修羅の旅路   作:鎌鼬

63 / 75
統一デュエル・トーナメント 東ブロック

 

 

二月の中旬、ALOに存在するコロシアムは普段は無人だというのに、今日に限ってはALOプレイヤーの殆どが集まっているのでは無いかと思う程の賑わいを見せていた。その理由は〝統一デュエル・トーナメント〟が行われたから。その名の通りにデュエルでALOで一番強いプレイヤーを決めるという運営公認の大会で、ネット放送局〝MMOストリーム〟で生中継される程、GGOでいうところのBOBと同じだ。

 

 

今回の〝統一デュエル・トーナメント〟で4回目になるこの大会に、本当だったら俺は参加するつもりは無かった。俺の中では戦い=野良試合というイメージで固められていて、用意ドンで始まるデュエルにはそんなに興味が惹かれなかったから。だけど参加しているのは、ランに誘われたから。彼女がこの大会で俺に腹パンされたことのリベンジをすると宣言したからこうして〝統一デュエル・トーナメント〟に参加する事に決めたのだ。

 

 

あの宣戦布告には痺れた。刀の切っ先を向けて、胸を張り、威風堂々と俺のことを倒すと叫んだランの姿はGGOでトラウマと向き合う為の強さを求めていた頃のシノンを思い出させてくれた。今のシノンも素敵だが、あの時のシノンには立ち向かおうとする意志を感じられた。それに惹かれてしまい、出るつもりのなかった〝統一デュエル・トーナメント〟に出ているわけだ。

 

 

〝統一デュエル・トーナメント〟は東ブロックと西ブロックの2つに別れて決勝戦でそれぞれの勝者が戦う方式だ。そして、次のデュエルで東ブロックと西ブロックの代表を決める、事実上の準決勝。

 

 

『ーーーさぁ!!次のデュエルがいよいよこの〝統一デュエル・トーナメント〟の東ブロック代表を決めるデュエルとなります!!トッププレイヤーが犇めき合うこの大会で、東ブロック代表の座を争うのはこの2人だぁぁぁぁぁぁッ!!!』

 

 

観客席の声に負けない声量でマイクを片手にパフォーマンスを決めているプレイヤーに従うように案内をプログラミングされていたNPCを残してコロシアムのリングへと上がる。

 

 

『最初に現れたのはALOプレイヤーならば誰もが知っているであろうキチガイオブキチガイ!!田植えと称して単独で種族単位に襲撃を仕掛けて埋めること21回!!PK回数ALOダントツ!!そしてソロだと思ってたらいつの間にかギルドを作って、しかも3人だけで〝新生アインクラッド〟のボスを攻略したどこをどう考えても生まれる時代を間違えたキチガイーーーウェェェェェブゥゥゥゥゥッ!!!』

 

 

観客席から聞こえてくるのは歓声ーーーでは無くて恐怖から来る叫び声。どうやら俺の被害者なのだろうプレイヤーたちが打ち合わせたかのように叫び出し、トラウマでも持っていたのかサラマンダーの集団が速攻で逃げ出していくのが見える。その中でも逃げ出すことなく叫ぶ事なく、殺意の篭った視線で睨んで来るのはウェーブ殺し隊に違いない。流石に大会中なので自制しているのだろうが、大会が終わった途端に襲い掛かってきそうだ。

 

 

『そんなキチガイと対峙するのは!!上から下まで全身黒尽くし!!年末にはなんと〝エクスキャリバー〟を入手したとも噂されているALOでも数少ない二刀流使い!!〝バーサクヒーラー〟とゲーム内だけではなくリアルでも男女交際をしているらしいリア充!!その上周囲には美少女だらけ!!爆発しやがれーーーキリトォォォォォォォッ!!!』

 

 

最初から最後まで見事に私怨だらけの口上が述べられて、キリトがリングへと上がって来る。観客席からは俺の時とは違い歓声、中にはキリトが気に入らないのかブーイングが聞こえて来るがピンク頭のプレイヤーがメイスを担いで走るのが見えたのでその内静かになるに違いない。

 

 

「すげぇ、最初から最後まで私怨しか無かったぞ」

 

「正直止めてほしいんだけどなぁ……」

 

 

キリトが苦笑いしながら頭を掻いているが、俺の視線はキリトの背中ーーーいつもならば一本しか担がれていないはずの剣が二本になっている。

 

 

キリトが二刀流使いなのはALOでも噂になっている事なのだが、実際に二刀流で戦っている姿は数えるほどしか目撃されていない。俺と戦う時は片手剣だった。レイド部隊と戦った時には二刀流だったとは記憶しているが、あの時はアスナと〝スリーピング・ナイツ〟のメンバーの為に負けられない戦いだったからと考えれば納得出来る。

 

 

つまり、キリトはこのデュエルに……正確には、俺に勝つつもりで挑もうとしている。

 

 

「勝つつもりか?いっつも俺にボコボコにされてるお前が?」

 

「あぁ、ユウキと決勝で全力で戦うって約束したからな」

 

「成る程ねぇ……生憎だけど、俺も負けるつもりはないぞ?俺もランと決勝で戦うと約束してるからな」

 

「知ってるよ……だから、()()()()()()()()()()

 

「その挑戦、受け取ったーーー全身全霊、死力を尽くして限界を超えて掛かってこい」

 

 

俺とキリトの間にモニターが投影されてカウントダウンが始まる。キリトは二本の片手剣を引き抜いて構える。リアルで剣道でもしていたのであろうその構えは中々に様になっている。だがその剣はSAOで生きる為に磨き上げられた我流だと俺は知っている。

 

 

それに呼応するように俺も腰に下げていた刀を二本引き抜き、構えずに自然体で立つ。戦う時に意識を入れ替えるような無駄なことはしない。自然体こそ、平常心こそが戦闘可能状態というイカれた漣の本能を曝け出しーーー漣の全てを持ってしてキリトと相対する。

 

 

キリトの目から伝わって来るのは本気の闘志。ユウキとは()()()()()と約束したと言っていたが、今のキリトは間違いなく()()()()()()()()()()()。キリトが本気で戦おうとしている事を内心で喜びながら、それでいて表には出さないように努めながらデュエル開始の瞬間を待つ。

 

 

カウントが10を切った頃には騒がしかったコロシアムは静寂に包まれていた。誰もが俺たちに視線を向け、一挙一動を見逃さないように集中している。

 

 

そしてーーーカウントが0になる。

 

 

『デュエル開始ぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーッ!!!』

 

 

デュエルの開始を告げるブザーが鳴り響くと同時に互いに飛び出す。キリトは兎に角間合いを詰める事を意識しているのか全力で突っ込んで来る。なので俺はそれを意識しながらタイミングを合わせる。

 

 

「ォォォォォォォーーーッ!!」

 

 

同時に振り下ろされるキリトの剣。そのままで行けば俺にXの傷跡を刻んだであろうその一閃は()()()()()()()()()()()()のを、視界を上下逆さまにしながら()()()()()()()()()()()()。呼吸を合わせるまでもなく、キリトの初動は読み取ることが出来た。なのでそれに合わせて跳躍し、体勢を逆さまにしながらキリトの背後を取った。

 

 

無防備なキリトの背後を取りながら左右の刀で左腕と右足を狙う。キリトがそのまま走り抜けるよりも俺の刀が左腕と右足を切り落とす方が早い。()()()()()()()()()()()()()()()()そうなるのだがキリトは違う。振り切った剣を背中に回して左腕を切り裂く刀を防ぎ、その場で左足を軸にしてターンしながら右足を狙っていた斬撃を躱し、独楽のように回りながら俺の腹に深くは無いが一閃を入れた。

 

 

無茶苦茶な動きをしておきながらキリトの体勢は崩れていない。腹の傷は直前で腹を引っ込めることで軽傷に留めたのでHPこそ削られたが然程痛みは無い。状態を確認しながら着地し、同時にキリトの呼吸を盗んで縮地で無意識の領域に踏み込む。その一連の動作にキリトは反応出来ていない。キリトはランやユウキのように人並み外れた反応速度を持っているが、それは()()()()()()()()ものだ。見えない、もしくは認識出来ないものに関しては人並み外れた反応速度を働かせる事は出来ない。

 

 

俺の刀がキリトの首と腕を断つーーーその直前で、キリトは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。先の動きにキリトは反応出来ていなかった。なのでこれは()()()()()()()。過去にキリトと戦った時、俺は何度も無意識の領域からの攻撃でキリトを倒していた。なのでキリトの身体は俺が認識出来ない時に、俺が無意識の領域にいると覚えている。

 

 

首と腕に届くはずだった一閃はキリトが動かない前提で放ったもの。故にキリトが動いてしまえば狙いはズレる。首を断つはずだった刀は空を斬り、腕を断つはずだった一閃は肩に入る。そしてタックルにより俺は無意識の領域から押し出され、キリトは俺を再認識した。

 

 

普通ならばそこで一旦距離を置いて仕切り直しでも考えるのだがキリトは逆に踏み込んでくる。俺を相手にそれをする事が不利になると分かっているから、下手に間を開ければ俺が攻めに回る事を知っているからキリトはひたすらに攻め続ける。そうなれば俺は受けに回らざるを得ない。いつもならば適当に受け流しながらカウンターから反撃をするのだが、キリトから発せられる気迫と闘志がそれを拒む。

 

 

受け流そうとする刀は弾かれ、避けようとしても軌道を修正しながら振るわれて防御を強制される。そのタネはやはり反応速度。キリトは俺の動きを見てから反応出来る。つまりはジャンケンで常に後出しをしているのと同じ。受け流そうと構えた刀には流されないように剣を当て、避けようとしても見えて反応されるので意味が無い。

 

 

猛攻を受けながら削られるHPを見ながら、キリトが本当に本気で戦っている事を喜ばずにはいられなかった。キリトはユウキと全力で戦う為に俺を本気で倒そうとしているーーーつまり、俺の事はただの障害としか見ていない。その事には少しだけ寂しく思うのだが、それを上回る歓喜があるので問題無い。いつもならば負けても良いと嬉々として戦っていただろう。

 

 

だが、ダメだ。キリトがユウキと戦う為に俺を倒そうとしているように、俺もランと戦う為にキリトを倒そうとしている。

 

 

互いに果たしたい約束があり、その為に戦っている。

 

 

条件は同じ、ならばこそ負けるわけにはいかない。勝たなくてはならない。

 

 

「〝勝つ〟のはーーー俺だぁッ!!」

 

 

勝利宣言を叫びながら、キリトの斬撃を()()()()。受け流し、回避が共に不可能なら取れる手段は迎撃しかない。防御に徹してキリトの猛攻が途切れるまで耐えるのもありだが、()()()()()()()()()()

 

 

キリトの全身全霊の本気を、真正面から叩き伏せたい。

 

 

「吠えたなーーー〝勝つ〟のは、俺だぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

キリトもまた、勝利宣言を叫んだ。俺がそうであるように、キリトも勝利を望んでいるのだから当然の事。打ち合わせた訳では無いのに互いに足を止め、目の前の敵を倒す為に死力を尽くす。キリトの乱撃を全て迎撃する。斬撃をぶつけ合うごとに手が痺れるがそれを無視して柄を握り潰さん程に力を込めて斬撃を放つ。

 

 

キリトは見てから行動出来るが俺にはそんな事は出来ない。俺が出来るのは相手の行動を予想する事だ。相手がどういう状態で、とんな軌道で、どれ程の威力の攻撃をするのかを常に予想して最善手を出し続ける。一手や二手程度では無い、数十手先まで予想出来るのでシノンから未来予知などと言われているが漣ではこれは普通な事だと教えられている。

 

 

普通の相手ならばそれで倒せるのだが、相手は異常の領域にある反応速度を持っているキリト。()()()()()()()()()()()()、その全てを()()()()()()()()()()。予想し続ける俺と反応し続けるキリト。全く真逆のタイプによって行われる剣戟は全くの互角。

 

 

ーーー()()()()()()()()()()

 

 

幾ら予想しても反応される?ならば手を動かせ、攻撃の回転率を上げろ。相手が反応出来ない速度にまで加速すれば良い。歯を食い縛りながら、もはや感覚の無くなりつつある手にさらに力を入れる。愚行だと言われるのは重々承知。だが正面から叩き伏せたいと思ったのだ。

 

 

ならばーーーそうするだけだ。

 

 

「ーーーッ!?」

 

 

鬼気迫る表情だったキリトの顔が歪む。互角だったはずの剣戟は徐々にキリトが押され始める。反応出来ていたはずの俺の斬撃への反応が遅れ始める。迎撃のつもりで放っていたはずの斬撃が、いつの間にか攻撃にへと変わり出す。

 

 

キリトは間違いなく本気だったのだろう。二刀流、気迫、雰囲気、そして反応速度までがこれまで体験したことの無いほどのものだったーーーそれよりも()()()()()()()()()()()()

 

 

渾身の振り上げを放つ。キリトはそれを剣を交差させながら受けたものの、身体を宙に浮かせながら弾き飛ばされる。俺と同じで握っている感覚は殆どないはずなのに剣を手放そうとしないのは素直に驚いた。その事を賞賛するでも無く、キリトの両腕を斬り落とし、無防備な急所二点(喉と心臓)を突き穿つ。

 

 

そのままHPを全損させようとしたところで、俺とキリトの間に時間切れを表すTIME UPの文字が現れた。熱中していたせいで制限時間になってしまったらしい。

 

 

HPを確認すればーーー数ドットの差で、俺の方がHPの残量が多かった。

 

 

『ーーーし、試合終了ォォォォォォォッ!!勝者はウェーブッ!!手に汗握る戦いで思わず魅入ってしまいました!!なんでこれが準決勝なんだよ!!もう決勝でいいだろうが!!』

 

 

勝った、そう思った瞬間に手から刀が零れ落ちる。手には感覚は無く、握ろうと動かしても弱々しくしか動かさなかった。

 

 

「負けたか……」

 

「正直、負けるかと思ったわ。流石は英雄様だ」

 

「思ってもない言葉を言うんじゃないよ……ユウキとの約束、守れなかったな」

 

「後でデュエルでもすればいいだろうが。観客は少ないかもしれないけど〝絶剣〟と〝黒の剣士〟ガチのデュエルだ。誰も見たがるに決まってる」

 

 

慰めの言葉なんて言うつもりはない。キリトが勝ちたいと思ったように、俺も勝ちたいと思う理由があったから。西ブロックでは今頃ランとユウキが代表の座を争っているに違いない。

 

 

ランが代表の座を勝ち取る事を願いながら、大の字で倒れるキリトに背を向けてリングから降りることにした。

 

 

 






原作ではさらりと流された〝統一デュエル・トーナメント〟にピックアップ。ちょこっとだけ出てきた話を膨らませるのは楽しくてな。

本気修羅波VS本気キリトという夢のカードを実現。キリトも善戦したけど、覚醒と進化と限界突破をデフォで持ってるキチガイには流石に勝てなかったよ……


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。