修羅の旅路   作:鎌鼬

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バーベキュー

 

 

たった3人のギルド〝三身一体(トリニティー)〟が単独でボス攻略を成功させ、〝剣士の碑〟に名前を刻むというアスナと〝スリーピング・ナイツ〟の成し遂げた偉業を上書きする偉業を成し遂げてから3日が経った。〝剣士の碑〟に名前を刻み、あとは飽きるほどのアルヴヘイムを冒険する予定だったのだが、アスナから22層にある彼女の家でバーベキューをするから来ないかと誘いがあった。

 

 

断る理由は無い。なのでシノンとラン、そしてシュピーゲルを誘い、バーベキューに参加する事にした。

 

 

「ーーーみんなジョッキは持ったわね?それじゃ、乾杯ッ!!」

 

「「「「「ーーー乾杯ッ!!」」」」」

 

 

アルコールを入れた木製のジョッキを手に持ち、乾杯の音頭に合わせて近くにいたもの同士でジョッキをぶつけ合い、それを一気に煽る。

 

 

このバーベキューに参加したのはアスナやキリトと一緒にいるいつものメンバー、ユウキを含めた〝スリーピング・ナイツ〟、それだけではなくシルフ領主のサクヤ、ケットシー領主のアリシャ、サラマンダーのユージーン、その側近を合わせて30人以上も集まっている。わざわざ食材を集める為だけにパーティーを結成する事になるとは思わなかった。

 

 

「ウェーブ!!俺と戦えぇぇぇぇぇ!!」

 

「はいドーン」

 

 

予想してはいたけど出来ればそうならないで欲しいと願っていたが現実は非情であるらしくジョッキを投げ捨ててユージーンが襲い掛かってきた。なので発勁で腹パン決めてから刀で両手両足を斬り落として首元と胸を刻むように抉って〝残り火(リメイン・ライト)〟に変えてしまう。

 

 

「相変わらず容赦無いなぁ」

 

「あんなバーサクヒーラー以上のバーサーカー相手に容赦する意味が分からん。復活したらしばらくは大人しいだろうけど、また襲い掛かって来るぞ」

 

「ヨツンヘイムにでも捨てておいた方が良いんじゃないかな?」

 

「そうしたらそうしたらで霧の巨人族引き連れて向かって来そうなんだよなぁ……」

 

「何が恐ろしいのかってそんな光景を想像しても違和感を感じない事だよね」

 

 

リアルでもゲーム内でも久し振りにあったシュピーゲルだがアルコールが入っているからなのか普段よりもテンションが割と高いように思える。今もエールの入っている樽に頭から突っ込もうとして〝スリーピング・ナイツ〟のシウネーに止められている程だ。

 

 

サクヤとアリシャはユウキを始めとした〝スリーピング・ナイツ〟のメンバーを傭兵として自分の種族に招こうとしているが誰もがそれを断っている。ユウキたちは病気で三月いっぱいで〝スリーピング・ナイツ〟を解散すると聞いているのでそれが原因なのだろう。流石にその事はこの場では口にしていないので、知っているのは俺とシノンとアスナ、それとキリトくらいになるが。

 

 

「そこ、手を休めない。中華は火が命よ」

 

「ハイ!!師匠!!」

 

「ウェーブさ〜ん、次の料理が出来ましたよ〜」

 

「お、ありがと」

 

 

小さな身体でフラフラと大皿を抱えているナビゲーションピクシーのユイにバーベキューをしているはずなのに何故か中華鍋を振るって料理を作っているランとそれを監督しているシノンを見る。確かにダンジョンアタックをしている時に料理の話をしていたのだがどうしてこの場でそれをしようと思ったのか分からない。それでも俺からした約束を反故する訳にはいかず、大皿の上に山盛りに積まれた焦げた料理に手をつける事にした。

 

 

「よぉ、凄いの食べてるな」

 

「〝料理〟スキル取ってなかったランの料理だからこんなものだろ」

 

 

ジョッキを片手に持ってやって来たキリトにそう返しながら焦げた料理を食べ進める。キリトの背後では怪しげな煙を上げているジョッキを持ったリズベットが野獣の眼光としか表現出来ない目でキリトの事を見ていて、シリカとリーファが全力でそれを止めようとしている。あのジョッキの中身を飲まされた瞬間、キリトの人生は色んな意味で終わりを迎えてしまうので2人には頑張って欲しいところだ。

 

 

「それにしても3人でボスを倒すとはな。前々から頭おかしいと思ってたけど再認識した、やっぱり頭がおかしいって」

 

「頭のネジが緩んでるのは認めるけど俺はまだマシな方なんだよなぁ……うちの爺さんと母さんは確実に頭のネジ無くなってる真性のキチガイだし。この間のレイド部隊と戦ったの覚えてる?あの後2人をALOに居させない為にGGOを紹介したら、なんかGGOのスレで賞金首扱いされてたぞ」

 

「それってもうキチガイとかいうレベルを超越した何かじゃないか……GGOプレイヤーたち心を病むんじゃないか?」

 

「そこら辺は自己責任でどうにかしてもらいたいね。もう2人の危険性は分かってる頃だろうし、最悪運営から幾らかの弱体食らうでしょ」

 

 

流石にGGOの運営はそこまで無能では無いと信じたいのだが、〝死銃〟事件の際に使われていた〝メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)〟の事を思えば断言出来ない悲しさがある。あのガチキチ2人が野放しに暴れ回れば最悪GGOのサービス中止まで考えられるのだが、そこは運営とGGOプレイヤーたちに任せるしかない。

 

 

一皿目の焦げた料理を平らげると即座に二皿目の焦げた料理が運ばれてくる。味は焦げで苦味しか感じないし、そこそこに量が多い。これがもしもリアルだったら後二、三皿も運ばれて来たら限界なのだが、幸いな事にゲーム内では満腹感はあれど物理的に満腹になる事はない。口の中を持って来ていたワインで洗い流してから黙々と二皿目に手をつける事にする。

 

 

その頃にはリズベットVSキリト守り隊の戦いに気が付いたアスナが参戦してデュエルじみた事をしていた。アスナ、リーファ、シリカにピナという四対一の構図なのにリズベットは怪しげな煙を上げているジョッキを離す事なく片手でメイスを振り回して拮抗していた。その最中でジョッキの中身が溢れてエギルに愚痴を溢していたクラインにかかる。するとクラインは突如として苦しみ出し、数秒で〝残り火(リメイン・ライト)〟に変わってしまった。それを見て流石に不味いと考えたのか、顔色を変えたキリトがキリト守り隊の加勢に向かった。

 

 

あのジョッキの中身に戦慄していると、サクヤとアリシャの勧誘から逃げて来たユウキが俺の目の前に座った。

 

 

「あ〜疲れた!!もう、ボクたちはスカウトは受けないって言ってるのに!!」

 

「そうとは言ってもユウキたち〝スリーピング・ナイツ〟は強いからな。サクヤやアリシャの立場からしたら欲しくなるんだろうよ」

 

「でもユージーンさんはそんな事しなかったよ?」

 

「あいつはホラ、乾杯と同時に俺に斬り掛かってくるキチガイだから」

 

「それで納得出来ちゃう辺り悲しいなぁ……」

 

 

あれでもユージーンはまだマシな部類に入るという事実があるのだがユウキには言わないでおこう。サラマンダーの中にはウェーブ殺し隊とかいうトチ狂った連中もいる。ユージーンの場合は圏外で正面から斬り掛かってくる程度なのでさっきのように軽く流せるのだが、ウェーブ殺し隊の場合は数十人が全員自爆魔法を使って特攻してくるという神風スピリットの持ち主なのだ。しかもこちらの都合とか一切関係無しで。レアモンスターとエンカウント出来て喜んだ瞬間にウェーブ殺し隊の神風特攻で〝残り火(リメイン・ライト)〟になった時の恨みは忘れない。一時期ALOからサラマンダーが姿を消す程にサラマンダーをハントしたけど、恨みは未だに薄れていない。

 

 

「お兄さんお兄さん!!目が何だか怪しくなってるよ!!」

 

「……あぁ、ゴメンゴメン。サラマンダーへの恨みが出て来てね。そうだ、今度一緒に田植えしない?」

 

「田植えって言うけど絶対にロクでもない事だよね?」

 

「失礼な……ただサラマンダーで植え付けをするだけなのに」

 

「そんな事絶対にしないからね!!」

 

 

ユウキに断られてしまったのでランでも誘おう。彼女なら嬉々として田植えに参加してくれるはずだ。シュピーゲルを囮にして俺とランで奇襲、混乱しているサラマンダーを一匹ずつシノンの麻痺矢で狙撃して田植えをする。実にパーフェクトな作戦だ。

 

 

「……お兄さん、本当にありがとう」

 

「お礼を言われる事は……まぁ割としたな。だけど改まって言われるような事したか?」

 

「ラン……ううん、姉ちゃんの事だよ」

 

 

二皿目を片付けて三皿目をテーブルの端に置いておく。笑いながら話せる空気ならば食べ続けるのだが、流石に真剣な話で食べ続けるのは失礼だ。

 

 

「姉ちゃんさ、三年前からずっと無理してるように見えたんだ。ボクが泣いてる時も、落ち込んでる時も、ずっと笑っててさ……見てて痛々しくなるくらいに、ボクを励ますように笑ってたんだよ。でも、お兄さんと会ってからはそんな風に笑わなくなったんだ。だからありがとう、姉ちゃんを笑わせてくれて」

 

「笑顔を見るなら自然な笑顔を見たいって個人的な欲求があったからそうしただけだ。それに、俺は別に何もしてない。ランが勝手にそういう風に笑っただけだよ」

 

「それでも、やっぱりありがとうなんだよ。あんな風に笑う姉ちゃんを見るのは久しぶりだから。本当に楽しそうに笑ってるから……」

 

 

確かに、シノンのアドバイスを受けながら中華鍋を振るっているランは初めて出会った時とは比べ物にならない程に自然な笑顔になっていた。あの笑顔を三年間も見続けて来たユウキからしてみれば、俺のやったことは確かにお礼の1つでも言いたくなるようなものなのかもしれない。

 

 

「……素直に受け取っておくよ」

 

「うん……ところでさっきから食べてるのって何?食べれる物なの?」

 

「ランが作った失敗作の料理。焦げの苦味を我慢すれば食べれるな……いるか?」

 

「いらない」

 

 

そうかと呟いて三皿目の料理を口に運ぼうとした時、五人からの猛攻を逃げながら躱していたリズベットが俺の頭上を通過した。その時にジョッキの中身が僅かに溢れて口に運ぼうとしていた料理の上にかかる。

 

 

これを食べたら死ぬと直感が喚き散らしたので口に向けて動いていた手を止めるーーーそして、無理矢理に止めた反動で、少しだけ口の中には入ってしまった。

 

 

「ゴボーーーッ」

 

「お、お兄さぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

叫ぶユウキの姿が最後に見た光景だった。

 

 

 






こういう頭を空っぽにして書ける話が本当に好きでな。シリアスっぽい感じを出しながらも最後にはギャグで落ち着くのが本当に好き。


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