修羅の旅路   作:鎌鼬

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ボス攻略・2

「ーーーウェーブさぁん!!刀が壊れましたぁッ!!」

 

「ーーー素手で殴れ!!大丈夫、お前ならやれるはずだ!!多分!!」

 

「出来る訳ないじゃないですか!!人を戦闘特化のキチガイ扱いするのは止めて下さい!!」

 

「成長先の俺の動きを真似てる時点でお察しなんだよなぁ……」

 

 

28層ボスとの戦闘から2時間が経過した。すでに俺の手甲の耐久値は10%を切っていて一度殴る度にギチリと嫌な警告音を軋ませる。シノンも手持ちの矢が尽きかけている、なので俺とランが持って来ておいた矢を補充したがそれが無くなったらお終いだ。ランはランで使っていた刀が折れたとボスの踏みつけを避けながら叫んでいる。なので使っていない刀の一本をストレージから取り出して投げ渡す。

 

 

ボスのHPはシノンが火矢をボスの狭い口に入れるという活躍によって1本を削り、現在は2本目に突入している。たが、それももう限界だ。2時間かけて手持ちの矢をほとんど使ってそれだけしか削れてないのだ。ダメージが入ることから他の部位よりも柔らかいのは分かるのだが、それでも堅い事には変わらないらしい。

 

 

俺が殴り続けている巻貝はというと1時間殴ったところでようやくヒビが入り、2時間も殴り続けてそのヒビが巻貝全体に広がっている。手応えはあるが、このペースで行けば間違いなく先に手甲が壊れるのは簡単に予想が出来る。

 

 

最悪素手で殴る事も考えないといけないなぁと考えながら、ボスの背中を踏みつける震脚と巻貝を殴る発勁の手は止めない。

 

 

オラオラオラオラ(〝震脚〟〝発勁〟〝震脚〟〝発勁〟)オラオラオラオラ(〝震脚〟〝発勁〟〝震脚〟〝発勁〟)ーーーッ!!」

 

 

一発震脚と発勁を叩き込む度にボスの動きが止まる。俺の存在を煩わしく思っているのかボスは時折ハサミを背中に伸ばし、俺の事をはたき落とそうとするが、その動作に入った瞬間にシノンが火矢でボスのハサミを弾き飛ばしているので心配していない。

 

 

一番消耗しているのは間違いなくランなのだが、囮は必要不可欠なので助けることはしない。

 

 

「ウェーブさん!!堅いって言っても斬れるんじゃないですか!?夢の中のウェーブさんは斬鉄剣が通常攻撃だとか言ってましたし!!」

 

出来なくはないけどしない(〝震脚〟〝発勁〟)ッ!!

斬れるけど無理矢理斬ってるだけだし(〝震脚〟〝発勁〟)ッ!!

耐久値の減りが早いからな(〝震脚〟〝発勁〟)!!」

 

 

そもそもこの巻貝相手に斬鉄が通用するかどうかが怪しくなってくる。斬鉄で斬る事が出来るのは名前の通りに鉄まで、そこから先は武器の性能と使う人間の力量に影響される。武器に関してはリズベット製作の刀なので業物、それに俺の力量を考えても鉄以上の硬さは普通に斬ることが出来る。しかし、こうして殴っている感じでは、この巻貝は俺の斬鉄では()()()()()()()()()()()()ほどに堅いのだ。斬れるのならまだ良いが、斬れなかった場合は無茶な使い方をしたツケで耐久値が一気に削られてしまい、下手をすればそのまま壊れてしまう。

 

 

そうなってしまえば俺たちは戦うことが出来なくなる。ダンジョン探索に5時間、ボス戦に2時間、計7時間も消費して現在の時刻は4時前と言ったところだ。学校が終わってログインするプレイヤーが増えれば、誰かが俺たちのボス戦に気がつくだろう。そうなればアスナと〝スリーピング・ナイツ〟の時のような事になりかねない。ここまで移動するだけでも疲れるのにそこから封鎖しているプレイヤーを倒してボスに挑むのは現実的ではない。

 

 

なのでこの挑戦でボスを倒さなくてはならない。そう考えながらもう何度目か分からない発勁を叩き込みーーー

 

 

「ーーーあ、やべ」

 

 

ーーー耐久値がゼロになった手甲にヒビが入り、粉々に砕け散った。打撃武器のロストという致命的としか言えない結果に思わずボスの背中を掴む足の力を緩めてしまう。しかし、最後に発勁を叩き込んだ瞬間に巻貝に入っていたヒビがさらに広がったのが分かった。あと数発殴れば壊れるかもしれないと希望が出てくる。

 

 

その瞬間、ボスが足を曲げて身を低くしーーー()()()()()()()()

 

 

「避けろーーーッ!!」

 

 

何が目的なのか考えなくても予想出来る。ボスを蹴って空中で離れ、その真下にいるシノンに呼びかける。跳躍するのは予想出来なかったのか、シノンの顔は上を見ながら驚愕に染まっていた。このままでは逃げ遅れて、落下を始めたボスにシノンが潰されるーーー

 

 

「ーーーシノンさん(〝歩法:縮地〟)ッ!!」

 

 

ーーーその間際にランが縮地を使いながらシノンとともに落下地点から逃れるのが見えた。まさに危機一髪としか言えないタイミングで2人は危機を免れる。

 

 

「死ねテメェーーー!!」

 

 

そして俺は回転しながら落下し、重力と遠心力を味方につけながらヒビだらけの巻貝に向かって踵落としを決める。システムアシストの無い一撃が突き刺さり、巻貝が嫌な音を立てながら軋んだ。あと少し、そう確信させるのには十分な反応だったがその代償は大きい。

 

 

今の踵落としで、反射ダメージにより足首から先がポリゴンになって砕け散った。

 

 

やっぱりかと半ば予想していた結果を驚きも無く受け止める。システムアシストや脚甲などがあれば別なのだろうが、そんな物を着けずに攻撃をしてしまえばこうなることは目に見えていた。砕けていない左足で巻貝を蹴り、跳躍からの落下で動けないボスから距離を取る。

 

 

シノン(〝以心伝心〟)ーーー」

 

「ーーー分かったわ(〝以心伝心〟)

 

 

シノンの名前を呼ぶ、それだけで彼女は俺が何を求めているのか理解して行動に移してくれる。矢筒に入っていた矢をありったけ取り出して弓に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ーーーフッ(〝弓:スターダスト・エクサ〟)!!」

 

 

短い掛け声と共に鏃をボスの上空に向けて一気に矢を放った。そのままの軌道で行けば矢は全て天井に突き刺さるのだがソードスキルなのでそんな法則は適応されない。天井間際まで近づいた瞬間に矢は鏃を下に向けて方向転換し、ボスに向かって降り注ぐ。しかもその全てが火矢。実に50本もの矢がボスに雨のように降り注ぎ、着弾するのと同時に爆発する。全身を矢と爆発の雨に襲われ、爆炎から出てきたボスは巻貝だけでは無くて全身の殻にヒビが入って見るも無惨な姿になっていた。

 

 

「ラン、行けるか?」

 

「えぇ、任せて下さい」

 

 

あと一押しの状況で、ストレージから出した回復ポーションを飲みながらランに託す。一応片足でも戦える術は教えられているのだが、無理をしなくても出来る奴がやればいいのだ。この状況で言えばランになる。

 

 

ランはボスに向かって縮地で加速しながら突貫する。それにボスが気が付き、ボロボロになったハサミを振り下ろすがランを捉えるにはあまりにも遅すぎる。ランは余裕を持って振り下ろしを躱し、ハサミを足場にして跳躍。俺の渡した刀に純白のエフェクトを纏わせながら、抜刀の構えを取りーーー

 

 

「ーーーシィッ(〝OSS: 〟)!!」

 

 

ーーー瞬間移動かと見間違うほどの速度で抜刀してボスの背後まで移動し、納刀するのと同時にボスの巻貝が粉々に砕け散った。

 

 

ランの使ったソードスキルは俺が見た事のないソードスキルだった。恐らくあれはランの作ったOSSだろう。ユウキが十一連撃という破格のソードスキルを作っていたように、ランもまたあのOSSを作っていたのだ。

 

 

「私は矢が無くなったからここまでだけど、任せて大丈夫よね?」

 

「あぁ、弱点が露出したのならどうとでもなるからな」

 

 

元に戻った足の調子を確かめるようにその場で足踏みをしながら答える。巻貝の中身は殻に覆われていない柔らかそうな尻尾。それが露出したのなら、シノンのアシストが無くても俺とランだけで行ける。

 

 

ストレージにしまっていた刀を装備して抜刀し、ボスに挑んでいるランに合流するべく全力で突貫した。

 

 

 




厄介だった巻貝は壊れて予想通りに弱点が露出したぞ!!後はどうなるか分かってるよね?

ゲームだと弓のソードスキルの矢の消費は一本だけらしいけど、そんな甘えは許さない。広範囲を攻撃しようと思ったらそれだけ矢は必要なのです。

あ、ランねーちんのOSSの名前がないのは仕様なので。

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