修羅の旅路   作:鎌鼬

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VS〝絶剣〟

 

 

カウントダウンがゼロになった瞬間にユウキが走り出す。身体を倒れそうな程に前へと倒しているので最速でウェーブに向かうつもりなのだろう。アスナとの戦いを見てユウキのスタイルは異常な反応速度と攻撃速度によるゴリ押しだと分かっている。フェイントも使わずにアスナをあそこまで追い詰めたのは賞賛する事なのだろう。ウェーブ曰く、アスナは全力であったが本気では無かったらしい。私からしてみれば同じに思えるのだが、戦闘一族のウェーブからすればその2つには大きな違いがあるらしい。

 

 

そして、ユウキが地面を蹴って加速するよりも速くにウェーブが予備動作無しでユウキの目の前に現れた。

 

 

ユウキが動き出した時にはウェーブは動いていなかったはず、それなのにウェーブはすでにユウキに接近して右の拳を突き出した。ユウキの様な少女の顔面に躊躇い無しにパンチをしようとするウェーブの容赦の無さに若干引いたのだがユウキは咄嗟に加速する為に使おうとしていた足で飛び退いて拳を寸でのところで躱していた。さらにそれだけではなく、ウェーブの胴体に目掛けて引きながら斬りかかっていたが、それはウェーブが半歩下がった事で躱される。

 

 

やはりユウキの反応速度は異常としか言えない。見てから躱すという、言ってしまえば簡単な事だが誰もが出来る訳ではない。私の知っている中ではヘカートIIの銃弾を斬るとかいうトンデモ芸をやったキリトや、反射で銃弾を防ぐウェーブがいるのだが彼らは例外中の例外だ。

 

 

しかし、ウェーブはそれを超える。

 

 

ユウキが後ろに飛び退き、地面に足が着くよりも速くにウェーブがユウキの前まで移動していた。前に何でそんな動きが出来るのかと聞いてみたのだが、彼から言わせればあれは歩法の1つで縮地と呼ばれるもので、漣家では移動するのに便利だから一番初めに教えられる事らしい。本当にそうなのか調べたのだが、縮地はどこでも奥義扱いになっている様なものだった。

 

 

ユウキよりも早くに動くだけでは無い。始めと同じ様にウェーブが右のパンチを放ち、ユウキが首を傾げてそれを避けるーーーそして鈍い打撃音が聞こえてユウキの身体が吹き飛ばされる。

 

 

「……嘘でしょ」

 

「シノンさん見えたんですか?一体何があったんです?」

 

 

どうやら隣にいたランは今何が起きたのか見えなかったらしい。吹き飛ばされたユウキも体勢を整えながら驚いている様に見える。離れていて、動体視力に自信のある私だから見ることが出来た。

 

 

「ウェーブのパンチが、動いた」

 

「……は?」

 

「ウェーブのパンチが、避けられた瞬間に曲がってユウキのことを追い掛けたのよ」

 

「はぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

ユウキに首を傾げられて真っ直ぐ進むはずだったウェーブのパンチだが、まるで蛇の様に動いてユウキを追い掛けた。一体どうすればあんな軌道を描く事が出来るのだろうか。

 

 

そこからウェーブが攻め始める。さっきの様な追尾するパンチを連続して放ち、確実にダメージを蓄積させている。ちゃんと打っていないのか、あのパンチは軽いのか、レイド部隊と戦った時程ユウキのHPは減っていない様に見えるのだがそれでも彼はユウキよりも優位に立っていた。

 

 

ユウキもこのままでは負けると思ったのかウェーブの攻撃を避けるのではなくて剣を楯のようにして防ぎ出した。ユウキの反応速度で防御に徹されれば崩すのは容易な事ではない。あのパンチはどちらかと言えば初見殺しとしての側面が強い。慣れてしまえばユウキならば普通に反応して躱せるようになるだろう。そしてユウキの反撃が始まる。ウェーブの曲がるパンチを紙一重で避けながら、スピードだけならキリトに迫る斬撃を放つ。

 

 

しかし、どれもがウェーブに当たらない。ユウキが動くのと同時にウェーブは動き、ユウキの斬撃を皮一枚で躱している。まるでどこに攻撃が来るのか分かっているように動いているが、ある意味でそれは間違っていない。

 

 

ウェーブから聞いた話なのだが、彼は戦う時には常に相手の動きを予想して動いているらしい。相手の身体の向きや視線からどこに攻撃が来るかをいくつか予想してるそうだ。その読みは的確で、未来予知の一種にしか見えないのだが彼から言わせればただの先読みらしい。考えてみれば〝死銃〟事件で戦ったステルベンが残像が見えるほどのスピードでしていた攻撃を、彼はすべて捌いていた。ステルベンに比べればユウキの動きは遅いのだろう。

 

 

反応速度だけで戦うユウキと、未来予知とも言えるほどの先読みをしているウェーブ。2人の実力が拮抗しているのなら、ユウキの行動がウェーブの先読みを超えられるかどうかが勝敗の分かれ目となっていたのだが、残念ながらそういうわけにはいかない。

 

 

何故なら、ウェーブはユウキよりも強いと自称しているランに勝っているから。逆説的にランよりも弱いユウキではウェーブには敵わないことになる。

 

 

紙一重で避けていたはずのユウキだが再びウェーブの攻撃が当たるようになってきた。本人からすれば避けているつもりなのだろうがウェーブの拳はユウキの反応を縫うように複雑に動きながら放たれる。無意識の領域なんて訳のわからないものを知覚して入る事が出来るウェーブだからあんな事が出来るのだろう。

 

 

ユウキのHPはレッドに変わる手前まで減らされたというのにウェーブのHPは未だにグリーンのまま。皮一枚で掠らせているので多少は削られているのだが、それでも直撃を受けているユウキの方が消耗している。

 

 

このままウェーブの勝ちかと思っていたが、ユウキがここで動いた。刺突を放とうとした瞬間にそれを止め、躱そうとしていたウェーブの胴体に拳をぶつけた。ウェーブのように手甲を着けていないのでダメージは発生しないのだが〝拳術〟スキルを使ったのかウェーブの動きが不自然に止まっていた。

 

 

この流れを見た事がある。ユウキが前にここでアスナとデュエルをしていた時にアスナが同じようなことをしていた。だとすれば、次に来るのは大ダメージを与えられるソードスキルだろう。事実、それを証明するかのようにユウキの剣はソードスキルの青紫のエフェクト光を纏っていた。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

このデュエルが始まって以来初めてユウキが吠えた。高速の五連突き。左肩から斜め右下に降りていくそれはアスナとのデュエルを決着させた十一連撃のソードスキルだ。

 

 

「見たんだよそれはーーーッ!!」

 

 

硬直から解放されたウェーブの両腕が動いてその場で五連突きを捌き、受け流す。驚いたからなのかユウキの目が開かれるがこればかりは相手が悪かったとしか言えない。

 

 

ウェーブはソードスキルを一度見れば簡単に対処してしまう。アスナが新しいソードスキルを作ったとデュエルを申し込んできた事があったのだが、そのソードスキルが通用したのは一度だけで、二度目は簡単に対処されてカウンターを決められていた。ウェーブはアスナとユウキのデュエルで、このソードスキルを見ている。つまり、このソードスキルはウェーブには通用しない。

 

 

そうだとしてもシステムアシストで加速しているユウキは止まらない。右肩から斜め左下に降りていく五連突きも同じように捌く。受け流しているのでHPこそ削られているが、まだグリーンのままだ。

 

 

そして終わりの十一撃目、ユウキの刺突に対してウェーブは貫手を作って放った。十連続の刺突で作られたエックス字の中心ーーー心臓に向けて放たれるはずだった刺突を半身程身体を引かせる事で躱し、逆に貫手をユウキの心臓に向けて叩き込む。

 

 

空を穿ったユウキの剣と、ユウキの胸を貫いたウェーブの貫手。クリティカルが発生してユウキのHPは全損し、彼女は楽しそうに、だけど悔しそうに笑いながら〝残り火(リメインライト)〟に変わった。

 

 

ウェーブとユウキのデュエル、勝者は初めから私が予想していた通りにウェーブだった。

 

 

「ウェーブ、ちょっとその場に正座しなさい」

 

 

だけどユウキの胸に貫手を放った事は許さない。彼女の目の前でなんて事をしてくれるんだ。

 

 

 






一度見たのなら対処して当然だろという修羅並みの感想。必殺技として扱っているのなら簡単に見せるものじゃないし、必ずそれで仕留めるべきだと思うの。

勝者は修羅波、だけどシノのんはユウキチャンの胸に手を突っ込んだ事が許せない模様。


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