこからか飛んで来た矢に射抜かれて大人しくさせられていた。きっとあの狙撃はシノンさんだろう。ここからでは見えないのだが、サラマンダーのプレイヤーたちが倒れた向きから大体の居場所を逆算してサムズアップを向けておく。

 

 

「姉ちゃん姉ちゃん、キチガイとかクレイジーとか言われた感想は?」

 

「ちょっとはしゃぎ過ぎたかなぁって後悔してます……」

 

 

ウェーブさんと出会えたからテンションが上がっていたことは認めよう。問題なのはそのテンションのままで行動していた事だ。普段ならばもう少し冷静なのだが、夢の中でしか会えなかった彼と会う事が、話す事が、一緒に戦う事が出来ると思うとどうしても興奮が抑えきれなかったのだ。ハイテンションのままで行動すると良くないと学習した。

 

 

「はぁ……まぁそれはそれです。私はウェーブさんと決勝で戦う事を約束してるので貴女の事を倒します」

 

「ボクだってキリトと戦うって約束してるから……姉ちゃんだとしても、倒してやる」

 

「宜しいーーー姉よりも優れた妹などいない事をここに証明しましょう」

 

 

ユウキとの間にウインドウが現れてデュエル開始までのカウントダウンが始まる。その瞬間に、意識を切り替える。ウェーブさんならばそんな事をしなくても平常心のままで戦えるのだろうが、私はそこまで極まっていないので一々意識を切り替えて戦いに望まなくてはならない。

 

 

ユウキが黒い片手剣を引き抜いて中腰に、半身の姿勢になって構える。反対に私は鞘に納めた状態で〝神刀・イザナミ〟の柄を握り、足を前後に開いて身体を前に倒す前傾姿勢になる。構える事で開始から何をするのかをバレてしまうのだが、バレても問題にならないのなら良いのだ。

 

 

カウントダウンが1秒経るごとに私の精神は統一され、観客席からの声が遠くなり、視界にはユウキしか入らなくなる。耳に届くのは私の心臓の鼓動だけ。トクントクンと、一定のリズムを刻む音しか聞こえない。視界に映るユウキの動きが段々と()()()()()()()。僅かな重心の移動や手足の強張りなどが()()()()()()()()。全てが遅滞していく世界で、私の心臓の鼓動だけは平時と変わらないリズムを刻む。

 

 

そしてーーーカウントダウンはゼロになった。

 

 

「フーーーッ!!」

 

 

短い気合の掛け声と共にユウキが飛び出して来た。その瞬発力は突進系のソードスキルに迫る程の加速を見せ、片手剣の切っ先を私に向けながら突進してくる。成る程、私は今日までユウキとデュエルで戦ったことは無かったがここまで速く動けるプレイヤーは数える程しか見た事がない。野良デュエルで無敗だと聞いていたから強い事は分かっていたが。

 

 

確かに速いーーーだけど、遅い。最短距離を全力で真っ直ぐに進んでいるだけ。虚を織り交ぜる事で本命を誤魔化そうとしない、実直な動きだった。考える事が苦手で思いつくままに行動するユウキにはそれは難しいかもしれないが、それでもフェイントの1つくらいは混ぜて欲しかったと思いながらウェーブさん直伝の縮地で片手剣の刺突を避けながら()()()()()()()()()()

 

 

私の動きは見えていたのだろう、ユウキは驚いているような顔をしながらブレーキをしようとするが、その前に肩でユウキの胸にぶつかる。衝突の衝撃で私はその場に止まり、ユウキは僅かに宙に浮いて後ろに吹き飛ばされる。ぶつかる事への備えをしていたかどうかの差。そしてこの差こそがユウキを倒す絶好の瞬間。

 

 

斬る(〝OSS: 〟)ーーー」

 

 

鞘に納めていた〝神刀・イザナミ〟にソードスキルのライトエフェクトを纏わせながら一閃。システムアシストに突き動かさながら放たれた神速の抜刀がユウキの両足を斬り落とし、ブーツが摩擦熱で生じた煙を上げながら静止する。

 

 

ただ誰よりも速くと、夢の中の彼にも届くようにと願って私はこのOSSを作り出した。いくら反応速度に優れてようとも、未来予知じみた行動予想だろうとも、それを上回る速度で斬れば関係無い。ただ速いから回避不可能というOSS。

 

 

「うわっ!?」

 

「……どうしますか?」

 

 

気がついたら足が無くなっていた、そんな風なリアクションを取りながらユウキはリングに倒れた。首筋に〝神刀・イザナミ〟の切っ先を突きつけながら問う。まだユウキのHPはグリーンなのだが両足を失う部位欠損を発生している。足が無ければ立てなく、そして戦えない。仮に戦う意思を見せたところで身動きの取れない相手なんて敵では無い。

 

 

ユウキもそれを分かっているのか、それでもキリトさんとの約束が尾を引いているのか、数秒程うんうん唸ってから深く溜息を吐き、両手を挙げてーーー

 

 

「ーーー降参、ボクの負け」

 

 

ーーー降参を宣言した。

 

 

『ーーーハッ!?し、試合終了ォォォォォォォッ!!!勝者はラン選手!!な、何と一撃で西ブロック代表決定戦は終わってしまった!!おいカメラ班!!スーパースロー映像持ってこい!!何があったか分からねぇんだよ!!』

 

 

遅滞していた視界が元の速度に戻り、遠く離れていた観客席からの声が元に戻る。観客席からの騒めきを聞く限り、私のOSSを誰も見る事は出来なかったらしい。すれ違ったら決着していたと、そんか感じだろう。

 

 

「ほら、立てないでしょ?おんぶしてあげますよ」

 

「あ、ありがと〜」

 

 

両足を無くして歩けないユウキのために姿勢を低くすると背中にユウキがのし掛かってくる。立ち上がり、ユウキを背負いながらリングを降りる。その時に、背中に感じられる重みに少しだけ悲しくなった。

 

 

アバターの体感体重は40キロそこそこ、両足を無くしているユウキのそれよりも軽いーーーだけど、現実世界の私たちの身体はそれよりも更に軽いのだ。〝メディキュボイド〟に繋がれている私たちの身体は動かさず、そして食事を摂ることもしていないので骨と皮だけの状態になっている。どうか足掻いても今の私とユウキのアバターよりもあちらの私たちの身体の方が軽い。

 

 

不意に感じた現実世界との差異に悲しさを感じながら、いつか来る終わりに恐怖しながらーーーそれでも、楽しく生きようと誓いながら、私はユウキを背負って入場口に引き返した。

 

 

 






ランねーちんVSユウキチャン、勝者はランねーちん。反応される?予想される?それよりも速く斬れば良いとかいうトンデモOSSで圧勝。

〝統一デュエル・トーナメント〟は二月の中旬の出来事だ……それ以上は言わなくても分かってくれるな?


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