修羅の旅路   作:鎌鼬

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ボス攻略

 

 

「やっと着いたな」

 

 

海水に覆われた通路を散策する事実に5時間。ようやく目当てであるボス部屋に到着する事が出来た。ストレージの中身を確認すれば回復アイテムは思いの外消耗していない。武器の耐久値は減ってはいるものの、ボス戦に耐えられるくらいには残っていると思われる。

 

 

「俺はこのまま戦えるけど、2人はどうだ?」

 

「矢はまだあるし、弓の耐久値も大丈夫だから問題無いわよ」

 

「武器の耐久値は大丈夫ですけど、ちょっと回復アイテムが心許ないかなぁって」

 

「あぁ、確かにランだけ不意打ち避けられなかったからな」

 

 

このダンジョンは海中にエネミーが潜んでそのまま不意打ちを仕掛けてくる。そのため不意打ちを警戒していたのだが、ランは何故か集中が切れたタイミングで不意打ちをされ続けたので俺たちの中で一番ダメージを食らっている。

 

 

「ウェーブさんはともかくなんでシノンさんも集中が切れ無いんですか?」

 

「GGOでは狙撃手(スナイパー)をやってたからよ。あれって待ち伏せが基本だから集中力と忍耐力が必要なのよね」

 

「俺のアイテム分けてやるよ。このくらいで良いか?」

 

「ありがとうございます」

 

 

ストレージから半分ほど回復アイテムを出してランに渡す。俺は基本的に攻撃をマトモに受けないようにしているのでダメージはそんなに受けないのだ。

 

 

「それじゃ、行くぞ」

 

 

2人の準備が出来た事を確認してからボス部屋の扉を開ける。真っ暗闇で何も見えないのだが、壁に掛けられた左右の松明が同時に点火され、時間差をつけて次の松明が点火されて徐々に明るくなっていく。幸いな事にボス部屋の足場は砂浜だった。砂に足を取られる事になるが、これまでのように海中からの不意打ちを警戒しなくて済むだけありがたい。

 

 

ボスが出現するのはこの松明が全て着いてからなのでまだ時間はある。ストレージからSTRとAGIを一時的に上昇させる強化ポーションを取り出して飲み干す。普通のパーティーならば1人くらい支援魔法(バフ)を掛けられるプレイヤーがいるのだが残念ながら俺たちのパーティーには存在しない。俺が強化ポーションを飲んで少し間を空けてから2人も強化ポーションを飲んだ。

 

 

強化していることを示すアイコンがHPバーに表示されるのと同時に松明が全て点火され、部屋の中央に荒削りの巨大なポリゴンが湧き上がるようにポップした。それは積み重なるように30メートルを超える塊となり、大まかな形を作ってからさらに再開されてボスへと変貌する。

 

 

28層のボスは巨大なヤドカリだった。巨大な螺旋状の貝殻を背負ってポリゴンの破片を払うかのように身震いしながら左右のハサミをキチキチと軋ませて威嚇している。

 

 

 

シィーーーッ(〝歩法:縮地〟)!!」

 

 

そしてボスが出現するのと同時に俺は縮地でボスの懐に潜り込み、手にした刀二本で斬り裂いた。本来ならボスがパフォーマンスの1つでもするのだがそんなのをわざわざ待っていられる程にこちらには余裕は無い。最大人数である49人のフルレイドで、トッププレイヤーたちが挑んだとしても負ける事がある程にボスモンスターは強いのだ。たった3人しかいない俺たちの勝機はかなり薄い。だったら先手くらい取らなければいけないのだ。

 

 

甲殻類特有の堅い殻に阻まれて刀が火花を散らす。視界の端に映る3本のHPバーの一本目は削れているように見えない。堅いのでダメージが目に見えないほどしか通っていないのだ。

 

 

「シノン!!」

 

分かってるわよ(弓術:乱れ打ち)!!」

 

 

攻撃した事でボスのヘイトが俺に向けられてシノンとランから外れる。その瞬間にシノンが火矢をソードスキルではなくプレイヤースキルによる乱れ打ちで放つ。殻に阻まれて刺さらないものの鏃がぶつかった瞬間に爆発を起こす。

 

 

いただき(〝抜刀〟)……ッ!!」

 

 

爆炎に紛れながらランが抜刀術をボスモンスターの巨体を支える6本の足の1つに放つが、やはり堅い殻に阻まれて火花を散らせながら弾かれるという結果に終わる。

 

 

だがマトモにダメージを与えられないとしても手を止める理由にはならない。弾かれようがHPが減らないだろうが、手を止めずに場所を変えてHPを確認しながら斬り続ける。爆炎が晴れてボスの視界がクリアになるまでの十数秒の間に手の届く範囲はおおよそ斬り尽くしたが、ボスのHPはようやく目に見えて分かるほどに減った程度しか削れず、しかもその殆どがシノンの火矢によるダメージだった。

 

 

斬った場所にダメージは殆ど無し、急所もだ(〝観察眼〟)。殻が硬すぎて魔法か、打撃系統の武器じゃないとダメージが与えられそうに無いな。一応手甲は持ってきてるけど、倒すよりも先に手甲が壊れるかもしれない。急所の予想は顔とあの背負ってる巻貝の中身ってところだ」

 

 

後方に下がり、逃げ遅れたランに囮を任せながらシノンに報告する。ただ闇雲に斬っていた訳ではなくて急所を探しながら斬っていたのだが手に届く範囲には存在しなかったようで、クリティカルダメージが発生したようには見えなかった。

 

 

だがあの行動は無駄ではない。手に届く範囲には急所は無いという証明になる。予想出来る急所は今上げた2つなのだが顔はシノンの弓でなくては届かず、背負ってる巻貝を壊さなければその中身を攻撃することも出来ない。打撃系統にカテゴリーされている手甲はあるのでそれを装備して戦えばダメージは通せるだろう。その場合は()()()()()()()()()()()()()()()()()。それではダメだ。ランにも何かしらの働きをさせて、3人で倒したという結果の下でボスを倒さなくては意味が無い。

 

 

どうするべきかと考えるのと同時にアイデアが浮かぶ。装備していた刀をストレージにしまって手甲を装備。ここまで一度も使用していないので耐久値は満タンなのだが、人数が少ないのでどうしても一人一人の負担は大きくなる。もしかしたら壊れるかしれないが、必要な犠牲だと割り切る。製作者のリズベット辺りが絶叫するかもしれないけど。

 

 

私が顔を狙って(〝以心伝心〟)ーーー」

 

「ーーー俺が巻貝を壊す(〝以心伝心〟)

 

 

口で説明するよりも先にシノンは俺の考えを読み取り、理解してくれる。そしてさっきまでの様な連射撃ちでは無くて長期戦になることを見越して単発撃ちに切り替えて火矢をボスの顔に向かって放った。

 

 

それと同時に矢の下に潜り込む様に身を低くしながら縮地でボスに接近。悲鳴をあげながら逃げ惑い、時折足の関節を狙って斬っているランを無視しながらボスの足をよじ登って背中に到着する。動き回っている上に火矢の爆発で揺れに揺れているのだが、問題にならない。

 

 

足場にしているボスの背をブーツ越しに足の握力で()()。揺れに関しては体幹バランスと揺れに対して脱力させて迎える事で解決させる。爺さんから揺れる場所で戦うならこうすれば良いと教えられてどこで使うんだと疑問に思っていたのだが、まさかゲーム内で使う事になるとは思わなかった。

 

 

そして一歩一歩振り落とされない様に注意しながら巻貝の前まで到着しーーー

 

 

「ーーーフンッ!!(〝震脚〟〝発勁〟)

 

 

足場になっているボスの背中を踏み砕きかねないほどの震脚と同時に全力の発勁を叩き込む。震脚のあまりの強さにボスは一瞬だけ全身を硬直させ、発勁の一撃は弱点を守っているであろう巻貝を軋ませた。

 

 

「どっちが先に壊れるか勝負しようぜ!!お前が負けたら俺の晩飯甲殻類な!!」

 

 

軽快に笑いながら、2人を不安にさせないように冗談を吐きながら、俺は巻貝に向かって再び震脚と共に発勁を叩き込んだ。

 

 

 






原作だとあっさり倒されてしまった28層のボスの活躍の場を作っていくスタイル。甲殻類としか原作には書いてなかったので少しのテコ入れとしてデカイヤドカリにしました。


堅い、とにかく堅い。刀だとまともにダメージを与えられないという修羅波とランねーちんへのメタを含んでみたぞ!!


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